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[CEDEC 2021]ワンダと巨像,人喰いの大鷲トリコの開発で培われた,“実在感溢れる”巨大キャラクターのアニメーション制作
セッションを行ったのは,「ワンダと巨像」の巨像たちや「人喰いの大鷲トリコ」のトリコといった,巨大なキャラクターが登場する作品を手掛けてきたgenDESIGN(ジェン・デザイン)のCTOである田中政伸氏。セッション名にあるとおり,実在感のある巨大キャラクターのアニメーションを作るうえでの基礎となる部分や注意点が,これまでのゲーム制作での経験を通して解説された。
世界観の構築やゲームバランスにおいても大事な要素
まず最初に,「インタラクティブである」「あらゆるアングルから見られる」「リアルタイムに処理をしなくてはならない」という「ゲームにおけるアニメーション」の特徴が3つが紹介された。
1つめの「インタラクティブである」は,プレイヤーの操作やAIを考慮しなければならないという点だ。「歩行中に攻撃を受けた場合,ダメージモーションはどのように再生すればいいのか」といったような課題が,常に付きまとうという。
2つめの「あらゆるアングルから見られる」は,カメラ操作によってさまざまな方向やアップなどでキャラクターが見られるという話である。巨大なキャラクターはその大きさゆえに画面いっぱいに映ることがあるため,誰でも簡単に動画やスクリーンショットを撮影して配信できる現在は,“隙を見せないこと”への心掛けが重要だという。
3つめの「リアルタイムに処理をしなくてはならない」も,常に状況が変化し続けるゲームらしい特徴だ。例えば,巨大キャラクターがゆっくり足を踏み出したとき,着地点の状態によってその足を降ろせるかどうかが変わる。そんな,未来に何が起こるか分からない状態でのさまざまな処理を,1フレーム以内にこなす必要があると説明した。
また,「(ゲームのアニメーションは)ゲームバランスにおいても大事な要素」であることも語られた。
移動時間を5分にしたい場合,移動距離はその馬の速度から決まるため,馬の移動アニメーションを基礎として世界の広さが決まることになるという,“馬に乗って移動するというケース”を例に,「キャラクターの移動速度やジャンプ距離などは,自然なアニメーションがあってこそその性能が決まる」というgenDESIGNの考え方を述べた。
ゲームのアニメーション制作には,「ゲームのルール的で,一定以上の高さまでしかジャンプできない」「ゲームバランス的に,動きを速くしなければならない」「技術面やコスト面で実現できない」といった,ゲームならではのさまざまな制限も付きまとう。が,そうした制限のなか作り上げたものをコントローラで動かしたときは,これもまた“ゲームならでは”の感動があるという。
続いて田中氏は,「アニメーションとは世界観を形作るもの」という考えについて話した。
どれだけリアリティを持って背景やキャラクターモデルが作られていても,動きを表現するアニメーションの作り次第でそれらのリアリティは台無しになる場合がある。ゲームの世界観への没入感を生むためには,良質なアニメーションが必要となるわけだ。
ベースとして必要な知識は物理と生物学
良質なアニメーションを作るには,違和感となるものをできるかぎり排除する必要がある。では,“ゲームアニメーションにおける違和感”とは何か。田中氏は“キャラクターの体重に対して,アニメーションが軽快すぎる”ことを一つの例として挙げ,それを「キャラクターを作る際に目指していた目標とできあがったもののズレが生じたり,クオリティが足りなかったりして,キャラクターが完成しなかった状態」と説明した。
この違和感に気づくためには「正しい物理や生物学的構造を知る必要がある」と田中氏は話す。ゲームのアニメーション作りには,土台として物理的現象があり,その上に生物学的構造が,その一番上にゲーム上での表現となる“演技”が乗るという考えのもと,それらが解説された。
最初は質量の表現について。ゲームのアニメーションではそれを重さではなく「今の速度を維持する度合い」で表現できるという。
物体の軌道を線で結んだ「運動曲線」で見ると,質量の大きいものは滑らかな曲線に,質量が小さいものは細かく折れ曲がりやすくなる。大きいトラックは急発進,急停止,急旋回ができないが,小さい虫はそういった小回りの利く動きができる。つまり,急に止まれない動きがあれば質量の大きいもの,急発進や急停止という動きを入れれば質量の小さいものを表現できるということだ。
例えば小鳥のような質量が小さいものは急発進や急停止ができることによって表現できるし,トリコのように巨大で質量の大きい生物を表現したければ,急ブレーキをかけても慣性がかかって少し前に進むことでそう見せることができる。
ここでは,本セッションのために制作されたという巨人のアニメーションを交えた解説もあった。人間の動きをそのまま流用し,アニメーションの時間も巨人の動きに合わせて引き延ばして使うだけでは「動きが軽く見える」など違和感が多い。その違和感をなくすためにも,質量を意識したアニメーションの制作は重要となるのだ。
また田中氏は,「空気抵抗のない状態で木の球と鉄球を同時に落とすと,どちらも同時に着地する」というガリレオの有名な実験を引き合いに出し,「重力加速度は質量にかかわらず一定」であることを意識したアニメーション作りについて話した。
重力は,ジャンプするときの速度や人が倒れるときの速度,歩く速度など,すべてのアニメーションに関わる。そのためアニメーターは,重力加速の感覚を養っておく必要があるとのこと。例えばジョギングのモーションを作ったとして,地面を蹴って身体が浮いている状態での腰の上下動は,重力加速の放物線とだいたい一致するという。
一方,全速力で走るスプリントの場合は,1歩あたりの時間軸が狭くなるが,このとき腰の上下動を激しくしてしまうとミニチュアのように見えてしまう。重力加速度は一定であることを意識できていれば,1歩あたりの時間軸が狭いときには,上下動の幅も少なくなることを考えたアニメーション制作に取り組める。
重さを表現する際の方法についても語られた。例えば木の球と鉄球を落とした場合,重力加速度は同じでも,木の球より重量のある鉄球のほうが地面に強い衝撃を与える。それを視覚的に伝えるのであれば,木の球は地面にぶつかってバウンドする。鉄球はあまり弾かれず,また床にヒビが入るといった演出でその重さの違いを表現すればいいとのことだ。
重さを表現するには,そもそもそのキャラクターの体重はどれくらいなのかを考えなければならない。では,架空の巨人や巨大生物の体重はどう設定されるのか,サンプル動画用に作られた巨人モデルで,その計算方法も紹介された。
まず,人間モデルと比較してその身長を算出する。巨人モデルは身長約27メートルとなり,今度は同じくらいのサイズの生き物を参考に体重を割り出す。ここで参照されたのが恐竜で,体重はおよそ40トンとなった。
今度は,脚を上げ,踏み込んだときの重さを計算する。片脚は体重の約15%と言われているので,今回の巨人の場合は6トン。普通乗用車が約1トンなので,巨人モデルの片足はクルマ6台分の重さということになる。
なお,これらの数値は,例に挙げたクルマ6台分という表現のように“身近なもので重さをイメージできること”が重要とのこと。「巨人が片足を上げるということは,クルマ6台が持ち上がるほどの大事である」とイメージできるだけで,数値自体は厳密でなくともかまわないそうだ。
人間の身長の3倍ある巨大キャラクターだからと,力もそのまま3倍にすればいいわけではない。田中氏によると,「質量が体積に比例するのに対し,骨と筋肉の強さは断面積に比例する」とのことで,すなわち身長が3倍になると質量は3の3乗で27倍となり,骨と筋肉の強さは3の2乗で9倍となるという。つまり巨大キャラクターは,大きくなればなるほど,身体を支えたり,身体を動かしたりするのが難しくなるのだ。
さらに,筋肉の表現について説明がなされた。見た目としては,力を入れていない部分は弛緩してゆらゆら動いており,力が入っている部位はガチっと固まっているといったように,シンプルな形で視覚的に伝えられる。
また,田中氏は「最適なエネルギー効率で自分の身体を動かしていること」も重要であると語った。生物は,頭や腕といった各部位の質量に見合った「最適な軌道(障害物の回避)」「最適な加速」「最適な減速」を無意識に行っているという考えをもち,アニメーションを作る際はそれを意識するといいという。
「アニメーターは最適なエネルギー効率を感覚として見抜き,動きを表現しなければならない」と話す田中氏だが,しかし現状は,最適なエネルギー効率を計算することは難しいという。動物の歩行している姿を映した動画をじっくり観察し,「もう少し前に足を着いたら」「もう少し足を速く動かしたら」「足を離すタイミングをずらしたら」といったことを考えることが現状の最適解といえるようだ。
田中氏が独自に使っている言葉に,「動きの情報量」と「アニメーションの密度」を意味する「アニメーションの解像度」というものがあるという。
巨人のアニメーションを作るとき,人間の動きをただゆっくりにして引き延ばしただけでは,動きの情報量が変わらないため,アニメーションの密度が下がってしまう。情報量の少ない低解像度の写真を引き伸ばすとボケてしまうのと同様,アニメーションもゆっくりしすぎるとボケたアニメーションになってしまうということだ。
この,アニメーションの解像度はどのように上げるのか。それは,少しばかりの“ケレン味”を加えること。例えば,鉄球を落とした時の振動を表現する際,実際の時間だと短すぎ,キーフレームでは表現しきれないが,少しだけ時間を引き延ばすことでそれを対処できる。物理的にはウソをつくことになるため“やりすぎ注意”だが,ときにそれがリアリティを出す技術となるのだ。
ゲームに実装する際の設計にはまだ正解がない
最後に,“制作された巨大なキャラクターのアニメーションを,どのようにしてゲームに実装するか”という解説がなされた。これについては完全な正解はなく,田中氏自身も毎回手探りでやっているそうだ。
巨大キャラクターのアニメーションの実装には,「急にポーズを変えられない」「少しの変化量でも,プレイヤー視点だと目立つ」という特有の課題があるとのこと。とくに表現が難しく,かつ需要が多いのがダメージ表現だという。
いつでも,どんな姿勢のときにでも攻撃される可能性がある巨大キャラクターは,例えば「体重がかかっているはずの足がズレてしまった」といった多少のズレも,その大きさ故に目立つものとなるので,些細なものも修正しなければならない。ダメージを受けるときに右脚を前に出していたか,それとも屈んでいたかなど,場面や姿勢によってさまざまなケースが想定できるので,その修正は相当な作業量となるだろう。
そういった理由もあってか,巨大キャラクターのダメージ表現は,現状は加算アニメーション(前関節の位置と回転の変化量の差分を用意し,レイヤーとして元のアニメーションに重ねる技法)で対応しているという。
田中氏は「現在のゲームアニメーションにはさまざまな需要がある」とし,「こうした需要への対応をプログラマーに投げっぱなしにするのは良くない」との考えを示した。例えば重心のズレをプログラマーが見抜くのは難しかったりするので,キャラクターに良い動きをさせるためにはアニメーター自身の知恵や知識が必要になるという。
そして,アニメーターは「Maya」などのDCCツールを扱えるだけではなく,ゲームエンジン上にどのように実装され,動作しているかを知ることも重要であり,「それを知ることで,作るアニメーションも変わる」と語った。
「CEDEC 2021」公式サイト
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