レビュー
699ドルのGeForceは1200ドルのTITAN Xより本当に速いのか
GeForce GTX 1080 Ti
(GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition)
Pascalアーキテクチャに基づき,型番どおり「GeForce GTX 1080」の上位にあたる製品だ。搭載するシェーダプロセッサ「CUDA Core」の数は2016年7月に発表となった「NVIDIA TITAN X」(以下,TITAN X)と同じ3584基だが,TITAN Xが「GeForce」を名乗っていないため,純然たるゲーマー向けGPUとしてはGTX 1080 Tiが最上位モデルということになる。
NVIDIAは,GTX 1080 TiがGTX 1080より35%高速で,かつ,TITAN Xよりも速いとアピールしているが(関連記事),実際はどうだろうか?
TITAN Xと同じGP102コアを採用しつつ,メモリ周りの仕様が異なるGTX 1080 Ti
冒頭で,GTX 1080 TiとTITAN Xのシェーダプロセッサ規模は同じと述べたが,実のところ,搭載するGPUコアは「GP102」で同じだ。
TSMCの16nm FinFETプロセス技術を用いて製造され,フルスペックで3840基となるGP102コアでは,128基のCUDA Coreがスケジューラやロード/ストアユニット,超越関数ユニット(以下,SFU),L1キャッシュ,テクスチャユニット,そしてジオメトリエンジン「PolyMorph Engine」と1つになって,演算ユニットたる「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)を構成。そしてSMが5基まとまって,ラスタライザたる「Raster Engine」とセットで“ミニGPU”的に機能する「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)となる。
このあたりはPascalアーキテクチャの基本仕様だが,GP102のフルスペックだとGTX 1080の「GP104」比で1.5倍となる6基のGPCを搭載するため,総SM数は30,総CUDA Core数は3840だ。ただし,TITAN Xと今回のGTX 1080 TiではいずれもここからSMが2基無効化されているので,総シェーダプロセッサ数は前述のとおりの3584基となるわけである。
また,細かいことだが,GP104コアになくてGP102コアにある「8bit整数演算(INT8)の4倍アクセラレーション」サポートも,GTX 1080 TiとTITAN Xで共通だ。「GTX 1080 TiとTITAN Xとで,機能面における違いはない」とNVIDIAは言っている。
また,ROPユニットやメモリインタフェースといった足回りも異なっている。
前提の話として,Pascalアーキテクチャでは,8基のROPユニットが1つのパーティションを形成し,パーティションに対して32bitメモリコントローラがつながるようになっている。そしてGP102の場合,フルスペックで12基のROPパーティションを持つため,総ROP数は96基,メモリインタフェースは384bitであり,TITAN Xのスペックはこのフルスペックそのものなのだが,GTX 1080 TiではROPが1基無効化され,結果,総ROP数は88基,メモリインタフェースは352bitとなっているのだ。またそれに伴い,グラフィックスメモリ容量もTITAN Xの12GBから11GBへと減量となった。
このままだとGTX 1080 TiのスペックはTITAN Xより低いということになるが,それを補うべく,NVIDIAはGTX 1080 Tiの動作クロックを引き上げている。両製品の動作クロック設定は以下のとおりで,丸括弧内に記載したブースト最大クロックは,後述するテスト環境において,MSI製オーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.3.0)で動作クロックを追った結果である。
- GTX 1080 Ti:ベース1480MHz,ブースト1582MHz(ブースト最大1898MHz),メモリ11GHz相当
- TITAN X:ベース1417MHz,ブースト1530MHz(ブースト最大1860MHz),メモリ10GHz相当
搭載するグラフィックスメモリチップはGDDR5Xで共通だが,メモリクロックが高くなったことでGTX 1080 Tiのメモリバス帯域幅は484GB/sと,TITAN Xの480GB/s比でわずかに高くなった。
以上を踏まえ,GTX 1080 Tiの主なスペックを,TITAN X,GTX 1080ともどもまとめたものが表1である。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)がGTX 1080より70Wも増大したことを許容できるほどの性能かというのが,GTX 1080 Tiのベンチマークテストにおける1つの見どころとなりそうである。
TITAN Xと同じ基板を採用しつつ,電源周りが豪華に
カード長は実測約267mm(※突起部含まず)で,TITAN X,そしてGTX 1080 Founders Editionと同サイズだ。2スロットの外排気仕様で,ポリゴンをイメージしたと思われる三角形状の凹凸が付いた外装や,そこから覗き込める70mm角相当のブロワーファン,裏返したときカード全体を覆っており,2本のPCI Express x16スロットが詰まった環境でSLI構成をとるときのエアフローを改善すべく,後方側のみ取り外せるようにした構造の背面カバーを採用する点においては,色合いも含めてGTX 1080 Founders Editionそっくりと述べてしまっていいと思う。
外観上におけるGTX 1080 Founders Editionとの違いは,以下に挙げる3点と述べても過言ではない。
- 外装上の刻印が変わった
- GTX 1080 Founders Editionだと8ピン
× 1の補助電源コネクタが,TITAN Xと同じ8ピン+6ピン構成に変わった - GTX 1080 Founders EditionにあったDVI出力が廃され,ブラケット部における排気孔のスペースが広がった
GPUクーラーの外装に「GTX 1080 Ti」と刻印が入る |
補助電源コネクタは8ピン+6ピンという構成 |
GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為であり,取り外した時点でメーカー保証は失効することを断りつつ,今回はレビューのため,特別にクーラーを取り外して基板を見ていきたい。
ぱっと見の印象は,TITAN Xの基板によく似ている,といったところ。背面側にある基板型番らしきシルク印刷も「PG611」で同じなので,基板は共通という理解でいいと思われる。
DG52BVというMOSFETのデータシートは探した限り見つからなかったが,これがNVIDIAの言うDualFETなのだろう。
1枚あたりの容量は8Gbit(=1GB)となっており,11枚でスペックどおりの容量11枚を実現している。
なおGPUクーラーは,アルミニウム製ヒートシンクに銅製のVapor Chamber(ヴェイパーチャンバー)を組み合わせた,お馴染みの構造を採用。前述した,排気孔を広く取る設計と相まって,エアフローはGTX 1080 Founders Edition比で2倍のエアフローを実現しているという。
TITAN X,そしてGTX 1080との比較を実施。ドライバはレビュワー向けのものを利用
今回,比較対象にはここまで何度もその名を挙げてきているTITAN XとGTX 1080を用意した。NVIDIAの言う「TITAN Xより速く,GTX 1080よりは約35%速い」という主張の正当性を確認しようというわけだ。なお今回,TITAN Xは,国内販売代理店である菱洋エレクトロから貸し出しを受けている。
テストに用いたグラフィックスドライバは,GTX 1080 Tiのテスト用としてNVIDIAから全世界のレビュワー向けに配布された「GeForce 378.78 Driver」。バージョン表記から察するに,北米時間2017年2月23日に公開された「GeForce Hot Fix driver version 378.77」のGTX 1080 Ti対応版といったところだろう。そのほか,テスト環境は表2のとおりとなる。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション19.0準拠。テスト解像度は,GTX 1080 Tiがハイエンド市場向けということもあり,3840
また,CPUの自動クロックアップ機能である「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によって異なる挙動を示す可能性を無視できないことから,同機能をマザーボードのUEFIから無効化してあるので,この点はいつもと同じようにお断りしておきたい。
GTX 1080と比べると性能向上率は130〜135%程度か
順にテスト結果を見ていこう。
グラフ1は,「3DMark」(Version 2.2.3509)のDirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものだ。GTX 1080 Tiのスコアは,TITAN Xの約101%,GTX 1080の130〜131%程度というところになっている。
続いてグラフ2は,3DMarkのDirectX 12テスト「Time Spy」の結果だが,総合スコアだと,TITAN Xとのスコア差が約2%に広がる一方,GTX 1080とのスコア差は約25%に縮まっている。
約25%というのは露骨に少ないと感じるかもしれないが,これは,Time Spyのスコアにおいて,CPUの重み付けが相応にあるためだ(関連記事)。実際,GPUテストとなる「Graphics score」のスコアを抜き出してみると,GTX 1080 Tiのスコアは対GTX 1080で約32%高く,Fire Strikeと同程度の違いになっている。
実際のゲームタイトルではどういうスコア傾向が出るだろうか。グラフ3,4は「Far Cry Primal」の結果である。
Far Cry Primalにおいて,GTX 1080 TiはTITAN Xの100〜103%程度,GTX 1080の127〜133%程度というスコアになっている。より描画負荷の高い条件でGTX 1080とのスコア差を広げているのは,GPU規模の威力といったところだろう。
「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)のテスト結果がグラフ5,6となる。ARKの「High」プリセットは非常に負荷が高いテストということもあり,3840
なお,「Low」プリセットは,今回取り上げるようなGPUにとっては負荷が低すぎ,実際に2560
続いてグラフ7,8は「DOOM」のテスト結果だが,ゲームの仕様上,上位2モデルで200fpsのフレームレート上限に引っかかる「中」プリセットの2560
グラフ9,10は「Fallout 4」の結果だが,ここでは2560
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果がグラフ11,12だ。
案の定と言うか何と言うか,「標準品質(デスクトップPC)」の2560
なお,下のグラフ画像は,クリックすると平均フレームレートベースのグラフを表示するようにしてあるが,「最高品質」の3840
グラフ13,14の「Forza Horizon 3」だと,「Medium」プリセットで相対的なCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが確認されたため,「ウルトラ」プリセットを見ていくが,ここでGTX 1080 TiとGTX 1080のスコア差は20〜29%程度。Forza Horizon 3はCPU性能がスコアを左右しやすいタイトルということもあり,今回実施したテストの中では最もスコア差が縮まった。
なお,実フレームレートで話をすると,GTX 1080 TiとTITAN Xは,ベンチマークレギュレーション19世代が合格ラインとする平均フレームレート60fpsのラインをいずれもウルトラプリセットの3840
消費電力はGTX 1080比で最大95W増加。GPUクーラーの挙動は「いつもどおり」に
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。
その結果はグラフ15のとおり。まず,アイドル時はGTX 1080が若干低いものの,三者で明確な違いはあまりない。そこで,各アプリケーション実行時に目を移すと,GTX 1080 TiはGTX 1080から79〜95Wも大きくなってしまっており,パフォーマンス向上の代償は小さくない印象だ。
一方,TITAN Xとの比較ではほぼ同じ。GP102コアベースで,採用するカードデザインも(載る部品はともかく)変わらず,TDPも変わらないとなれば,妥当な結果と言えるのではなかろうか。
最後にGPUの温度も確認しておこう。ここでは,温度24℃の室内において,テストシステムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態から,3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 1.1.0)から温度を取得することにした。
その結果がグラフ16だが,アイドル時,高負荷時とも,3者ほぼ揃った結果となっている。GTX 1080 Tiは,NVIDIAのリファレンスデザインを採用するカードらしく,高負荷時のGPU温度を80℃前半に留めているようだ。
なお,そんなGTX 1080 TiのGPUクーラーの動作音だが,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,TITAN XやGTX 1080と同程度ながら,心なしかGTX 1080 Tiのほうが大きく聞こえた。
もちろん「うるさい」ほどではないので,ハイエンドグラフィックスカードとして問題のないレベルではあるのだが,少なくとも静音性が高いとは言えない。より能力の高いクーラーを,GTX 1080より高いファン回転数で動作させることにより,「いつものGPU温度」を実現しているというのが実情ではなかろうか。
TITAN Xより現実的な価格設定。各社オリジナルデザインのカードが出揃い,価格がこなれればアリだ
意地悪く言えば,「新製品も性能比較対象も自社製品なので,いくらでも調整できるのだから当たり前」ではあるものの,NVIDIAの謳い文句自体にうそ偽りはないとまとめることはできるだろう。
気になる価格は,北米市場におけるメーカー想定売価で比較すると,TITAN Xが1200ドル(税別)に対してGTX 1080 Tiは699ドル(税別)。この699ドルという金額は,GTX 1080 Tiの登場に合わせて値下げとなったGTX 1080の,Founders Editionに設定されていたのと同じであり,少なくとも国内単体価格が18万7320円(※2017年3月9日現在,Amazon.co.jp限定)に達してしまっているTITAN Xと比べると,圧倒的に現実的な金額で出てくることを期待できるのではなかろうか。
ちなみに4Gamerの独自取材によると,GTX 1080 Ti Founders Editionの“初値”は,税込で10万6000〜11万円程度になる見込み。いつもの事態が発生して高価になっているが,グラフィックスカードメーカー各社は(おそらくFounders Editionより安価な)オリジナルデザイン採用カードを準備中としているので,それが出揃う頃には,もう少し値ごろ感も出てくるだろう。
そうなれば,4K解像度においてプレイアブルなフレームレートを叩き出せる可能性の高い,それでいて何とか手の届く価格のグラフィックスカードとして,徹底的なハイエンド志向のゲーマーからは人気を集めることになりそうである。
NVIDIAのGTX 1080 Ti製品情報ページ
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