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[GDC 2016]「次に来るのは没入感」。AMDのイベントでデュアルFijiにワイヤレスVR HMD,アサシン クリードVRが発表
日本語読みだと「カプサイシン」になるCapsaicinは,唐辛子の辛みの主成分となる化合物のこと。イベント開始の数日前にその名だけ公表されたため,「新しいAMDのプロセッサのコードネームは味覚に関わる化合物名になったのか」……などといった憶測も飛んだが,なんのことはない,AMDのGPU部門である「Radeon Technologies Group」(以下,RTG)を率いるRaja Koduri(ラジャ・コドゥリ)上級副社長兼チーフアーキテクトが辛味に強い“辛味王”だから,それにちなんで名付けられただけだという。
2017年以降のGPUロードマップが明らかに
さて,いきなり「お酒と辛味とRadeonと生産効率の関係性」についてトンデモ科学漫談を展開したKoduri氏だが,そこからは一転して真面目に,AMD製GPUマクロアーキテクチャのロードマップを披露した。AMDは2016年中に「Polaris」(ポラリス,開発コードネーム)を展開予定だが,2017年には「Vega」(ヴェガ,同),2018年には「Navi」(ナヴィ,同)というGPUマクロアーキテクチャをリリースしていくという。
Polaris(北極星)に倣い,今回公表された開発コードネームも星の名前である。Vegaはこと座を構成する恒星の1つで,日本では七夕の織り姫星として有名な星だ。一方のNaviは,日本では馴染みが薄いが,カシオペア座を構成する「W」形状の真ん中に位置する恒星を指す。
ロードマップによれば,「Radeon R9 285」と思われる28nmプロセス技術世代のGPUに対して,Polarisのワット性能は2.5倍に達するとのこと。またVegaはメモリシステムとしてHBM2を採用し,Naviではさらなるワット性能の向上と次世代メモリ技術の採用を果たすようだ。
Asynchronous Computeについては筆者の連載記事バックナンバー「西川善司の3DGE:AMDによる主張「NVIDIA製GPUは,DirectX 12の優位性を活用できない」を考察する」を参照してほしいが,Huddy氏が言いたいのは要するに,「Graphics Core NextアーキテクチャベースのGPUや,据え置き型ゲーム機に統合されるAPUでは,グラフィックスレンダリングスレッドとGPGPUスレッドを同時に,なおかつ非同期に実行可能だ。しかし現行のGeForceではできない」ということだ。だからこそAMDは今,積極的に訴求していくところだというわけである。
VRと連動したRadeonの新ブランディング
2016年は,VR(Virtutal Reality,仮想現実)対応のヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)が続々登場予定となっていることから「VR元年」とも言われるが,VR HMDを利用するためのPC要求スペックが一般ユーザーにとってやや分かりにくいという声があった。そこで今回AMDは,Radeonのうち,Oculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」といった主要なVR HMDの要求する3D性能を満たす製品について,「Radeon VR Ready Premium」ロゴバッジを付与するブランディング戦略を明らかにしている。具体的には,Radeon R9 FuryシリーズとRadeon R9 390シリーズ,Radeon R9 290シリーズに付与するという。
Radeon VR Ready Premiumのマークが入ったRadeonやRadeon搭載PCなら,VR HMDを快適に利用できるというブランド戦略である。要するに,NVIDIAの「GeForce GTX VR Ready」プログラム対抗だ |
Atari用タイトルをVR対応で復活させた「BATTLE ZONE」も,Radeon VR Ready PremiumロゴのあるRadeonを使うと快適にプレイできると,デベロッパであるRebellionの創業者・Chris Kingsley氏が語っていた |
広がるVRの世界
なかでも会場の注目度が高かったのは,実機の公開は今回が初というVR HMD「Sulon Q」だ。
Sulon TechnologiesはSulon Qを「AR/VR統合型HMD」と主張しており,VR HMDとしてはもちろん,AR(Argumented Reality,拡張現実)対応HMDとしても,ARとVRを融合させたMR(Mixed Reality,複合現実)対応HMDとしても使えるとしている。
眼の前を覆うタイプのHMDで,どうしてARが実現できるのか。それは,Sulon Qが前面2基,左右側面に2基,計4基のカメラを搭載しているからだ。
前面
Sulon Qではそのあたりもよく考えられていて,「4基のカメラ映像からリアルタイムにユーザー周囲の3Dマッピングを行う」ロジックは,新規に起こした専用プロセッサに一任させているのだ。この,コンピュータビジョン的な独自プロセッサに対してSulon Technologiesは「Spatial Processing Unit」(SPU)という名前を与えている。
Capsaicinイベントでは,現実世界をそのままVRに転換していくようなデモ「The Magic Beans」の映像が公開された。
下に示したのはその直撮りムービーだが,現実世界の室内に現れた絵本を手に取ると豆がこぼれ落ち,そこから巨大な豆の木が天井を突き破って育つ。大穴のあいた天井の向こうには巨人がいて……という感じで,現実世界がどんどんとVR世界に侵食されていく。普通のAR/VRとは違った,MR的体験だ。
会場にいたSulonの担当者によれば,北米でのリリースが一段落したら,日本市場における展開も視野に入れているとのことだ。価格が気になるところだが,ともあれ,楽しみに待ちたい。
ゲームとは異なる,新しいVRの形として紹介された,LimitlessによるVRコンテンツ「Gary the Gull」。カモメのGaryとのインタラクションを楽しむVR体験だ |
Crytekの創業者であるCavat Yerli氏も登壇。VRの多目的活用のための教材としてCRYENGINEを利用するプロジェクト「VR First」についてコメントした |
デュアルFijiカード「Radeon Pro Duo」が発表に
イベントの最後半では,再びKoduri氏がステージに戻り,ウルトラハイエンドクラスのグラフィックスカード「Radeon Pro Duo」を発表した。
Radeon Pro Duoは,Radeon R9 FuryシリーズのGPUであるFijiコアを2基搭載したもので,グラフィックスメモリ容量はもちろんGPUあたり4GB。単精度の浮動小数点演算性能が16 TFLOPSに達することから,AMDは「世界最速のグラフィックスカード」と位置づけている。
興味深いのは,AMDがこのRadeon Pro Duoを「VRコンテンツの開発をするゲーマー向け,ゲームをするVRコンテンツ開発者向け」と位置付けているところだろう。また,前出のRadeon VR Ready Premiumとは別の,「Radeon VR Ready Creator」なるロゴバッジをRadeon Pro Duoに与えている点も面白い。
ということで,Radeon Pro Duoは,新しいブランディングこそされているものの,事実上は「Radeon R9 295X2」の後継製品という解釈でよさそうだ。
「ワークステーションクラスのグラフィックスカード」という謳い文句で勘違いしてしまいそうになるが,FireProは今後も存続するとのこと |
レイトレーシングをRadeon Pro DuoPRO DUOで実践したところ。2GPUでは理論値に近い1.75倍のパフォーマンスを達成 |
イベント最後の最後には,2015年9月に今の形に編成されたRadeon Technologies Group(RTG)の主要メンバーほぼ全員が壇上に上がっての記念撮影会が行われた。
もともとGPU専門開発ベンダーだったATIは,2006年にAMDに吸収合併され,構成メンバーはAMD各部門に分散されていったわけだが,今回,再編されたRTG部門は事実上の「ATIの再結成」(≒同窓会)のニュアンスが色濃い。RTGとしての初GDCということで,このような「全員集合」の記念撮影会を行ったと見られる。
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AMD公式Webサイト
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