Gotcha Gotcha Gamesという会社をご存じだろうか。2020年9月1日に。KADOKAWAのツクール事業部が独立し,「ツクール」シリーズの事業展開を推進していく目的で立ち上げられた子会社だ。
当然,主な事業はツクール製品の販売になるわけだが,それだけではなくツクール製品を使って作られたゲームのパブリッシング事業にも参入している。11月6日に放送されたインディーズゲーム番組「INDIE Live Expo II」では,なんと12本ものツクール製作品が発表されたことを覚えている読者もいるのではないだろうか(
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今回4Gamerでは,Gotcha Gotcha Gamesの
斎藤貴幸氏,
最上 昇氏,
永嶋克規氏にオンラインインタビューを行い,設立の経緯や,パブリッシング事業参戦の意図,今後の展望などを聞いた。
斎藤貴幸氏 Gotcha Gotcha Games取締役,ツクール製品開発部長 |
最上 昇氏 「アクションゲームツクールMV」プロデューサー。ツクール製作品のNintendo Switchへの移植対応も行う |
永嶋克規氏 Gotcha Gotcha Gamesがパブリッシングするゲームタイトルのプロデュースを行う |
4Gamer:
よろしくお願いします。早速ですが,Gotcha Gotcha Gamesという会社について教えてもらえますか。
斎藤貴幸氏:
我々は2020年9月に設立されたKADOKAWAの子会社であり,ツクール絡みのインディーズゲーム事業をKADOKAWAからスピンアウトさせた集まりです。アスキー・メディアワークスとエンターブレインの人員が合流し,今までツクール製品を開発・販売してきたのが我々なんです。KADOKAWAのツクール事業部がGotcha Gotcha Gamesという名前に変わった,と言ってもいいかもしれません。
4Gamer:
具体的にどういった事業を行っているのでしょうか。
斎藤氏:
ツクール製品の開発・サポートを行ったり,ユーザーの皆さんがツクールで作成されたゲームをパブリッシングしたり,家庭用ゲーム機に展開したりすることが,Gotcha Gotcha Gamesの事業になります。
もともとKADOKAWAグループには,「さまざまなコンテンツを制作し,ワールドワイドでメディアミックス展開する」という基本戦略が存在しています。この基本戦略に則り,UGC(User Generated Contents)のプラットフォームであるツクールを活用・拡大していこうというのが,我々の目的というわけです。
4Gamer:
ツクール自体の歴史も長いですよね。1986年の「アドベンチャーツクール」や1988年の「ヨコスカウォーズ」からずっと系譜が続いていることになるわけですし。
斎藤氏:
そうですね。いろいろな方に「昔,ツクールを触ってました」と言っていただけることが多いです。ゲーム業界の方の中にも,ツクールからステップアップされた方もいらっしゃるみたいで,礎的な役割を果たせているのかなと思います。
4Gamer:
KADOKAWA内部で事業を続けていくのではなく,子会社としてGotcha Gotcha Gamesを立ち上げて事業展開していく狙いを聞かせてください。
斎藤氏:
KADOKAWAのときより,スピード感をもってツクールを使ったUGCやインディーズゲームを拡大していくためです。
KADOKAWAのゲーム事業は,アスキーからエンターブレイン,そしてKADOKAWA……という形で人員が少しずつ合流しながら進んできていることもあってか,書籍やアニメ,映画などの事業と比べると,あまり認知されていないんですよね。
またKADOKAWAには,本や映像作品をプロデュースするノウハウはたくさんありますが,ゲームとなると同じ方法論が通用するわけでもありません。それなら別組織として切り出して,いろいろなチャレンジをしていったほうがいいだろう……という経緯から設立されたのが弊社です。
4Gamer:
なるほど。Gotcha Gotcha Gamesという社名の由来はどこから来ているのでしょう。
斎藤氏:
たくさんのユーザーがUGCを生み出していく際のゴチャゴチャした感じを表現したいというのが由来です。
また,たくさんのUGCからユーザーが望みの物を見つけられるといった意味合いを込めて,俗語の“I gotcha!”(見つけた!捕まえた!)というニュアンスを入れています。
4Gamer:
先ほど,「KADOKAWAにはメディアミックスという基本戦略がある」というお話がありましたが,Gotcha Gotcha Gamesでパブリッシングされたゲームは,究極的には,KADOKAWAグループでのメディアミックスまで狙えるということなのでしょうか。
斎藤氏:
そうですね。単にゲームをパブリッシングして終わりというだけではありません。我々としては「殺戮の天使」のように,ゲームを出発点として,アニメやコミックといったメディアミックスで展開していくのが理想です。我々が見つけたゲームを,KADOKAWAグループ全体でプッシュしていければと思います。
「ツクールでこんなこともできるのか!」と思ってもらうためのパブリッシング事業
4Gamer:
11月6日の「INDIE Live Expo II」では,12タイトルを発表されましたが,いつから準備を進めていたのでしょうか。会社の設立(2020年9月)のもっと前ですよね。
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永嶋氏:
タイトルの準備を始めたのは,2020年頭です。いろいろなツテを辿って開発会社さんや著名なクリエイターさんにお声がけしました。開発会社さんには企画出しをお願いし,クリエイターさんには制作をオファーした形です。また,既にSteamなどで配信されているものの中からピックアップしてお声がけさせていただき,Switchへの移植とパブリッシングをお世話させていただく取り組みも行っています。
4Gamer:
Gotcha Gotcha Gamesがパブリッシング事業に参入する狙いは何なのでしょうか。
斎藤氏:
我々が出したゲームを見て
「ツクールでこんなこともできるのか! それなら,自分でも何かゲームを作ってみよう!」という循環が起こることを目指しています。発表済みの12本以外にも,水面下ではいろいろな作品が動いています。日本だけではなく,海外クリエイターの作品も出す予定ですので,楽しみにしていただければと。
4Gamer:
INDIE Live Expo IIの発表では,「moon」や「ちびロボ!」に携わった西 健一さんによる
「ツクールシリーズ ヒトノパズル」と,「LA-MULANA」シリーズで知られる楢村 匠さんの
「ツクールシリーズ MEDIUM-NAUT」に注目が集まりました。
この2本については,Gotcha Gotcha Gamesから「こんなゲームを作って欲しい」というオーダーを出したのでしょうか。
ツクールシリーズ MEDIUM-NAUT |
ツクールシリーズ ヒトノパズル |
最上氏:
ゲーム内容に対するオーダーは出していません。企画は西さんと楢村さんのオリジナルですね。我々からは「アクションゲームツクールを使ってゲームを出してほしい」とお願いして,活用例などを紹介しただけですね。
4Gamer:
「ヒトノパズル」は特にユニークだと思いました。アクションゲームを作るツールで,リアルタイムなパズルゲームが出てくるとは。
最上氏:
そうですね。個人的にも西さんが何を作られるのか楽しみにしていたんですが,「ヒューマンウォッチング型パズルゲーム」なるものが出てくるとは思わなかったです(笑)。“作品がいかにもツクールっぽいものにならない”というアクションゲームツクールの特性もアピールできていて素晴らしいと思います。
斎藤氏:
アイデア1つでいろいろなゲームを作れるのがツクールシリーズの良さです。RPGツクールでも,RPG以外のジャンルのゲームを作っている人はたくさんいますし。
今後はツクールコミュニティへのサポートや,海外事業への取り組みにも力を入れていく
4Gamer:
今回はクリエイターへオファーを出されたということですが,今後,クリエイターからの企画持ち込みを受け付けることはありますか。
斎藤氏:
歓迎です。我々ができる範囲であれば,ぜひとも協力させていただきたいですね。ツクールシリーズは独特のクセがあるツールではありますが,楢村さんのように1人で制作を進めることも可能です。クリエイターさんのアイデアをどうやれば形にできるのかといったご相談にも乗れます。
4Gamer:
資金面でのサポートはいかがでしょう。インディーズゲーム作りで大きな障害となるのが“本業の仕事で生計を立てつつ,ゲームも作っていかなければならない”という点だと思います。
斎藤氏:
資金についてはケース次第なので,この場ではYesともNoともお答えできかねます。まずはお話をさせていただいて……というところですね。
4Gamer:
あと,コミュニティに対するアプローチはいかがでしょうか。インディーズゲーム制作者の中には,周囲に同じ悩みを分かち合える仲間がいないため,困っているという方もいらっしゃると思うのですが。
斎藤氏:
コミュニティへのサポートについては,我々が今まであまり取り組んでこなかった点であり,これからやっていかなければならないことだと思います。UGCの創出には,きちんと土壌を用意することが不可欠ですので,現在準備を進めているところです。
Steamストア内にある「アクションゲームツクールMV」のスレッド
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永嶋氏:
ツクールに特化した会社だからこその取り組みは,これからやっていければと思います。例えば,現在のツクール製品は海外のクリエイターが利用するケースが非常に多いので,海外のクリエイターさんにお声がけするような取り組みも進めています。
4Gamer:
日本と海外のシェアは現状どれくらいの比率なのでしょう。
斎藤氏:
現在のシェアは海外8割,国内2割という比率です。
4Gamer:
8割というのは驚きですね。
斎藤氏:
これについては,Steamで配信したことによって海外の売上が大きく伸びたという背景があります。国内の売上はそのままなので,海外に大きなニーズがあったということですね。
4Gamer:
海外製のツクール作品に傾向などありますか。
最上氏:
ドット絵やアニメ絵が上手な方が多いですね。また,いかにもビデオゲームといったシステムで手ざわりが重視されることも多いという印象があります。あと,アクションゲームツクールでは,いわゆる“メトロイドヴァニア”と呼ばれるジャンルの作品がたくさん作られていますね。
4Gamer:
確かに“メトロイドヴァニア”はインディーズゲーム界隈で人気のジャンルですよね。あとはオフィシャルの機能だけでローグライクが作れるようになれば……といったところでしょうか。
最上氏:
具体的な時期は未定ですが,「アクションゲームツクールMV」では,ローグライクに必要となるデータベースを組み込めるようなバージョンアップを予定しています。ローグライクゲームに必要な機能の追加も予定していますので,さらに可能性が広がると思いますよ。
4Gamer:
公式がサポートしてくれるとなると反響も大きいんじゃないでしょうか。今後に期待しています。
では最後に,これからツクールで作品を作ろうと考えている人に向けて,まずは1本を完成させるための秘訣やメッセージをお願いできますか。
最上氏:
ご自身が遊びたいゲームを素直に作っていただくのが一番いいんじゃないでしょうか。我々もフォーラムなどを通して積極的にサポートさせていただきます。完成させるために大切なのは,まず小さな作品を形にすることだと思います。最初は構想が広がりがちですが,そうすると完成させられません。仕様を広げずに1本作ることが大事だと思います。
永嶋氏:
ツクールは趣味レベルから始められるものです。ドワンゴでサービス中の「RPGアツマール」に投稿されているクリエイターの方々とお話しする機会があったのですが,その中に数分で終わるゲームをたくさん作っている方がいて「ちょっとした思いつきを形にし,公開できるのがツクールの良さなんだ」と語っておられました。まずは趣味から始めるというの手だと思いますよ。
「RPGアツマール」。ドワンゴの自作ゲーム投稿コミュニティサービスで「RPGツクールMV」「RPGツクールMZ」などで作ったゲームを公開できる
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斎藤氏:
マーケティングや流行を追うような考え方よりは,クリエイターさんの強い思いが重要だと思います。Switchでの発売などは,遊びたいゲームを作った先のゴールのひとつなのではないでしょうか。本当に面白いものは時流に関係なく愛されますし,面白いものはブレないものだと思います。
ツクールでのゲーム制作はあくまで趣味という人が多いと思いますので,これを長く続けるためのモチベーション維持が大事です。作ったものをコミュニティやSNSなどで見てもらいつつ,作業を続けていって欲しいです。
困ったことがあれば,我々にお声がけいただければ,何らかのお返事はさせていただきますし,この会社はそのためにできたようなものです。皆さんと一緒に歩んで行ければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。