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見せてやれ。世界最速No.1の速さを――「ファイトクラブ」リリース前ゲームメディア企業対抗戦に出場した,4Gamerスタッフの姿を追った
例えば格ゲーのロケテストは,作品の正式なリリースに向けて,パブリッシャやデベロッパが体験者の反応,不具合の確認,あるいは動作の安定確認などを目的として実施する。参加者にしても「とりあえず触ってみる」「お祭り気分で参加する」,そんなフワフワとした気分で,ワイワイと楽しむために足を運んでいる。表面上は。
我が身を振り返ってみよ。そんなにお行儀よく,お淑やかに,ロケテに参加しているのかを。格ゲーマーにとってロケテとは,まだ見ぬゲームとのお付き合いを前提にした出会いというだけではない。「俺,今日この瞬間,この店舗で全一だわ」という,未経験者だらけの集団の中でとりわけデカい顔をするため,その日しか価値のない見えない王冠を手にするため参加する,自尊心を懸けた催しなのだから(※一部に限ります)。
1日,あるいはたったの数時間。それっぽっちの限られた提供の中で,そのゲームの頂きを名乗り,強者であると主張するのをアホらしく思う人もいるだろう。いい,それで結構だ。そんなアホばかりなのが格ゲーマーであり,そんなアホが誰よりも輝かしく見えてしまうのが格ゲーマーなのだから(※一部に限ります)。知っているだろうか? ゲーセンの中じゃ,顔の美しさなんぞ,1コインの価値もないということを。
これより始まるのは,ポノスが先日発表したスマホ向けe-Sportsタイトル「ファイトクラブ」(iOS / Android)のゲーム体験会の紹介と,そこで開かれたとある大会のレポートである。そして本稿は,“リリース前 世界最速No.1”というIQの低い称号を懸けた大会「ゲームメディア企業対抗戦 -世界最速 No.1 は弊社だ!-」に挑んだ,1人の4Gamerスタッフの1日である。ファイトクラブとの出会いから,激闘の幕が閉じるまで,わずか7時間の出来事。男の背中はまさに,飢狼のようであった――。
「ファイトクラブ」公式サイト
「練習ですか? 優勝コメントが先じゃないですか?」
時は2018年1月24日15:00。場所は東京・北区のWellplayed Studio。大会に出る4Gamer編集者の鮫島氏こと「さめじー」と,それを取材するための筆者が,会場に足を踏み入れた。場内にはすでに勝利に腹を空かせていたのだろう,飢えた狼が1人(※他メディアの参加者)だけいた。
ここで,本日の主役である「ファイトクラブ」の紹介をしておこう。本作は2018年3月に配信が予定されているスマホゲームで,シンプルな操作と分かりやすいルールをコンセプトに“駆け引きの楽しさ”を押し出す,1vs.1の“ワンチャン”ある系対戦アクションゲームとして提供される。ゲーム内ではバトルを楽しんだり,キャラをコーディネートしたり,ほかのプレイヤーの戦いを観戦,応援したりできるという。
ただ,ここまで格ゲーチックな文章でお見せしてきたが,本作のシステムはそれよりもシンプルである。ボタンやコマンドは一切なし。移動はオート,攻撃は画面右側のタップで上段・下段を使い分け,ホールドでガード不能のため攻撃,画面左側タップで上段ガード・下段ガード,画面左側をスワイプでバックステップとなる。ルールは「相手のHPを先に0」にするか,「タイムアップ時に相手よりもラインを押す」かのどちらかだ。
文章の説明だけだとあまりイメージが湧かないだろうが,バトルのキモは“自動移動の中,距離感を測って攻撃し,相手を画面端まで追い詰める”ことにある。プレイヤーが攻防だけに集中できる仕組みだ。バトル中は攻撃を受けるだけではダメージにならず,攻撃で吹き飛ばされ,画面端の「壁」にぶつかったとき,初めてHPへのダメージとなる。このHPはゲージで可視化されておらず,画面下の体調を表すアイコンで示されるため,相手のHPをどれだけ減らせているかの感覚を養うのも重要だ(※観戦者のみ,HPゲージが表示される)。
また,バーストゲージを一定値まで溜めて,画面左上のアイコンをタップすると「バースト」が発動する。この間は攻撃ヒット時の吹き飛ばす力と,移動時の足の速さが上昇するため,対戦を優位に進められる。バーストはゲージ量が多いほど発動時間が増えるのも見逃せない。そのほか,キャラが追い詰められたとき,壁の近くでバーストを発動すると「バーストアタック」が発動し,相手を吹き飛ばす衝撃波が放てる。窮地を脱し,ワンチャンを掴む絶好の機会となるので覚えておこう。
キャラには装備もあり,武器・頭部・上半身・下半身・脚部にアイテムを付けると,「ふきとばし」「攻撃スピード」「ふんばり」「足の速さ」のステータスが変化する。装備はゲームを進めて,SP(ステージポイント)をためていくとより良いアイテムが入手できるらしい。また,プレイヤーレベルの項目を高めると,バトル中のプレイヤーの最大HPがアップするとか。
「で,これってどうすれば初心者狩りできます?」。控室にいたさめじーがそう口にする。同席していた開発者の笑顔も苦くなる。いいんだけど,やめてくれ。しかし,1人だけ先にいた他メディアの人もそれに乗っかり,2人でワキャワキャと楽しそうに,初心者狩りの追及を始めた。そう,本大会は始まる前から終わっていた。後から来た選手勢には申し訳ないが,控えの段階で埋められない差が,歴然として作られていたのだ。
いわゆる,人間性能の差というのは事実として存在する。対戦シーンで名を馳せている人は,複数タイトルで成果を出せる人も多い。しかし,「あのタイトルで強い人がこのタイトルでも強い人」になるのはそう簡単ではない。操作精度や反射神経といったスキルは変わらずとも,“慣れ”を100%変換できる対戦ゲームというのはそうはないからだ。
「(有名な)〜〜さんと対戦するけど,余裕で連勝だわ」という舐めた知人がいる。彼は新作タイトルの稼働時に,巷では有名人とされる「〜〜さん」に圧勝していた。このダイヤグラムは,2週間もすれば練習量や持ち前のスキルの差でひっくり返ったが,つまり強い人は最初から等しく強いわけではない。初めから80%の力を出せる人もいれば,時間をかけて80%になる人もいる。システムへの順応速度には個人差があるのだ。
つまるところ,人間性能が低かろうが,システムの順応速度で勝れば,1日限りのシンデレラは夢ではない。情報が出揃ってない今,最も勝率を高める手段といえば,「強いキャラ・技・連携をいち早く見つけ出す」に限る。それは複雑な仕組みでなくていい。初心者には対応しづらい何かであればいい。対応の時間を与えずに倒す。これが彼の今回の戦略“The 初心者狩り”の全貌である。汚い。なんて汚いのだろう。でも素敵。
「開幕弱アピール」「リーチはLLの一強」「見切りステップは忘れろ」「バーストは決め打ち」。早くも打ち立てられていくパターンの数々。初心者が効率的に勝つためには,1つの鉄則がある。それは全体のシステムをあまさず把握した後,「やらない行動を決めること」にある。初心者帯ではなんでもできるより,なにかだけをやるのが大切だ。勝つことでモチベーションが高まり,ゲームに対する欲求も高まっていく。対戦ゲームを続けるうえで,このルーチンを作ることはなによりも大切である。
こうして無邪気な笑顔をした悪魔達は,大会に臨んだ。
「賞品はデカくないといいですね。持って帰れないから」
20:00になり大会の生放送がスタートすると,開発陣やキャストが大会をワイワイと盛り上げていく中,控室の温度が冷え冷えになっていく。集中か,緊張か,それは話を聞かないと分からなかったが,そんな無粋なことはできない。番組の進行とともに,刻一刻と大会のスタートが近付いていった。
左からプランナーのハイボルテージくさの氏,プロデューサーの板垣 護氏,実況の郡 正夫氏,名物実況キャラクター「ハイボルテージさくら」を演じる緑川優美さん |
大会に参戦したメディアは全部で8社。空気を読まずに腕利きの刺客を放ってきたところは水面下で目の敵にされる。これもライブ感である。なお,本大会で優勝したメディア,ひいてはその選手には今夜限りの栄光と,3月下旬に開催される「リリース前最強決定戦(仮)」への出場権が与えられる。最強決定戦(仮)ではメディアのみならず,さまざまな業界の人達がトーナメントに挑むとのことだ。
そして始まったメディア対抗戦。試合形式はトーナメントで,第1試合はAppBankが,第2試合はファミ通Appが,第3試合はGameWithが勝利した。次の第4試合はいよいよ弊社のさめじーの出番である。「緊張してる?」「なんでですか?」。繊細な見かけによらず,発言は図太い。だが,緊張感が丸出しだったので,明らかに日和るであろうことが目に見えていた。がんばってー。
武器にはSS/S/M/L/LLのサイズが存在し,小さいほど攻撃が早く,リーチが短くなり,大きいほど攻撃が遅く,リーチが長くなる。近距離戦で畳みかけるか,中距離戦を仕掛けるかは,各々の自由だ。選手達も自分好みの装備にしていたが,過半数がLL武器を使用していた。近距離戦の駆け引きよりも,最初のうちは長物を振り回すほうが戦いやすいと気付いたのだろう。
さめじーの相手は,Game8の野口選手。数十分前,喫煙所で彼の口から語られた参戦理由には思わず涙しそうになったが,敵となっては倒れてくれないと困る。実際の試合展開は,さめじーの圧勝であった。語るところがないくらい,ストレートに勝ってしまった。だが,2時間前に固めた決め事はすべて意味をなさず,ガムシャラに操作していたのが見てとれた。
プロゲーマー達が語るように,大会で生まれる緊張感は大きなものだ。不慣れな人ほど,頭が真っ白になり,自分がなにをやっているのか分からなくなる。こういうときに頼れるのは,指先に覚えさせた反復練習である。技は知識として吸収していても意味をなさない。指に吸収させなければ武器とはならない。しかし,さめじーは先行者の余裕からか,それをサボっていた。
続く準決勝第1試合は,AppBankがファミ通Appを打ち倒した。そして準決勝第2試合はIGN JAPAN のこれまた野口選手と弊社のさめじーの対戦だ。
本作には基本操作に加え,無防備になりつつバーストゲージを溜める「アピール」,防御した瞬間に攻撃をタップする「カウンター」,壁にぶつかる瞬間に防御をタップするとダメージ0で復帰できる「壁蹴り」,無敵で前進する攻めと避けの両立行動「見切りステップ」といった応用操作も搭載されている。当然,これらは練習段階で気付き,使えるものと使わないものを切り分けていた。「いきなりは使えないよね」と。
だがここまでの大会で,これらを対戦に導入していた人がチラチラといた。その1人が,さめじーが相対する野口選手であった。彼はさめじーが切り捨てたはずの応用操作を,無理なく実践投入していた。「IGNは格ゲー分かってる」「圧倒的やないか」。野口選手の先ほどの戦いぶりを見て,社内のチャットに上長達からのエール兼プレッシャーが飛んでくる。生放送ならではのバッファにより,対戦中のさめじーがそれを見ないで済んだのは幸運だったが,やめてさしあげろ。筆者の目の前にいる現場のさめじーは,緊張で今にもぶっ倒れそうなのだから。
企業戦士の対抗戦ということで名刺交換が行われる。このとき主催側からちょっとしたプロレス演出を求められるのが,選手達の頭をさらに悩ます |
解説席は,ポノス所属のプロゲーマー社員であるガリレオ氏ともけ氏 |
さめじーの使用していた武器は,ほかの選手にも人気であったLLサイズの大きな槍で,大会での使用頻度も高かった。外から見ている筆者にしても「どっちのモーションが上段・下段か」が分かってしまっていた。ゆえに,相手もそれを記憶してしまっていた。さめじーの攻撃はとおらないが,相手の攻撃はとおる。しかも,持ち前のゲームセンスか明らかに“格上の動き”であった。
さめじーは苦戦する。タップ2度押しで上段・下段を切り替えるフェイント攻撃で相手の攻防を迷わそうとしたが,野口選手は崩れない。ファイトクラブの戦略というのは結局のところ,「上段・下段を見極めてガード」「ため攻撃は後の先,もしくはバックステップ」に突き詰められる。もちろん,そのほかの行動がさまざまな駆け引きを生むが,初心者狩りの要求値は“ここの追求”としていた。けれども,相手はその上を行った。
ラストは,野口選手が最後の最後まで隠し通していた,乾坤一擲のフェイント攻撃。自分が使っていても,使われることを想定していなかったか,その攻撃は真っすぐに綺麗に,さめじーのキャラクターの無防備な体に当たった。画面にはK.Oの文字が。さめじーの大会はここで終わった。ここで勝ち上がった野口選手は,そのまま決勝戦も制し,ほかの7人が羨む,1日限りのシンデレラになった。
この日,さめじーは確かに先行して練習した。でも,そのほかの選手も17:00から大会開始の20:00まで本気の練習をしていた。その間,さめじーは弁当を食べたり,タバコを吸ったり,スマホを弄ったりと,人間的な時間を過ごしていた。結局のところ,追いつかれていたのだ。本気のゲーマーに。
敗北から数分後。誰もいない非常階段で,足元も危うい暗闇の中,打ち捨てられたごみ袋の横で,紫煙を燻らす男の背中。「やっぱ人間性能が違いましたね」「FPSだったらボコせましたけどね」。意味をなさない感想は,タバコの煙とともに換気扇に吸い込まれていった。敗北の痛みはすぐじゃない。家に帰り,一杯やって,寝るときにやってくる。その後悔の痛みが種となり,花を咲かせるのかは,後にならないと分からない。とはいえ,今日は本当におつかれさま。負け犬!
本作の当面の展開は,1月26日からβテストが開始されるほか(※iOS版は受付終了,Android版は誰でも参加可能),同日から行われる格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2018」への出展も予定されている(※競技タイトルではなく,ブース出展)。ブースではゲームの試遊のほか,ガリレオ氏ともけ氏によるデモンストレーションも予定されている。会場に足を運ぶ人がいたら,ぜひとも遊んでみてほしい。
また自前の宣伝も兼ねてしまうが,EVO Japanに出場する人達にも一言を。大会は今年だけでなく,またEVO Japanのみならず,さまざまな場所で行われている。EVO自体,そのときの格ゲーシーンの最強を決めるストイックな面と,会場脇で皆で好きなゲームを持ち寄ってワイワイと遊んだりする面があるので,誰でもお祭り気分で参加できる(※大会種目のエントリーは終了)。勝った負けたに関わらず,雰囲気で楽しめると思う。
それでも,EVO Japan 2018という場で頂点を目指せるのは1度きりだ。どんなに準備を重ねても,少しの判断ミスで,壇上行きの切符を逃すことだってあるだろう。参加者全員が本気で挑戦しているのだ,仕方ない。とはいえ,準備や練習や対策や努力が,自身を裏切ることはない。本大会でかけられた数時間だって,積み重ねというにはあまりに少しのものと思うだろうが,その中で勝つために努力をした者が正しく勝利を掴んでいた。
人間性能の差は確かにある。しかし,その実態は紛れもなく,その人の積み重ねである。EVO Japanには本気を凝縮させたプレイヤーが集まる。だからといって,栄光を掴むのはプロゲーマーとも,地元の有名人とも限らない。勝つのは必ず,不確かで,認められずとも,顧みられることがなくても,ゲームの努力を怠らなかった奴だ。実力の差をつけられても,気迫の差はつけられるな。たった一度の晴れやかな舞台。当日まで限りない努力を尽くして,決戦の場に臨んでほしい。そして大会や観戦にちょっと疲れたときは,ポノスのブースで“The 初心者狩り”を試してみればいい。ほら,その日その瞬間のEVO Japanの全一くらいなら,誰にだって手が届く。
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