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[GDC 2017]「Radeon RX Vega」はメモリ2〜4GBモデルもあり? 次世代GPUの情報がまた少し明らかになったAMDイベントレポート
AMDの次世代GPUである開発コードネーム「Vega」の詳細が明らかになると期待した人もいただろうが,蓋を開けてみると,明らかになったのはVegaの製品名が「Radeon RX Vega」になったことぐらい。ほかに新情報と呼べるようなものはあまりなく,会場を見渡しても,肩すかしを食わされた気になった人は少なくなかったようだ。
とはいえ,次世代ハイエンドGPUの製品名以外に見るものが皆無だったわけではない。AMDのGPU部門を率いるRaja Koduri(ラジャ・コドゥリ)氏が登壇し,デモを交えてVegaの鍵となる技術を説明したり,VegaにおけるGPU仮想化の話題を取り上げたりしたあたりは,注目に値するだろう。今回はそれらVegaに関わる部分に絞って,イベントをレポートしたいと思う。
Vegaは4GBのグラフィックスメモリでも快適に動作
イベントの冒頭でKoduri氏は,「ゲーム,プロ向けグラフィックス,そして人工知能(AI)の分野をカバーするGPUである」とVegaを位置づけ,それを支える重要な要素技術が4つあることを示した。
実のところ,下のスライドに出ている4要素は,2016年12月に開催されたAMDの報道関係者向けイベントで公表済みのものだ。つまり,これら自体に新しさはない。
ただ今回のイベントでは,4要素のうち,「HBM2」と呼ばれる広帯域メモリをオンパッケージで「High Bandwidth Cache」として実装するにあたって採用したメモリコントローラ「High-Bandwidth Cache Controller」(以下,HBCC)と,改良版Compute Unitである「Next-Gen Compute Unit featuring RPM」については,デモを交え,一歩踏み込んだ解説を行った。
とくに興味深かったのは,Vegaのキャッシュ管理機構であるHBCCの説明とデモだ。
Koduri氏はまず,「今日(こんにち)のゲームは,メモリバス帯域幅の50%しか活用できていないが,HBCCによって,これを100%活用できるようになる。また,メモリバス帯域幅を有効活用することで,CPU負荷の低減も図れる」と述べている。
これを踏まえて披露したのが,「Deus Ex: Mankind Divided」をVega搭載PCで実行したときのフレームレートの変化を見るデモだ。
下はデモの様子を撮影したものだが,左のHBCCオフに対して,右のHBCCオン状態では,最小フレームレートが2倍以上,平均フレームレートでも1.5倍以上向上しているという。
筆者が気になったのは,Koduri氏が「このデモは容量4GBのグラフィックスメモリを搭載したVegaによるもの」と語っていた点だ。さらに氏は,「HBCCによって,容量2GBのグラフィックスメモリでも(従来型のGPUにおけるグラフィックスメモリ容量)4GB(搭載モデル)以上の性能が得られる」とも述べている。
これらの発言は,製品版のVegaでもグラフィックスメモリ容量4GBや2GBのモデルが登場するという意味なのか,それともデモ機限定や仮定の話なのか? Koduri氏はそれ以上の説明をしなかったので,具体的なところは不明だ。ただ,
VegaでAMDは,GCNアーキテクチャにおける演算ユニット「Compute Unit」を拡張して「Next-Gen Compute Unit」
Packed演算のことをKoduri氏は「Rapid Packed Math」(RPM)と呼び,「これを利用することで,従来のGPUと比べて2倍以上の演算速度をVegaは実現できる」と述べ,その具体的なゲームにおける事例の1つとして,物理シミュレーションにより髪の毛の動きを表現する「TressFX Hair」のデモを披露した。
1基で,1クロックあたり64個のFP32積和算(2 Ops)を実行できるNCUは,
「RPMは,AIにおいても有効である」とKoduri氏。Radeon RX Vegaのリリース後,Packed演算周りは広く訴求されることになるだろう。
GPU仮想化でクラウドゲームサーバーも狙うVega
今回のイベントで新しい話題として出てきたものに,VegaにおけるGPU仮想化がある。GPUの仮想化自体は,AMDも以前から取り組んでいたが,「Vegaにおける仮想化」の話が出たのは,筆者の記憶する限り,今回が初めてではないかと思う。
クラウドゲームサービスでは,データセンターにあるGPU上でゲームを実行して,その結果を映像データとしてユーザーまでストリーミング配信する必要がある。ここで仮想化技術を使い,1基のGPUで同時に複数のゲームを実行,配信することができれば,サービス提供者側のコストが下がるわけだ。
それを実現するため,VegaコアのGPUには,仮想化に対応したビデオエンコード機能「Radeon Virtualized Encode」が備わっているという。
1基のVegaで多数のユーザーにサービスを提供できれば,クラウドゲームサービスの分野は,さらに活気づく可能性があるだろう。ただ,データセンター向けGPUやクラウドゲームサービスの分野では,NVIDIAが圧倒的に先行しているのが実情だ。これから後を追うAMDが,どこまでNVIDIAに迫れるだろうか。
Radeon RX 400シリーズに最適化した「Sniper Elite 4」のデモを披露
その1例として,Koduri氏が「新世代のAPIとソフトウェアの素晴らしいコラボレーションの成功例」と紹介したのが,2017年2月にリリースされたばかりの「Sniper Elite 4」だ。
DirectX 12を活用しているSniper Elite 4で,4K解像度の「Very High Textures」設定を「Radeon RX 480」のシングルGPU構成で実行した場合,フレームレートは30fps程度になる。それに対し,2-way CrossFireによるマルチGPU構成で実行すると,きっかり2倍となる約60fpsのフレームレートが得られるとのことである。
Sniper Elite 4は,Radeon Technologies Groupが2016年末にリリースした,「マルチGPU化を容易にするライブラリとサンプル」の実装に成功したタイトルの第1弾だそうで,Koduri氏もその成果に誇らしげであった。
Radeon 公式Webサイト(英語)
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