インタビュー
スネークの復讐は,プレイヤー自身の復讐。「METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES」小島秀夫監督への単独インタビューを掲載
「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」(PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360。以下,MGSV:TPP)の“プロローグ”にあたる本作の発売に先駆けて,メディア向け体験会「『METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES』BOOT CAMP 2014」が開催され,小島秀夫監督に対するメディア合同インタビューも行われたが,4Gamerではその後,単独でも小島監督へのインタビューを行っている。
本稿ではその模様をお届けするので,興味がある人は是非,インプレッションやメディア合同インタビューと合わせて読んでほしい。
ヒッチコック作品のような長回しの手法を意識的に入れている「MGSV」
4Gamer:
「MGSV:TPP」の開発で非常にお忙しい時期だと思いますが,よろしくお願いします。小島監督といえば映画……ということでお聞きしたいのですが,忙しい中でも相変わらず精力的にチェックされていますか。
週2本は観るようにしています。海外のTVシリーズなども,毎日1本は観ていますね。
4Gamer:
そういえば「ブレイキング・バッド」が面白いというお話をされていましたね。
※ブレイキング・バッド
平凡な高校の化学教師「ウォルター・ホワイト」が末期癌を宣告され,なんとか家族に財産を残そうと麻薬の密造販売に手を染めていく悲喜劇。
小島監督:
「ブレイキング・バッド」はセカンドシーズンまで観ました。あと,「刑事ジョン・ルーサー」がすごく面白いですよ。ああいうのを観てしまうと,日本のTVシリーズには戻れなくなってしまいます。
4Gamer:
海外ドラマにハマるとそうなりますよねぇ……。
小島監督:
そういうのばかり観てしまって,人と話が合わなくなります。
4Gamer:
そのお気持ちはよく分かります(笑)。
小島監督:
自分の時間をなかなか作れないので,本も週に1,2冊読むくらいです。ちなみにウチのスタッフで,一日に1.5冊くらい読んでいる奴がいまして。歩きながらでも本を読むんですよ。左目で周りを見ながら,右目で読んでいます。さらに,そのまま本屋に入って本を買っていますからね(笑)。
4Gamer:
完全な読書狂ですね(笑)。「MGS」シリーズはこれまで小島監督が触れてきたさまざまな映画や小説から着想を得ている部分も多いと思うのですが,「MGSV」をプレイする前にチェックしておくと良い作品などはあるのでしょうか?
小島監督:
意外とないんですよ。ヒッチコックの「ロープ」のような,オープニングからエンディングまでワンショットといった手法は意図的にやっていますけど。同じくワンショットで撮影したシーンが印象的な「ゼロ・グラビティ」を観た人から「あれパクったやろ!」と言われまして,あんな最近の映画をそんなに早くパクれないですよ(笑)。
※ワンショット
長回し。シークエンス・ショットとも。いくつかのシーンをカット割りせず,連続で撮影する技法のこと。
※ロープ
全編をワンショットで撮影したアルフレッド・ヒッチコック監督の映画。
4Gamer:
(笑)。ワンショットになっている「MGSV:GZ」のオープニングは2012年のメタルギア25周年記念イベントで披露されていましたしね。確かに「ゼロ・グラビティ」の長回しも衝撃的でしたが。
小島監督:
アルフォンソ・キュアロン監督は「トゥモロー・ワールド」でもそうでしたね。ワンショットはコストも手間もかかる割に……という話もありますが,そのうえで挑戦しているというのは,すごく立派ですよね。
しかも「ゼロ・グラビティ」に関しては登場人物も少なく,宇宙空間で音もない。そんな中で,普通は90分も映像を持たせられないですよね。企画も通らないでしょうに,それを自分でプロデュースして,息子さんと脚本を書いて成功させるというのは一番カッコイイですよ。
4Gamer:
同感です。そういえば,これまでもインタビューで度々話題に出ていますが,「MGSV」はジョージ・オーウェルの小説「1984年」から強く影響を受けているんですよね?
小島監督:
僕らの世代には衝撃でしたね。「2001年宇宙の旅」「1984年」「ニューヨーク1997」がそれぞれ節目で。それに「1984年」は,あらゆるアーティストが題材にして曲やアートを作っていました。
4Gamer:
デヴィッド・ボウイの「Diamond Dogs」などもそうですよね。
※「MGSV:TPP」でスネークが率いることになる組織の名前も「DIAMOND DOGS」である。
そうそう。元々はそれを歌いながらストーリーを始めようと思っていたんですけど(笑)。いつもウチのスタッフに反対されるんですよ。僕だけオッサンなので,みんなネタが分からないんですよね。CD貸すって言っても,聞いてくれないんですよ。
4Gamer:
良い曲なのに(笑)。では,いわゆる“ダブルシンク”とか“ビッグ・ブラザー”とか,そういった「1984年」で印象的なネタが「MGSV」にも含まれている感じでしょうか?
小島監督:
元々「MGS」にはメタ的な要素がありますから。“モビー・ディック”(白鯨)なども入っていますよ。そういったことに詳しい人は,プレイすれば分かると思います。
ただ,それを前面に押し出しているわけではありません。分からないという人が元ネタをチェックしてみる気になるような,入り口にもなれば良いとは思いますね。
プレイヤー自身が復讐の鬼と化して,スネークと同じ場所に立つ
4Gamer:
音楽に関しても,「MGSV:GZ」の冒頭で流れる「Here's to You」(映画「死刑台のメロディ」主題歌)がインパクト大です。「MGS4」ではエンディングでアレンジ版が流れましたが,今回は原曲ですし……どういった意図があるのでしょうか?
小島監督:
そこは……今は考えてもらうしかないですね(笑)。
4Gamer:
ですよねぇ(笑)。では,あそこでチコが自分の胸にイヤホンジャックを刺していたのは一体……? 完全に常軌を逸している感じでしたが。
小島監督:
ゲーム中で集めることができるカセットテープを聴けば,チコの気持ちも分かってくると思います。
4Gamer:
ああ,パスが尋問されていたり……「METAL GEAR SOLID PEACE WALKER」(以下,MGS:PW)をプレイした身としては,非常にショックでした。「MGSV:GZ」は,クリア後の喪失感がハンパないです……。
前作に思い入れがある人ほど,喪失感が強いと思います。復讐や報復とは何かを考えたとき,人によって重みが違いますけど,「ここまでやられたら,スネークも鬼になるわな」というのは自分が体験しないと分からないじゃないですか。
よくドラマなどで,殺人犯に復讐しようとするのに「憎くても殺したらダメだ!」という感じで踏み止まるドラマがありますけど,実際はそんな気持ちにはなかなかなれないですよね。「MGS:PW」で何百時間もかけてマザーベースを大きくして,水樹奈々さんの歌に聴き入った身からすれば,それをブチ壊されたら「なにしよんねん!」ってなりますよ(笑)。
そうやってプレイヤー自身が復讐の鬼と化して,スネークと同じ場所に立つんです。なので,今回はあんまりギャグとかは入れていません。
4Gamer:
おふざけを楽しむような雰囲気じゃないですからね……。
小島監督:
「MGS」は緊張を強いるゲームなので,あえてダンボールを被ったり,ヒッチコックみたいなユーモアを入れていたのですが,今回に関してはさすがにそれをやるとおかしいかなと思って,なるべく抑えています。……ですが,やはりそういった息抜き的な要素もないと精神的に持たないということで,サイドオプスにはギャグを入れているのですが,メインストーリーに関しては悩みどころですね。まぁ,「MGSV:TPP」ではダンボールは入れます!
4Gamer:
もはや様式美みたいなものですからね(笑)。ちなみに,これまでは仲間達との無線通信が息抜き要素を担っている面もあったと思うのですが,「MGSV:GZ」ではカズとしか通信できませんでした。[L1]ボタンを押して簡単なアドバイスを聞くだけという感じでしたが,「MGSV:TPP」ではどうなるのでしょうか?
小島監督:
「MGSV:TPP」ではもうちょっと進化します。オセロットとも通信できますよ。「MGSV:GZ」でも情報過多だと言われてましたけど,本篇ではもっとできることが広がります。
4Gamer:
「MGS」シリーズは,作品ごとにスネークの位置付けや感情移入のあんばいがだいぶ違いますよね。その点で,今回はプレイヤーの分身という側面が強いのでしょうか?
小島監督:
今回はオープンワールドということで,プレイヤーの視点で進めるものですから,スネークはあまり感情を表に出しません。リニア(直線的)なゲームだとプレイヤーを気にせず怒ったり悲しんだりするのですが,今回はほとんど受動的な存在です。
なので,「マッドマックス2」の主人公に近いですね。本人はあまり感情を表に出しませんが,周りの奴が怒ったり泣いたりして気持ちを代弁してくれるんです。
4Gamer:
なるほど。確かに「MGSV:GZ」をプレイした際に,スネークがいつもより寡黙だなと感じました。そういう意図があったんですね。
小島監督:
例えば「MGSV:GZ」のエンディングシーンでカズが激怒していますけど,そこでもスネークは冷静に見える。本当はカズよりもスネークの方がずっと怒っているはずなんですが,激怒している様子をカットシーンで見せても,その気持ちは「MGS:PW」をプレイしていない人には分からないじゃないですか。それがカットシーンの強みでもあり,弱みでもありますね。
4Gamer:
プレイヤーとスネークの感情に,温度差があってはいけないんですね。
小島監督:
「スナッチャー」や「ポリスノーツ」に近いです。「スナッチャー」なんかは主人公は記憶喪失ですからね。昔のゲームの主人公はみんな記憶喪失(笑)。
4Gamer:
プレイヤーの分身として感情移入しやすいですからね(笑)。つまり,「MGSV」は周囲のキャラクターや環境から物事を読み取り,プレイヤー自身がその意味を考えるゲームだと。
小島監督:
そうですね。自分の立ち位置を周りの情報から察知し,より「MGS」に詳しい人はそこへ自分の感情を付加していく。そのあたりはゲーム中でカセットテープを集めることでもいろいろと分かってきます。
4Gamer:
プレイヤーによって,知識や経験に開きがあるのは当然ですし……。
小島監督:
そうです。それで今回はストーリーテリングの手法を変えています。なかなか分かってもらえないかもしれないですが。
4Gamer:
実際にプレイしないことには,理解しづらいかもしれません。
小島監督:
ストーリーが最初にあるのが,リニアなゲームなんですよ。「MGS」もそこから始まったものですが,今回はプレイすることでストーリーが“出来上がっていく”というか。
例えばTVシリーズの1,2話を観てから,3,4話を観逃して5,6話から再び観始めるような人って少なからずいると思うんです。でも,そういった歯抜け状態でも後に3,4話を観直す機会があるじゃないですか。「MGSV」も同じように,プレイしていくことで抜けていた要素が頭の中で完成していく。最初から順を追って説明していくような作りではないんです。
知識量や諜報力によって戦略が変わるのが理想
4Gamer:
「MGSV:GZ」をプレイして実感しましたが,クリアに至るまでのルートもプレイヤーによって違いますからね。
小島監督:
なので,ゲーム的な難度があまり適用できません。時間帯や天候によっても状況が変わりますから,リアルに自分が遭遇した状況に対してどう対応するか考えることで,答えが導き出されるんです。プレイヤーの知識量や諜報力によって戦略が変わってくるというのが理想ですね。
4Gamer:
「MGSV:GZ」は難度ノーマルでクリアした後にハードでもクリアしたのですが,それほど大きな差は感じなかったですね。流れを理解していたからなのかもしれませんが。
小島監督:
敵兵に発見される距離などが微妙に違うのですが,結局ああいうのは誰が決めるかといえばゲームデザイナーなんですよね。ライフゲージなんかも現実にはないものですから,そういうのはできれば否定したい。だから僕の中では難度云々もなしにしたいんです。腕に自信が無ければ,ゆっくり遠回りしたり,あるいは見つかりにくい夜になってから動くとか。
4Gamer:
ホントに選択できる手段が豊富なので,どうにでもなるんですよね。攻略Wikiなどを作っている人が一番困るパターンですよ。正解が多すぎるから,ベストの攻略法を決め辛いという(笑)。
小島監督:
ストーリーをクリアしたら終わりというのを払拭したいんですよ。「MGSV:GZ」でも,普通に歩いていたら偶然チコやパスまで辿り着いちゃうような人がいてもおかしくない。それで再度プレイしてみたら,また全然違う手段で辿り着いたり。
4Gamer:
その試行錯誤が楽しいので,何度ゲームオーバーになってもあまりストレスを感じませんでした。
小島監督:
これまでのリニアなゲームなら,ゲームオーバーになったら反省して同じ場所を何度も練習すれば進めましたが,「MGSV:TPP」に関しては死んでしまうと全然違うところから復活します。ただ,それでは学習ができないので,どうすべきか悩んでいます。
4Gamer:
しかし,あらためて「MGS」は稀有な作品だと思いました。元々はソリッド・スネークの敵であったビッグボスが,今では主人公としてプレイヤーが感情移入する存在になっていますから。「MGSV:TPP」はついに来るところまで来てしまったという感じで,シリーズファンとしてはなんとも感慨深いというか,複雑な気持ちです。
小島監督:
「ブレイキング・バッド」で主人公のウォルター・ホワイトは犯罪を犯し,人も殺していますが,その気持ちは分かるじゃないですか。あれに近いと思って下さい。家族のために我が身を犠牲にするような善人なのに,もう法的には引き返せないところにいる。共に行動する人間からすれば良い人でも,アングルを変えれば極悪人なんですよ。
4Gamer:
確かに,境遇的にはビッグボスと重なるところがありますね。
小島監督:
ソリッド・スネークならそれでも正義を選んでいたかもしれませんが,ビッグボスなので。
4Gamer:
しかし,話を聞けば聞くほど「MGS:PW」とのギャップが凄まじいですね。
小島監督:
「MGS:PW」はPSPのタイトルだったので,10代向けなんです。それまでの「MGS」はもうちょっと上の層を狙っていたのですが,「MGS:PW」はレーティングを下げて低年齢層向けに作っていました。雰囲気的にも,「ジャンプ」や「マガジン」っぽいキャラクター創りを意図的にやっていたんです。
そして今回は再び年齢層を上げているので,そこがどう受け取られるかですね。
4Gamer:
考えてみれば,「MGS:PW」の頃に10代だったプレイヤーが20代になっていてもおかしくない年数が経っていますね。ある程度,厳しい話にも付いてこられるようにはなっていると思いますが。
小島監督:
ちなみに最初に書いたプロットでは,パスが腐って朽ち果てていくのをチコが隣の檻で見せつけられるという展開がありました。
4Gamer:
oh……それは……さすがに……。
小島監督:
スタッフには「どんな頭してるんですか!?」って言われましたけど,「いやいや,普通普通」って(笑)。
4Gamer:
戦争の悲惨さを描く演出としてはアリだと思いますが,ゲームだとやりにくいですよね……。
小島監督:
ビジュアルに出せませんからねぇ。
4Gamer:
これは「MGSV」のテーマにも関わってくることだと思うので,是非とも聞いてみたいのですが,「復讐は無益だ」と言う人が多くいる一方で,「復讐を果たすことで先に進める」という考え方もあるじゃないですか。小島監督はどちらのタイプなのでしょうか?
小島監督:
僕は10倍返しですよ(笑)。
4Gamer:
やっぱり(笑)。
小島監督:
実際それを実行するかは置いておいて,そう考えることで生きがいを感じるというか,より元気になる人です。「MGS3」のコブラ部隊で言うなら,「ザ・フューリー」ですね(笑)。
4Gamer:
怒りに満ち満ちていますね(笑)。自分も,「復讐は無益だからやめよう」という話にはどうにも違和感を感じてしまって……。
小島監督:
その点,昔の日本にあった「仇討ち」は興味深いですよね。普通は血と血の争いが延々と続くんですが,仇討ちにはその代で終わらせるという決まりがある。復讐心を次の代に持ち越さないというのは,「MGS」のテーマにもつながるところがあります。その制度を国が認めていたというのが,また凄い。
4Gamer:
話は尽きませんが,時間のようなので最後に。「MGS」は現実の時代背景とリンクしたストーリーを描いている作品ですが,現在小島監督が世界情勢で興味を抱いている点はありますか? また,それは作品に反映されているのでしょうか?
小島監督:
「MGS」はずっとアメリカが強かった時代を描いてきました。でも,そんな「強いアメリカ」も変わりつつあるなと感じています。そういった意味では,僕の中で「MGS」も今回で終わりじゃないかという気持ちがありますね。次はもしかしたら違うテーマにすべきかもしれません。
4Gamer:
意味深ですね……。本日はありがとうございました!
「METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES」公式サイト
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METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES
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