ゲームをやらない人がソーシャルゲームにハマった,
その理由とは
4Gamer:
先ほどアイテム課金やソーシャル要素の話も出てきましたが,
2000年代終盤にはゲームとしてはきわめてシンプルな
ソーシャルゲームが流行しました。
関根氏:
MobageやGREEが急成長しましたね。アクティブに動くアプリでなくWebベースになったので,
ゲームとしての表現方法が大きく制限される環境だと感じました。それでもケイブもこの文化に乗るため,何本かソーシャルゲームを開発しています。当時は手探り状態で,うまく軌道に乗れたコンテンツがある一方,短命で終わってしまったコンテンツもあり,いろいろと大変でした。
無料からスタートするので,ちょっとでも嫌なことがあるとプレイヤーが逃げてしまうんですよね。これまでとは全然違うことを,作ってみて感じました。
ケイブはMobageで「サムライリベンジ」(2010年7月リリース),GREEで「エンジェルコード」(2011年12月リリース)など,いくつかソーシャルゲームをリリースしていた。ケイブに限った話ではないが,大半が短命に終わっている
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古川氏:
それと,
「こんなにお金を使ってしまう人がいるのか!」という衝撃はデカかったですよ。でもビジネスとして考えた場合,どうしても認めざるを得ない。そういった考え方の切り替えどきでしたが,自分もアーケードやコンシューマの畑から来たので,そういった新しい文化をなかなか受け入れることができませんでした。
関根氏:
503iくらいまでの退化なら許せるんですけど,Webベースになっちゃいましたからね。ほとんどオブジェクトを動かせないですし。
古川氏:
アーケードやコンシューマの感覚からすれば,「そんなの楽しいの?」って感じでしたね。“ポチゲー”っていう,揶揄した言葉もありました。
関根氏:
でも,それに皆すごい額を払うんですよ。面白いゲームもあったとは思うんですが,それ以上に
「射幸心を煽る」っていう考え方が,あらゆるコンテンツで横行しました。これも,どちらかと言うと,最初は受け入れられない概念でしたね。それでも,だんだんプレイヤーの楽しみ方が分かってきて,とくに「
しろつく」(2010年2月にMobage版リリース。6月にGREE版,11月にmixiアプリ版も)は,時流にうまく乗れた代表的なコンテンツだと思います。
4Gamer:
確かに「しろつく」は,ケイブとしては意外なほど一般層にヒットしたタイトルだと感じられます。
関根氏:
うちって「ケイブ祭り」をやってたじゃないですか。そこに,まったくユーザー層の違うお客さんが来てくれたのが本当に驚きでした。
4Gamer:
検尿カップにポップコーンを入れて配ったり,小水(こみず)と称して緑茶を売ったりしていた奇祭に,「しろつく」をプレイするような人達が来てしまったと。
関根氏:
例えば,ごまおつを提供している今,ケイブ祭りをやると普通にシューターが来るわけです。でも「しろつく」のときは,親子連れやお爺ちゃん・お婆ちゃんが来たんです! 本当,これは自分の中で衝撃的でしたよ。そんなコンテンツをケイブが作ったということも含めて。
古川氏:
熱量も違ったよね。シューターは比較的,寡黙で大人しい人が多いのですが,「しろつく」のプレイヤーは感情を表に出すタイプが多かった。
関根氏:
手軽にオンラインゲームの面白さを体験できるようになったのがあそこだったのかな,と思うんですよ。それまでゲームをやったことのない人が,離れている人との関連性を持つ面白さに気付けたツールがソーシャルゲームだと。うちの妻も,あまりゲームをやっていなかったのですが,ソーシャルゲームでは一時期お金をバンバン使っていましたから。人とのつながりみたいなものを感じたそうで。
4Gamer:
確かに,例えばアーケードゲーマーだったら他人と戦う面白さというか,ゆるいライバル意識みたいなものをゲームセンターで自然に得られますが,一般の人がそれを得られたのはソーシャルゲームが初めてだったのかもしれません。
関根氏:
オンラインゲームも昔からありましたが,一般の人には入りにくいものでした。携帯電話でゲームを起動させれば他人とつながった気持ちになれる,そういうツールが出てきたということは,ソーシャルゲームが爆発的に流行した要因の1つになっていたんじゃないかと思います。
4Gamer:
ちなみに,ケイブがガチャ課金を導入したのはいつからでしょうか。
関根氏:
「
ドラゴンコレクション」とかが出始めた後だったので,やっぱり「しろつく」からだと思います。ゲー横もガチャっぽいのはあったけど,何かのポイントをもらえるといったものでしたね。
古川氏:
優しいガチャでした(笑)
2007〜2009年のガラケー(モック)。薄くて直線的なデザインが主流となった。横開きやスライド式といった変わり種が出てきたり,筐体デザインより外装で個性を演出する傾向が強まったりしている。個性的な携帯電話の数々から何を選ぶかが,一種のファッションや自己表現でもあった
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スマートフォン時代の幕開け
4Gamer:
少し時系列を遡りまして,
2008年に日本では初のスマートフォンであるiPhone 3Gが発売されました。当時はスマートフォンをどのように見ていましたか。
古川氏:
高価な娯楽製品という印象でしたね。当初のガラケーと同じように,ゲームを遊べる機械としては見ていませんでした。ゲームのプラットフォームとして見るようになったのは,シューティングを移植するという話を受けて,研究を始めてからです。そのころ個人的にも気になるアプリが出てきて,タワーディフェンス系のゲームや「
スペースインベーダー インフィニティジーン」などを遊んでいました。
関根氏:
モバイルなのにWebを大きい画面で見られるようになったので,求められるものが変化すると思いました。でも価格が高かったので,明確な理由がなければ買おうとは思わなかったですね。「ずっとモバイルの世界でやってきたから,これも触っとかなきゃいけないでしょう」という気持ちで買いましたが,それでもiPhone 4からだったかなあ。いろんなゲームが続々とサービスインされていたので,興味があって遊んでいました。
iPhone 3G(Apple公式サイトより) |
2009年に発売された国内初のAndroidスマートフォン・HT-03A(ドコモ公式サイトより) |
4Gamer:
iOS端末は高価ですからね。ソフトバンクは当時,一括払いだと8GBモデルを6万9120円,16GBモデルを8万640円で販売していたそうです。
古川氏:
でも「カッコいい」という突出した長所はありましたよね(笑)。
4Gamer:
未来感のあるデザインでしたね。iMacと同じく,ジョブズがこれと決めたデザインは衝撃的でした。
関根氏:
確かに,ジョブズに感化されて買った気がします。
4Gamer:
そういえば以前の
シューティングゲームに関する座談会で,池田恒基氏(※)がiPhoneのハード・ソフト一体設計を賞賛しているというお話をうかがいました。お二人はiOSとAndroid,どちら派でしょうか。
※“プログラマーやディレクター,制作総指揮,総監督など,さまざまな立場からケイブのゲーム開発に携わる人物。“IKD”の通称でも知られる,2019年まで取締役副社長・COOを務めていたが,現在は退任して開発現場に専念している。
古川氏:
私はiOSですね。
関根氏:
私もiOSです。
4Gamer:
どちらもiOS……そのポイントとは。
古川氏:
Androidはガラケーの流れを組んでいるところがあって,良くも悪くもメーカーが独自仕様を作れるんです。なので,対応するために覚えなければいけないことが,その都度出てくるんですよね。それと比べて,iOSの統一感たるや……といった感じです(笑)。
今でこそiOS端末もいろいろあって,ちょっと大変ではありますが,Androidと比べたら全然統一されていますよ。インターフェイスも画期的でしたし。
4Gamer:
ケイブは「
エスプガルーダII 〜覚聖せよ。生まれし第三の輝石〜」(2010年4月リリース)からiOSアプリの提供を始めましたが,最初期の開発エピソードなどがあればお聞かせください。
古川氏:
最初はガラケーのときと同じように移植すれば良いのかなと思いながらスタートしたのですが,Appleさんから当時「iPhoneならではの機能を使ったものをお願いしたい」という話があったので,タッチ操作をなるべく取り入れようと頑張った覚えがあります。
4Gamer:
指の動きに応じて自機の移動量が決まるという仕様ですね。
古川氏:
最初は,いかにもゲーム機みたいなバーチャルパッドを付けようとしていたんですけど(笑)。でも,その前提を崩してタッチならではの操作方法を考えたのは,成功だったと思っています。他のメーカーさんが追随してくれたりもしましたし。
関根氏:
あれって,けっこう移動距離が変わるじゃないですか。iOS版をやった後にXbox 360版をやると全然違うから,「なんで俺,こんなに死ぬんだろう」と思っちゃうんですよね(笑)。
古川氏:
実際,ゲームバランスが崩れるから最初は「絶対入れんわ……」と思ったりもしていたんですよ。でもスマホでシューティングを遊ぶなら
お手軽感も必要,オリジナルの再現については「それはXbox 360版で!」と割り切りました。
4Gamer:
スマートフォンが普及していく傍ら,ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)は,一部モデルに3G回線の通信機能を搭載したPlayStation Vitaを,
2011年12月に発売しました。9月には
「ケイブがPS Vita向けタイトルを開発」という発表がありましたが,結局発売されませんでした。もし可能ならその辺りのお話を聞いてみたいところです。第1弾は
「しろつく(仮題)」だったそうですが……。
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古川氏:
自分達はよく知らないんですよ。当時関わっていた人物も,もうケイブに在籍していません……。
4Gamer:
なるほど……。「しろつく(仮題)」のほか,
「シューティングゲーム(仮題)」も予定されていました。これは個人的にけっこう期待していたのですが。
関根氏:
私も期待していました。詳しい話は聞いていないのですが(笑)。
古川氏:
確か3Dのシューティングゲームで,モックまでは作っていたようです。でも会社としてのプラットフォーム戦略の関係で早々にボツになったとか。
4Gamer:
実際のところ,夢はありましたが「スマホで済むことをわざわざ携帯ゲーム機でやる」というのは,いささか噛み合っていなかった印象がありますし,実際PlayStation Mobileなども含め先細りになりましたよね(
関連記事)。
また話はズレますが,ケイブ的にはほかにもお蔵入りのプロジェクトはけっこうあるのでしょうか。「
A.I am Monster(仮題)」はどこに行ったのかな〜などと思ったりもするのですが。
関根氏:
やっぱり事業ですので,ある程度は動くものができていても,開発を止めざるを得ないことはあります。
4Gamer:
話を戻しまして,スマートフォンにはiOS / AndroidのほかWindows Phoneもありました。ケイブは「
DODONPACHI MAXIMUM」を出されていますね。
古川氏:
これも私は詳しくないんですよ。どちらかと言うとアーケード寄りの人が作っていたもので。
4Gamer:
Windows Phoneに着手したこと自体は,いろいろなプラットフォームで試行錯誤していたということでしょうか。
関根氏:
そうですね。チャレンジできることにはチャレンジするというのは,ケイブの特徴だと思います。
ガラケーアプリの終焉
4Gamer:
スマートフォンが浸透し,
2010年から3.9G回線(docomo LTE Xiおよびau 4G LTE)が利用可能となって大容量アプリも使いやすくなった一方で,
ガラケーアプリが衰退して,ゲー横(極上シューティング)も
2014年にサービス終了となりました。
「恋愛すごろく 怒きゅ〜ん」(以下,怒きゅ〜ん)など個性的なゲームがいろいろとありましたが,復古の可能性などはないでしょうか。
2000年代後半は「恋愛すごろく 怒きゅ〜ん」のほか,「むちむちポーク!スナックBBQあじ」や「デススマイルズ外伝LostDays」など,スピンオフ的なタイトルが多くリリースされた
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2010年以降は「サンシャイン魔法の森」や「ブラッディソウル」,前述のソーシャルゲームなどオリジナルタイトルにも注力,その中から「しろつく」がヒットすることとなる
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古川氏:
エミュレータ的なエンジンを作れたらできなくもないかもしれませんが……。それか,あのくらいのボリュームだったら目コピでも作れないかな?
関根氏:
目コピって(笑)。でも,チャンスがあればとは思いますね。
古川氏:
それにしても,なんで挙げるタイトルが,よりによって怒きゅ〜んなんですか(笑)。
4Gamer:
ケイブには自社パロディコンテンツや,お祭り的なクロスオーバーゲームが無かったので,それをやっていた怒きゅ〜んは印象深いタイトルだったんです。そういうスピンオフが出るのも携帯電話ゲームの魅力でしたね。
古川氏:
怒きゅ〜んは,当時デジタルメダルゲームのブームがあって,その一環で作られました。どうせなら好き勝手やろうと,自社の名キャラクター総出演で馬鹿みたいなテンションで企画したので,ちょっと変わったすごろくになったんです。ケイブの男性キャラクターを選んで,ヒロインと結ばれるべく他の男性キャラクターと競いますが,最後のブーケトスは端末のモーションセンサーに対応させて,手元を狂わせてはいけない緊張感にこだわりました。
4Gamer:
そう聞くと,実に納得できる内容でした。ご褒美の描き下ろし壁紙も嬉しかったです。
関根氏:
怒きゅ〜んに限らず,ゲー横では壁紙の配信などを率先してやっていた覚えがありますね。
古川氏:
ガラケーはアプリで楽しませて,Webでも楽しませるという2つの方法がありましたから。
メダルを集めると景品が当たるキャンペーンなども行われていた。ゲームのアップデートに関する情報がメールマガジンで届くというのも,プッシュ通知やSNSが利用されるようになった現在では懐かしさがある
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2018年のコミックマーケット94で販売された「ケイブSTGイラスト集 アナザーレーベル」には,ゲーセン横丁で配信された携帯電話用の壁紙イラストが収録されていた
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4Gamer:
先ほど「ゲー横をアーケードゲームのプロモーションとして利用する」という話もありましたが,ガラケー向けのコンテンツは色々なサービスの橋渡し的な役割があったと思います。それ自体がコンテンツの主軸となった現在のスマホアプリでは,プレイ画面のスクリーンショットを撮って壁紙にしたりといったことが行われていますが。
古川氏:
むしろプレイヤーがスクリーンショットを撮りたくなるような画面を狙って作っていますよね。そのスクリーンショットをTwitterに投稿してもらうことで,拡散させたり。
関根氏:
SNSなどの影響で,誰でも情報を発信しやすくなりました。ごまおつでもプレイ動画をYouTubeにアップロードすることでシェアできるようにしていますが,ガラケーだとあんなことはできなかった。
ゲームの楽しみ方自体が,スマホによって大きく変わりました。
2010〜2014年の携帯電話(モック)。セパレート式のキーボードを搭載したり,3D動画に対応したり,Bluetooth接続でスマートフォンの子機にできたりと,何かしらの機能に特化する傾向があった。まさに“ガラパゴスケータイ”の時代と言えるだろう
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マス向けか,ニッチ向けか
4Gamer:
時系列的にはまた行ったり来たりしますが,
2013年11月にMobageをオンラインプラットフォームとした
「ドン★パッチン」(
iOS / Android)の提供がスタートしましたよね。
関根氏:
私は一応,開発の立ち上げメンバーとして最初からプランニングで関わっていました。「どうしたらシューティングを多くの人に遊んでもらえるか」で頭を悩ませて,敵を破壊する爽快さを追求したり,操作をシンプルにしたりと。あの時代は
「パズル&ドラゴンズ」((
iOS /
Android) 2012年2月リリース。以下,パズドラ)が出てきたりもして,スマホゲームの文化が変わってきたタイミングでもありました。
古川氏:
パズドラはグラフィックスも含めてゲームらしいデザインだったから,出てきたとき嬉しかったよね。
関根氏:
そうそう,「やった! ゲームらしいものでイケるぞ!」といった感じで。「ドン★パッチン」自体は最終的にちょっと残念な結果となってしまいましたが,そこで得たものがごまおつにつながっていたりもするので,ケイブにとって重要なタイトルです。
簡単・爽快といったコンセプトで制作された「ドン★パッチン」。しかし,ライトなテイストのゲームがプレイヤーを熱中させられるか,課金コンテンツに訴求性を持たせられるかというと……
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4Gamer:
「ドン★パッチン」はゲームデザイン以上にロボットのデザインが謎でした。
古川氏:
それも最初の「多くの人に遊んでもらう」という命題によるものでした。幅広い人に遊んでもらえる分かりやすい世界観を考えた結果,男性向けでも女性向けでもない,マスコット的な可愛いロボということになったんです。
4Gamer:
マーケティング論で言われる「世の中にはホットコーヒー派とアイスコーヒー派がいるが,全体を平均してしまうと,『人が好きなのはぬるいコーヒー』となる」みたいな話ですかね……。
関根氏:
加えて,ケイブの若干“斜め上”を狙うというか,“斜め上”こそが良いんだ,みたいな風潮も影響していました。
古川氏:
結果としては,「このロボは何だ……?」ってなりますよね(笑)。それで,「ごまおつ」は逆に直球を投げて,美少女となったんです。
4Gamer:
要は「ドン★パッチン」によって,注力すべきポイントが明確になったと。
関根氏:
これもまた池田がいろんなところで話をしているとは思いますが,「ドン★パッチン」の反省はありつつ,でも「シューティングでケイブは戦っていける」という手応えも得られたので,モチーフや構成要素を改善して出し直そうという企画がスタートしました。横移動だけだったのを全方位移動にしたり,「ドン★パッチン」で封印していたことを,ごまおつでは開放していきました。
古川氏:
操作周りの変更は大きかったよね。
関根氏:
弾避けは極力させないというのが「ドン★パッチン」の設計でしたが,やっぱりシューティングって弾を避けながら敵を撃破するのが醍醐味なんです。シューティングらしいものを作ってシューティングユーザーに届けようとしたことで,大きな足かせが外れた感覚がありました。キャラクターの強さを攻撃力でなく魔力(スコアに関連する数値)で表現したことで,相対的に敵が硬すぎたり柔らかすぎたりすることも防げるようになりました。
4Gamer:
キャラクターによってスコアが変わってしまうことは少し疑問に思っていたのですが,そういうバランス調整的な側面もあったのですね。
関根氏:
大きい変更で言うと,ショットチェンジもあります。使い魔を変えることでショットが切り替わりますが,さまざまなショットをちゃんと作らなければいけないので,あれって実はメチャクチャ大変なんです。大まかな仕様が固まったのが,開発を始めてから半年ちょっとくらいのころですね。
4Gamer:
ターゲットユーザーを絞ることで,ケイブらしいゲームになっていったわけですね。
関根氏:
あと,いったん
「ゴシック魔法乙女」というタイトルに決定していたのですが,社長と池田の首脳会議で「ゴシック
は魔法乙女」となりました。最初は「えっ」と思ったのですが,今では“は”が入っていて良かったと思います。
4Gamer:
「シューティングゲームサイド」誌で,「トム・ハンクスはフォレスト・ガンプ」という映画のキャッチコピーにインスパイアされて“は”を挟んだという話を拝見しました。これもまたケイブらしいお話です。
関根氏:
開発終了間近に社内でテストプレイを行って,そのフィードバックをもとに最後のブラッシュアップをかけて,今のごまおつになりました。使い魔の存在を意識できるようラブマックス発動中に画像を大きく表示させたり,画面上部のゲージでプレイ評価を分かりやすくしたのも,この追い込みのときです。
まあ「今のごまおつになった」と言っても,サービスインからいろいろな変更を繰り返していますけどね。“おでかけ”も最初は無かったものですし。
古川氏:
おでかけは,ごまおつと同時期に開発していた
「プリズムガール」(
2015年4月発表。未リリース)用に考えていた仕様だったんです。これは女児向けアニメを意識したビジュアルのパズルゲームで,プレイを通して女の子との恋愛を楽しむというものでした。ですが,ごまおつに力を入れなければいけないタイミングが来まして,チームが解体・再編されたため,完成には至りませんでした。
2015年の第3四半期決算報告において,補足資料で発表された「プリズムガール」
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関根氏:
おでかけは今でもしっかり遊んでもらえていますね。
古川氏:
ごまおつはシューティングとしてはしっかり作っていましたが,キャラクターの魅力をあまり引き出せていないんじゃないかという話があったんですよ。そこを補うために組み込んで,大きく貢献できたのかなと思います。正直なところ,「プリズムガール」でやりたかったのはおでかけシステムだったので,ごまおつで満足しています(笑)。
4Gamer:
2018年にリリースされた
「三極ジャスティス」(
iOS /
Android)は,スマートフォンで入退出自由な三つ巴のリアルタイム戦闘を行っていて,非常に野心的なタイトルでした。結果的には残念な形になってしまいましたが。
個性的な3勢力という構図は面白かったが,それがプレイヤーの偏りを生じさせてしまった「三極ジャスティス」
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古川氏:
そうですね。ただ,あれを出したことに何の後悔も無いんですよ。
4Gamer:
全力でやりきったから,ということですか。
古川氏:
はい。でも難しいタイトルでしたね。野心的って,要は「前例が無い」ということですし,方法論も正解も分かりませんでした。
難題にチャレンジできたのは良い経験でしたし,そこに付いてきてくれたプレイヤーには,すごく熱心に遊んでもらえました。でも,やっぱりスマホのゲームが市場にたくさんある
現在では,それなりに分かりやすくて一般の人に遊んでもらえるゲームじゃないと,生き残れない……。そういう現実はありました。
ちなみに「三極ジャスティス」って,実はジオ爆のスタッフが関わっているんですよ。ジオ爆の「複数対複数の陣営争い」は盛り上がったので,あの熱量をスマホに持ってきたら面白いのでは? というところからスタートしたんです。
4Gamer:
企画的なベースはジオ爆だったんですね。ケイブファンの間では,シナリオを芝村裕吏氏が担当することや,三つ巴の日本内戦という設定から「『
ガン・ブラッド・デイズ』が復活!?」みたいな声が多く上がっていましたが。
古川氏:
やりたいことは決まっていたのですが,世界観についてはずっと迷っていたんです。いろいろな案がありましたが,最終的には「ガン・ブラッド・デイズ」と同じく芝村裕吏さんを起用させてもらったり,イラストを井上淳哉さんにお願いしたりして,ああいったところに着地しました。
変化を続けた携帯電話ゲーム。今後のゲーム開発は?
4Gamer:
携帯電話ゲームは,言うなればコンシューマゲーム以上の変化をここ20年で遂げたわけですが,今後についてはどのように予想していますか。
古川氏:
難しいな……。時代と共にゲームの文化も変化していきますが,ケイブができることや,得意なことは変わらないと思います。カジュアルゲームをたくさんリリースするという選択肢もありますが,ケイブが目指すのはそちらでなく,明確に「このゲームを遊びたい」と思ってくれるようなお客さんに,十分なサービスを提供することでしょう。そんなゲームを作っていきたいと私は思っています。
関根氏:
時代が変わっても,
“遊び”が大事ですよね。一時期,コンシューマゲームが下火になって,ソーシャルゲームがイケイケだったじゃないですか。プラットフォーマーの採用面接で
「任天堂の倒し方,知らないでしょ?」とか言われた(※)っていう話が出てきたり。
※2012年12月に産経新聞社・夕刊フジのWebサイト「zakzak」で掲載された記事(現在は掲載期間終了)による。なお,当該発言は採用面接を受けた匿名人物からの伝聞という形で記されており,実際にあった発言かは不明。
古川氏:
懐かしいね(笑)。
関根氏:
でも任天堂さんは健在だし,むしろ当時よりも成長してる。「パズドラ」だって,ゲームらしいアプリは受け入れられないという風潮があった中で出てきて,今なお現役ですから。結局のところ,“遊び”が求められるという部分は変わらないと思うので,あとは時代のトレンドにどうやって乗るか。ケイブは,そうやってゲームをどんどん提供していきたいと思っています。
4Gamer:
最後に,世の中5GやGoogleのStadiaなど,いろいろなモバイル向けの新技術が出てきていますが,ドリームの範囲で「こういうのがあったらいいな」みたいなものはありますでしょうか。
古川氏:
それも難しいですね……(間)……宿題でもいいですか?(笑)
4Gamer:
何かを望むより,その時々のベストを尽くすということでしょうか(笑)。
古川氏:
それで!(笑)
関根氏:
基本的にはベストを尽くすだけですよね。スマホで出したゲームだって,スマホを研究してから企画に取り掛かったので。
古川氏:
そのときのデバイスを,ユーザーがどう使うのか,それでどんなゲームを作るかは,具体的なイメージと出会ってからですね。
関根氏:
まあ,その時点での最適解を考えることはやめたくないですよね。つねに何かしらを考えていたい。
4Gamer:
ありがとうございました。ケイブが描いていく“遊び”について,今後とも期待しています。
2015〜2019年のガラケー(モック)。2018年にカードケータイ「KY-01L」や4G LTE対応の「INFOBAR xv」がリリースされていたりもするが,基本的にはサポート機能を売りとした無個性なデザインのものがほとんどだ。なお,2018年第1四半期以降に国内で販売されたガラケーはAndroidベースとなっており,auでは「ガラホ」,docomoでは「spモードケータイ」などと呼ばれる
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