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西川善司の3DGE:CPUは安泰で期待大と確信が持てたAMDのCES 2019基調講演。GPUは?
CES 2019の会期2日めとなる北米時間1月9日,2002年のComdex以来となる「ラスベガスにおけるAMDの基調講演」があったのだ。2002年は当時のHector Ruiz(ヘクター・ルイズ)CEOが登壇したが,今年のプレゼンターはもちろん,社長兼CEOのLisa Su(リサ・スー)博士である。
Su氏は基調講演で,大小さまざまなトピックを語ったのだが,とくに重要なものを挙げると,以下の7つになるかと思う。
- 第2世代Ryzen Mobile APUを2019年第1四半期にリリース
- すべてのRadeon Softwareによる第2世代Ryzen Mobile APUのサポートを2019年2月に開始
- A-Series APUをChromebook向けに提供開始
- 7nmプロセス技術を用いて製造される新世代GPU「Radeon VII」を2019年2月7日にリリース
- Googleのクラウドゲームプラットフォーム「Project Stream」が「Radeon Pro」を採用
- 7nmプロセス技術を用いて製造される第2世代EPYCは,2019年中頃というリリーススケジュールに向けて順調
- 7nmプロセス技術を用いて製造される第3世代RyzenのCPUパッケージと性能デモを披露
このうち1.〜3.については4Gamerですでに詳細をお伝え済みだ。
AMD,第2世代「Ryzen Mobile」プロセッサを発表。12nmプロセス技術を採用して製造される「Zen+&Vega」なAPU
日本時間2019年1月7日2:00,AMDは,12nmプロセス技術を採用して製造される第2世代のRyzen Mobileプロセッサを発表した。Zen+ベースのCPUコアとVegaベースのGPUコアを統合した新型APUでは,TDP 35Wモデルでゲーマー向けノートPC市場も狙うのがトピックだ。「Chromebook向けA-Series APU」の話題とセットでレポートしたい。
また6.の話は,「順調」ということのみが新情報だ。第2世代EPYCについては,7nmプロセス技術をテーマとして2018年11月に開催された技術説明会「AMD Next Horizon」のレポートでお伝えした以上の情報は,今回開示されなかった。
西川善司の3DGE:驚異の64コア128スレッド対応。AMDの次世代モンスターCPU「Rome」はどんな構造になっているのか
北米時間2018年11月6日にAMDは,7nmプロセス技術を採用して64コア128スレッドに対応する次世代EPYCプロセッサ「Rome」(開発コードネーム)を予告したが,果たしてこれはどんな構造で,次世代Ryzenとはどう絡むのだろう? 連載「西川善司の3Dエクスタシー」,今回は,現時点で明らかになっている情報をまとめてみたい。
というわけで,本稿では残る4.と5.,7.について,いつものように筆者なりの考察を交えながら紹介していくことにしたい。
なお,4.と7.では速報記事を掲載済みなので,そちらも合わせてチェックしてもらえればと思う。
AMD,第3世代Ryzenを披露。サンプルチップの時点でCINEBENCH R15のスコアはi9-9900Kを上回る
北米時間2019年1月9日,CES 2019でAMDは,「Zen 2」マイクロアーキテクチャを採用する第3世代RyzenのCPUパッケージを披露した。次世代デスクトップPC向けプロセッサでは,8コア16スレッドに対応するCPUシリコンダイと,ノースブリッジ的な機能を持つ「I/O Die」を1基ずつ搭載するのが大きな特徴だ。
AMD,新世代GPU「Radeon VII」を発表。7nmプロセス技術を用いて製造される第2世代Vegaは2月7日に699ドルで発売
北米時間2019年1月9日,AMDは,次世代Vegaマクロアーキテクチャを採用し,世界で初めて7nmプロセス技術を用いて製造される新世代GPU「Radeon VII」(ラデオン7)を発表した。搭載グラフィックスカードは北米時間2月7日発売予定で,北米市場におけるメーカー想定売価は699ドル(税別)になるという。
隠し球Radeon VIIはRadeon Instinct MI50ベースか。さらなる上位モデル登場の可能性も?
というのもそのイベントでAMDは,7nmプロセス技術を採用して製造する新GPU「Vega 7nm」(開発コードネーム)の存在を公表済みだったからである。
イベントでVega 7nmをサーバー向け製品「Radeon Instinct MI60」「Radeon Instinct MI50」としてリリースするとだけ発表し,コンシューマ市場へ投入するか否かについて一切言及しなかった。しかしよくよく考えてみれば,AMDはサーバー用もワークステーション用もコンシューマ用も同じシリコンダイを流用して製品化している。Vega 7nmをコンシューマ市場に投入してくるというのは,AMDにとって既定路線なのだ。皆Naviの幻影に惑わされていたといったところか。
まず,繰り返しになるが,その開発コードネームから一目瞭然のこととして,採用される製造プロセス技術は7nm世代のものだ。具体的には台湾TSMCの「N7」と呼ばれるプロセス技術を採用している。
アーキテクチャは14nmプロセス技術を採用して製造される第1世代Vegaの「Vega 10」と基本的に共通なので,「第2世代Vega」(Vega II)と呼んで差し支えない。
ダイサイズは332mm2で,総トランジスタ数は132億。Vega 10だと順に486mm2,125億なので,ダイサイズは約68%にまで小型化を達成しつつ,集積するトランジスタ数は約6%増やしてきた計算になる。
Radeon VIIは,演算ユニット「Next-Generation Compute Unit」(以下,NCU)を60基搭載することが明らかになっているが,AMDの「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャだとNCUあたり64基のシェーダプロセッサ「Stream Processor」を集積しているため,総シェーダプロセッサ数は3840基(=64
上のスライドには最大1.8GHz動作するとも記載があるので,「AMDのStream Processorは1クロックでFP32の積和算を実行できる」(=2 FLOPS)仕様を踏まえて理論性能値を計算すると,
- 3840(Stream Processor)×(1800MHz)×2(FLOPS)=13.82 TFLOPS
ということになる。
注目のグラフィックスメモリ容量は16GB。メモリバス帯域幅は1TB/sとなる。
Vega 7nmでは,パッケージに統合するHBM2のインタフェースがVega 10の2048bit幅に対して4096bit幅へと2倍に拡大している。さらに,Vega 10でパッケージ上にあるメモリスタックは2つだったが,これがVega 7nmで4スタック構成となり,メモリインタフェースはなんと4096bit化した。Vega 7nmが搭載するHBM2はピンあたり2Gbps仕様となるので,メモリバス帯域幅は,
- 4096(bit)×2(Gbps)÷8(bit)=1TB/s
となるわけである。
ちなみに,いま計算した理論性能値やメモリ周りのスペックなどは,端数の微妙な違いを除き,Radeon Instinct MI50と同じだ。なので,Radeon Instinct MI50のコンシューマ版がRadeon VIIなのだという理解で問題ないだろう。
この事実から深読みするなら,今後,Radeon Instinct MI60と同じ,64基のNCUを統合する“Radeon VII XT”的な製品が出てきても不思議ではない。
仮に,64基のNCUすべてが有効な上位モデルが,Radeon VIIと同じ1800MHzの動作クロックで出てくると,その理論性能値は14.75 TFLOPSと,競合する「GeForce RTX 2080」(以下,RTX 2080)の10.07 TFLOPSどころか「GeForce RTX 2080 Ti」の13.45 TFLOPSすら圧倒することになり,GPU戦争はかなり面白くなりそうなのだが,そこまで妄想するのはさすがに気が早いか。
さて,基調講演でSu氏は,かなりざっくりしたものではあったものの,Radeon VIIとRTX 2080の性能を比較したというグラフを示したが,それを見ると,かなり拮抗しているのが面白い。
いずれもAMD製GPUで高いスコアが出ることで知られるタイトルなので,最適化に起因した部分もあると思われ,最終的な性能は(いつものように)実際の製品でテストしてみる必要はあると思うが。
なお,Su氏はあまり大きく取り上げなかったが,Radeon VIIは,コンシューマ向けGPUとして初のPCI Express(以下,PCIe)Gen.4対応製品になる見込みだ。
Zen 2マイクロアーキテクチャを採用した第3世代RyzenのCPUパッケージと動作デモが披露に
ただ,その時点で誰もが想像できたように,Zen 2ベースとなるデスクトップPC向けCPUも,AMDは当然準備中だった。そして今回の基調講演では,まさにそのデスクトップPC向けZen 2プロセッサが第3世代Ryzenとして発表になったのだ。
Zen 2マイクロアーキテクチャの特徴については第2世代EPYCの解説記事に詳しいが,本稿でも簡単に振り返っておくと,ざっくり以下のような特徴がある。
- 内部RISC命令「μOp」(Micro Operation)用となるキャッシュメモリの容量が増え,利用効率が改善
- メモリから読み出したx86命令そのものをキャッシュする効率が改善
- 分岐先アドレスのx86命令を先読みするプリフェッチ動作が改善
- 浮動小数点演算性能が改善(=AVX命令の実行効率向上)
- 最新のセキュリティ問題に対応
今回発表された第3世代デスクトップPC向けのRyzenは,まさにこのZen 2コアを採用したものになる。
速報記事でお伝えしたとおり,CES 2019の基調講演でSu氏は,ヒートスプレッダを取り外した状態の第3世代Ryzenを披露したが,パッケージは,大小1基ずつのシリコンダイが載るという,実に特徴的なものとなっていた。
シリコンダイは小さいほうがCPUで,1基あたり8コア16スレッドに対応する。なので,Su氏が見せたCPUパッケージは,従来までのデスクトップPC向けRyzenの最上位モデルと同じ仕様ということになる。
そして大きなほうのシリコンダイは,DDR4メモリコントローラやPCIe Gen.4コントローラをはじめとした周辺入出力を司る「I/O Die」(以下,I/Oダイ)となる。
もちろん,CPUダイとI/Oダイが1基ずつしかない今回の第3世代Ryzenだと,Zen 2の基本デザインがもたらす恩恵を何も受けられなかったりするわけだが,理由それ自体は「そういうこと」なのだ。
なお,このI/Oダイは7nmプロセス技術ではなく14nmプロセス技術を用いて製造される。これは,I/Oロジックには電圧の高い電気を流す必要性があり,また現在のところ7nmプロセスではそうした高電圧を流すことに対応していないためである。
さて,Su氏の掲げたCPUパッケージを見るに,I/Oダイの形状とサイズは,第2世代EPYCのそれとはまったく異なっている。つまり,AMDは第3世代Ryzen専用に,新しくI/Oダイを起こしたわけだ。
ここで当然の疑問として出てくるのは,「第3世代Ryzen専用I/Oダイは,何基のCPUダイに対応しているのか」というものだろう。というのも,Su氏が掲げたCPUパッケージでは,CPUダイとI/Oダイがズレて実装されていて,いかにも「CPUダイをもう1基実装できそうな,意味深な空きスペース」があるからだ。もっとはっきり言うと,CPUダイを2基実装した,16コア32スレッド対応版の第3世代Ryzen登場を予感させるのである。
AMDは現状,公式には「CPUダイを2基実装した第3世代Ryzen」の登場について何も語っていないが,この部分は継続して追いかけていく必要があるだろう。
なお,第3世代Ryzenは当初の予定どおりAM4プラットフォームに対応することをSu氏はあらためて基調講演で明言している。つまり,既存のRyzenマザーボードは(BIOSをアップデートすることにより)第3世代Ryzenを利用できるということになる。
しかも,第3世代デスクトップPC向けRyzenのI/Oダイは前述したようにPCIe Gen.4対応なので,既存のSocket AM4マザーボードも,基本的にはCPU新しくするだけでPCIe Gen4プラットフォームにアップグレードできてしまうことになるわけだ。Radeon VIIカードも,第3世代Ryzenと組み合わせたときにはPCIe Gen.4接続を実現できるわけである。
デスクトップPC向け第3世代Ryzenの発売は2019年中頃の予定とのことで,現在のところ,具体的な時期や価格,ラインナップは明らかになっていない。
AMDがGoogleのProject Streamに技術協力。Radeon ProベースのGPUサーバーで評価を進めることに
Project Streamはクライアント側のハードウェアを限定しないサービスで,要件は「Chrome」Webブラウザが動作することだけ。なのでPCやMacはもちろんのこと,スマートフォンやタブレット,Chromebookでも動作することになる。
Google Streamが正式サービスになるのか,なったとして日本市場へやってくるのかは何とも言えないが,NVIDIAが北米市場でサービスしている(が成功しているとは言いがたい)「GeForce NOW」に対し,AMDはGoogleと組んで対抗する姿勢を打ち出したとは言えそうである。
AMDはProject Streamを構成するGPUサーバーにRadeon Proを提供していく |
基調講演ではProject StreamでAssassin’s Creed Odysseyをプレイするデモが披露された |
2019年のAMD,CPUには期待しかない。ではGPUは……?
かなり厳しめの目線で見ても,AMDが2019年に展開することとなるCPUラインナップには2018年以上の期待感がある。発表されている内容の時点で相当に楽しみなだけでなく,そこから垣間見える「今後の展開」にも期待込みの推測がいろいろできるからだ。8コア16スレッド対応から64コア128スレッド対応まで,Zen 2マイクロアーキテクチャはさまざまな展開が可能だが,そこから第3世代Ryzenや,まだ見ぬ第3世代Ryzen Threadripperがどんな形で飛び出してくるのか,興味は尽きない。
GPUはどうか。
Radeon VIIという新製品の発表にインパクトがあったことは間違いないが,それでも,2019年の本命と目されていたNaviに関するフォローがCES 2019の基調講演で一切なかったのはやはり気になるところだ。
Radeon VIIは確かに「世界で初めて7nmプロセス技術を用いて製造されるGPU」だが,GPUアーキテクチャ的には2017年モデルのGPUのVegaそのものであり,言ってしまえばクロックアップ版に過ぎない。Battlefield VでRTX 2080と互角の性能を発揮できるというのは確かにインパクトがあるものの,同じ価格でRTX 2080はリアルタイムレイトレーシングにもDLSSにも対応するので,「画期的」かと言えば,疑問が残ると言わざるを得ないのである。
Microsoftが,リアルタイムレイトレーシングをDirectXに統合する「DirectX Raytracing」(DXR)を発表したのは2018年3月のことだ(関連記事)。これまでMicrosoftとの強いパートナーシップを構築してきたAMDだけに,このDXRに対するAMDの公式方針をそろそろ明言してほしいと考えているユーザーは少なくないだろう。
実際,リアルタイムグラフィックス業界やゲーム業界の関心はリアルタイムレイトレーシングにあり,「NVIDIA以外」のGPUメーカーの動向を固唾をのんで見守っているという状況にあったりする。
なお,今回の基調講演では,ミスターXboxとして知られ,最近ではWindowsのゲーム部門まで統括する立場になったMicrosoftのPhil Spencer(フィル・スペンサー)氏も登壇したのだが,E3 2018で予告された次世代Xboxの話も,リアルタイムレイトレーシングの話もなく,Xbox 360時代から続くAMDとの長いパートナーシップに感謝を述べただけだった。
その意味で,2019年のAMD,CPU部門はほぼ安泰で,さらなる展開が楽しみだ。一方のGPU部門は,そろそろ「次」を見せてくれないと,2019年を戦い抜けるか安心できない印象が強まった,といったところである。
AMD公式Webサイト
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