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「PlayStation VR」分解レポート。PSプラットフォーム初のVR HMDは,工業製品として美しい
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印刷2016/10/15 00:00

テストレポート

「PlayStation VR」分解レポート。PSプラットフォーム初のVR HMDは,工業製品として美しい

PlayStation VR(のヘッドマウントディスプレイ部)。価格は単品(型番:CUHJ-16000)が4万8578円(税込),「PlayStation Camera」同梱版(型番:CUHJ-16001)が5万3978円(税込)となっている。転売業者から高値のものを掴まされないよう注意したい
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 2016年10月13日,PlayStationプラットフォーム向けとしては初のVR(Virtual Reality,仮想現実)対応ヘッドマウントディスプレイ「PlayStation VR」(以下,PS VR)が発売の日を迎えた。
 ゲーム業界の巨人であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)がVRゲームへの取り組みを本格的にスタートさせたとあって,一般メディアをも巻き込み初日から話題沸騰……などということは,ここであらためて繰り返す必要もないだろう。
 4Gamerでも,発売に合わせて,「使ってみた」記事などをいくつか掲載済みだ。


 では,PS VRとは実のところ,いかなるハードウェアなのだろうか。入手した個体を概観するだけでなく,分解も試みたので,今回はその結果を基に,PS VR内部の秘密をいろいろ推測してみたいと思う。


仕様と接続周りをおさらい


入手したPS VR
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 すでに4GamerではPS VRのセットアップ方法を紹介済みなので(関連記事),本稿でくどくどと繰り返すことはしないが,PlayStation 4(以下,PS4)との接続周りには,どうしても多少なりとも面倒さがつきまとう。ただ,製品ボックスには「さすがゲーム機メーカー」と唸らされる,とても分かりやすい接続マニュアルに,それと対応した番号付きのケーブルが付属しているので,マニュアルに従って番号順に接続していけば,ほとんどのユーザーは問題なくセットアップできるはずだ。
 こちらからアドバイスできることがあるとすれば,「セットアップ時は“お店”を広げることになるので,十分なスペースを確保しておきましょう」くらいだろうか。

包装紙で覆ってある製品ボックスを開けると最初に出てくるのは大きな接続マニュアルで,その下にある小箱にも接続イメージが入っていた
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PlayStation Camera同梱モデルの同梱物一式。主要なケーブル類に「1」〜「5」の番号が振ってある点に注目してほしい。ご覧のとおり,接続すべきケーブルの数は多いのだが,この番号順で接続していけばいいだけなので,セットアップ難度は低い
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 下に示したのは,マニュアルに沿った接続イメージを連続写真的に用意してみたものだ。まず「プロセッサーユニット」(型番:CUH-ZVR1)と(テレビや液晶ディスプレイなどといった)ディスプレイデバイス,PS4とPlayStation Camera(以下,PS Camera)を接続したら,あとはケーブルの番号順に接続して,最後にヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)をプロセッサーユニットにつなぐという流れになる。
 途中でプロセッサーユニットの向かって右側を「かしゃっ」と奥へずらすことになるのだが,これで主電源が入るとか,そういうことはないので,おそらく接続手順を分かりやすくし,かつ,実際の使用時にケーブルの端子を隠して見栄えをよくするためのギミックではないかと考えている。

PS4とPS VRの接続イメージ。プロセッサーユニットとヘッドマウントディスプレイ本体を接続するためのケーブルは2本が束になったもので,端子形状が異なるため接続し間違えようがないのだが,それでも「△/○/×/□」マークを接続ガイドにしているあたりは「さすがSIEだなあ」と感心させられる
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ADP-36NH A
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 HMDへの電力供給は,ACアダプター駆動するプロセッサーユニットが担当する。「3」という番号が振ってある付属ACアダプター「ADP-36NH A」の出力は12V 3A(36W)という,割りとよくある小型タイプなので,PS VR全体の消費電力はそれほど大きくないと言っていいだろう。

 さて,実際に装着するHMDだが,2014年のGame Developers Conferenceでアナウンスされて以降,熟成に熟成を重ねての発売となっただけに,少し触っただけでも機能性の高さを感じられる作りになっている。

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 ハードウェア的のルックスは,ソニーグループでかつて販売していたオーディオビジュアル用途向けHMDシリーズ「HMZ」をどことなく想起させるものだ。ヘッドバンドはボタンを押して緩めて装着のうえ,後から本体後方のダイヤルで締め付け具合を調整できる機構になっており,額部分と後頭部を支える大きなクッションともども,支える構造になっている。
 接眼部分の遮光用ラバーパッドは十分な深さがあり,筆者のようにメガネを常用している人でもそのまま装着できるのは素晴らしい。

本体後頭部側のボタンを押すと,バンドを引き延ばせる。その状態で頭に被り,最後にダイヤルで締め付け具合を調整すれば装着完了だ。デザインは異なるものの,これらの機構は旧HMZシリーズのそれを彷彿とさせる
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接眼部分の遮光用ラバーは十分な深さがありメガネをしていても大丈夫。遮光用ラバーの奥に2つの接眼レンズが見える。なお,左の写真で上に見えるボタンは額に当たるクッション部の前後位置を調整するときバンドを緩めるためのもの,下に見える穴はおそらく蒸れを防止するための換気用だ
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HMDとプロセッサーユニットの間にはインラインリモコンがあり,ここからは出力音量調整およびマイクミュート有効/無効切り替えだけでなく,PS VR自体の電源オン/オフも行う。付属の3極3.5mmミニピン接続型イヤフォンを接続するための端子もここだ
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 PS CameraからHMDのポジションを検出するためのLEDは前面部と後頭部にあるが,この位置もいろいろ改訂のうえ,現在に至っている。

本体のゴーグル側表面に5個,後方バンド側に2個ある青色LED部は,PS CameraからHMDのポジション検出を行うためのもの。ちなみに,接続した状態でPS4の電源を入れたとき光るのは後方側の2個のみで,ゴーグル側の表面にあるほうは,対応ゲームアプリケーションを起動しないと発光しない
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 以上,外観を眺めるのはこれくらいにして,さっそく分解に入ろう。

※注意
 ゲーム機およびゲーム機用周辺機器の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は4Gamerが入手した個体についてのものであって,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。


分解容易なプロセッサーユニットだが若干の謎も


かしゃん,とスライドさせられるカバー部は,強く押すと簡単に外れる
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 まずは,名称からして頭脳兼心臓部が入っていると思われるプロセッサーユニットからだ。
 物理的な分解難度だけで言うなら,プロセッサーユニットの分解は非常に容易だ。前段でも出てきたスライドする機構を外して,ビスを外すだけで内部へアクセスできる。ユーザーに分解を思いとどまらせるようなシールや特殊仕様のビスはないが,そもそも「PS VRを分解しよう」などというユーザーがいることはSIEとして想定していないのかもしれない。

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筐体を開いたところ。シールドと小型のファンが見える
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ビスを外すとシールドを外すと基板を拝める。実にシンプルだ

基板を取り出して部品面を見たところ
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 以下,便宜的に,大型のLSIが実装されている側を「部品面」,そうでない側を「パターン面」と呼ぶが,部品面側のシールドには熱伝導シールが貼ってあり,その裏には,割りと大型のヒートシンクが鎮座していた。
 ヒートシンクのサイズは実測で60(W)×60(D)×15.1(H)mmだ。

ヒートシンク付きシールドを外したところ(左)。右はヒートシンクに寄ってみたところだ
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 というわけで,ここからは基板を見ていこう。

 下がその写真だが,部品面で一際目を引くのは,シリコンダイが剥き出しになったLSIと,周囲を囲む4枚のメモリチップだろう。なんとなく超小型PS4っぽい印象を受ける。

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「MSP-01」というシルク印刷の入った基板の部品面。基板形状はご覧のとおりのL字型だが,最も長い部分で図ってみたところ,サイズは135(W)×135(D)mmとなっていた
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こちらはパターン面

88DE3214
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 その「シリコンダイが剥き出しになったLSI」は,米Marvell Technology(以下,Marvell)製でARMアーキテクチャベースのSoC(System-on-a-Chip),「88DE3214」だった。

 「ARMADA 1500 Pro 4K」という製品名も持つ88DE3214は,Android OSを活用したマルチメディア処理用セットトップボックスなどが主なターゲットとなるプロセッサだ。Marvellの製品情報ページによると,「Cortex-A9」CPUコアを4基と,米Vivante製の組み込み向けGPUコア「Vega 1X GC3000」を集積したSoCで,製品名からも想像できるように4Kディスプレイをサポートしており,3840×2160ピクセルのH.265/HEVCを60fpsでデコードできるビデオデコーダも統合しているという。

 ちなみにSIEは,PS4から送られてくる3Dサウンドデータを2chステレオヘッドフォンで正しく聞こえるようバーチャルサラウンド化演算処理を行ったり,「シネマティックモード」時に普通の映像信号(=HMD向けではない映像信号)からHMDの両眼用の映像を作り出したり,PS VRの「ソーシャルスクリーン」機能を実現したりするのが,プロセッサーユニットの役割だとしている。

 いまさらっと流したが,シネマティックモードとは,Blu-ray Discの映像ソフトやPS VR非対応の従来型ゲームタイトルをPS VRで楽しむためのものだ。これを実現するためには,二次元の普通の映像からPS VRの両眼用の映像を作り出す必要があるが,その処理をプロセッサーユニットで行っているわけである。

 一方のソーシャルスクリーン機能は,PS VRでプレイ中の画面を,テレビなどのフラットディスプレイに映して第三者も楽しめるようにする機能だ。
 そもそも,PS4からPS VRへ出力される映像は,HMD側の光学系に合わせて歪んでいる。なので,ソーシャルスクリーン機能を実現するためには,プロセッサーユニット側で「VR向けの歪んだ画像からフラットディスプレイ向けの画像を作り出す」処理が必要になるわけだが,CEDEC 2015でSIEが行った説明によれば,ソーシャルスクリーン専用の映像を表示するときはPS4側でH.264でエンコードし,USBインタフェース経由でプロセッサーユニットへ送信するとのことだった(関連記事)。なので,そうして送られてきた映像に対して,88DE3214側のデコーダを活用しているということになるはずだ。

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K4G2G1646Q-BCMA
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ADV7625×2。HDMIの入出力用となる
 さて,その88DE3214を囲むように4枚あるLSIは,Samsung Electornics(以下,Samsung)製のDDR3L SDRAM「K4G2G1646Q-BCMA」だ。容量2Gbitが4枚なので,総容量は1GBということになる。もちろん,これは88DE3214のローカルメモリだろう。

 部品面ではあと2つ,HDMIポートから伸びるパターンにつながっているチップも目を引くが,これらは米Analog Devices製の双方向HDMIトランシーバ「ADV7625」である。
 プロセッサーユニットは,HDMI端子としてPS4からのディスプレイ入力とHDMI向けの出力,ディスプレイ向けのスルー出力を備えているので,これら3ポートを2基のADV7625で受け持っているのだと思われる。

 ちなみに,前述のシネマティックモードを実現するためには,SoCがHDMI経由で映像を受け取り,加工してHMDに出力する必要がある。実際,88DE3214は4系統のHDMI入力をサポートしており,ADV7625を通じてPS4から送られてくる映像を取り込むことができる仕様なのだ。
 結果,シネマティックモードでは映像を加工するために1フレームの程度の遅延が発生する可能性はある。ただ,VRコンテンツではない以上,シネマティックモードにおいて遅延は許容範囲だろう。ただし,ゲームプレイをしようとすると,遅延が気になる可能性はある。

KLM4G1FE3A-F001
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 次にパターン面を見てみよう。
 ここで目につくのは,88DE3214のちょうど裏側あたりにある,Samsungロゴ入りのチップだが,これは容量4GBのMLC NAND型フラッシュメモリ「KLM4G1FE3A-F001」である。88DE3214のファームウェア格納用という理解でまず間違いない。

88E8080
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 部品面ではもう1つ,やや大型で,Marvellロゴの入ったチップもあるが,こちらはPCI Express接続型のGigabit Ethernet(ギガビットイーサネット,4Gamerの通常表記では「1000BASE-T」)コントローラ「Yukon 88E8080」(以下,88E8080)。PCでも使われることがある,割とポピュラーなチップだ。

 ただ,この88E8080を何に使っているのかは分からない。
 もちろん,ごく普通に考えるのであれば,「HDMIはバージョン1.4以降においてHDMIケーブル経由でイーサネットの信号の送受信を行えるようになっているから,PS4とプロセッサーユニットが通信を行っており,そのために88E8080を用意している」ということになるだろう。

 しかし,HDMI経由のイーサネットは規格上,Fast Ethernet,つまり100Mbps止まりで,Gigabit Ethernet(=1000Mbps)対応である必要がない。また,メインのSoCである88DE3214はFast Ethernetの物理層と論理層,それにGigabit Ethernetの論理層を集積するとのことなので,わざわざPCI Express接続のコントローラを外付けするまでもなくイーサネットに対応できるはずだ。
 付け加えるなら,「PS VRがイーサネットを使っている」という話も,これまで筆者は聞いたことがなかったりする。

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 ここで重要なヒントとなりそうなのが,製品情報ページを見る限り,「88DE3214にはUSBのクライアント機能が集積されていない」ことだ(※USB 2.0のホストコントローラはある)。
 前述のとおり,SIEはPS VRのソーシャルスクリーン機能における動画伝送にUSBを使っているとしていたが,ひょっとするとその仕様が最終製品では変更になり,何らかの形でイーサネットを使う形に改められたのかもしれない。あるいは意地悪な見方をすれば,先の説明自体が誤りだったという可能性もゼロではないだろう。

 ……と,いろいろ妄想がはかどるわけだが,現時点で確たる情報はない。現時点では「88E8080には謎がある」ということでいいような気もする。

 なお,ほかにも部品面,パターン面にはいくつかチップがあるが,それらは表面実装のロジックICや電源といったものであり,主要な機能とは関係がなさそうだ。そのため,「プロセッサーユニットは,MarvellのSoCを中心としたデバイス」という理解でいいだろう。

 実を言うと,過去のPlayStationシリーズの伝統から,「中身はSIEロゴ入りのASICで固められているのでは」と考えていたのだが,SIEロゴ入りの詳細不明なチップは,蓋を開けてみれば1つもなかった。なので,個人的には少々肩透かしを食らった感じもある。

 付け加えると,基板にもSIEのロゴはない。基板のアートワークからにはPS4を彷彿とさせる部分があるので,開発にSIEの手が入っていることはまずもって確実だと思うが,これまでのSIE(あるいは旧ソニー・コンピュータエンタテインメント)の製品構成からすると,やや異質な印象を受ける基板だとは言えるだろう。


価格以上にコストがかかった印象の機構を持つHMD本体


 続いてはHMD側の分解である。HMDは一見,分解する手がかりがなさそうなのだが,飾り板の取り外しを取っかかりにして進めていくと,存外,簡単に分解できた。
 ただ,念のため述べておくと,HMDの分解はまず間違いなく不可逆だ。一度分解したが最後,100%元通りにすることは不可能と断言できるレベルである。

遮光用のラバーは引っ張れば簡単に外せる。汚れや痛みや出やすいパーツだけにメンテナンスを考慮しているのだろう。ちなみにこの遮光ラバー,取り外してみて気付いたのだが,クリーニングのために一端外したとき,再び取り付けるときのガイドとして機能する△/○/×/□マークが接眼部の四隅にあった。ここを押せば簡単に取り付けられるようになっているのだ。非常に芸が細かい
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分解開始。本体両側面にある,填め込み式の飾り板を外し,さらに両面テープのようなもので固定されていた,上下の飾り板もの外すところからスタートとなる
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 分解を進めるにあたっては,PS Cameraを用いたポジション検出用であるLEDを囲む,白い反射板4枚を取り外す。この反射板はけっこう凝っていて,全部同じ形状ではなく,左右でそれぞれ異なる形状だった。
 これを外すとビスにアクセスできるようになるので,それを外す。すると,前面カバーをごっそり取り外せるようになる。

LED用の反射板を取り外して,ビスを取り去ると,右のように前面カバーを取り外せる
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前面カバーを取り外した状態。なんというか,ロボットの顔っぽい感じ
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フレキシブル基板ベースとなるLED部材一式を取り外す
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 上の写真で気付いた人も多いだろうが,HMDの前面カバー下では,小さなプラスチック製基板とビスにより,「工」もしくは「土」の字型でフレキシブル基板が固定されていて,そこに青色LEDが載っている。
 奥に見える基板へアクセスするにあたっては,これら部材一式を取り外す必要があるわけだ。

取り外した部材一式(左)と,LEDモジュール(右)
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 LEDモジュールを搭載した部材一式を外すと,HMD側のメイン基板(らしきもの)にアクセスできるようになる。
 プロセッサーユニットから伸びているケーブルとの接続インタフェースである,少し変わったコネクタや,有機ELパネルとつながているフラットケーブルを外して,ビスを抜けば,基板が外れてきた。

プロセッサーユニットとつながるケーブルのコネクタは,金属製のノブで固定された,少し凝ったタイプになっていた(左)。HMDを被ったままユーザーが動くので,多少の振動やテンションでは脱落しない端子を採用しているのだろう。右は基板を取り出したところで,有機ELパネルとの接続に使うフラットケーブルの外し方を誤り,端子部を割ってしまった。写真に写っている欠片が割れた端子だ
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というわけでこちらが基板。「MSH-01」とある。詳細は後段でチェックしたい
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 これでメインの基板が外れるが,基板を仔細に眺めるのは後回しにして分解を進めていこう。

 ここまで来るとヘッドバンドとHMDユニットを切り離せるようになる。HMD本体下のボタンとつながっているノッチを引き上げ,バンドを引っ張れば簡単に抜けてしまう。

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HMD本体下のボタンとプラスチックパーツでつながっているノッチを引き上げ,バンドを引っ張れば,バンドは簡単に取り外せる
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金属製ののバンド台座を外すと,その下にセンサーユニット(が載っている基板)があるのを確認できる

 あとは,ビスを抜くだけで有機ELパネルユニットも簡単に外れてくる。

接眼レンズユニットと,そこから切り離された有機ELパネルユニット
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 有機ELパネルのスペックは,サイズが5.7インチ,解像度が1920×1080ドット。製造が難しい有機ELパネルでは,サブピクセルの密度を下げるためにペンタイル方式(※ペンタイルBG/RG配列など)を使うことが多いが,SIEの説明によると,PS VRの有機ELパネルではペンタイル方式を採用せず,きちんと1ピクセルをRGB 3つのサブピクセルで構成しているという。「その分だけ,鮮やかな発色と高解像度感が得られるはず」ということになる。

 さて,そのパネルをまじまじと見てみると,中央に実測1〜1.1mmほどの隙間があり,パネルが両眼用に分かれているのが分かる。内部的に960×1080ドット×2枚というような構成になっているようだ。

5.7インチサイズで,実測約130(W)×73(D)mmの有機ELパネル。スマートフォンのパネルサイズに近い。よく見ると中央に1mmほどの隙間があり,960×1080ドット×2枚で構成された,特殊なパネルであることが分かる
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丸まった格好で貼られているフレキシブル基板に何か隠されたチップはないかと,基板が破けるのも構わず両面テープを剥がしてみたところ。ご覧のとおり,何もなかった
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 一方のレンズユニットは,プラスチック製の枠に凸レンズが埋め込んであり,両者を,透明度の低い半透明プラスチックで分けたような格好になっていた。

両眼用の光が混ざり合わないようにする黒い仕切り板は,うっすらと半透明仕様だった
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 レンズの形状は円ではなく,両目用とも,鼻に近い部分が潰れたような形状だ。球面とは思えない歪み方をしているので,非球面のプラスチックレンズを採用しているのだろう。
 SIEによると,PS VRにおいても,市場で先行する「Rift」や「Vive」と同じく,PS4側(=GPU側)で,光学系に合わせた「歪んだ映像」を作って光学系の歪みを打ち消し,正常な映像にする手法を採用しているとのこと。なので,RiftやViveと同じ,レンズ1枚からなる光学系構成というのは,説明どおりといったところである。

レンズユニットは片眼あたり凸レンズ1枚の構成である
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 なお,HMD本体側に残るパーツはセンサーユニットのみで,ビスを外せば簡単に取り出せる。

「ユーザーがPS VRを装着しているかどうか」を判定するためのセンサーユニットを外したところ(左)。詳しくは後段でチェックしたい
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 念のためヘッドバンドもばらしてみたので,こちらは写真中心でその様子を示しておこう。

後頭部のクッション材は引っ張れば簡単に外せる(左)。この容易さからすると,汚れたりした人に対してSIEは保守部品として交換用クッションを用意するつもりなのかもしれない。中央は飾り板を外したところで,そこからさらにビスを外すと,LEDユニットごとバンド部のカバーが外れてくる(右)
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カバーからLEDユニットを外したところ(左)。LED部に透明な拡散レンズが取り付けられており,光を導く仕組みになっていた(右)。非常に凝っている
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錘が大小2個も,バンド部に埋め込んであった
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 興味深いのは装着時の本体後方右側に大小2つの錘(おもり)があったこと。実測重量は大きいほうが約78g,小さいほうが約16.5gあり,合わせて94.5gもあった。
 PS VRの場合,装着時の本体左側側面から後方をケーブルが“這う”ので,それと重量バランスを取って相殺するための錘ということなのだろう。細かいところではあるけれども,しっかりと設計してあることが読み取れる。

 以上,分解はここまでとなる。細かなプラスチック製パーツがこれでもかと組み込んであり,構造もかなり複雑だ。おそらく組み立て工程もかなり複雑だろう。
 専用設計だと思われる有機ELパネルも含め,これを単体税込5万円以下で市販できるというのは,正直,驚きである。それだけ出荷台数を見込んでいるのではないかと思うが,同時に,ほとんど利益は出ていないのではないか,という気もする。


HMD本体側の構成部品は不明なものが多い


 最後に,前段で先送りにしたHMD本体側の基板類を見ておこう。まずはメインと思しき基板からである。こちらでは以下,先ほど外した2つの接続端子があるほうを「部品面」,反対側を「パターン面」と呼ぶ。

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メイン基板の部品面。型番は「MSH-01」のようだ。長い部分で計測して,実測基板サイズは85(W)×55(D)mmだった
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こちらはパターン面

TC858870XGB
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 部品面側で目立つのは「TOSHIBA」ロゴのあるチップだが,これは東芝製のHDMI−DSI(Display Serial Interface)ブリッジ「TC358870XGB」で,つまりは有機ELパネルを駆動するためのLSIである。
 上の基板写真で部品面の左上に見える,「24C16L」と印刷されたチップは容量16KbitのシリアルEEPROMだが,何に使っているものなのかは分からない。USBのベンダー/プロダクトID格納用などに使われることが多いので,その用途かもしれない,といったところだ。

24C16L(左)。部品面にはもう1つ,Texas Instruments製のDC−DC降圧コンバータ「TPS54227」が,電源用に搭載されていた
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 一方のパターン面側だと,最も大きなLSIは「Nuvoton」ロゴ付きの「NUC123SD4SN3」だが,これはNuvoton Technology製のマイクロコントローラである。汎用の(=何にでも使える)コントローラなので,用途は推測するほかないが,LEDの制御や,もしかすると加速度&ジャイロセンサーの前処理,さらにUSBを通じてPS4にセンサーデータを送る処理などを行っている可能性がある。
 次に大きいチップ「WM1801G」は,Cirrus Logic(旧Wolfson Microelectronics)製のオーディオCODECなので,これは,インラインリモコン部などのサウンド周りを担当しているはずだ。

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NUC123SD4SN3
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WM1801G
長方形っぽい形状の「8203」というチップはParade Technology製のHDMIレベルシフター「PS8203」。その周囲に3つあるチップ「BD2802」はローム製のLEDドライバで,ポジション検出用のLEDを駆動しているチップである。右のTIと書かれているチップはTexas Instruments製で,有機ELパネルの電源供給用だろう(※2016年10月21日追記:初出時に不明としていた8003チップおよびTexas Instruments製チップについて読者から情報が寄せられ,おそらく事実であると確認できたため,記事をアップデートしました)
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 センサーユニットが載るサブ基板上のパーツは詳細不明だ。額に接する側には人体を感知する赤外線センサー,裏側には加速度およびジャイロセンサーを載せているのではないかと思われるが,メーカーや仕様は分からない。

「SEN-01」という,いかにもセンサー基板的な型番のシルク印刷が入ったサブ基板。左は額側だ。中央に見えるのはおそらく,赤外線センサーかフォトトランジスタか,そういったものだろう。HMDを被っているか否かを検出するためのセンサーである。右,反対側に載っているセンサーは正体不明だが,加速度およびジャイロを統合したものだと思われる
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VRがどうとかは別にして,純粋に工業製品として魅力的なPS VR


 というわけで,1台お釈迦にしつつ中身をチェックしてきたが,総じて作りはかなり複雑で,コストがかかっていることを窺わせる。HMDの構造が複雑なだけでなく,専用の有機ELパネルを搭載しており,さらにプロセッサーユニット側は,それだけでAndroid向けゲームをさくっと動かせてしまうくらいのスペックを持ったプロセッサだったりするわけで,これが税込5万円以下(※2016年10月15日現在,PS VR単体版)なのだから,ハードウェアとして買い得感が高い製品だと言える。
 もちろん,プレイしたい対応ゲームがなければ,いくら買い得感があっても無用の長物ではあるのだが,VR対応のHMDというより,純粋に工業製品として,魅力的な価格設定であるように思う。

 いずれにしても,SIEがかなりの物量を投入し,本気でPS VRを開発,製造していることは,実機を見る限り間違いない。SIEのVRに賭ける情熱は本物だと信じるに十分な完成度の,第1世代VR HMDである。

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SIEのPS VR製品情報ページ

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  • 関連タイトル:

    PlayStation VR本体

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