インタビュー
醜いものを知るからこそ,美しいものを作り出せる――芸術家たちの光と影を描く「パレットパレード」開発者インタビュー
2019年9月19日にリリースされるクレイテックワークスの新作「パレットパレード」(iOS / Android ※PC版は配信日未定)。本作は,ゴッホやダ・ヴィンチといった著名な芸術家たちが多数登場する“芸術家育成タイムライズゲーム”です。2017年のタイトル発表から徐々に情報が明らかになってきた本作が,このたび満を持してリリースを迎えるということで,開発の経緯やゲームの見どころなどを,本作のエグゼクティブプロデューサー・波多紘幸氏に聞いてきました。本作で描かれる芸術家たちの光と影とは……?
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「パレットパレード」先行プレイレポート。芸術が好きな人,奥深いストーリーを読みたい人にオススメの一作
ゴッホやダ・ヴィンチなどの著名な芸術家が登場する女性向け育成ゲーム「パレットパレード」の配信が,いよいよ2019年9月19日に開始されます。配信に先駆けて本作をプレイする機会を得たので,ゲームシステムや世界観,ストーリーなどについて紹介します。
「パレットパレード」公式サイト
「パレットパレード」ダウンロードページ
「パレットパレード」ダウンロードページ
※本稿で使用しているゲーム画面は,すべて開発中のものです。
女性向けゲームを作るのは
芸能プロダクションのマネージャーのような感覚
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。波多さんには4Gamerのインタビューに何度か登場していただいていますが,今回は初の女性向けタイトルでのご取材となります。あらためて,これまでの経歴をお聞かせください。
今回のゲームにも少し関係するのですが,美大を出ておりまして自分でも絵を描いていました。
卒業後にアパレル業界でのデザイナー業を経て,ナムコに入社しました。もともと女性向けのアパレルをやっていたこともあり,ナムコに入った当初は女性向けのアトラクションやテーマパークの企画をしていたのですが,次第にアーケードゲームにも関わるようになりパーティーゲームを作っていましたね。その後はカプコンへ転職し,いわゆる洋ゲーと言われるようなFPSやダンジョン系のゲームをローカライズしていました。
4Gamer:
女性をターゲットとした市場からスタートし,コアなゲーム畑へ移り,また女性向け市場に戻られ,クレイテックワークスの「パレットパレード」でエグゼクティブプロデューサーを務めることになったわけですね。
波多氏:
そうですね。
カプコン時代からさまざまなプロジェクトに関わってきたなかで,自分のルーツがなんだったのかを考えることがありました。ちょうどそんなときに女性向けゲームに目を向けるようになり,また,その市場が盛り上がってきたのも相まって,その市場で女性向けゲーム作りに挑戦してみたいと思ったんです。綺麗な絵やファッションが好きだし,かっこいい男の子たちをどうやって彩ろうかとワクワクしていました。
4Gamer:
カプコン時代から興味を持たれていたんですね。波多さんは女性向けタイトルや市場を研究されているとのことですが,作り手としてどのような考えをお持ちですか。
波多氏:
今ままで関わってきたゲームは,最新のグラフィックスカードがないと動かないようなRTSやFPSといったPCゲームでした。でも,女性向けゲームを作るうえでは,そういうものとはまったく違うアプローチが必要になると考えています。
たとえば女性向けゲームが好きな人の視点って,どういうシステムかということよりも,どういった世界観で,どんな男の子が登場するかといった“設定”が重要だと思うんです。
4Gamer:
ゲームシステムよりも,キャラクターやストーリーが自分に刺さるか,いかに素晴らしいかが前提だと。
波多氏:
“ゲームを作る”というよりも,歳を重ねず理想的でかっこいい男の子たちを,いかにファンの子たちに届けられるかという,“革新的な芸能プロダクションのマネージャー”に近いような感覚です。なので,遊び手の“自分の好きな子,推しの男の子がゲームに出演している”という捉え方を前提に,ゲームを作るべきだと思っています。
4Gamer:
プレイヤーの傾向を見ると,そういった捉え方はたしかにあるかもしれません。
波多氏:
初期の女性向けタイトルはアドベンチャーゲームがほとんどでしたが,リズムゲームやパズルゲームが出てきて,ゲームの在り方は多様化してきました。キャラクターや世界観にしても,アイドルや劇団員,擬人化ものなど,テーマも幅広くなっています。そうやって切り口を変えたものがどんどんと市場に出てきて,男の子たちの見せ方や世界観の作り方がうまい作品が支持を得ていくのかなと。
4Gamer:
研究の一環で,ご自身でも女性向けゲームをプレイされているとお聞きました。お好きなタイトルはありますか。
波多氏:
セールスのトップにいるようなタイトルはひととおりプレイしていて,さまざまなデータをピックアップした比較表を作っています。今まで遊んだものだと「夢色キャスト」の世界観がすごく好きでした。「A3!」は,組ごとにストーリーが展開されていくなかで,男の子たちの関係性を描いているところに惹かれましたね。
4Gamer:
ちなみに,推しキャラもいたり?
波多氏:
「A3!」だと斑鳩三角くんで,「うたの☆プリンスさまっ♪」なら一十木音也くんが好きです。これ,記事になるの恥ずかしいな(笑)。
4Gamer:
個人的にはもっと深堀りして語り合いたいところなのですが,本題にいきましょうか(笑)。
明るいビジュアルに隠された
芸術家たちの闇を描く
4Gamer:
「パレットパレード」は,どういった経緯で企画がスタートしたのでしょうか。
波多氏:
まずは座組の説明からですね。もともとはシリコンスタジオというゲームスタジオで企画がスタートしていたのですが,現在はクリーク・アンド・リバー社グループの企業クレイテックワークス(※)という会社がパブリッシングしています。社名は変わりましたが,シリコンスタジオのときから「パレットパレード」の企画に携わっているコンセプターの金子が引き続きゲーム制作に関わっています。
(※)シリコンスタジオのコンテンツ事業を分社化し設立された「スタジオリボルバー」をクリーク・アンド・リバー社が買収。「クレイテックワークス」に社名が変更された。
4Gamer:
波多さんはどのようないきさつで関わることになったのでしょうか。
波多氏:
去年の夏前あたりですかね,「こういうゲームを作っているんだけど,どう?」とクリーク・アンド・リバー社の取締役である青木さん(青木克仁氏)と,ゲームスタジオをマネジメントしている前山さん(前山辰治氏)から声をかけられたのが始まりです。そのときにストーリーやキャラクターの関係性などを見せてもらって,自分が感じたことをまとめたり,当時,別のプロジェクトで一緒に女性向けゲームを研究していた女性スタッフたちと話し合ったりしてレポートを出したんです。そしたら,しばらくしてから正式にお声がけいただいて,現在に至ります。
4Gamer:
芸術家や絵画をテーマにするというのは,波多さんが参加される前から決まっていたということですね。
波多氏:
前身となるシリコンスタジオのスピリッツから始まっていたのだと思います。今もチームに残っている人は美大出身が多いですし,そういう意味ではシンパシーがありますね。
またクリーク・アンド・リバー社としても,クリエイターを育てていくのがテーマの1つとしてある会社なので,芸術やアートを軸にしている点においては,関わっているみんなが「これは自分たちが出すべきゲームだ」という考えのもとに作っています。もともとはシリコンスタジオから始まっている企画ですが,それがクリーク・アンド・リバー社も一緒になってどんどん拡大していったというか,僕もその渦に巻き込まれていったという感じですね。美大出身としては,もっとこういう作家も入れてほしいというのもありますが(笑)。
4Gamer:
そうなんですね(笑)。ゴッホ,ダ・ヴィンチ,ミケランジェロなど,芸術に明るくない人でも馴染みのある芸術家もいれば,初めて名前を目にする芸術家もいて,バリエーションに富んでいるなと思っていました。それに,現在発表されているものだけでも,かなりの数のキャラクターがいて驚きました。
波多氏:
現状で,芸術家は28人います。
4Gamer:
パレット美術館の存続をめぐって,芸術家たちのさまざまな物語が描かれていくとのことですが,本作はどういったテイストなんでしょうか?
それを語りたくてしょうがなかったんですよ(笑)。「パレットパレード」は明るく癖のない“優等生っぽいビジュアル”で,「芸術って素晴らしい!」「リア充!」みたいなイメージを抱くかもしれません。でもそういったイメージと違って,「ここまで深く描くの?」と思われるぐらいの物語になっています。
4Gamer:
具体的にどういった内容なんでしょう。
波多氏:
実際のゴッホって,生きているうちはほとんど評価されず,絵が売れなかった画家なんです。「パレットパレード」の物語のなかでも,ゴッホをそういうニュアンスで描いていて,誰からも認められていないキャラクターとして存在させています。認められないことに対してゴッホは怒るわけでもなく,「パレット美術館のために頑張ろうよ!」と明るく言うんです。どれだけのメンタルなの? と思うところなんですが,彼の耳には傷があってその傷は……と,明るく振る舞っているように見えても,実は心にものすごく深い闇を抱えているというようなエピソードが語られます。
4Gamer:
モデルとなった画家たちの人物像をもとにしつつ,キャラクター設定や関係性を膨らませているわけですね。
波多氏:
キャラ同士の関係性としては,ゴッホならゴーギャン,ダ・ヴィンチならミケランジェロというように,史実に基づいた対になるキャラクターがいます。たとえばダ・ヴィンチは見た目がショタっぽく,言葉遣いもノーブルで優等生風なんですが,ミケランジェロにだけは違った一面を見せます。ミケランジェロも部屋から出ずに引きこもっていたり……。
◆『ルネサンス』相関図◆
— パレットパレード公式 (@Palette_Parade) July 31, 2019
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ヤン、フ―ベルトの関係性を公開!これを見れば一目瞭然!?
優しいダ・ヴィンチのミケランジェロに対しての対応は気になるところ……!
また、ラファエロの「ファンがすごい」とは一体――!?#パレットパレード #パレパレ pic.twitter.com/MJi1lHwVsk
4Gamer:
みんな何かしらの闇のようなものを抱えているんですね。イラストのとおりの明るいエピソードを描く選択肢もあったかと思いますが,あえて闇の部分を持たせたのは?
波多氏:
芸術をはじめとする創作の分野では,自分を追い込んだときに生まれる創造性というものがあって,それを繰り返すうちに,すばらしい作品ができあがることがあります。夜があるから昼があるように,汚いものが分からなければ,美しいものも分からない。見るものすべてが美しかったら,きっと美しいという言葉も意味をなさなくなってしまう。それは芸術家の本質じゃないかと思うんですよ。
4Gamer:
どん底を経験しているからこそ見える景色があり,つらい経験も,悲しい思い出も,すべてを肥やしにするからこそ,すばらしい作品が生まれると。
波多氏:
ええ。本当に美しいものを作ろうと思ったら,醜いものを知ったり経験したりしなければいけないし,挫折を繰り返しながら絵を描くからこそ素晴らしいものが生まれるんだと思います。
ただ“芸術は美しい”という捉え方ではなく,彼らはこんなに悩んで作品を作ろうとしているんだって,それを感じられるのが「パレットパレード」のストーリーの面白さなんです。そういう意味では,今までの女性向けゲームの中にはあまり見当たらない“新しさ”みたいなものがあると思います。何と言っても“芸術家”ですからね。この作品をとおして芸術家を知り,彼らの生涯を調べだすと,さらにキャラクターに深みが生まれるかもしれません。
4Gamer:
たしかに“芸術家”がテーマとなると,何かしらの闇を持っていることはリアリティがありますね。
波多氏:
もう1つ特徴を挙げると,キャラクターたちはみな美術館の専属画家なので,自分の作品に自信を持っていますし,プライドも高いです。メンバーの誰かがいなくなったとしても,心の中で心配はするもののプライドが高いからこそ,その人に寄り添うことはしません。そこをフォローするのは,プレイヤーであるみなさんの役目になるかもしれませんね。
4Gamer:
以前から気になっていたんですが,ゲームジャンルに“芸術家育成タイムライズゲーム”とあるんですが,“タイムライズ”にはどういった意味が込められているんでしょうか。
波多氏:
タイムライズは,コンセプターの金子とディレクターの山口と僕の3人で考えた造語です。「パレットパレード」は“擬人化”ではなく,芸術家の魂が時空を超え,キャラクターに乗り移るイメージだったので“タイムライズ”と名付けています。
乗り移ったからといって,語り継がれている人物像とまったく一緒ということはないですが,それらをもとにキャラクター性を膨らませて彼らの人生を描いています。
4Gamer:
ちなみに,プレイヤーはどのような立ち位置になるのでしょうか。
波多氏:
プレイヤーは美術館のキュレーター(学芸員)として,専属画家の彼らと関わります。“壁”となって特定のバディの関係性に萌えてもらってもいいですし,キャラクターと1対1で向き合って萌えてもらってもいいですし,いろいろな楽しみ方ができます。
メインストーリーの中でそれぞれのキャラクター性や,関係を描いているので,すべて読めば芸術家たちの相関図がどのようになっているか分かると思いますよ。
4Gamer:
これだけの人数を動かすのは大変そうですね。
波多氏:
特定の人物だけをフィーチャーしているわけではないですからね。ストーリーに次々と芸術家が登場するさまは,横山光輝版「三国志」を読んでいるような感じがあります(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。調べれば調べるほど芸術家同士の関係性が分かったり,作中の言動の理由を察することができたりと,深堀りしていく面白さもありそうです。
波多氏:
僕は大学時代に美術史を学んでいましたけど,「パレットパレード」でまた違った芸術家たちの一面を見られた気がします。
はじめのうちは自分の中にある大好きなゴッホ像と,ゲームの中で描かれる人物像の差に違和感があったんですが,読み進めていくうちに自分の中で消化できて,ゲームの中のゴッホがうまくハマった瞬間が心地よかったですね。
もともと画家や美術史が好きな人にとっては違和感があるかもしれませんが,読み進めれば物語にのめり込めると思います。自分のなかで新しいキャラクター像に転換される瞬間を楽しんでほしいですね。
気になるゲームシステムや今後の展開は
4Gamer:
システム周りはどうでしょうか。メインストーリーをどのように読み進めていくのかや,プレイサイクルがどのようになっているかが気になっています。
波多氏:
入手したカードでデッキを組み,絵画の「制作」に取り組むとプレイヤーランクやカードの親密度が上がり,メインストーリーやキャラクター別の芸術家ストーリーが開放されます。小難しいシステムはなく,簡単なタップ操作でプレイできるので受け入れやすいゲームシステムだと思います。芸術家育成ものということで,絵を完成させるミッションもありますよ。
4Gamer:
「制作」では,デッキに編成した芸術家とお題ごとの絵画担当で,10マスに区切られたキャンバスに絵を描いていき,絵画を完成させるものですね。この「制作」の中で描かれる絵画はどのように表現されているのでしょうか。
波多氏:
ゴッホなら“ひまわり”のように,絵画担当の芸術家にちなんだ絵をデフォルメしたものがキャンバスに現われる形です。制作中にSDキャラが出てくるのですが,これがまたかわいいんです。
制作とは別にルーム機能もあって,そこでSDキャラの男の子たちがわちゃわちゃする様子を見るのも楽しいかなと。組み合わせによって発生するキャラクター同士の会話もあるので,たくさん見ていただけたらうれしいです。
4Gamer:
キャラクターといえば,公式サイトで公開されているそれぞれの衣装やサインも凝っていますよね。
波多氏:
衣装もサインも独自に作りました。それぞれのキャラクターらしさがあっていいですよね。マイページやストーリーなどの立ち絵でその姿を見られるんですが,立ち絵はLive2Dでアニメーションをつけています。ずっと見ていても飽きないバランス感を,クリエイター陣がかなりこだわって作ってくれました。
4Gamer:
公式サイトであらためてキャラクターリストを見てみると,キャスト陣が豪華ですよね。
波多氏:
そうですね。声優さんから入っていただくのもありだと思います。そこから芸術や画家に対する興味が生まれると,ゲームの幅も広がっていくのではないかと。
4Gamer:
芸術がテーマなので,ゲームだけでなくいろいろな展開の可能性も感じます。
波多氏:
美術館コラボをやってみたいですね。静的でノーブルなメディアミックスができるとよさそうですが,2.5次元舞台のような動的なものでも,芸術を舞台で表現できるアイデアがいろいろ生まれそうです。
4Gamer:
それでは最後に,読者にメッセージをお願いいたします。
波多氏:
男の子たちの“芸術家”としての生き様がよく描かれている作品です。作品をとおして,たくさんの画家や芸術作品を知ってもらい,遊び手の人生の栄養になったらうれしいですね。「パレットパレード」の開発に関わってるすべての人たち,クレイテックワークスの人たち,そしてクリーク・アンド・リバー社のグループの人たちをあげて,このゲームを盛り上げようと頑張っていますので,どうぞ期待していてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました!
「パレットパレード」公式サイト
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(C)Claytechworks. co., Ltd.