連載
結のほえほえゲーム演説:第77回「初恋がキッカケで波動拳も出せないのに『ストII』公式大会に出場した話」
突然ですが,皆さんは初恋を覚えていますか。
遠い日の記憶をたどり,甘酸っぱい感情が存在したと初めて気が付くこともあるでしょう。
年末ということで本来「2018年を振り返るべきでは?」と思うのですが,そちらは4Gamerのアンケートにしたためたので,ここでは初恋を振り返りたいと思います。なんじゃそりゃ。
ゲームコーナーという居場所
物心つくかつかないかの頃,新しい物好きの父親が買ってきたゲーム。この出会いが私の運命を決めたといっても過言ではありません。
初めてプレイしたゲームは,ファミリーコンピュータの「スパルタンX」。以後,PCエンジン,3DO,ジャガー,PC-98……ありとあらゆるハードでゲームに触れる幼少期を過ごしました。
そんな私が小学校に入学し,真っ先にブチあたった壁。それはクラスの同級生とまったく趣味が合わないことです。
世はJリーグの全盛期。同級生は男女問わずサッカーに夢中で,サッカーがうまいかどうかで階級が決まる,そんなクラスでした。運動神経が致命的に悪い私がサッカーで活躍できることはなく,そもそもみんなが夢中なサッカー自体にちっとも興味が持てませんでした。
私を除いた同級生全員が同じ幼稚園出身だったというハンデもなかなかに手強く,どうもクラスになじめない日々が続きます。
休日はもっぱら近所のダイエーの小さなゲームコーナーで過ごしました。同級生は全員サッカーをしていたので,ここでゲームをして遊ぶ子供達の姿に安心感を抱いていました。
そうだよな? サッカーだけが娯楽じゃないよな? と心の中で話しかけながら。
波動拳が出せない
そんなある日,ゲームコーナーに「ストリートファイターII」が登場したのです。
「ジャン! ケン! ポン! フィーバー!」とひたすらじゃんけんを繰り返すゲームや,ちびまる子ちゃんが運勢を占ってくれるゲーム,「美少女戦士セーラームーン」のカードダス,ガチャガチャなどがひしめくゲームコーナーに突如現れたストIIは異質そのものでした。
お母さんに「あのゲームが気になる……」と100円をねだるも,「あれは大人がプレイするものだから,まだ早い」と言われ,小学校高学年や中学生の男の子がプレイしている様子を,隣で飽きもせずじーっと眺めていました。
ダイエーのゲームコーナーに現れる子供は軒並み格闘ゲームに慣れておらず,ごくごくごくごくたまーにボスのベガまでたどり着く人がいる程度。
しばらく経って,最後までクリアしてくれる猛者が現れたのですが,持ちキャラがエドモンド本田一択のため,ほかのエンディングは見ることができません。
いつしか私は,男だらけの中で華麗に戦う春麗に憧れをつのらせます。彼女のエンディングが見たい……。
お母さんを口説き落とし,100円を手に入れた私は,ようやくストIIデビューを果たします。
嗚呼! 技コマンド表を筆箱の裏に貼って過ごした日々よ!
これで春麗のエンディングを見られるぜ!
……と思いきや,3人目の対戦相手に見事惨敗。コマンドも覚えているはずなのに,なぜ。想像以上に素早い入力が求められていることを知った私は絶望します。
小学1年生の私が必死にプレイする様はさぞ滑稽であり,知らない小学生に馬鹿にされることもしばしば。
※私の入力速度は,ストIIの数年後に発売された「ファイナルファンタジーVI」でマッシュの「ばくれつけん」を入力できず,1年近くコルツ山を徘徊していたレベルです
「そもそも波動拳出せないでしょ?」
ある日,見知らぬ背の高い男の子が話しかけてきました。別の地域の小学校に通う男の子のようでした。不良に絡まれた……終わった……と思いきや,懇切ていねいにコマンドの出し方を教えてくれました。
しかし私の100円はすでに尽きているので,再挑戦できません。すると,男の子は自ら100円を取り出し,目の前でエンディングまでを見せてくれました。私が見たかったのはケンじゃなくて春麗のエンディングだったのですが,それはさておき……。
ゲームコーナーで見知らぬ誰かと話せるなんて! 別の学校の友達ができたなんて! 大人じゃん! と,興奮しながら家に帰ったのを覚えています。
そんなこと言わないで
それからゲームコーナーを訪れると,たびたび少年に会うようになりました。背が高いので小学校高学年かと思いきや,私の2個上の小3でした。
彼の通う小学校からゲームコーナーまではだいぶ距離が離れているのに,なぜ頻繁に来ていたのかは分かりません。
少年は毎回必ず一人でゲームコーナーを訪れていました。もしかしたら私のように学校に友達が少なかったのかもしれません。
ある日,私は母と弟と3人でゲームコーナーを訪れました。
例の少年と弟と3人で一緒に遊んでいると,ダイエーに買い物に来ていた小学校の同級生のお母さんがやってきました。その人は,3人で遊んでいた私達を指さして「あれ大丈夫なの?」と母に聞いたのです。
どこの誰だか分からない別の地域の男の子と格闘ゲームで遊んでいるけど,これって子供に悪影響じゃないの? というような意味だったんだと思います。
当時の私に,同級生のお母さんが放った言葉の意味はきちんと理解できなかったものの,あっなんかすごくイヤな感じだな……と漠然と思いました。
そのあと家に帰って,母が遠慮がちに「大丈夫だよね?」と聞いてきたとき,言葉にできない切なさがありました。
その少年はいつも一人でやって来る,謎の多い人でした。
でも,趣味や遊びを強いることもなく,サッカーの強さで人を区別することもなく,格闘ゲームが弱くても馬鹿にしない。彼のことは何も知らないけれど,ただいつも優しく,面倒見が良い,ずっと楽しそうに笑っている子だということは知っていました。
それだけで十分じゃないのかな? と思っていたけれど,当時の私はこの思いを言語化することもできず,ただ黙っていました。
そして,弟が誕生日に家庭用のストIIを買ってもらったこともあり,少しずつゲームコーナーを訪れる機会も減ってしまいました。
なぜか公式大会にエントリー
久しぶりに足を運んだゲームコーナーで少年に会えたとき,とても嬉しかったのを覚えています。その嬉しさをちっとも伝えないまま,少年に会えたのはこれが最後でした。
私は相変わらず波動拳が出せないものの,春麗でエンディングを見られるくらいにはなりました。そこで,何を思ったか,私はストIIの公式大会にエントリーしました。
ゲームコーナーは乱入してくる対戦相手がいなかったので,「エンディングにたどり着けたぞ! きっと私は強い!」という井の中の蛙っぷりを発揮していたというのもありますが,やはりどこかでまたあの少年に会えたらいいな……という淡い期待がありました。
結果,百烈キックのみで勝ち上がろうとした私は初戦敗退。当たり前だわ。泣く泣くオフィシャルグッズの春麗の腕輪を買って帰りました。
ハイスコアガール
ゲームのお仕事をはじめて間もない頃,この話を作家の渡辺浩弐さんにしたところ「『ハイスコアガール』じゃないか!」と驚かれました。
私は結局,「ハイスコアガール」のようにゲームがうまくはならなかったものの,確かに共感する点は多くありました。当時の私にとって,素直にコミュニケーションできる唯一の手段がゲームであったことは,今も決して馬鹿にできない思い出です。
波動拳も出せないのに公式大会で優勝しようとしていたし,数えきれないほどのゲーマーの中から,あの少年と再会しようとしていました。馬鹿にされても,見下されても,必死で真剣だった自分を「あの頃は若かった……」なんて笑えません。
なっちゃって どうするの
そうね,でも思いが込められるものがあるって悪くないよ。
最近プレイしているゲーム(2018/12/29)
PC:「Return of the Obra Dinn」
PlayStation 4:「ペルソナ5」
Nintendo Switch:「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」
Nintendo Switch:「スプラトゥーン2」
iOS:「アークザラッド R」
iOS:「ロマンシング サガ リ・ユニバース」
iOS:「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」
■■結(女優・タレント)■■
女優・タレントとしてフリーランスで活動中。国内映画祭にて主演女優賞を多数受賞。幼少期からのゲーム好きが高じ,数多くのゲーム番組でMCを務め,イトキチ(糸吉)の愛称で親しまれている。
公式サイト:http://yui-monogatari.com/
公式Twitter:https://twitter.com/xxxjyururixxx
ニコニコチャンネル「結チャンネル」:http://ch.nicovideo.jp/yuichannel
- 関連タイトル:
ウルトラストリートファイターII ザ・ファイナルチャレンジャーズ
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