ニュース
新世代PC総合ベンチマークソフト「PCMark 10」は何が新しくなったのか? テスト項目を細かくチェックしてみた
無料製品版と有料製品版が用意されるのは,Futuremarkの既存ベンチマークソフトと同様で,PCMark 10では以下の3エディション構成となる。ただ,本稿執筆時点で利用可能なのは商用利用に対応したProfessional Editionのみで,残るBasic EditionとAdvanced Editionは6月22日公開予定となっている。
- PCMark 10 Basic Edition(以下,Basic Edition):個人ユーザー向け無料版
- PCMark 10 Advanced Edition(以下,Advanced Edition):29.99ドルの個人ユーザー向け有料版
- PCMark 10 Professional Edition(以下,Professional Edition):年額1495ドルの企業向け有料版
本稿では,リリース時に掲載した速報では書き切れなかったPCMark 10の概要を見ていきたい。
テストは3種類で,4種類の「テストグループ」を組み合わせて計測
PCMark 8は,PCの使用シーンや測定する内容別に,「Home」「Work」「Creative」「Storage」「Application」という5種類のテストを用意している。家庭でのPC利用を前提とした性能を測るならHomeテストを,ストレージ性能を多角的に計測したいならStorageテストを選ぶという使い方が基本だ。
それに対してPCMark 10だと,テストは「PCMark 10 benchmark」「PCMark 10 Express」「PCMark 10 Extended」の3つになった。ただし先の記事でもお伝えているとおり,無料製品版となるBasic Editionだと,このうち実行できるのは最も基本となるPCMark 10 benchmarkだけだ。残る2テストを実行したい場合は個人向け有償版となるAdvanced Editionか,商用利用に対応した企業向け有償版となるProfessional Editionを利用する必要がある。
なお,ほかにもBasic Editionには「スコアはオンラインでしか確認できない」といった制約もあり,テスト結果をローカルで保存したり,テスト結果を詳細なグラフ表示したかったりする場合はAdvanced Editionを購入する必要がある。Basic Editionの持つ仕様制限はPCMark 8を踏襲していると言っていいだろう。
さて,PCMark 10では,細かいテスト内容(Workload,ワークロード)を「Essentials」「Productivity」「Digital Content Creation」「Gaming」という4種類の「テストグループ」に分けている。PCMark 10 benchmarkとPCMark 10 Express,PCMark 10 Extendedという3つのテストは,それぞれ異なるテストグループを組み合わせて実行する仕様だ。
具体的には以下のとおりである。
PCMark 10 benchmark
日常的なPCでの作業や,デジタルコンテンツを操作するときの性能に焦点を当てたテスト。EssentialsとProductivity,Digital Content Creationのテストグループを実行する。
PCMark 10 Express
一般的なビジネスユースを想定した,PCの性能を手っ取り早く知るためのテストという位置づけになっている。実行するテストグループはEssentialsとProductivityの2種類だけだ。
PCMark 10 Extended
すべてのテストグループを実行する完全テスト。ゲームを含めたPCの総合的な性能を計測できるという。
なお,テストによって,PCに必要な最小スペックは異なる(表)。PCMark 10 benchmarkを基準として見ると,PCMark 10 Expressはメインメモリ容量やストレージの空き容量に対する要求が低めで,必要なディスプレイの解像度も低い。低スペックなWindows 8.x時代のタブレットPCやスティックPCでも,PCMark 10 Expressならテストできそうだ。
一方でPCMark 10 Extendedは,3Dグラフィックスを扱うワークロードがあるため,3DMarkと比べると要求レベルは低いものの,グラフィックスメモリ容量も条件として追加されている。
続いて,4つのテストグループがそれぞれ何を計測するものなのかを順に紹介しておこう。
Essentials
PCの基本性能を測るテストグループ。アプリケーションの起動速度を測る「App Start-up」,Webブラウジングに関連する処理性能を測る「Web Browsing」,複数の参加者によるビデオ会議を想定して,処理に関連する性能を測る「Video Conferencing」という合計3つのワークロードを実行する。
Productivity
いわゆるOffice Suite(オフィススイート)のようなビジネスアプリケーションの処理性能を測るテストグループ。ワープロソフトの性能を測る「Writing」と,表計算ソフトの性能を測る「Spreadsheets」という2つのワークロードを実行する。
Digital Content Creation(以下,DCC)
コンテンツ制作作業を想定したテストグループ。写真編集に関する性能を計測する「Photo Editing」,動画編集の性能を計測する「Video Editing」,3Dグラフィックスの表示とレイトレーシングによるレンダリングの性能を調べる「Rendering and Visualization」という3つのワークロードを実行を実行する。
Gaming
名前のとおり,ゲームの実行に関わる性能を測るテストグループ。Futuremark製の3Dグラフィックスベンチマークソフト「3DMark」をPCMark 10向けにカスタマイズしたものが入っており,「Fire Strike」プリセットを実行する。
テスト項目のカスタマイズが可能なAdvanced EditionやProfessional Editionでは,OpenCLを使わない設定も可能だが,こちらも初期設定ではOpenCLを使うようになっている。基本的にPCMark 10では,OpenCLアクセラレーション込みの性能評価になっていることを覚えておこう。
各ワークロードはオープンソースソフト主体で構成
3つのテスト,4つのテストグループを把握したところで,以下順に,ワークロードごとのテスト内容を見ていきたい。
App Start-up
App Start-upは,アプリケーションの起動時間を測るワークロードだ。歴代のPCMarkシリーズには存在しなかったワークロードであり,ある意味ではPCMark 10の目玉と言えるかもしれない。対象となるアプリケーションは,以下の4種類である。
- Chromium Browser(Google Chromeのオープンソース版Webブラウザ)
- Mozilla Firefox(オープンソースのWebブラウザ)
- LibreOffice Writer(フリーソフトウェア「LibreOffice」に含まれるワープロソフト)
- GIMP(オープンソースの画像編集ソフト)
アプリケーションの起動に要する時間が初回起動時と2回目以降の起動時とで異なることは,4Gamer読者であれば知っていると思うが,App Start-upでは初回起動時に残るシステムキャッシュをクリアしたうえでの起動を計5回,2回目以降の起動にあたる「ホットスタート」を計5回実行して,アプリケーションの起動速度を評価しているとのことだ。
Web Browsing
Webブラウジングの性能を測るワークロード。同種のワークロードはPCMark 8にもあったが,PCMark 10では,今日(こんにち)的なWebコンテンツを反映した5種類のタスク(処理)を行って性能を計測するようになっている。
なお,このワークロードで使用するWebブラウザは,「Chromium」とのことだ。
- Online shopping:オンラインショップの商品を選択したり,商品の写真を拡大縮小したり,商品の3Dモデルを見たりといった操作の実行
- Social media:SNSの閲覧やタイムラインの更新
- Map:オンライン地図を表示したり,その地図に渋滞情報を重ねて表示したりする操作の実行
- Video:ビデオ再生
- Static web page:静的なWebページのスクロールや表示
Video Conferencing
1対1または多対多のビデオ会議をシミュレートするワークロードである。
ビデオ会議のタスクでは,映像から参加者の顔を認識する処理を行い,顔の部分を明瞭化したり,顔以外をボカしたりといった特殊効果もかけるという,凝った内容となっていた。
ビデオ会議のアプリケーションには,Microsoftのメディア処理用APIセット「Windows Media Foundation」を用いて,顔認識にはオープンソースのコンピュータビジョン用ライブラリ「OpenCV」を使用しているとのこと。Video ConferencingではOpenCLを使用して性能評価を行うそうだ。
Writing
App Start-upにも出てきたLibreOffice Writerを使って文書の編集や保存などを行い,その性能を評価するワークロード。処理の内容自体は,PCMark 8にあったものからあまり変わっていないようである。
Spreadsheets
オープンソースの表計算ソフト「LibreOffice Calc」を使って,ごく小さなワークシートから,極めて規模が大きいワークシートまでの編集操作をシミュレートするワークロードだ。これも,PCMark 8で行っていたものとあまり変わっていないようだが,OpenCLの性能評価も行うようになったという。
Photo Editing
このワークロードでは,写真の表示に加えて,輝度やコントラストの調節,アンシャープマスク,ぼかしやノイズの付加,局所コントラスト正規化などのフィルタ処理を実行する。
PCMark 8はリリース当初,同種の画像処理テストにAdobe Systemsの画像編集ソフト「Photoshop」のコンポーネントを使っていた。しかし,PCMark 8のVersion 2世代以降では,オープンソースの画像編集ソフト「ImageMagick」のライブラリを使ってFuturemarkが実装したアプリケーションに変更となり,PCMark 10でもそれを継承している。
ちなみに,Photo EditingでもOpenCLを利用しているそうだ。
Video Editing
このワークロードでは,動画のダウンスケーリング,シャープネスや手ぶれ補正などを,オフスクリーンレンダリングで実行する。そのため,画面上に動画編集の様子が表示されることはない。
動画のトランスコードにはWindows Media Foundationを使用するため,ハードウェアアクセラレーションが使えるプラットフォームでは,より高いスコアが期待できるとのこと。OpenCLも使用するそうだ。
なお,手ぶれ補正処理には,オープンソースの動画変換ツール「FFmpeg」を使用している。
Rendering and Visualization
レイトレーシングによる3Dグラフィクス制作をシミュレーションするワークロードだ。3DMarkに含まれているOpenGL ES 3.1/3.0向けテスト「Sling Shot」をベースに,OpenGL 4.3向けにカスタマイズした3Dモデルの表示プログラムを使っているとのことである。
レイトレーシングの演算には,オープンソースのレンダラー「POV-Ray」をベースにしたものを用いているという。
Gaming
Gamingワークロードは,先述したとおり3DMarkのFire Strikeを実行するものだ。Graphics test 1と2,Physics test,Combined testの4種類のテストを行う点も3DMarkと同じである。
多角的な性能検証には,PCMark 8との併用が必要
PCMark 10の概要は以上のとおりとなる。
テスト内容が一新され,今日(こんにち)的なテストになったのはともかくとして,PCMark 8でテスト可能だったいくつかのテスト,たとえばStorageテストに代わるものがPCMark 10に見当たらないのは気になるところだ。
つまり,現状でのPCMark 10は,PCMark 8を完全に置き換えるものではなく,総合ベンチマークソフトの指標に,新しいものが加わったと理解するのが適当ではないだろうか。4GamerでPCMark系のベンチマークテストを行うことは,あまり多くないのだが,実行する場合,当面はPCMark 10とPCMark 8を併用していくことになりそうである。
冒頭でもお伝えしたとおり,一般ユーザー向けの無料製品版であるBasic Editionはフィンランド時間6月22日に配信開始予定だ。興味のある人は,予定表に入れておくといいだろう。
FuturemarkのPCMark 10 公式Webサイト(英語)
- 関連タイトル:
PCMark 10
- この記事のURL: