インタビュー
なぜ今,マルチプレイなのか。そして“ゼルダのリアリティ”とは? 「ゼルダの伝説 トライフォース3銃士」,青沼英二プロデューサーと,四方宏昌ディレクターに聞いた
一番大事なのは,遊びの体験。
それを伝えるためのストーリー
4Gamer:
今回,物語がこれまでにないほど,ライトなものになっている印象を受けたんですが,これにはどういった狙いがあったんでしょう?
四方氏:
3人で集まって遊ぼうとなったときに,壮大なプロローグが始まったら,なかなか遊び始められないですよね。1人で没頭してストーリーを楽しむタイプのゲームではないので,このゲームを成り立たせるために必要なぐらいのストーリーを用意したという感じです。
青沼氏:
もともとゼルダって,壮大な物語を描こうとしているわけではなくて,遊ぶうえで意識してほしい部分にストーリーを乗せて作っているんです。なので,据え置き機のように要素の多いゼルダの場合は,必然的にストーリーも膨らんでいくので,結果的に壮大だと評価していただけることもあるという程度で。
4Gamer:
そうだったんですね。
その中でも今回はとくに,ゲームの要素がそのままストーリーになってるんですよ。
服を着替えられる,服を着替えることでキャラクターの能力が変化して,違う形でコースをクリアできるようになる,といったものなので。これを形にするために,服を物語の中にしっかり入れようと。
では,服というものをメインにしたときに,どんなストーリーが考えられる? となって,「オシャレの大好きな国」という設定が生まれたんです。あまりにストレート過ぎて,最初は面食らったんですが,聞いているうちに,こういう軽い感じがいいね,ということになって。
四方氏:
お姫様がさらわれるとかいう話もあったんですけど,それはちょっと重すぎるだろうし,そもそもオシャレとは関係ないだろうと。
じゃあ,オシャレと関係のある一番の呪いって何かな? と考えたら,それはもう格好悪くなることだなって。童話では呪いでカエルにされてしまうなんていうのもありますが,それとは違ってすごくダサくなる呪いしかないだろうと。
4Gamer:
全身タイツですもんね。
四方氏:
それがその国ではさらわれるよりもつらいことみたいな。
そんな感じで,舞台の設定はできていきましたね。
4Gamer:
つまり世界観ありきということではなく,どんな遊びを作るかというところから,肉付けしていったんですね。
青沼氏:
そうですね。まあ,ゼルダはいつもそうでないとダメなんですけどね。たまに,ストーリーが先にあったでしょ? みたいなものもなくはないんですけど(笑)。
それと今回は,とくに小さなお子さんにも遊んでもらえるようにしたかったんです。年末年始に親戚が集まって,ワイワイガヤガヤ一緒に謎解きをしてもらうみたいな形も想定していて。それもあって,おとぎ話的な物語がいいという話は前からしていて,それに対して出てきた答えがこれでした。
4Gamer:
確かに子供でも分かるように配慮しているんだろうな,とは思いました。
青沼氏:
で,そうするとギャグもいろいろと生まれてきたりするんですよ。
最初にリンクが着ている服が「アレな服」だったり。そういう部分に関しては,スタッフ一同,楽しみながら考えていましたね。
四方氏:
ストーリーを考えていく過程は僕も面白かったですね。どんどん磨かれていくというか,舞台が狭いこともあって,その中でどんどん盛り上がるというか。
しょうもない話とかもところどころにちりばめられていて,面白くできていると思います。
青沼氏:
登場人物もそんなに多くないので,それぞれのキャラクターをしっかり立たせやすかったのも大きいですね。登場人物が多すぎると,一人一人の描写が中途半端になってしまうこともあるので。
やっぱり登場人物を絞り込んで,それだけでグッとこさせるような展開が本当は一番いいんだろうな,と思いました。
4Gamer:
こういう世界観で,こういうメッセージを伝えたい! とか,そういう物語の作り方ではないんですね。
青沼氏:
それはないですね。メッセージ性の強いものを作れと言われたら,どうすればいいのか全然分からないですし(笑)。
4Gamer:
自然は大事だ! とか,親孝行をしよう! とか。
青沼氏:
そのテーマで,どれだけネタが増やせるんだ? という話になってしまいますね。
遊びの上に,伝えたいメッセージみたいなものを乗っけられたらいいんでしょうけど,それ自体を重要だとは思っていませんね。
青沼氏:
やっぱり,ゲームとして面白いかどうかで勝負したいんですよ。登場人物との交流が心に残るみたいなことは,ゲームとして面白いからこそ生まれるんだろうとは思うんですけど,そのためには,その世界が印象に残るようなものでなければいけなくて。
そこにはやっぱり,初めて体験したような遊びがないと絶対にダメだと思っているんです。やっぱり遊びありきですよね。
4Gamer:
そういえば,「ゼルダの伝説 風のタクト HD」について取材させていただいたとき,赤獅子の王のセリフには,父親になったばかりだった青沼さんの当時の心情が反映されているといったお話を聞いた覚えがあるんですが……。それは狙ってやったというより,たまたまそういう気分だったというぐらいのことだったんでしょうか。
青沼氏:
テキストにはどうしても,そのときに人生で経験したことなんかが出ちゃうんですよね。そこがまだまだ素人なんだろうとは思うんですけど,だからこそライブ感のあるものになるんじゃないかとは思っています。
宮本もよく,「シナリオにはライブ感が必要だ」と言うんです。綺麗にシナリオをまとめるんじゃなくて,「今朝,起きたらこんなことを経験したから,これをお話に加えてみようか」みたいなほうが,お話は面白くなると思っていて。
4Gamer:
リアリティも生まれますよね。
青沼氏:
ええ。完璧なシナリオは,これまでも作れてはいないと思うんですけど,“生きているもの”にしたいとはずっと考えています。僕自身,誰かから「シナリオの才能があるね」なんて言われたことはありませんが,これまでやってきて,何となくみんなが許してくれてるので続けられているみたいな,そんな感じなんですよね。
ただ,僕がシナリオだけをやる人間になれるかといったら,絶対になれないと思うんです。このゲームはこういう遊びだからこそ,この人にはこういうことを言ってほしいんだ,っていう気持ちを反映させているので,その前提が成り立たないと,僕はセリフなんて考えられないんですよ。
4Gamer:
とにもかくにも遊びありきである,と。
青沼氏:
そうです。だから例えば,任天堂で働けなくなったあと,映画のシナリオを書けるかといったら,絶対に書けないと思います。
4Gamer:
書きたいという願望もとくにない?
青沼氏:
むしろ,イヤだと思ってるぐらいですから。「ええっ,また書かなきゃいけないのか!」って(笑)。
ただ面白いもので,キャラに自分の気持ちを乗せられたときには,けっこう書けるんですよね。それに,そのときは楽しいんです。
4Gamer:
そのときは,ですか。
青沼氏:
そうなんです。みんなが遊んでくれているのを後ろから見ているときに自分のテキストが表示されたりしたら,「うわっ」てなりますね。うちの息子が遊んでいるのを見ているときなんて,もう小っ恥ずかしくて(笑)。
4Gamer:
四方さんは,そのあたりいかがですか?
四方氏:
僕もテキストを書いたことはあるんですけど,似顔絵って人の顔の特徴を掴んで,毒を入れて表現するじゃないですか。あんな感じに似てるなと思っているんです。
だから,昔の知り合いとか友達とか会社の人など,身近な人の言い回しや性格をベースに,毒を盛って語らせると書きやすいですね。
4Gamer:
実在する他人をデフォルメして,リアリティを生んでいるんですね。
四方氏:
全然知らない人のキャラは書けないですから。
青沼氏:
あ,そうか! 僕の場合は主観でしか書けないんですよ。
四方は,今まで出会ってきた人達をキャラとして作っていく形なんだけど,僕はたぶんそれができないんですよ。
4Gamer:
だから息子さんが遊んでいるのを見ると,気恥ずかしくなっちゃうんでしょうね(笑)。
宮本氏から青沼氏へ,青沼氏から四方氏へ
引き継がれていく「ゼルダの伝説」
4Gamer:
それにしても,それぞれのスタッフが「ゼルダとは?」といったことを考えながら,きっちりゼルダとして作り上げてきていることに驚きました。途中でぶれないというか。
そうですね。専門職があるわけじゃなくて,スタッフがみんな自分ができることを反映させていくみたいな形なんですよ。これ,任天堂らしい作り方だと思うんですけど。
この人はこれを担当する人と決めて,それだけしかやらないとなると,インプットもアウトプットも生まれなくなってきて,最後のほうでしおれてしまうんじゃないかなという気がしていて。それぞれがいろんなことをやって,その都度,いろんなチャレンジをしていく過程で,新しいものが生まれてきたりしますからね。そういうのがあると作っていても楽しいだろうし,それがプレイヤーの皆さんに楽しさとして伝わるんだと思うんです。
4Gamer:
シリーズが続いているというのは,まさにその楽しさが伝わっているからこそだと思います。最初は「えっ,これがゼルダ?」と感じたとしても,遊んでみると「ああ,やっぱりゼルダだ」と思わされますし。
青沼氏:
綱渡りかもしれないですけどね(笑)。
最終的には宮本も全部見ますし,僕としてもこれまで見てきた中で,最低限このクオリティに達していないとダメだっていうラインはちゃんと見極めていますので。そうしながら,うまくバランスがとれていくのが一番いいんでしょうね。
4Gamer:
ゼルダシリーズって,一つ一つは違うソフトなのに,連綿と受け継がれている何かがあると思うんですが,それらが明文化されているわけではないんですよね。
青沼氏:
ないですね。すごくアバウトな,人の感覚で引き継がれているようなところがあって。
4Gamer:
気持ちいいか気持ち悪いかという。
青沼氏:
はい。
4Gamer:
一般的に,ゲームの開発規模が大きくなるにつれて分業化が進んで,効率を重視したシステマチックな作り方になっていますよね。一方でゼルダは,非常に属人的な作り方なのかな? という印象を受けました。
青沼氏:
だから,どうしても時間がかかっちゃうのかもしれないですね。
その辺は,宮本なんかに言わせると「それじゃダメでしょう」って話になるのかもしれないですけど,「でも,あなただって昔はそうだったじゃん!」って思いながら。「僕にゲームの作り方なんか教えてくれなかったし!」って(笑)。
4Gamer:
それじゃあしょうがないですよね!(笑)
青沼氏:
やっぱり,変に明文化したところで陳腐なものになってしまうような気もするんですよね。そこからの発展もなくなっちゃったりするので。
僕は自分なりに宮本から受け継いだ,自分なりのゼルダ観で。そしてまた,それを四方につなげて……みたいな形で,ずっと続いていくのがいいんじゃないのかな? と思っています。
4Gamer:
技は見て盗め,みたいな。
青沼氏:
そこまで偉そうなものでもないですけどね(笑)。
言葉って難しいよね。言葉は本当に難しい。
4Gamer:
言葉にしてしまうと,そこからこぼれてしまうものもありますし。
青沼氏:
そうなんですよ。本当に伝えたいことがあるときは,ちゃんと伝えようとするんですけど,一通り説明したあとで,ちょっと違うような気がして,何回も言い換えたりして。本当に伝えたいことを人に伝えるのは難しいですよね,本当にね。真意が伝わっているかどうかも分からないですから。
でも,そんなことを言わなくても,僕が思っているよりもすごいものを返してくれる人達がたくさんいるので,それもゲームを作っていて楽しいことなんですよね。
四方氏:
今回,かなり変えたと思うんですけど,やっぱりゼルダっぽいんですね……。何かがあるんでしょうね。
4Gamer:
確実に何かがありますね。
四方氏:
過去のゼルダのお約束として,例えば広い世界でダンジョンを見つけて,そこに入ってアイテムを見つけて,そのアイテムでボスを倒しましょう,それを最後まで繰り返しましょうというものがあったと思うんですが,今回はそういうものにはなっていないんですよね。
青沼氏:
そこはね,別にゼルダらしさじゃないんだよ。
四方氏:
そうみたいですね。
4Gamer:
確かにエリアも順番に開放される形とはいえ,マップから選ぶことになっていますし,アイテムに至ってはスタート直後に手に入りますよね。でも,間違いなくゼルダだと思いました。
青沼氏:
そうなんですよね。スタッフもいろんな縛りがあってゼルダはできてるような気がしていて,その縛りを変えたら新しいものになるだろうと試してみるんですが,意外と変わらない。それがうまく機能することもあれば,その変わらないことがイヤな方向に展開することもあるんです。
じゃあ何がゼルダにとって本当に大事で伸ばしていくべきところで,いらない部分はどこなのかということの答えを出していくのは,ものすごくたいへんなことだと思います。
4Gamer:
そこを間違えてしまうと,これまでのファンをがっかりさせてしまうことにもなりかねないですし。
青沼氏:
Wii Uで作っている新作でも,僕は「ゼルダの当たり前を見直す」って宣言したじゃないですか。スタッフにもそれは意識として伝わっているんですけど,「じゃあゼルダの当たり前って何なんだ? よく分からない」みたいに,考えれば考えるほどなっていくんですね。
4Gamer:
それでもきっと,「確かに新しい。しかしやっぱりゼルダだ!」というソフトに仕上がることを期待しています。
さて,話をトライフォース3銃士に戻しますが,発売まであと2週間となりました。
僕は発売日って,いまだにドキドキするんですよ。誰も買ってくれなかったらどうしようって。前の日に変な夢を見たりもしますしね。たまに家電量販店をこっそり覗きに行ったりもするんです。
4Gamer:
ええっ。それで気付かれたりはしませんでした?
青沼氏:
発売日に見に行ったお店で僕に気付いた人はいませんね。
ただ,発売日についでに普通に買い物をしていたら,そこの店員さんが僕に気付いたっていうことはありましたね。だからその店員さんに,「今日発売なんですよ。ぜひ」って話をしたという(笑)。
4Gamer:
プロデューサー自ら営業という(笑)。
ただ,トライフォース3銃士に関しては,青沼さんが一人ずつ声をかけなくても,きっと遊んだ人が友達と一緒に遊ぶためにオススメしたくなるソフトだと思いますよ。
青沼氏:
それが理想的なんですよね。これまでゼルダで遊んだことのない人を巻き込んで,どんどん広がっていってもらえると嬉しいです。
4Gamer:
ゼルダの輪みたいなものを,広げやすそうですよね。
青沼氏:
トモダチの証を集めるためにも,ぜひそうしてください。
四方氏:
ダウンロードプレイでもトモダチの証はもらえますから,まずはお試しで遊んでもらえると嬉しいです。
4Gamer:
一緒に遊んでくれそうな友達に目星を付けておこうと思います。
長い時間,ありがとうございました。
「ゼルダの伝説 トライフォース3銃士」公式サイト
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