プレイレポート
決して劇的ではない。だからこそ,愛おしい。「オンエア!」についてとにかく語らせてほしいゲームクリエイターの独白
2018年8月16日「オンエア!」(iOS / Android)という女性向けゲームがリリースされた。“スター声優育成アプリ”の名が示すとおり,“声優のたまご達”の育成やコミュニケーションを楽しむゲームである。(余談だが3月17日のAB型で「アンジェリーク」をプレイすると,ゴリゴリにマルセルが押してくる。しかし小学生の頃の僕はゼフェルが好きだった。髪がツンツンだし,名前に濁音があるからだ。カッコイイ。)
つまり素敵な女の子に対してのそれと同様の感覚で,素敵な男の子に人間としての魅力を感じるのだ。そう,僕は八重花桜梨(「ときめきメモリアル2」)推しであるとともに,新名旬平(「ときめきメモリアル Girl's Side 3rd Story」)を推している。
「オンエア!」に関しては,「スタンドマイヒーローズ」のcolyの新作ということで,配信前から世間の注目度が高かったうえ,友人の声優も何人か出演していたこともあり,配信直後にダウンロード。さっそくチェックすることにした。
……それがいまやこんな感じだ。
未プレイの人のために説明しておくと,Rank85というのは少なくともチェックの域は超えている数字だ。なにせメインストーリーをすべて読み終えてしまうぐらいで……まぁハマった。今もイベントをオートで回しながら原稿を書いている。
なぜ,僕がこんなにも「オンエア!」の虜になってしまったのか? それは「オンエア!」に登場する30人の彼らがあまりにも,「人間」らしかったからだと思う。
――決して劇的ではない。だからこそ,愛おしい
「オンエア!」の物語
僕は「オンエア!」のシナリオを夢中で読み進めながら,シンパシーを感じていた。
「この話を作った人と僕とは表現したいことが割と似ているんじゃないか」なんて……まぁ,一方的な思い込みなのだろうが,そう感じてしまったのだからどうか気を悪くしないでほしい。そしてそれは,同時に受け手として,どうしても読みたかった物語でもあったのだ。
手前味噌で恐縮だが,僕が企画とシナリオ原案を担当した「Caligula -カリギュラ-」という作品がある。この作品では現代の病理をテーマにして,いかに人間の弱さを虚飾なしで,真摯に描くかを意識している。そのほかにも色んな要素がある作品だが,要約すると「ダメな人間がそれでも頑張る」物語だ。
爽快感はない,キャッチーでもないかもしれないし,万人の理解を得られないかもしれないが,それでも弱い人間がみじめでも足掻くことの愛おしさ,格好良さを表現したいと思って書いたものだ。
物語から得られる感情は複数あると思うが,僕はとくに「共感」の話に強く惹かれる。だからこそ「Caligula -カリギュラ-」では“ヒーローではなく僕らと同じ不完全な人間”を主役にし,“魔王やドラゴンではなく現実同様に内的なもの”を倒すべき敵として置いた。
その点「オンエア!」は女性向けゲームである以上,もちろんプレイヤーの心を踊らせてくれるようなときめきを与えてくれるイケメンが出てくる。しかも彼らは声優,表舞台で活躍するスターだ。とすると,一見,共感からは遠い存在のように見えるだろう。
しかし実際にアプリに触れてみると,華やかな声優であるはずの彼らは,その実あまりにも不完全だった。思い悩み,苦しみ,戸惑い,それでも各々の大事なモノのために表舞台で輝こうと踏ん張る彼らは,現実を生きる僕らと何も変わらなかった。彼らは,“僕ら”だったのだ。
この物語に奇跡は起こらない。抱えている問題は彼ら自身が解決するしかない。
だからこそ,そんな彼らが泥臭く苦悩を乗り越え,多くのファンを喜ばせるために舞台にあがる姿はこれ以上なく人の胸を打つ。そのことを確信した瞬間,僕は「オンエア!」の沼に,もう後戻りできない程にどっぷりと浸かっていることに気付いたのだ。
「オンエア!」を彩る29の思想,6の哲学
こんな調子で,ちょっとこじらせた感じで溢れ出る「オンエア!」の話を会う人会う人に語っていたら,知人のライターさんの紹介でこうして記事を書くことになっていた。懐が広い。普段自分の作品を取り上げていただいているメディアだけに,冷静に考えると「なに? この状況?」だ。
それはさておき,せっかく自由に情熱を語っていいというありがたいお話なので,「オンエア!」のシナリオの魅力をさらに語るためにあらすじを書いておこう。
主人公(プレイヤー)は名門声優学校「宝石が丘学園」に特待生として入学する。そして廃校の危機にある学校を救うため「グラン・ユーフォリア」なる伝説のイベントを成功させるという使命を与えられる。そのイベントの成功には,すでに声優として活躍している6組のユニットの力が必要不可欠で,彼らの協力を得るために奮闘することになるのだ。
「Hot-Blood」「Re:Fly」「エメ☆カレ」「MAISY」「Prid's」「drop」。この6組の声優ユニットに所属している29人の生徒を次々に説得していき,仲間を増やしていくような形でメインストーリーは進んでいく。
しかしながら「グラン・ユーフォリア」に協力してもらうためには,彼らの信頼を得なければならない。主人公に求めてくるものが,それぞれのユニットでバラバラなのが一筋縄ではいかないところであり,僕がグッと引き込まれた点だ。
なぜなら,主人公に求められていることこそが,彼らが声優という職業に向き合ううえでなによりも大事にしている“哲学”だからだ。その哲学の違いに触れるたびに,次はどんな出会いが待っているんだろうとシナリオを読み進める手が止まらなくなる。これが「オンエア!」のシナリオの魅力だと感じている。せっかくなので,それぞれのユニット紹介を僕が感じた哲学と共に語りたい。
最初に出会うのは激熱実力派ユニット「Hot-Blood」。
彼らの哲学は「情熱」だ。その道のプロフェッショナルとして,それぞれの仕事や役割に対しての熱が高く,その意識の高さゆえにぶつかりあうことさえ恐れない。多分初見の方はビックリするくらい,バチバチにやりあう。だからこそ主人公のあやふやな協力要請には決して応じない。
――彼らには主人公の熱意と本気を見せつける必要があるのだ。
次に出会うのは気だるげオトナユニット「Re:Fly」。
彼らの哲学はいうなれば「対価」だ。彼らは仕事の責任の重さを知っている。だからこそ,そこに対価を求める。平均年齢の高いユニットだけに考え方がリアリスティックだ。しかし,それ以上に仲間“全員”の意思を尊重する性質があり,慎重だ。対価とは決して金銭だけではない。その行動によって仲間全員が相応の対価を得られると判断しないと動くことはない。
――彼らには主人公に協力することへのメリットを提示する必要がある。
次に出会うのは2.5次元アイドル声優ユニット「エメ☆カレ」。
一見イロモノ集団のような彼らの哲学は「個性」だ。彼らは一般社会においては生きづらいほど強烈な個性を持っている。だからこそ声優という仕事で自らの個性を否定せずに生きられることを大事にしている。そして,そんな自分たちの主義を理解してくれるかどうかを重視している傾向がある。
――彼らにもっとキラキラと輝ける場所を提供してあげなければならない。
次に出会うのは実力未知数がんばりやユニット「MAISY」。
彼らの哲学は「絆」だ。心優しく仲間想いの彼らは5人揃って笑顔でいられる時間をなによりも大切にしているように思う。ほかのユニットと比較しても「グラン・ユーフォリア」への反発は少なく,真摯に頼めば協力を受け入れてくれることだろう。ただ,彼らにはその前に「5人が笑顔になるために」全うしなくてはならない計画があるのだ。
――彼らには主人公が絆を共有できる人間かどうかを証明してあげられれば良い。
次は絶対的王者「Prid's」。
学園最高の天才・輝崎千紘が集めた最強声優ユニットである。そんな彼らの哲学は,その名のとおり王者たる「プライド」だ。実力主義で頂点に登り詰めた矜持があり,謎の学園行事に付き合う時間もメリットもない彼らの説得は困難を極める。しかし,もはや学園を代表する存在である彼らの存在なくして「グラン・ユーフォリア」の成功はありえない。
――彼らを説得するには主人公自身にメリットを超えた「なにか」が必要なのだ。
最後は謎多き癒し系ユニット「drop」。
退学寸前のトラブルメーカーの4人組で,まだ正式にユニットとして認められていない。謎も多く,まだゲーム内で明かされていない部分も。彼らがどんな哲学を持っているのか楽しみだ。
さて,こんな彩り豊かなメンバーをすべて仲間にして「グラン・ユーフォリア」に挑むことになるのだが,この先に待つ展開は,まぁ……話すのも野暮というものだ。ここから先は自身の目で確かめ,そして乗り越えてほしい。乗り越えた暁には,ともに称え合いたいぐらいだ。
この物語はきっと大事なものになる
それにしても,シナリオを読んでいて恐ろしさすら感じるのは,「オンエア!」が“登場人物がプレイヤーに嫌われるかもしれないことを恐れていない”作品だということだ。
主人公と声優のたまごのふれあいは,大半は宝石が丘学園で行われる。学園,それはいわば舞台裏である。だからこそ彼らは,とにかく人間らしい部分を遠慮せずプレイヤーに見せてくる。とくに「ユニットストーリー」は,それぞれのユニットが結成される前のエピソードから始まり,すでに業界を賑わす人気者になっているメインストーリーよりも時系列が少し前のため,前述の「哲学」を手に入れる前の不安定な彼らと出会うことになるのだ。
言葉がきつくなるときもある。無遠慮なこともある。時には信じるモノすら揺らぐし,主張が変わるときだってある。根も葉もない噂に振り回されることもあるし,顔の見えない他人の言葉に正気を失うことだってある。
うまくいかないことがあれば,同じユニット内でも「本当に修復可能なの?」と思うくらい派手にぶつかりあうし,「そんなこと言って大丈夫なの?」と感じるくらいのディスをグッサグサ刺し合う。
この作品は声優という仕事をファンタジーとして描いていない。どこまでも現実的なのだ。彼らの前に立ちはだかる数々の障害も,あくまですべてが現実なのである。
芸能とは。露出とは。立身とは。人気とは。金とは。ファンとは。ゲームとは? アニメとは? 舞台とは? 演技ってなんだ? 芝居ってなんだ? 声優って一体なんなんだ!?
彼らを蝕み苦悩させるのは現実の毒。その毒は隠したかった本質すら曝け出してしまう。
彼らの物語はとにかく,痛い。
現実的だからこそ,想像できるからこそ,彼らの痛みは,僕らにとって痛々しい。
すでに本作を楽しんでいるファンの方々が「『オンエア!』のシナリオはしんどい」と呟く所以はここにある。未プレイの方からすると,「それって見ていて気持ちのいいものじゃなくない?」と不安に思うかもしれない。確かに,それくらいに心はえぐられるし,胸がキュッと締め付けられる。
「なんでわざわざエンタメでしんどい思いをしなきゃいけないんだ!」と仰る方の気持ちもよく理解できる(僕もよく言われる。毎回ごめんって思う)。でも,僕はその不完全な彼らにどうしようもなく「人間」の愛おしさを感じるのだ。
物語の中でときおり与えられる鈍い痛みは,彼らが画面の向こう側にいる僕らを喜ばせるためだけに創作されたキャラクターではなく,確かにどこかに存在する人間だと感じさせてくれる。
「なんでこんなこと言っちゃうんだろう?」「何を思っていたんだろう?」
僕にとって,登場人物の“ゆらぎ”に思考をめぐらせ,解釈を深める時間は,その人物を愛するためにとても重要なアプローチだ。相手が人間であり,僕らも人間である以上,もしかしたら受け入れられないこともあるかもしれない。それでも僕は,咀嚼に時間がかかったものほど,その人にとって大事なものになると考えている。
つらくても,しんどくても,どうか彼らの物語を見守っていてほしい。彼らはいずれ揺るぎない「哲学」を手に入れる。そして彼らは,それぞれ煌めくオンエアの刻を迎える。
そのとき,あなたにとって「オンエア!」はきっと大事なものになるはずだ。
「オンエア!」公式サイト
「オンエア!」ダウンロードページ
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(C)coly
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