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「アナザーエデン 時空を超える猫」(
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本作のメインストーリーは「クロノ・トリガー」や「ファイナルファンタジーXI」などで知られる加藤正人氏が執筆しているということもあり,物語の展開が気になっている人も多いだろう。
そこで4Gamerでは,メインストーリーを執筆する加藤正人氏と,外典やクエスト関連のシナリオを担当する櫻田 建氏へのインタビューを実施し,本作におけるシナリオの在り方,そして今後の展開について聞いてきた。その内容を本稿で紹介しよう。
櫻田 建氏(左)と加藤正人氏(右)
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加藤氏「正直やりつくしたからやりたくなかった」
タイムトラベルを再び描くことになった経緯とは
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。とくに加藤さんのことは4Gamer読者で知らない人はいないと思いますが,あらためて自己紹介を兼ねてご挨拶いただけると助かります。
加藤正人氏(以下,加藤氏):
「アナザーエデン 時空を超える猫」(以下,アナザーエデン)でメインシナリオとイベント全般を手がけている加藤です。僕が「アナザーエデン」のチームに参加した当時は小チームで,ほぼゼロの段階から関わったと言って良いと思います。
櫻田 建氏(以下,櫻田氏):
メインシナリオを以外のコンテンツ企画やシナリオ・演出を担当している櫻田 建です。コンテンツ企画やシナリオ以外についても,ゲーム体験に関わる要素の包括的な監修をさせていただいています。
4Gamer:
というと,コラボ企画関連も櫻田さんが担当しているんでしょうか?
櫻田氏:
中身の企画という意味ではそうですね。ただ,コラボに関しては版元との調整もあり,すべてを自分で構想しているわけではありません。外伝や(現在連載中の)外典,キャラクエに代表される自社完結型コンテンツは私がゼロから起こしていることが多いです。
4Gamer:
先ほど少し触れられていましたが,加藤さんが本プロジェクトに参加するまでの経緯と,現在に至るまでの流れをうかがいたいです。
加藤氏:
すでに動いていたプロジェクトに僕が参加する形で関わり始めた感じですね。まず僕が第1部のシナリオを担当し,当時のディレクターにメイン以外のサブクエなんかを書いてもらって,初期はその2人で執筆を進めていました。同じように,夢見関連のシナリオも自分たちで進めようかと思っていたんですが,実際に始めたらとてもじゃないけど間に合わなくて,「こりゃやってられんぞ」という話になり,チームとして一緒に書けるライターを探し始めたんです。
そこで以前にお会いした当時のキャラクエなどのシナリオ担当にお声がけしてみたんです。そしたら「オッケー,大丈夫だよ」って返事をもらえたので,じゃあもう速攻で来てくださいと。それからは僕が本編を作って,来てくれた当時のキャラクエのシナリオ担当と当時のディレクターに夢見やサブクエ関連を全部任せるような形で制作を進めていました。
4Gamer:
任せるとは言っても方向性を合わせる必要はあると思うんですが,関わる皆さんはクリエイターとして加藤さんに近いタイプなんでしょうか。
加藤氏:
むしろ真逆ですね。僕はキャラの萌えなどを全然理解できない人で,どちらかというとシンプルで研ぎ澄まされた構造を作ってクールに書くタイプなんです。対する当時のキャラクエのシナリオ担当は萌えの概念もちゃんと理解できるし,昭和っぽいノリのコテコテでベタベタの熱い話や,思いっきり泣けるような話も平気でガンガン書けちゃう。その違いがあったからこそノリの差別化ができて,両輪が回っていく形でチームを成立させられたのかなと思っています。
4Gamer:
仕事内容の指示や調整などは,どのくらい行っているんですか?
加藤氏:
僕は本当に任せっきりですね。問題があったときは自分が引き受けて対応するけど,問題がない限りは好きなように,やりたいようにやってくださいみたいなタイプなので,各自が好き勝手やっているようなイメージです。
4Gamer:
理想的とも思えるスタイルですが,それを実際に成立させるのは簡単ではありませんよね。どうやって各自の個性を許容しつつ,方向性を統一したんでしょう。
加藤氏:
チームで動き始める前に僕が第1部を作り終えていて,「こういうものを目指す,こういうものを作るんだ」と,プロジェクトが向いている方向を示せたのが大きいですね。
そこで作品のカラーやスタイルが固定されて,各自が自由にやっても問題がない範囲をわきまえたうえで動いていたから,空中分解せずに歯車を噛み合わせて動かせました。プロジェクトやチームがうまくいくというのは,こういう感じのことを指しているんだなと実感しましたよ。
僕もこの業界で30年以上やっていますが,こんな自由にモノを作れる環境は稀有です。近い仕組みを使っていても,大抵の場合はどこかで“軋み”が発生するものなんですが,今回に関してはそれが非常に少ない。当然ぶつかり合うこともありますが,互いに切磋琢磨しながら,より良い方向へと変わっていける。チームが完成してからは「こりゃありがたい」と,そう思いながら仕事をしています。
4Gamer:
十分な実力を備えたメンバーが集まっているからこそ維持できる体制かと思います。ただ制作が進む中で新たな人員が入ってくる場合,実力の判断がつかないこともありますよね。そんなときは,どのように仕事を割り振るんでしょうか。
加藤氏:
もちろん,右も左も分からない方にいきなり丸投げなんかはしません。そんなのは,クリエイターとしてはイジメと同じですからね。まずはミニクエストからお願いして「この人は書けるな」と分かったらキャラクエの一部を任せて,もっとできる腕があるならさらにお願いするといった感じで,何度か一緒に仕事をしたうえで段階的に仕事を任せていく形式をとっています。
4Gamer:
少し話を巻き戻しますが,加藤さんがチームに入った段階で「アナザーエデン」のストーリーは真っ白な状態だったんでしょうか。もしくは,ある程度でき上がったものがあって,それをベースに作っていったんですか?
加藤氏:
僕が入った時点で,ゲームの開発は動いていたようです。ただ,どうも開発が上手くいっていなかったようで「いろいろ試行錯誤したけど,一度仕切り直してまたゼロからやり直そう」という状態でした。具体的には,フィールドやバトルでキャラクターを動かす仕組みなど,システム部分は完成していたんですが,シナリオやイベントは全然進んでいないみたいな状態ですね。そこからの制作なので,かなり好きなようにやらせてもらえました。
4Gamer:
ということは,その時点ではゲームタイトルも決まっていませんよね。
加藤氏:
そうですね。僕が入ってからシナリオが決まって,タイトルをあとから考えるような流れでした。最初のほうは仮題を使っていて,あとから決めることになりました。
4Gamer:
シナリオを新たに設定するにあたって「こういうものを作ってくれ」というオーダーはありましたか?
加藤氏:
どうやら,仕切り直しのタイミングで「タイムトラベルものをやろう」という話にはなっていたらしいんですよ。それが指示と言えば指示だったんですが……。
4Gamer:
なるほど。加藤さんがチームに入ったとなれば,是が非でもタイムトラベルものを頼みたくなりますよね。
加藤氏:
僕としては正直,過去にやりつくしたタイムトラベルというジャンルはもうやりつくした感があったんです。僕も過去に書いたもの以上のものを書けと言われても難しいからゴネたんですけど,当時のプロデューサーと当時のディレクターがもう「絶対にタイムトラベルでやるんだ!」と,僕がこのタイミングでチームに入ったのは運命だと言わんばかりの勢いで押してきまして。
4Gamer:
ファンの誰もが同じ気持ちになると思います(笑)。
加藤氏:
ただ,クリエイターの礼儀として以前と同じような話を書くわけにはいきません。最初に考えたのは,どうやったら“より新しく,面白いタイムトラベルもの”を作れるのかという部分でした。過去に作った作品では「破滅の未来が待っているなら未来を自分たちの手で切り開き,変えていこう」「変えられてしまった,殺された未来が過去に復讐する」といったテーマはすでにやっていたので,それ以外のテーマを探さなければいけません。
これらのお話は,やったことの責任を取る話なんです。今回はそれを少しひねって「殺してしまった未来をもう一度助けにいく」というテーマを据えて,それを中心に物語を作れば新しいタイムトラベルものになるんじゃないか,という発想のもとで,物語を作り始めました。
4Gamer:
ファンとしては「あの素晴らしさをもう一度体験したい」という気持ちが常にありましたので,嬉しい限りです。
加藤氏:
そりゃファンやプレイヤーとしては「またタイムトラベルものを作ってくれるんだ」という期待がありますよね。その期待を乗り越えて楽しんでもらうためには,ちゃんと新しいものを作らなきゃいけない。僕としても,常に新しいもの,これまでにないもの,今まで誰も思ってもみなかったようなお話が書きたいし,そういうゲームを作っていきたいと考えているんです。
4Gamer:
こういう強い意思を表明してくださると,先ほどおっしゃっていた「しっかりと才能ある人に任せています」という言葉に説得力が増します。
加藤氏:
「アナザーエデン」というゲームはこういうお話であって,イベントはこういうもので,こうやってカメラが動いて,キャラが動いて,音楽を鳴らして,演出はこういう風に作るんだというのを,僕は最初に全部見せてるんですよ。それをした以上,一緒に作ってくれる人にも同レベルのものを要求します。自分が率先して物を作ってドカンと手本を見せて,あとはこれにどこまで近づけるか,どこまでついてこられるかです。
もしかしたら,僕が書いたものを乗り越えてもっと面白いもの,もっとすごいイベントを作って,驚かせてくれるかもしれない。というより,驚かせてほしい。これはライターに限った話ではなくて,スクリプトを打つ人,グラフィックス,サウンド,プログラムを組む人の全員がそうであるべきだと思っています。
4Gamer:
成果物が上がってきたとき,最初にチェックするのはどういった部分でしょうか。
加藤氏:
1人のプレイヤーとして,僕が遊んだときに面白いかどうかです。技術面としては,キャラクターに合ったセリフを言えているか,日本語の文章として大丈夫かといった部分を確認するのは当然として,キャラクターやカメラの動かし方,効果音のつけ方といった部分もしっかりと確認し,気になったところはガンガン弾いていきます。
ただ,基本的には信じて仕事をお任せしているので,チェックのハードルはかなり低いです。「これはどう考えてもまずい」という作品のクオリティに明確に影響する問題ではなくて,かつ物語の中核に関わる要素でなければ,大体はOKを出してしまいますね。
4Gamer:
チェックできる立場だと「こうしてほしい」という想いもあるかと思います。そこで執筆者の個性を表に出すことには,どういった意図があるのでしょうか。
加藤氏:
正直,いろいろと思うところはあったんですけどね。このキャラクターでその言動はちょっと変だろとか,演出はちょっとダサいよなとか。でも,それをいちいち指摘して「ここはこうしろ,これはああしろ」と言われるのは書き手としては面白くないし,発想や成長の芽を摘んでしまう。
僕だってセリフ1つに対して毎回チェック入って修正させられていたら「だったらお前が初めからやれよ」となっちゃいますからね。僕は僕の書き方があるように,その人にはその人の書き方がある。定めたラインをちゃんと超えているのであれば,僕が気に入らなくてもOKを出すのが,僕の立場において重要なことだと思っています。
同じような人間がほかにも複数いて,僕と同じようなものを作っていたら,最終的には僕が作れるものしか残らないんです。僕としては,僕が作れるものを作っても楽しくない。自分で作れるのが分かっていますから。
4Gamer:
なるほど。
加藤氏:
僕もプロだから,自分の作業の完成度や作業量を見通せてしまうので,「この時間をかければ,このレベルのものができ上がるな」と見通しをつけたら,あとは頭の中にあるデータを出力するだけの単純な作業になってしまう。でも自分にない要素を持っている人が一緒に仕事をしてくれると,いろんなアイデアを出してくれる。
4Gamer:
例えば,新人さんから突拍子もない発想が出てきたら,どんな風に対応するんでしょう。
加藤氏:
できるできないは置いておいて,まず“面白いかどうか”を考えます。面白いのであれば,どうやったらその理想に近づけるかを考える。「それできないから駄目」で済ませるのは簡単ですが,それを可能な限り実現に近づけるのが企画屋であり,クリエイターだと思っているからです。
そのためにも「アナザーエデン」のチームではマイナス思考を極力消して,可能な限りプラス思考でやっていくことにしています。違うタイプの人間が多いから,アイデアを現実にする過程で当然ぶつかり合いも多くなるんですが,僕はそのほうが楽しく感じられますね。
4Gamer:
そんな中で,若手として活躍されている櫻田さんにもぜひお話をうかがいたいと思います。入社してすぐ「アナザーエデン」のチームに入ったんですか?
櫻田氏:
実は「アナザーエデン」がリリースされる半年くらい前からチームにジョインしていました。それまでは間接雇用で参加していたんですが,2018年に正社員という形で入社させていただいた流れですね。
加藤氏:
最初は募集に応募してきたの?
櫻田氏:
そうですね。20代のころはクリエイトの仕事から離れていたのですが,30の大台も近いし,やりたいことをやる最後のチャンスかもしれないと思って仕事を探してみたんです。そこで「クロノ・トリガー」を手がけた人がいる,と聞いて面接を受けました。実はシナリオの募集ではなかったのですが,経歴を見て,その場のノリでライターとして雇用されました(笑)。
4Gamer:
失礼ですが,おいくつですか?
櫻田氏:
33になりました。クロノシリーズもほぼリアルタイムで遊んでいて,小学生で「クロノ・トリガー」,中学生で「クロノ・クロス」をプレイしました。多感なころにこれらのタイトルに触れられたのは運が良かったと思います。
最初は星4(ベネディト)のキャラクエからスタートしました。それで書けると思っていただけたのか,星5のクエストを任され,続いて外伝と,徐々に大きなシナリオを書かせてもらえるようになりました。
加藤氏:
今はもう,中核以外の部分は櫻田君が仕切ってくれている状況ですね。これに関しては僕が育てたというよりも,当時のキャラクエのシナリオ担当をはじめとするライターの皆と一緒に勉強して大きくなったという印象が強いです。まあ,当時のキャラクエのシナリオさんもそんなに「育てるぞ!」という感じではなかったと思うけど。
櫻田氏:
良い意味で放任主義と言いますか。作りたいものが明確にある人にとっては,天国のような環境かなと思いますね。
加藤氏:
本当はクリエイターの持つ個性やスタイルは,自分で気づかなきゃいけないし,自分で磨かなきゃいけないと思うんです。他人から「あなたはこういう書き手だからこういう風になりなさい」なんて,正確に伝えられるわけがない。できるのは,ただ一緒に働く人間が全力で自分の仕事をしている姿を見せることだけ。その結果,育ってくれたのが櫻田君というわけです。
4Gamer:
実際に中に入ってみて「こういうところはプロとして学んだな」という部分はありますか?
櫻田氏:
そうですね,う〜ん。学んだことですか……。
加藤氏:
そこで言い淀まれちゃうと,今までの話の流れがガラガラと音を立てて崩れていくんだけど!
一同:
(笑)。
櫻田氏:
いや,現場はさっき話されたとおりいい意味で放任主義なので,わかりやすく学ぶフェーズみたいなものは全然なかったんです。その時点でできているものをプレイして,自分なりに分析して増築していくのが基本でしたから。
4Gamer:
もしかしてプレイヤーとそんなに情報量が変わらないんですか。
櫻田氏:
ほぼ同じですね。その中から,自分なりの観点でプレイヤーさんに喜んでもらえる題材を探して,チームも乗り気になれる企画を自分で考える必要があります。ある意味では,それが“学んだこと”なのかもしれません。
4Gamer:
櫻田さんの言葉を借りるなら,自分のやりたいことがハッキリ決まってる人なら天国かもしれませんが,逆の視点からすれば厳しい実力主義とも言えますよね。
加藤氏:
おっしゃるとおり,まず崖の底からスタートして,這い上がる実力のある者は上がってこいと。もちろん聞かれたら答えますけど,決してこちらからは手を差し伸べません。
櫻田氏:
シナリオに絶対的な答えは存在しないので,結局は自分が信じたもの以外は自信を持って提出できませんからね。人に言われたことをそのまま導入しても,本当の意味で自分の書いたものにはならない。むしろ,こっちも意地になって「自分だけでやってやる!」ってなりますよ(笑)。
加藤氏:
その方針が厳しすぎるって声も届いているので,数か月くらい前には若い人に向けたゲーム企画やシナリオの講習もやっています。ただ,それもあくまで僕の作り方であり,僕の理論でしかありません。なので最終的には「自分自身の考え方や,作り方を模索して築き上げてほしい」という結論になってしまいます。
4Gamer:
そんな加藤さんから,櫻田さんはどういったスタイルのライターに見えますか?
加藤氏:
どちらかというと,ちゃんとキャラクターを生かし,笑ったり泣いたりできる喜怒哀楽の話を作るのがうまいライターですね。弱点という弱点もなくて,非常にマルチな才能を持っているように見えます。ウチに配属されてから数年で外典まで仕切るようになったのは,その証拠じゃないかな。
30歳ちょいは若手から中堅の範囲で,伸びしろもまだまだありますから。短編とか中編と長編では書き方が違うので,少しずつ書く区切りのボリュームを増やして,技術を伸ばしていってほしいですね。これからの成長が楽しみです。
4Gamer:
逆に櫻田さんから,加藤さんはどんなライターだと感じていますか?
加藤氏:
これはなかなか正直には言いづらいよね。「このオヤジ,もうちょっと仕事しろよ」とかかな(笑)。
櫻田氏:
いやいや,加藤さんは自分の領分はしっかりとやるじゃないですか!
加藤氏:
でもよく突っ込まれますよ。櫻田君は結構カツカツのスケジュールの中でやってるんですが,メインは比較的ゆったりしたスケジュールが組まれてますからね。生放送でも「もっとテキパキ仕事あげてください」って言われちゃったり……。
櫻田氏:
放送ではエンターテインメントの一環として突っ込んだりはしますけど,そんな突っついたりしませんし,思ってませんから(笑)。メインがゆったり進行なのは開発環境的な事情もありますしね。
加藤氏:
そうだね。僕は基本的にメインのシナリオをやってるけど,入ってくる別の予定とかを加味するとゆったり進行にならざるを得ないんですよ。ゲームの場合はシナリオが遅れると背景やボスも作れないし,全体の工程がグッと後ろ倒しになってしまって。
櫻田氏:
話を戻すと,加藤さんのイメージは“職人”です。まさに,先ほど話されたとおり「俺の背中を見て学べ」という感じですね。私としてもその背中を,作ったものを見て学ばせてもらっています。
これは私の感覚ですが,加藤さんはシナリオライターというよりは演出家寄りの人じゃないかと思っています。私は演出についてはズブの素人なので,積極的に盗ませてもらっている部分ですね。
加藤氏:
実はね,僕はイベントを作るときも制作過程をガンガン上げていくんですよ。最初はキャラクターとメッセージだけを使って一連のイベントを最後まで作り,キャラとカメラに動きをつける,効果音やサウンドを鳴らす,エフェクトを付与する,といった作業を順序立ててやって,その過程をすべてアップしてるんです。
4Gamer:
それはやはり,見た人が作り方を理解しやすくするためでしょうか。
加藤氏:
はい,そうです。過程を細かく見ている人は,どうやってイベントが肉づけされて完成度を上げていくのか,手にとるように分かる。だから一緒に物を作るときには,そういうところを見てほしいと思っています。あと,自分の作業スペースでデータを抱え込んでいるとデータが飛んだときに地獄を見るので,定期的なアップはその対策にもなりますからね。
こういったことを口に出して言うのは恥ずかしいし強制もしないんですが,チームの中には(その工程を)見てくれてる人がいて,アンテナを張って吸収する意思のある貪欲な人がいるのが分かって嬉しかったです。
4Gamer:
新人さんといえば,カクヨムでは「シナリオライター発掘コンテスト」が展開されていますね。すでに作品が集まってきていますが,状況はいかがでしょうか。
櫻田氏:
現時点で数十作品が集まっています。賞を決めるのはまだ先ですが,大賞受賞作品以外の方でも「光るものを持ってるぞ」と感じたら,こちらからお声がけすることになるかもしれません。2021年1月末まで受け付けているので,ぜひ奮って応募いただければと思います。
4Gamer:
チェックするのも大仕事になりそうですね。
※編注:インタビュー時点では11月20日。
櫻田氏:
このペースだと最終的には3桁に届くと思うので,結構な物量ではありますね(笑)。とはいえ,優れた人材よりも重要なものは存在しませんので,ここは力の入れどころだと思ってがんばります。加藤さんも読んでくださいね?
加藤氏:
またそうやって仕事していない印象を植えつけるんだから。隙間でしっかりと読むよ!
第2部の完結を飾る「結」はどのような展開に?
「テイルズ オブ」コラボでは4名がプレイアブル化
4Gamer:
第2部後編「転」に続くメインストーリーの執筆にあたって意識された部分を教えてください。
加藤氏:
「転」の次は「結」なので,2部の総仕上げとして綺麗にまとめられるように書きました。2部は1部,1.5部でやってきたことの大きな区切りになるので,1部でやり残したエデンやマドカなど“母”の残した部分にケリをつけるつもりで始めています。オーガベイン絡みのキャラクターも登場し,2部後編で新たな事実が見えてきますので,そのあたりもぜひ楽しみにしてください。
4Gamer:
第2部がちゃんと完結するとなると,気になるのは“次”の存在ですよね。物語の最後には,第2.5部あるいは第3部に繋がる部分が描かれたりするのでしょうか。
加藤氏:
自分の中では,1部から積み上げてきたことの結論は2部後編で決着するので,そこに次の匂わせを入れるかはまだ考えているところです。会社的には当然,次に来るであろう3部に接続させてほしいとは思っているでしょうし,それをどう整合させるかはまだお話しできる段階にありません。
もともと考えていたのは3部構成で,次は「時間帝国の逆襲」というタイトルになるという部分は以前にも話したんですが,それを本当にそのままやるのかは分かりません。実行するか否かも含め,いろいろと考えながら進めているのが現状です。
4Gamer:
ケリがつくということは,これまでに用意されてきた伏線の回収がメインになりそうですね。やはり,お話しいただいたオーガベインに関係する新キャラクターが,第2部結でスポットが当たるキャラになるんでしょうか。
加藤氏の手帳よりラフ案の女の子
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加藤氏:
オーガベインの前身となる聖剣を生み出した流れになりますね。登場する新キャラクターとしては,オーガベインや巨人族絡みのキャラクターと,この女の子がストーリー上で仲間になります。その2人がどんなキャラクターなのかは,登場してのお楽しみということで。
4Gamer:
主人公アルドの目的は達成されるのかはプレイヤーとしてすごく気になってます。ネタバレで言いづらい部分だと思いますが,ゲーム内でとても匂わされるので……。
加藤氏:
細かな部分は言えませんが,1つの決着を迎えるということはハッキリと言えます。たとえ2部後編のあとに3部が待っていたとしても,1部から引っ張ってきたことはしっかりと終わらせます。そこから先は,また新しい次の事件の話になるぐらいのイメージで捉えていただいて構いません。
4Gamer:
これもまだ明確には言えないと思いますが,新たなストーリーの実装時期は,いつごろになるんでしょうか。
櫻田氏:
だいたい来春くらいになるかと思います。もう少しだけ時間がかかりそうなので,少々お待ちいただければ。
4Gamer:
ありがとうございます。続いては,現在発表されている「テイルズ オブ」シリーズとのコラボについてお聞かせいただきたいです。「ペルソナ5 ザ・ロイヤル」(以下,P5R)コラボは非常に好評ですが,次のコラボはシリーズ作品全体とのコラボということで,内容が気になってる人も多いんじゃないかと思います。まずは,気になるコラボキャラの登場数を教えてください。
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WFSは本日(2019年12月5日),スマホ向けRPG「アナザーエデン 時空を超える猫」と,PS4用ソフト「ペルソナ5 ザ・ロイヤル」のコラボレーションが12月12日に配信予定であることを発表した。本コラボはいつでもプレイが可能で,シナリオを進めると「ジョーカー」「モルガナ」を仲間にできる。
[2019/12/05 17:55]
櫻田氏:
「テイルズ オブ」シリーズからお借りするキャラの数は9体で,うち4体がプレイアブルとして実装されます。「P5R」コラボの第1弾,第2弾でプレイアブルになったキャラ数がいきなりまるっと実装される形ですね。
シリーズ全体のコラボとは銘打っていますが,あまり多くの世界観が混在してしまうと収集がつかないと思い,今回は4つのタイトルに的を絞ってキャラをお借りしました。「光陰の尾、四天の星々 -Tales of Chronographia-」という副題の「四天」はこの4タイトルのことを表しています。
コラボが決まってから時間がなかったのですが,キャラをつかむために1000時間くらいかけてマザーシップタイトル(※現在オリジナルタイトルに含まれる)を全部プレイして,今回のコラボに臨みました。
4Gamer:
せっかくですので,あらためてコラボストーリーのあらすじをお聞かせください。
櫻田氏:
「アナザーエデン」の世界で発生した時空に関わる事件を,光る猫に導かれた「テイルズ オブ」シリーズのキャラたちとアルドたちが出逢い,解決していくストーリーです。
「間違いのない世界は正しいのか?」というテーマで描いています。
4Gamer:
4つのタイトルは公開可能でしょうか?
櫻田氏:
「ファンタジア」「ヴェスペリア」「エクシリア」「ベルセリア」の4つです。プレイアブルになるクレス,ユーリ,ミラ,ベルベットは,各作品の主人公ですね。
4Gamer:
ありがとうございます。「P5R」コラボでは「アナザーエデン」内でコラボ元作品の特徴的なシステムを再現する仕掛けが用意されていましたが,今回も期待していいんでしょうか。
櫻田氏:
もちろんです。具体的には,大きいところでいうと「料理システム」「スキット」「秘奥義」ですね。その中でもとくに注目してほしいのがスキットで,40種類以上をすべてフルボイスで収録しています。通常どおり物語を進めれば取りこぼしも発生せず,あとから確認できる仕組みも用意しているので,楽しみにしてください。
4Gamer:
40種類でフルボイスって,かなりの大ボリュームですよね。収録は相当大変だったんじゃないですか。
櫻田氏:
声優さんのスケジュールもありますし,納期的に正直フルボイスは無理なんじゃないかという話もあったんですよ。ですが本編・スキット共にシナリオ班のライターと協力することで,ギリギリ収まりました。やっぱり「まず挑戦してみる」という姿勢は大事ですね。
4Gamer:
料理システムについても気になります。「アナザーエデン」にも“お弁当”という形で料理のシステムが組み込まれていると思いますが,どのように差別化を行っているんでしょうか。
櫻田氏:
「アナザーエデン」のお弁当は完成品を渡されるだけですが,今回の料理システムは,専用のUIで素材を組み合わせて“お弁当”そのものを作成できます。さらに,今回のコラボに関わるキャラクターが料理をすると少しずつ熟練度が上昇し,新しい料理を閃いたりする仕組みを採用しています。
4Gamer:
料理の効果は“お弁当”と同様になるのですか?
櫻田氏:
開発内部でも議論が沸騰した部分ではあるのですが,コラボのお弁当だけ効果があるとそれ以外はいらないということになりかねないので,既存の“お弁当”と同様に落ち着きました。ただ,フレーバーは料理ごとに用意させていただいたので,そこはぜひ注目していただければと思います。
4Gamer:
つい全部食べてテキストを確認したくなってしまいそうです。こういった料理の仕様などは,櫻田さんの提案をもとに決定するんでしょうか。
櫻田氏:
もちろん私から提案することもありますが,今回はほかのプランナーが案を出してくれて,シナリオと折衝しながら仕様を決めていきました。基本的には私も加藤さんと似たスタンスで,それぞれのプランナーが自由に発想を出せる環境が良いと思っているので,アイデアはいろいろな立場の方から受け取って,検討を重ねています。
4Gamer:
秘奥義はどんな仕様になるんでしょう。
櫻田氏:
秘奥義はシリーズを追うごとに仕様が変遷していると思いますが,どれかというと「ファンタジア」に近いですね。キャラクターがピンチになって,条件が整ったときに特定のスキルが秘奥義に変化し,1戦闘につき1回だけ放てるようになります。「アナザーエデン」の中では,外典から登場した「ルナティック」にやや近いと言えるかもしれません。
4Gamer:
カットインや台詞回しも秘奥義の特徴ですよね。そういった部分も再現されているんでしょうか。
櫻田氏:
アートさんがかなり力を入れて作ってくれているので,派手で格好良いビジュアルになっていますよ。台詞に関しては,「アナザーエデン」のバトルのテンポもあるので完全にとはいきませんが,できる範囲で極力再現しています。
4Gamer:
追加されるキャラクターのジョブ設定も気になります。
櫻田氏:
コラボキャラは全員★4で仲間になりますが,物語をクリアしたあとに試練が用意されていて,それをクリアすると★5にクラスチェンジするための書が手に入ります。
第10話でエンディングを迎える外典
エンディングはもう決めていますか?
4Gamer:
櫻田さんが外典を任されるようになったとき,ベースの設定はすでに存在していたんでしょうか。それとも西方大陸についてはまったく決まっていない状態で,櫻田さんが西方大陸に関する諸々を企画したのかが気になっていました。
櫻田氏:
西方大陸については,基本的に私のアイデアだと思ってもらって構いません。そもそも西方大陸関連の設定については私もプレイヤーさんと同程度しか情報を持っていないんですよ。
その限られた情報の中でも矛盾が発生する部分があって,それを解消しながら進めていくのはちょっと大変でした。しかも月間連載ですから,最初のほうはかなり悩む部分が多かったです。3話がリリースされているころに5話を書いていたり,ずっと期限に追われ続けています。
4Gamer:
現時点では7話まで出ていますが,状況はいかがでしょうか。
櫻田氏:
9話を書き上げたところなので,なんとかペースは維持できています。2020年4月の生放送では10話で完了とはしつつ,もしかしたら少し伸びるかも? というお話しをしたと思うのですが,正式に10話で完結する見通しが立ちました。ここから大きく遅れるようなことはなさそうです。
4Gamer:
もう外典の執筆も終盤に近づいているということですね。まだ話しにくい部分かと思いますが,どういった形でフィナーレを迎えさせようと考えているんでしょう。ハッピーエンドか,それとも次への何かが残る感じになるのか,といった部分だけでも教えてもらえたら嬉しいです。
櫻田氏:
私は,余程のことがない限り,ハッピーエンドしか目指しません。いろいろな論調があると思いますが,個人的には「いかにしてハッピーエンドに至るか」の過程にこそ創作の醍醐味があると思っているので。10話のプロットも組み終わっているので,今後の展開にも注目していただければと思います。
実のところ企画段階では,外典も時を超える物語にしたいと思っていたんです。しかし,やはりメインストーリーに比べると作れる物量に限界があるので,時を超えるとどうしても中途半端になってしまう。悩んだ結果,“1つの大陸なら作れそうだ”という結論が出まして。右往左往しながら作り始めた西方外典も,もうすぐ終わりを迎えると思うと寂しくもありますね。
4Gamer:
外典で初めて登場したキャラクターも多いですし,出番の調整等も難しそうですよね。例えばクラルテなど,新たに登場したキャラクターがどうやって生まれたのかは気になるところです。
櫻田氏:
クラルテは企画段階で生まれたキャラですね。チルリル,ミストレア,ミルシャなども,外典の企画が始まる前は影も形もありませんでした。ですから,既存キャラクターの中に新キャラをどうやって混ぜ込んでいくのか,という部分はかなり気を使いましたね。大所帯になると,各個人に見せ場を作るのが難しくなってくるので,誰かが“空気”にならないよう常に気を張っています。
クラルテ
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4Gamer:
言われてみれば,プライあたりはまるで空気になる気配がありませんね。
櫻田氏:
プライは定期的に笑いを供給する,“コミカルサイドキックス”的な役割を担うキャラクターです。星4の男性キャラを昇格するには,何とは言いませんが,さまざまなものとの戦いが発生するので,まず地盤づくりと思って出番を厚く盛りました。重くなりがちなネタをやっているときでも,プライとチルリルがいれば笑いを提供してくれるので,書き手としても助かっています。
4Gamer:
新たなキャラクターを出すときは,ストーリーを進ませるうえで必要だから作るのか,もしくはプレイヤーを喜ばせるために作るのか,どちらに比重を置いているんでしょう。
櫻田氏:
その2つは両輪で,どちらかだけ回してもダメなんですよね。ストーリーからの訴求で「こういうキャラクターがいるとお話がより面白くなる」と思って作っても,そのキャラクターでお客さんに喜んでもらえなければ意味がありません。しかし,魅力はあってもストーリー上で役割のないキャラクターを作っても伝わりきらない。その両輪をどうやって成立させるかが腕の見せどころなのだと思います。
あと,チームの士気も大事ですね。翼人のミストレアを考えたときは「これは絶対に喜んでもらえるだろう!」と思っていたんですが,グラフィックスやアートの面で工数が跳ね上がると,不満が爆発しまして……(笑)。
4Gamer:
私個人の話ですが,チルリルやミストレアのあたりで一番財布からお金が出ていた記憶があります。この2人は,どちらかと言えば流行りを取り入れて出してきたキャラなのかなと思っているんですが,実際はどういった考えのもとで生み出されたんでしょうか。
チルリル
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ミストレア
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櫻田氏:
ちょっと生々しいですね(笑)。チルリルは元を辿れば悪役令嬢的なポジションのキャラクターとして着想したんですが,コテコテの悪役令嬢はややニッチなジャンルじゃないですか。なので,ベースとして参考にしつつ愛されるキャラクターにするため,“おバカっぽさ”や“中二病っぽさ”の性格をブレンドし,メリナへの強い感情などを設定することで,ニッチの良さをマスに訴えられるように改修していきました。
4Gamer:
チルリルが登場してから,出逢いキャラとしてチラッと登場しただけのキャラクターにもシナリオ的な役割が生まれたりして,一気に物語が奥深くなったように感じました。
櫻田氏:
そう感じてもらえると嬉しいです。外典や最近のキャラクエは,登場人物が全員主人公になれるよう,群像劇的な演出に挑戦しているんですよね。群像劇ってシナリオの構築が難しくてリスキーなんですけど,せっかくの機会なのでロマンを追ってみたいなと。
4Gamer:
第1話から時間を少しずつ戻しながら進んでいく仕掛けには驚かされました。外典におけるこうした仕様も,櫻田さんのアイデアだったんですか?
櫻田氏:
いえ,実はあの仕掛けはギリギリまでなかったんです。ただ,一緒に外典のディレクションをしてくれている人から「インパクトがない」「これでは届かない」という意見をもらい,ではどうしたら届くかと相談し,直前で導入しました。
4Gamer:
あれはSNSなどが一気に活気づいて,ファンが攻略情報を共有し始めましたよね。ネットをうまく使った仕組みだと感じました。
櫻田氏:
ありがとうございます。ただ,ギリギリすぎて不完全なまま出てしまった感は否めないので,もう少し遊びやすいよう推理可能なヒントを足すなどの改修をしようかと考えています。
SNSで思い出したのですが,スマホの(とくに)ソロゲーの難しいところは,プレイヤーの方々が衝撃を感じてくれるようなネタであればあるほど,ネタバレを警戒してSNSに情報を流さなくなってしまう。もちろん一概にそれだけが要因ではないですが,インパクトのある話を作るほど拡散されにくくなる構造になっているんです。なので核心に触れず拡散できる要素を含み,かつ面白いインパクトをちゃんと備えたシナリオが,今後のスマホゲームには必要とされるのではないかと考えています。
4Gamer:
これはメインストーリーのお話になりますが,以前にはストーリー上の演出でパーティが分割されるギミックが導入されたこともありますよね。そういったギミックやシナリオは,どういった流れで実装されるんですか?
加藤氏:
パーティ分割はライター側からの要請で実現した要素ですね。それに限らず,メインストーリーに登場するギミックについては,基本的にストーリー主導で考えています。例えば,雪崩の雪山でゴーレムと戦うシーンとか,ナメクジみたいなやつと巨大な大渦の中で戦うシーンとか,しょっちゅう「これどうやって実現するんだ……」と,頭を悩ませています。
とくに,2部中編のサテラスタジアムで上空を飛びながらバトルするシーンでは,かなりグラフィッカーやプログラマーにがんばってもらいました。そんな感じで,メインストーリーの部分は僕が先陣を切って暴走していて,それに合わせてもらうような形が多いですね。
櫻田氏:
メインストーリーとそれ以外では作り方が結構違うんですよね。メインストーリーは「まずシナリオがあって,そこから成立させる方法を考える」というスタイルですが,外伝や外典では先に企画書やプロットを出して“遊び”部分をプランナーに任せ,自分はシナリオに専念するスタイルが基本になっています。
4Gamer:
長期運営型のタイトルとなると,プレイヤーが読む物語もかなり長くなってきますよね。そのあいだにプレイヤーの好みや流行も変遷してくると思うんですが,そういった部分はどの程度汲んでいくのでしょうか。
櫻田氏:
流行に完全に合わせる必要はないと思いますが,取り入れられる要素は必ずあるはずなので,そこは柔軟に対応するのが良いんじゃないかと思います。「変えれらるところは変えて,でも芯はブラさない」というのが,月並みですが一番良い方法なんじゃないかと。
4Gamer:
加藤さんはいかがでしょうか。流行であったり,プレイヤーの好み,反響だったりをメインストーリーに取り込むことはありますか?
加藤氏:
もちろん,チームの中で成果物に対するツッコミがあったら耳を傾けますが,Twitterやネットユーザーの声については,極力見ないことにしています。キャラクターの構成要素に関しては意見を聞いて方向修正ができるんでしょうけど,プレイヤーって各個人で千差万別なので,気にしだすと話の流れが泥沼にハマるんですよ。
あくまで「自分の中でどれだけ面白い話が書けるか」「どれだけ自分が納得できるか」を大切にして書いて,信頼できるプロのスタッフの反応をもって調整をします。
櫻田氏:
すごいなぁ,私なんかもうめっちゃエゴサしちゃいますよ。
加藤氏:
さっきも櫻田君が言ってたけど,メインストーリーとそれ以外は別物ですからね。メインストーリーでは,まず僕が「1部から始まって2部で1つの決着がつく」という全体の流れを固めて,それをベースにいろいろな人に動いてもらっているんです。なのに途中で一部のプレイヤーの声に応じて舵取りを変えてしまうと,方向性がおかしくなってしまうでしょう。
まずは,最初に決めた方向性をしっかり走り抜く。それに対して大多数のプレイヤーさんが「面白い」と言ってくれれば嬉しい。反対に多くのプレイヤーさんが魅力を感じていないのなら続きませんし,少数のプレイヤーさんが言うことならそれは個人の趣味なので,僕がそれで方向を変えることはありません。
当然ながら,夢見のキャラは人気が数値として現れてくるので,チームとして「アナザーエデン」を続けていく以上は気にせざるを得ませんけどね。メインシナリオは別なので,もう少し大きな長いスパンで見てもらって「アナザーエデンは最後まで遊んで良かった,面白かった」と感じてもらえれば,それで良い。僕はそういう考えで,シナリオやキャラクターを作っています。
櫻田氏:
その“最後”までをつなぐのが私の仕事ですね。
加藤氏:
キャラと距離を置いている僕なんかとは違って,スタッフの皆は個々のキャラクターに凄まじい熱量をもって付き合ってくれています。櫻田君をはじめほかのコンテンツを作っているスタッフは,ファンと一緒になって声を拾いつつ魅力的なキャラクターを作って,僕は物語の幹を作る。その両方があって初めてチームが回っているので,うまく回してくれているスタッフの皆には感謝しています。
4Gamer:
ありがとうございます。そろそろお時間のようなので,最後に,ゲームのシナリオを作るうえで「ここだけは絶対に外さない」という部分を語っていただき,インタビューの締めとしたいと思います。
櫻田氏:
絶対に外してはいけないのは“シナリオとゲーム体験の紐付き”だと思っているんですが,同時に一番難しい部分でもあります。許されている工数の中で,シナリオとゲーム体験を綺麗に結び付けられる“遊び”の厚さには限りがあって,下手に詰め込むとお客さんにとっては単なる苦行になってしまったりもする。この調整は,経験を踏まえたり,時代に合わせたりしつつ,常にシビアに向き合わなければならないと思っています。
極論を言うと,ゲームに“シナリオ”は必要であれ,“テキスト”が必要かと言われると微妙じゃないかと私は思っています。そんな中でテキストという表現方法を採用している以上,それを読む時間や労力に見合った体験を提供しなければならない。そのためにはゲーム体験とマッチしたシナリオが必要不可欠になるんです。
加藤氏:
僕の場合はすごくシンプル。ゲームとしての,ゲームでしかできない感動を作ることです。言ってみれば,映画や小説,アニメで表現可能な物語をゲームでやる必要はないんです。「ゲームでしか描けない世界や物語,感動とは何か」という部分は,新しい何かを作るときに僕が最初に考えることですね。その問いに対しての僕の回答が「クロノ」シリーズであり「バテン・カイトス」なんです。これらの作品のシナリオがなぜ“ゲーム的”なのかは,遊んでくれた人には理解できるかと思います。
「アナザーエデン」が過去に僕が手がけた作品のレベルに達しているかと問われると,自分でも判断が難しい部分はあります。でも,「アナザーエデン」なりの面白さや感動は,間違いなくゲームをプレイしたからこそ味わえるものになっています。これからも,そう在り続けるように執筆を進めていきたいですね。2部以降も,どうかお楽しみに!
──2020年11月20日収録。