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ゲームの力でシニアの健康寿命延伸をサポートする「健康ゲーム指導士」の養成講座第1回が開催。「太鼓の達人」と「グランツーリスモ」が教材に
これは高齢者の孤立を防ぎ,健康寿命を延ばすために,シニア施設にデジタルデバイスおよびコンテンツを活用したアクティビティを導入するという,同協会の取り組みの一つとして行われたもの。会場にはゲーム系専門学校の学生やシニア施設のスタッフ,デジタルコンテンツに関心の高いシニアら23名が集まり,PlayStation 4用ソフト「太鼓の達人 セッションでドドンがドン!」と「グランツーリスモSPORT」を使った高齢者とのコミュニケーションを体験した。
日本アクティビティ協会 公式サイト
その背景には,日本が目指す「地域包括ケアシステム」の実現がある。これは2025年をめどに,すべての国民が自宅にいながら医療や介護を受けられる環境を整えるという内容で,その中では各自の健康はもちろんのこと,地域のつながりやコミュニティが重視されている。
日本アクティビティ協会は,そうした地域のコミュニティを作るにあたり,「楽しい,面白いアクティビティ」を用意すると人が集まりやすいことに着目した。とくにここ1年ほどでは,ゲームなどのデジタルコンテンツを取り入れたシニア向けアクティビティ(デジタルアクティビティ)が大きな成果を上げているという(関連記事)。
そこでこのたび,同協会ではデジタルシニアアクティビティ定着と,それに関わる人材の育成に向けた取り組みとして,健康ゲーム指導士養成講座を開催する運びとなったのである。
それでは,そもそも健康ゲーム指導士とはどのような存在なのかというと,「ゲームを通じて,健康と交流を応援する人材」を指す。より具体的には,高齢者がゲームを楽しめる場を用意し,来場した人同士が交流できるようサポートする人材である。今回の講義では,健康ゲーム指導士の大きなキーワードとして「通い場の創造」「担い手の発掘」「コンテンツの開発」の3つが紹介された。
まず「通い場の創造」とは,高齢者が他者とコミュニケーションを図れる場を提供することである。昨今では「孤独は健康のリスクとなる」という指摘も増えており,高齢者が通える地域コミュニティを構築することが重視されている。そこで健康ゲーム指導士は,ゲームを通じて高齢者が楽しめるコミュニティをサポートすることが役割となるのである。
「担い手の発掘」は,慢性的な人員不足に陥っているシニア施設や介護施設において,いわゆる3大介護(食事,入浴,排泄の介助)や,中重度者向けのケアに人材を集中させなければならない状況を鑑みたもの。そうした中では,余暇活動やアクティビティが後回しになりがちだが,健康ゲーム指導士が増えることにより,状況の改善を期待できるというわけだ。
最後の「コンテンツの開発」は,シニア施設や介護施設におけるアクティビティのマンネリ化を解消するという意味だ。これらの施設では,上記のとおりアクティビティ業務はどうしても優先度が低くなり,毎回同じメニューを繰り返しがちとなる。そうなるといつも同じ参加者しか集まらなくなったり,あるいは飽きて参加率が落ちたりという事態に陥ってしまう。そこで健康ゲーム指導士は,アクティビティの新鮮さを保つよう,コンテンツの企画・運用を考えなければならない。
会場では,デジタルアクティビティ体験がシニアの脳に与える影響も紹介された。これは,諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授の協力のもと,脳科学的な観点から実施された調査の結果で,「グランツーリスモSPORT」をプレイ中の4名の被験者(男女二人ずつ)の脳血流を測定したところ,認知機能低下予防において重要な脳の部位である,左右の前頭前野の活動が高まるという結果が得られたという。これはコースを空間認識しつつ,手足を動かし,さらにはプレイ中に他者と会話するというデュアルタスクやマルチタスクが,脳に刺激を与えたためと考えられるそうだ。
また男性高齢者は,従来のアクティビティになかなか参加しない傾向にある。しかしゲームを導入したアクティビティを継続していった結果,男性参加率が上がったという結果も出ているとのこと。
またゲーム導入には,二次的な効果もある。まず現状の高齢者の多くは,これまでにゲームをプレイした経験がない。そのため,脳の活性化に大きく寄与する「初めての体験」になりやすい。
さらに,そうした初めての体験のあとには,体験者同士や施設のスタッフとの間で「面白かった」「難しかった」といった会話が必ず生まれるという。こうした他者との交流を行うことも,また脳の活性化につながるのである。
そして,ゲームは高齢者にとっては初めてのものでも,若い施設スタッフや孫にとっては当り前の存在である。そのためこうしたゲームを使ったアクティビティは,世代を超えたコミュニケーションツールとして活用しやすいという側面が生まれる。
アクティビティにゲームを導入するにあたっては,参加者のレベルに合わせて運用方法を変える必要がある。例えばシニア施設や介護施設と,一般の民間施設や商業施設で行う場合では,リスク対策などが異なる。また参加者が個人なのか特定のグループなのか,あるいは施設全体に向けて行うのかでも,運用方法は変化する。
そのため運用上は,まずゲームを「皆で楽しみ,人と人とのコミュニケーションを促すツール」と捉える必要がある。また,さまざまな人が参加する施設では,個々人のできること(現有能力)を引き出すサポートをすることが重要となる。
例えば同時に二つの操作をすることが難しい参加者であれば,ハンドルだけ握ってもらい,アクセルは施設スタッフが担当するというケースも考えなければいけない。
さらに,ゲームをプレイしている人だけでなく,その場にいる全員が参加できる演出も重要だ。会場では「太鼓の達人」のプレイに合わせ,周囲が太ももや膝を叩いて参加する手法や,タンバリンやマラカスなどの小道具を使って「グランツーリスモSPORT」のプレイを応援する手法,プレイした人の得点やタイムを記録しておき,優秀者を表彰する手法が示された。
また,プレイを分かりやすくするために,太鼓のどこを叩くかをテープやシールであらかじめ色分けしておく,ブレーキを使わずともアクセルを緩めるだけで減速できることを伝えるといった工夫も必要となる。
さらに,プレイに夢中になるとどうしても力が入ってしまう人もいるため,デバイスをマジックテープやゴムシートなどで固定することや,参加者の転倒などを避けるため常に整理整頓を心がけること,参加者の状態に合わせて無理のないようアクティビティを進めることなどの注意点も挙げられた。
講義終了後に,日本アクティビティ協会の理事長を務める川﨑陽一氏に,今回の健康ゲーム指導士養成講座についてメディア合同でインタビューする機会を得たので,以下にその模様を掲載しよう。
──まずは講義を終えての感想をお願いします。
川﨑陽一氏(以下,川﨑氏):
いい雰囲気でしたね。本格的にデジタルアクティビティ導入の活動を始めて1年ほど経つのですが,さまざまな高齢者の方が参加してくださり,だんだんゲームに対する抵抗がなくなっています。いろんな方向性を感じた講義でした。
また受講者も鍼灸師や公益財団の体育協会の方など,バリエーションに富んでいます。その中でも,やはり介護職の方が現場で本当に困っているので,真剣に聞いてくださいました。
──川﨑さんご自身は,これまでゲームとはどのように関わってきたのでしょうか。
川﨑氏:
僕はバンダイの出身なんです。もっとも当時は「ハイパーヨーヨー」などスポーツトイがメインで,ゲームにはそれほど深く関わっていませんでしたが。それでもゲームは常に近くにあったといえます。
それでバンダイの企業内ベンチャーとしてシニア向けコミュニティを運営するプレイケアという会社を立ち上げ,今では日本アクティビティ協会をやっているわけです。
──デジタルアクティビティにゲームを導入するにあたり,「グランツーリスモSPORT」を選んだ理由を教えてください。コースの選択や設定で難度を変えられるとはいえ,結構複雑なゲームですよね。
川﨑氏:
実を言うと,この取り組みの本質の一つは,男性高齢者向けアクティビティの開発にあるんです。「男性が得意なことは何か」と皆で考えたときに,「クルマの運転はどうだろう」と。そこでソニー・インタラクティブエンタテインメントさんとお話して,「グランツーリスモSPORT」を使わせていただくことになったんです。
──ただ,今回の講義では女性の参加者が優勝していましたよね。しかも「クルマの運転が好きだ」とおっしゃっていて。
川﨑氏:
そうなんですよね。そういった新しい発見があるんです。またあの方は,帰宅したら家族や友達に,ゲームをプレイしたことや優勝したことを初めての体験として報告するでしょう。講義でも説明しましたが,そうやって初めて体験すること,周囲に広げることは大切なことで,まさにゲームの効果だと捉えています。
──健康ゲーム指導士の育成には,ゲームが好き,ゲームに詳しいという人材が働ける分野を広げるという意義がありますが,今後,介護福祉士のような国家資格にしようというお考えはありますか。
川﨑氏:
もちろんです。一つの職業にしたいですね。ゲームが好きだけれど,社会に参加できない,特定のコミュニティとしか関わりがないという人は多いです。そういった趣味や特技を異なるフィールドで活用できる,そういった環境作りを日本アクティビティ協会ではサポートしていきます。
また,今後e-Sportsが普及し,プロゲーマーが増えたときには,セカンドキャリアが必要になります。もしくは並行キャリアで,プロゲーマーとして稼ぐ一方,シニア施設で活動する。そういったライフスタイルが求められるようになります。その環境作りも応援していきたいです。
──今後,扱うゲームタイトルを増やしていくことは考えていますか。
川﨑氏:
ゴルフゲームをやりたいですね。「みんなのGOLF」シリーズとか。
本当は「Dance Dance Revolution」シリーズのような,簡単にできて,かつ全身を使うようなゲームがいいんですよ。
あとは今日ご覧いただいたように,皆さん結構声を出すんですよね。介護業界では「口腔ケア」といって,声を出すことは有効なんです。とくに「パ」「タ」「カ」「ラ」を発声するときは,それぞれ舌の使い方が違うので,繰り返すと非常にいい。既存のゲームだけでなく,例えば発声で操作できるような,そういった介護側の視点を採用したゲームの開発にも取り組みたいです。
──世界的には,介護福祉やリハビリにVRの技術を応用する研究も進められていますね。
川﨑氏:
そうですね。実は高齢者の皆さんもVRへの関心が高いんですよ。いずれ取り組んでみたいです。
──最後に,健康ゲーム指導士養成講座の今後の展開に向けて,意気込みなどをお願いします。
川﨑氏:
今回の取り組みでは,「ゲームの日常化」を大きなテーマとして掲げています。誰もがいつでもゲームを使っているという環境を作る。そのための伝道師的な存在として,健康ゲーム指導士講座を全国展開していきます。定期的に講義をしていきますので,興味のある方はぜひチェックしてください。
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