連載
【Jerry Chu】「5分間で何かを達成できる」という安心感
Jerry Chu / 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
「5分間で何かを達成できる」という安心感
「アクションRPG」というジャンルに,しばしば矛盾を感じる。
アクションゲームはプレイヤーの「スキル」を問う。敵の攻撃にすかさず対応できる反射神経,キャラクターを思うがままに操作できる器用さ,有効な戦術を見出せる判断力が求められ,プレイヤー自身の能力によって勝敗や成否が決まる。
だが,RPGの世界では「数」が物を言う。時間をかけてキャラクターを育てれば,有利になっていく。プレイヤーの能力ではなく,勤勉さを重視するジャンルだ。
根本的に異なる2つのジャンルを交えたものが「アクションRPG」である。戦闘はリアルタイムだが,キャラクターの数値が勝敗に大きく影響する。プレイヤーのスキルで乗り越えるのがアクションゲームなのに,スキルがなくても強力な装備があれば「ゴリ押し」で勝てる。そうかと思えば,いかにスキルがあったともしても,高レベルの敵にはまったく歯が立たない。
アクションRPGにおいて,強力な武器を入手すると戦闘の手応えや緊張感が小さくなりがちだ。そう感じるのは筆者だけだろうか。 アクションゲームにRPGの要素を取り入れることで,本当に面白くなるのか,筆者には疑問だ。
一人称視点のアクションRPG「Destiny 2」
最近は「Destiny 2」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)を遊んでいる。前作「Destiny」をプレイしたことがないので,筆者はシリーズ初心者だ。
プレイヤーは神の如き存在である「トラベラー」の加護を受けた戦士「ガーディアン」を演じることになる。エイリアンの侵略を受けて陥落した地球を取り戻すべく,逃げ延びたガーディアン達が結集して,反撃に打って出る。アクションゲームやシューターにはよくある設定だ。
「Destiny 2」のコアはFPSであるが,「一人称視点のアクションRPG」と呼んでも差し支えない。そこにMMORPGの要素を取り入れている。
ストーリーミッションに向かう道中,ネットワークを通じてほかのプレイヤーと遭遇し,一緒にサイドクエストに挑むことがよくある。アクションRPGと同じく,敵を倒したりミッションをクリアしたりすると,経験値や装備を獲得してキャラクターが成長する。
キャラクターの戦闘力を計る数字として,「レベル」と「パワー」がある。一般的なRPGと同じく,レベルは経験値が溜まると上がるもので,本編のストーリーをクリアすれば,自然に最大レベル(現時点は20)まで到達するはずだ。
ここで注目したいのはパワーのほうだ。キャラクターが持つ武器やアーマーには,それぞれ攻撃力や防御力が設定されている。パワーとは装備の攻撃力や防御力の平均値である。サイドクエストをやらないで,本編のストーリーをクリアするだけでは,パワーはせいぜい200程度に留まるだろう。
「Destiny 2」には一定以上のパワーを持たないと遊べないコンテンツがある。「ナイトフォール・ストライク」と呼ばれる高難度の協力ミッションは,パワーが230以上のプレイヤーしか参加できない。
また,6人チームによる協力チャレンジ「レイド」は260〜280程度のパワーが必要だ。本編をクリアした後のストーリークエストには,推奨パワーが260以上のものもある。
上級者向けのコンテンツを遊ぶためにパワーを上げることは,本編をクリアした後に訪れる最初の課題だ。パワーを上げるには,さまざまな活動に参加すればいい。
ゲーム内の活動をクリアすれば,レアな装備と「トークン」が得られる。トークンはショップで強力な装備に交換できるものだ。
数ある活動の中でも,最も効率よくパワーを上げられるのは「パブリックイベント」だろう。「エイリアンを殲滅する」「持ち場を死守する」といった,フィールドで随時発生するクエストだ。パブリックスペースで発生するため,ほかのプレイヤーと協力として挑める。熟練者がいれば何とかなるので,伸び悩んでいる初心者であっても協力プレイならクリアできる。
しかも,「パブリックイベント」は5分程度で片が付く。短時間かつ手軽に装備やトークンを稼げるというわけだ。
パブリックイベントを繰り返すうちに,キャラクターのパワーが段々と伸びていく。パブリックイベントで疲れたら,ほかの活動や対人戦で息抜きしたり,拠点に戻ってトークンをアイテムに交換したり。それが終わったら,またパブリックイベントに挑む。
作業の中で得られる安心感
エイリアンを延々と撃ち殺していく。ストーリーを楽しむというならまだ分かるが,パワーを上げるためにミッションを繰り返すことは,ただの作業だ。RPGではイヤというほどにやらされていることだが,傍目にはあまり楽しく見えないだろう。筆者自身も,こんな遊び方はどうかと思う。
ただ,「Destiny 2」におけるこの作業には安心感というか,ある種の気持ち良さがある。
銃を撃ち,敵の急所に命中した時の手応えが気持ち良かったからかもしれない。言葉では形容し難いが,シューターとしての感触は良質だ。「Halo」シリーズをはじめ,FPSを手がけてきたBungieだからこそ成せる業であろう。
定期的に新しいコンテンツを用意してくれる運営手法も功を奏している。ナイトフォール・ストライクや宝探しなどのコンテンツは毎週更新されるので,頻繁にログインしたくなる。
プレイヤーを3つの陣営に分けて競わせる「Faction Rally」や週末のみ開放される対戦モード「Trials of the Nine」といった,期間限定イベントやゲームモードも続々登場する。新コンテンツが投入されることで期待感が保たれ,モチベーションが持続するのだ。
パワーを上げる作業の中で感じた「ある種の気持ちよさ」は,シューターとしてのクオリティと見事な運営手法によるものだろう。
一方,「安心感」のほうは「努力すれば必ず報われる」という認識から生まれていると思う。
現実の世界では,努力しても必ず実るとは限らない。頑張って勉強しても,テストでいい点が取れるという保証はない。指示どおりにこなした仕事が,予期しない出来事によって水泡に帰すこともある。
だが,「Destiny 2」の世界では,クエストをクリアすれば必ず経験値が上がり,アイテムがもらえる。「努力すれば必ず報われる」という安定感が心地いい。
「Destiny 2」のプレイ中,心理学者であるScott Rigby氏の発言を思い出した。
「我々の研究によれば,ゲームをやり過ぎる人,つまり毎週25時間以上をゲームを費やす人は現実生活で心理的なニーズを満たしていない傾向がある。だが,ゲームをしているから生活が不満足であるという証拠はない。研究データによれば,不満足な生活を送るほど,人はゲームに傾倒しているようだ」
「ゲームは目的と一貫性を提供してくれる。クエストに挑めば,5分間で何かを達成できることが分かる。私は人生においていろいろな体験をしてきたが,ゲームのように5分間で確実に何かを達成できる活動は,あまり思いつかない」
※「The Psychology of Video Games 023 - Self Determination Theory and Video Games」より。引用部分は35分45秒以降。
「Destiny 2」は,まさに「5分間で何かを達成できる」ゲームだ。パブリックイベントをクリアすれば,成功か失敗かにかかわらずトークンが手に入る。運が良ければレアなアイテムが得られ,不要なアイテムは解体してトークンに換えられる。
つまり,プレイヤーの努力はムダにならず,すべてパワーアップにつながる。仕事が思いどおりに進まず,家に帰って束の間の休息を求める筆者にとって,「短時間で小さな何かを達成する」という行為はとりわけ心地いいものだった。
ボスを倒して「やったぞ!」と歓喜するのではなく,数分おきに小さな喜びを味わう。これがアクションRPG(またはRPG)が持つ魅力の本質なのかもしれない。
インフィニット ポジティブ フィードバック ループ
安定的に達成感を与えるゲームデザインは,スマートフォン向けゲームにもよく見られる。
インディーズゲーム「Ridiculous Fishing」のクリエイター,Rami Ismail氏は自作のコンセプトを「インフィニット ポジティブ フィードバック ループ」(inifinite positive feedback loop)と語っている(引用元)。
「Ridiculous Fishing」はマシンガンで魚釣りをするゲームだ。釣り針を海に潜らせ,魚を釣り上げる。水面に釣り上げた魚を銃で撃って,金を稼ぐ。金を使って釣り竿をアップグレードすると,釣り針をもっと深く潜らせることができる。これでさらに多くの魚を釣り上げて,多額の金を稼げるようになる,
魚を釣る。釣り竿をアップグレードする。もっと魚を釣る。もっと釣り竿をアップグレードする。このサイクルが延々と続いていく。
ヘタなプレイヤーが一度に釣り上げられる魚は少ないだろうが,1匹でも撃てば金が稼げるので,ほぼ間違いなく報酬(ポジティブ フィードバック)が得られる。
「Ridiculous Fishing」のように,常に達成感を与えるゲームデザインは広く採用されている。RPGにおいて経験値やお金を獲得していく仕組みも然り,「Destiny 2」におけるトークン稼ぎとパワーアップも然りだ。
同じ仕組みとはいえ,「Destiny 2」はパランス調整が優れている。パワーを上げたとしても,敵が弱くなり過ぎることはない。対人戦をはじめとする一部のゲームモードでは,レベル補正が無効になるので平等な立場で戦える。
これに加えて,「Destiny 2」はオンラインゲームなので,成長したキャラクターや獲得した武器をほかのプレイヤーに自慢できる。
絶妙なゲームバランスとオンライン要素によって,ほかのアクションRPGよりも意欲がそそられる。
トークン稼ぎの果てに
本編をクリア後,パブリックイベントとストーリークエストをプレイしてきた筆者のパワーは276になった。
Bungieの公式Twitterによると,トークンと引き換えに交換できる武器のパワーには上限があり,260を超えると毎週更新されるマイルストーンをクリアするしかないようだ。トークン稼ぎに頼る遊び方が通用しなくなるのは,熟練者となったプレイヤーを単調な作業から,ほかの活動に誘導するための施策だろう。
冒頭で触れたとおり,筆者はアクションRPGにおけるRPG要素をあまり好まない。
以前のコラムでも語っているが,「The Witcher 3: Wild Hunt」を遊んでいたときには,「RPG要素がないほうが面白くなるのではないか」と思った。アクションとストーリーだけで十分に面白く,レベルの概念が逆にストーリーの魅力を損なっていると感じたのだ。
個人的な感想だが,アクションRPGにおけるRPG要素はアクションやストーリーの楽しみを損なうことがある。
だが,「Destiny 2」をプレイしたことで,筆者のアクションRPGに対する考え方が少し変わった。さまざまな銃を使い分けながら戦うというアクションゲームの楽しさがあり,パワーを上げれば高難度ミッションが開放されていくという達成感もある。パワーを上げたとはいえ,通常の敵が弱くなり過ぎることもない。
「イベントを繰り返しクリアして,トークンを稼ぐ」という遊び方は単調な作業に聞こえるかもしれないが,実際には不思議な安心感があった。
スキルで難関を乗り越える。努力すれば必ず報われる。アクションとRPG,相反するジャンルの魅力を兼ね備えた「Destiny 2」は,筆者にとってかなり貴重な体験を与えてくれた。
■■Jerry Chu■■ 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。 |
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(C)2021 Bungie, Inc. All rights reserved.
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