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視線追跡を感じさせないほどの追従の速さ。「Vive Pro Eye」を体験してきた
本稿では,ここで発表された内容の詳細をお伝えするとともに,CES 2019のHTCブースでのデモ体験の模様をお届けしよう。
Vive Pro Eye〜視線追跡機能を統合したVive Pro
さて,まずはVive Pro Eyeだが,これはVRHMD「Vive」の上位モデルとして2018年1月に発表された「Vive Pro」に視線追跡(アイトラッキング)機能を付加した新バージョンという位置づけになる。
VRHMDとしての基本スペックはVive Proとまったく同じだ。キーパーツとなる映像パネルは片目あたり1440×1600ピクセル解像度のペンタイル配列サブピクセル構造の有機ELである。
文字どおりの「目玉」機能となる視線追跡機能には角膜反射法を採用している。
角膜反射法とは,赤外線LEDから人間の眼球に赤外線パルスを照射し,角膜上で反射したパルスをカメラで捉えて,プレイヤー眼球の運きに連動した反射像の移動とカメラで撮影した瞳孔の位置を検出して視線方向を算出する方式だ(※反射像だけで算出する方法もあるが,LEDの配置などからして,GDC 2017のタイミングで発表されていたTobii Technologyの技術を組み込んだものと思われる)。
瞳孔位置と,角膜上に映る (目には見えない) 赤外線ハイライトの相対位置関係で視線が検出できることから,顔面や眼球などの複雑な画像認識は不要で,リアルタイム性が高く,それでいて視線追跡精度が高いことから,VR/AR/MR系のHMDではこの方式がほぼ標準だが,Vive Pro Eyeもそれに倣ったということなのだろう。
この視線追跡技術は,Viveのソフトウェア開発キットから利用できるようになっており,プレスカンファレンスでは,注視している箇所に対して高品位なレンダリングを行う中心窩適応レンダリング(Foveated Rendering)の実装にあたってNVIDIAのVR Worksを利用できるとHTCはアピールしていた(関連記事)。
視線追跡技術は今後のVRHMDには必須だというのかHTCの主張だ |
Vive Pro Eyeは中心窩適応レンダリングに対応する |
Vive Pro Eyeは価格未定ながら,2019年第2四半期登場予定だ。昨年のVive Proに倣うとすれば4月発売の線が濃厚か。
Viveport Infinity〜既存のViveport Subscriptionからシームレスな一本化を目指す
プレスカンファレンスでHTCがVive Pro Eyeに続けて発表したのは「Viveport Infinity」だった。
HTCはかねてより,Viveユーザー向けに月額固定料金制のVRコンテンツ配信サービス「Viveport Subscription」を展開している。Viveport Subscriptionでは500本以上あるvive対応コンテンツのなかからひと月あたり5本まで好きなものを楽しめるのだが,今回発表となったViveport Subscriptionは,その上位版となる。
2019年4月5日にサービス開始予定となっているViveport Infinityは,その名のとおり,Viveport Subscriptionにある「ひと月あたり5本」の制限がない。月額料金はViveport Subscriptionの「3か月19.99ドル」「6か月39.99ドル」「12か月79.99ドル」を上回る予定だが,現時点では詳細は未公開だ。サービス開始までには価格も判明することだろう。
HTCは,将来的に月額固定料金ベースのVRコンテンツ配信サービスをViveport Infinityに一本化していきたい旨も語っていた。
なおViveport Infinityは,従来のViveportと同様に,HTCのViveシリーズだけでなく,競合のOculus VRのRift,Pico Neo,AiQiYi VR II,Pico Goblin II,Skyworth VR,Shadow VRなどに対応したVRコンテンツの配信にも対応するとのことだ。
Viveport Infinityは月額固定型でダウンロード数制限なしのVRコンテンツ配信サービス |
しかもプレイヤーアカウントはクロスプラットフォーム対応 |
Vive Cosmos〜単体動作もPC接続にも両対応のVRHMD
さらにプレスカンファレンスではVive Pro Eyeとは別のVRHMD製品も発表された。製品名は「Vive Cosmos」だ。
しかも,VRHMDの位置追跡のための外部センサー類――Viveで言うところの「ベースステーション」――の設置は不要である。
登壇したHTC AmericaのDan O'brien(ダン・オブライエン)氏は,「今回,スペックの詳細や価格は明らかにしない」と述べていたが,前面に二つ,左右側面に一つずつ,合計4基のカメラを搭載していることは外観から明白であり,このことから推察するに,「MRにも対応する」「インサイドアウト式のトラッキングに対応する」製品であろうことが見えてくる。国内発売済みである「Vive Focus」だと2基のカメラによる6DoF(6軸自由度)対応だが,より上位のスペックであることは間違いないだろう。おそらくは競合Oculusの「Quest」と同等の機能を実現しているはずだ。
リリース時期については,開発キットが2019年早期に,スペックや価格については2019年後半に明らかにするとアナウンスされた。
Vive Reality System〜Viveシリーズ向けの新VRシェルシステム
Windows OSで言うところのデスクトップのようなイメージだが,HTCは「Vive向けの新しいSpatial Computingのプラットフォーム」とVive Reality Systemを位置づけていた。
Spatial Computingとは,アプリケーションの活用やファイルの入出力などを仮想空間または現実空間に展開して行うもので,陳腐な表現でいえば,現在のディスプレイ装置に展開された2DのWindowsのデスクトップシステムが現実空間,ないしは仮想空間に展開されたものである。
SF映画「マイノリティ・レポート」(Minority Report)に出てくるコンピュータのインタフェースはSpatial Computingの一種としてよく例に挙がるのだが,HTCのVive Reality Systemは,今回の発表内容から察するに,どちらかといえばMicrosoftがWindows MR向けのシェルの一例として示している「Cliff House」に近いものだと言えそうだ。
例えばVive Reality Systemにログインしたプレイヤーは,まず「Origin」と呼ばれるマイハウスともいうべき自分の仮想世界上の屋敷に下り立つ。この屋敷はSNS的な機能を有しており,友人とチャットやミニゲームを楽しんだりすることもできる。
ここからほかのVRアプリケーションにアクセスするためには「Lens」という魔法の映し鏡のようなモノを使う。そのVRアプリが起動したらプレイヤーは「Origin」からそのVRアプリが提供する異世界へ旅立つ……という感じになっている。
マウスでアプリアイコンをダブルクリックすると,そのアプリ画面にパッと切り替わる現在の2Dコンピュータユーザーインタフェースを「別世界へワープする」という感じの世界観演出とするようだ。
なお,プレイヤーは「Identity」という機能を使うことで仮想世界上での自分の見映えをアバター的にカスタマイズもできる。このあたりは「Second Life」的な要素もあると言えるだろう。
このVive Reality Systemは,まずは最初にVive Cosmos向けに2019年後半にリリースされるとのこと。ただし,「Vive Cosmosへのリリース後にどうなるか」,つまりは既存のViveシリーズへも展開されるか否かについての明言をHTCは避けていた。
Firefox Reality〜Webサイトも仮想世界ベースに
この開発プロジェクトのパートナーシップにおいてはAmazon Web Services(AWS)も参加しており,このFirefox RealityにおけるWebベースのVRコンテンツ制作フレームワークにおいては「Amazon Sumerian」を利用することとなるという。
HTC向けFirefox Realityの提供時期についての明確な説明はなかったが,Vive, Vive Proシリーズ,Vive Cosmosに対応することだけは明言された。また,当然のことながらVive Reality Systemにおいても標準Webブラウザとして機能することになる。
※Firefox RealityはすでにOculus GoやDaydream用にリリースされているVR対応のWebブラウザだが,HTC版はVive Reality Systemにも対応したものになると思われる
Vive Pro Eyeのデモを体験
最初に体験したのはVRコンテンツ制作スタジオの2bearsが開発したVR会議システム「Vive Sync」だ。
Vive Syncは,最大20人が同時に参加でき,VR空間上に3Dモデル,画像や動画を表示させて参加者全員で見て意見を出し合ったり,表示物に対してメモ書きを加えたりすることができる会議システムだ。
視線追跡は,参加者の目線の反映に利用される。文字どおり,VR会議に参加しているアバターの目は,プレイヤーの目の動きというわけである。
デモのプレゼンターは「特定の人を見続けてると気があることがバレたり,居眠りするとバレるよ」と冗談めいたことをいっていたが,漫画チックなアバターでもリアルなアイコンタクトができると,チャット体験が1ランク楽しみが上がる感じがして予想以上に面白かった。
内容としては実在する戦闘機の発進シーケンスを学ぶもので,ランディングギアのロックからGPSシステムのオン,エンジン始動までのさまざまなスイッチやレバー類の操作をガイドに従って行うというデモだった。
体験できたバージョンは,各操作を目で見るだけで行えるようにしたもので,実際にスイッチやレバーの操作は不要で,VR視界内で指示されたマーカー内を見るだけで対応する操作ができるようになっていた。
いうなれば,Vive Pro Eyeの視線追跡の精度を,戦闘機発進シーケンスの流れで確認する……といった内容だ。
所感としては,注視位置の認識は正確でとても速く,それこそ「視線を追跡している」処理系を感じさせないほどであった。
三つ目はVRコンテンツ制作スタジオのZerolightが開発した「BMW M Drive Tour 2018」VRデモだ。「Vive Pro Eyeの技術デモ全部入り」的な存在である。
このデモはもともとBMW Mシリーズの販促イベントのために開発されたもので,将来BMW Mシリーズのオーナーになる人が「自分の購入する車がどんな見映えになるのか」をリアルスケールに近いサイズ感で確認できるというVRコンテンツになる。
Vive Pro Eyeの視線追跡機能は,中心窩適応レンダリングのために利用される。すなわち,プレイヤーが注視している領域のみを高品位にレンダリングし,そこから遠くなるにしたがって品質を下げていくレンダリング手法になる
この視線追跡レンダリングではNVIDIAのVR Worksを利用しており,さらに細かく解説すれば,GeForce RTXシリーズから搭載された「Variable Rate Shading」(VRS)を利用しているとのことである。VRSについては,筆者の連載記事バックナンバーを参考にほしい。
中心窩適応レンダリングは,視覚上は映像品質を維持して,パフォーマンスを向上させる(高フレームレートを維持させる)効果が大きいので,ゲームをはじめとしたリアルタイム性の高いVRコンテンツには高い効果が期待できるはずだ。
なお,筆者は時間の都合で体験できなかったが,プレスカンファレンスの会場にはほかにもいくつかのVive Pro Eye用デモがあり,製品版の発売まで間近であることを予感させた。
一方で,Vive Cosmosの実動デモはまったくなし。しかも,Vive Cosmosの実機は手に触れることも許されなかった。こちらの発売はまだ先と見たほうがよさそうである
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