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[NDC19]「バイオハザード RE:2」のサウンドは数々の挑戦から作られた。サウンドチームによる講演をレポート
「バイオハザード RE:2」公式サイト
まずサウンドデザインについてだが,キーワードになるのは「Horror Sound」だ。宮田氏は本作のサウンドは聞くものではなく感じるもの,そしてホラーゲームはプレイするものではなく体験するものであるべきだと考えた。そして,それを実現するためにサウンドチームが重要視したのが,「Organic Immersive Sound」だったという。
これは,血や肉や声などに関連した音響を,できるだけ有機的でリアルなものにし,プレイヤーがそれらを立体的に聞くことで没入感が高まるというコンセプトだ。これにより,不快感や恐怖がより引き出されることになる。
Organic Immersive Soundを実現するために挑戦したポイントは3つあった。1つめが,「Foley recording」(フォーリー収録:映像収録時に録音された音を使わず,足音やドアの開閉音などをあとから入れる手法)に徹底的にこだわるということだ。本作の開発では社内のスタジオだけでなく,屋外も活用して動作音や環境音など,あらゆるサウンドを収録した。さらに,社外からフォーリーアーティストを招いて,不快なサウンドの制作に注力したという。
会場では,そうして収録したゾンビの効果音が紹介された。ゾンビの効果音は,内臓,骨,肉など,パーツごとにカテゴライズされており,それぞれを,以下のように再現していったという。
- 肉がちぎれる音:キャベツをちぎる音
- 内臓が落ちる音:スライムを落とした音
- 骨が折れる音:ピーマンを折る音
- ゾンビが骨を食べているときの音:セロリをかじったときの音
- ゾンビが死体をむさぼっている音:上記の素材をボウルに入れてかき混ぜる音
2つめのポイントが,カプコンが考案した「世界初の立体音響」だという「Realtime Binaural System」だ。開発を始めた頃は立体音響がトレンドになっており,とくにヘッドフォンやイヤフォンで立体的に聞ける,3Dオーディオプラグインが多く販売されていた。サウンドチームも当初,それらを使って立体感や没入感を生もうと考えたが,2つの問題が発生したという。
1つめが,2kHz付近の音質が極端に変化してしまうこと。これは,立体感とトレードオフの関係にあり,立体感を引き出そうとすればするほど音質が変化してしまうという。
2つめが,実際の距離感より音が遠くに聞こえてしまうこと。本作ではプレイヤーキャラクターの近くの音が重要になることが多く,これが正しく聞こえないことは大きな問題になる。
これらを解決するため注目したのが,バイノーラルマイクロフォンだった。これは近接感のあるサウンド作りに強く,かつサウンドが立体的に感じられる。一方で弱点として,収録時の音源位置にサウンドが固定されるため,ゲームのように,音が移動したり変化したりするインタラクティブなコンテンツには向いていない。
そこで,下のスライドのような仕組みが考案された。スライドにあるのは,右から声を鳴らして収録したバイノーラル波形と,正面から声を鳴らして収録したバイノーラル波形を50%ずつブレンドし,右斜めから鳴るゾンビの声を立体的に再現したというものだ。
Organic Immersive Soundを実現する3つめのポイントが,Dolby Atmosの実装だ。効果音ではRealtime Binauralを用いて近接感を表現しているが,BGMではDolby Atmosを使って遠距離に定位し,かつ上方向のスピーカーを用いることで,プレイヤーを包み込むようなサウンドを表現しているという。これにより,BGMの没入感を上げつつ,Realtime Binauralの効果と両立させている。
続いて,もう1つの柱であるサウンドプレイスメントについても紹介された。
こちらのキーワードは「Cohesive sound」だ。Cohesive soundは,イベントや出来事などの演出をつなぐもので,下のスライドを見ると,プレイヤーが驚く「Incident: A」のあとに,「Incident: B」が待っている。この間(赤い線)に,静寂をあえて作ったり,不安になる楽曲を入れたり,唐突に効果音を鳴らしたりすることで,プレイヤーはIncident: Bにより怯えるようになる。この音の演出が,Cohesive soundだ。
そうした効果を最大限に引き出すため,サウンドチームが行ったことは2つあった。1つが「IRs recordings」(IR収録:Impulse Responseという手法を用いて室内の残響を収録すること)だ。本作は,登場する部屋の数が多く,それぞれがさまざまな材質でできている。さらに,部屋の大小や形の違いも大きい。そこで,IR収録を行って,それぞれの部屋に最適化した残響を付加することにしたという。
宮田氏はIR収録では,ロケーションハンティングをしておくことを強く推奨した。その際の注意点として,ゲーム内となるべく近しい場所,欲しい響きに近い材質や形状の部屋を探すべきだと述べる。また,TSP信号を大きな音で再生するために収録場所の許諾を得ること,その場所で継続的なノイズがあると不向きなので,あらかじめ調べておくこと,TSP信号を再生したときに共鳴する金属などがないかを確認することなどがポイントだという。
もう1つ,Cohesive soundのために行ったのが「Interactive Distance Music」の実装だ。Cohesive soundは,あるイベントが発生する場所から,次のイベントが発生する場所に向かうまでのサウンドデザインを行うということであり,タイミングが重要になる。しかし,実際のデザインでは,次のイベントが起きる場所までの距離を単純に見るだけではうまくいかないことが多いと,木下氏は述べた。
例えば下のスライドのような,壁の向こうでイベントが発生する場合,直線距離としてはすぐ近くだが,回り込むように通路を移動しないと,イベント発生地点までたどり着かない。つまり,「イベント地点から一度離れてからまた近づく」という動きをしているわけだ。
こうしたシチュエーションでも効果的にCohesive soundを入れられるよう,本作では部屋のどこに扉があるのか,どこが廊下とつながっているのかといった情報を用いて距離を計算し,サウンド作りに生かしているという。
これらの挑戦を経て,本作のプレイヤーの恐怖を煽るサウンドは作られた。
講演終了後,宮田氏と木下氏に合同インタビューの場が設けられた。最後にその模様をお伝えして,本稿のまとめとしよう。
――「バイオハザード RE:2」はリメイクタイトルですが,過去作があることで気をつけた点はありますか。それとも,完全に新作として制作したのでしょうか。
宮田氏:
実は,僕は「バイオハザード2」の大ファンで,それがカプコンに入った理由の1つだったりします。ですので,今回「バイオハザード RE:2」を担当できたことは非常に嬉しいのですが,開発にあたっては,「意識しないこと」を意識していました。オリジナル版への思い入れが強すぎて,意識すると寄せにいってしまうからです。「バイオハザード RE:2」では,別途販売のDLCとはなりますが,当時のSEやBGMが好きな人向けのクラシックモードもありますので,なるべく新しい音響やホラー体験をしてもらえるよう,デザインしています。
――宮田さんは,「バイオハザード7 レジデント イービル」には関わっていたのでしょうか。シリーズ内で統一されたサウンドデザインがあればそれを,また,タイトルごとの違いがあるならそれを教えてください。
宮田氏:
直接には関わっていないのですが,シリーズでコンセプトの統一のようなことはしていません。作品ごとに,それぞれのサウンドデザイナーがテーマに沿ったコンセプトデザインを行っています。
ただ,「バイオハザード7」は一人称視点で「バイオハザード RE:2」は三人称視点なので,その点で作りに違いがあります。最も違うのは,プレイヤーキャラクターの音の表現です。一人称視点では自分が見えないので,省ける部分もあるんですが,三人称視点の場合,例えばレオンが服を着替えるときに服の材質によって音を変えたり,動きの音を細かくつけたり,重さを意識したりなど,より丁寧に行う必要が出てきます。
――講演内で,フォーリー収録にさまざまな野菜が使われていましたが,ゾンビを表現するのに肉ではなく野菜というのが不思議でした。野菜を使う理由というのは何でしょうか。
宮田氏:
ゾンビのぐちゃぐちゃした音は,水気があるもののほうが表現しやすいんです。フォーリー収録で水分は大事な要素で,水気が足りなければ水やローションを足すこともあります。
もちろん,ほかの素材を使っている部分もあって,例えば殴ったときの打撃音を野菜で表現するのは難しいので,鶏肉を使っています。
また,骨をかじる音は,実際に骨をかじってもイメージと合わないため,そこは試行錯誤しました。実際,いろいろな野菜をかじりましたね(笑)。
――ゲーム中,タイラントがどこにいるかによって,足音の聞こえ方が全然違います。あれはどういった処理をしているのでしょうか。
宮田氏:
プレイヤーの視界内に入っているのか,同じ部屋にいるのか,違う部屋にいるのか,どのくらいの距離にいるのかなどの細かな情報から,足音を加工して聞こえ方を変えています。音源自体は一緒です。
――「バイオハザード RE:2」のサウンドで大変だったことを教えてください。
宮田氏:
ゾンビが目の前にいて銃を構えているとき,キャラクターがたまに,「クソッ!」「来んな!」といったことをしゃべります。これはカプコンでも初めて導入したのですが,実はめちゃくちゃ大変でした。
どんなことを言うかだけでも100以上のパターンを収録していて,さまざまな条件で決定しています。ゾンビが1体なのか複数なのかで,「来るなおまえ!」が「来るなおまえら!」に変わりますし,ゾンビを初めて見るようなセリフがゲーム後半に出たらおかしい。進み具合によってもセリフは変わります。こうした膨大なセリフが,各キャラクター分,さらに各言語分あるので,苦戦しました。最終的になんとか形になって,没入感の向上につながったと思っています。
木下氏:
プログラマの観点からすると,リバーブの処理が大変でした。部屋と部屋の間でプレイヤーが移動すると,別々のリバーブが同時にかかるタイミングがあり,処理が倍になるんです。処理がオーバーすると,音飛びが発生してしまうので,そうならないように工夫しています。
――最近,次世代ゲーム機の噂が出てきていますが,ハードウェアの向上では,どうしてもグラフィックス面の進化をイメージしてしまいます。サウンド面でも,スペックの問題でこれまでできなかったことなどはありますか。
木下氏:
大いにあります。むしろ,グラフィックスよりもシビアだと思っています。グラフィックスだと,処理し切れないとFPSが落ちますが,サウンドの場合,処理が間に合わなかった時点で音が途切れてしまうので,すごく目立つんです。
宮田氏:
講演でお話したBinaural Soundも,ハードウェアのスペックが上がれば,より立体感のある音を表現できるようになります。現在のスペックで同時に出せる音を考慮して,4方向や5方向からの録音としていますが,スペックが上がれば,この方向を増やせるようになり,IRももっと細かく部屋を分けて反響の処理ができるようになると思います。
Nexon Developers Conference公式サイト(韓国語/英語)
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