レビュー
1万円台前半で買えるコンデンサ型マイク,そのコストパフォーマンスはかなりのものだ
AVerMedia AM310
PCまたはMacとUSB接続すればクラスドライバで動作する仕様で,追加ソフトウェアの類いはなしというシンプルなハードウェアとなっているAM310だが,その品質は配信に本腰を入れたいゲーマーの期待に応えてくれるのか。AVerMediaから実機を入手できたので,テスト結果をお届けしたい。
映像に映っていても安っぽく見えない程度の質感があるAM310
AM310は,製品ボックスの中に,下で写真で示したとおりバラバラになって入っている。
組み立てる必要のあるパーツはマイク本体と,これに取り付けて使用するマイクスタンドを構成する部品である,錘(おもり)入りの台座,支柱,ワッシャー,そしてAVerMediaが「マウント」と呼ぶマイク取り付けアダプターだ。付属の日本語簡易マニュアルを見ながら進めれば苦もなく組み立てられるだろう。
台座に支柱を立て,ワッシャーを挟んでその上にアダプターも取り付けたら,アダプターのねじ切り部にマイクを入れて回していけば,組み立て完了だ。マイクには指向性があるため,最終的にノブのある側が手前を向くようにすればよい。
マイク本体を取り付けて,マイクを設置面に対してほぼ垂直に立てたときの全高は実測約260mm。台座の底面からアダプターまでの高さはざっくり120mm程度――台座が実測約18mm,支柱が同60mm,ワッシャが同2mm,アダプターが同37mm――の高さになる。
総重量は実測約390gだ。
ちなみに今回入手したAM310だと,完全に組み立てたとき,マイク本体が少し傾いているのだが,これは個体差という可能性がある。実際の運用上,この程度の傾きが問題になることはないと断言していいのだが,こういうものに馴染みがないと気分はよくないかもしれない。
実況者と共に映像に映る程度ならそれほど安っぽくは見えない。色味を工夫して,デザインをミニマルでプロオーディオ用マイクっぽく見せることに成功しているからであろう |
マイク背面のヘッドフォン出力端子とPC/MONITOR切替スイッチ。ステレオミニピン端子のヘッドフォンを接続してPC全体の音もしくは自分の声のみモニターできる |
ノブ周り。近づくとメッキ感満載だが,そうしげしげと見るものでもないだろう |
銀色のライン部は,話者から見て背面中央にヘッドフォンモニタリング出力用の3.5mmステレオミニピン端子があり,その上には「PC/MONITOR」切り換えスイッチがある。スイッチを「PC」に入れればPCから再生される音,「MONITOR」だとAM310へ入力した自分の声をヘッドフォン出力可能だ。使い方としては,「AM310をPCもしくはMacと接続したうえで,AM310にアナログ接続型ヘッドフォンをつないでモニタリングする」という感じになると思われる。
一方,話者から見て正面中央のところには,直径約11mm,高さ約8mmのノブが付いているが,これはマイクミュートの有効/無効ボタンとしても機能するヘッドフォン出力音量コントローラで,押すたびにノブすぐ上のLEDが青(マイク有効)と赤(マイク無効)の間で切り替わる。
ちょっと気になったのは,青色LEDが,環境によっては明るすぎる可能性があることだ。付属のマイクスタンドを使う限り,マイクは目線よりも下になるため,いきおいLEDも「気になる人は気になる」程度で済むのだが,部屋が暗い場合はかなり目立つ。下手をすると雰囲気を損なう可能性もあるので,必要に応じて目張りするなどの対策は必要だろう。
なお,ノブのほうは回すだけで簡単に調整できるが,注意したいのは,AM310側のスライドスイッチをMONITORへ入れた状態では機能しないことと,PC側のボリュームコントローラとは連動しないこと。PCの音をモニタリングするとき,PCのシステムボリューム側で設定したボリュームを最大値とし,AM310側のボリュームコントローラを使ってそこから音量を絞っていくイメージである。
Windowsの「サウンド」から確認した限り,AM310は16bit 44.1/48kHzのモノラル入力(=録音)と,16bit 44.1/48kHzのステレオヘッドフォン出力に対応している。いわゆる「ハイレゾ」対応ではないが,ゲーム実況という用途に限って言えば,ハイレゾは現状まったくの無意味なので,必要十分な解像度仕様と言ってしまっていいだろう。
なお,設置にあたっては,マイクを直立不動にすると集音能力が低下するので,実際には話者とマイクが正対するよう傾けて使うのがよい。ただ,マイクを傾けると重心は動くので,その点は注意が必要だろう。
なので,市販のスタンダードなマイクスタンドや,机に取り付けて自由にマイクの位置を動かせるアーム型マイクスタンド(※リンクはいずれもAmazonアソシエイト)と,AM310のマイク(+アダプター)は組み合わせて利用できる。
話者が立った状態で使いたいとか,そうでなくともマイクの位置を少し高くしたいとかいった場合は,スタンドをまるごと他社製の汎用マイクスタンドへ取り替えられるわけで,存外に汎用性は高いのである。
落ち着いた音で録音できる,本格的な入力品質
テスト方法の詳細は別途まとめてあるので,ぜひそちらを参考にしてもらえればと思うが,ざっくり紹介しておくと,ADAM製パワードスピーカー「S3A」からスイープ信号を再生し,これをS3Aのトゥイーターに向けてマイク本体を垂直に立てた状態のAM310で集音し,「Sound Forge Pro 11」で録音し,周波数特性と位相を計測する。
同時に,主観でのテストとして,自分の声もAM310からSound Forge Pro 11経由で録音し,実際にどのような感じに聞こえるかもコメントしたい。
これは4Gamer独自ツールでリファレンスと測定結果の差分を取った結果で,リファレンスに近ければ近いほど黄緑になり,グラフ縦軸上側へブレる場合は程度の少ない順に黄,橙,赤,下側へブレる場合は同様に水,青,紺と色分けするようにしてある。
差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。
一方,フロアノイズ(=部屋の中で鳴っている,「ゴー」という低周波の定常波ノイズ)やルームノイズ(=エアコンなどが出す,「サー」という高周波の定常波ノイズ)といった,録音環境としてはかなり厳しい一般家庭で,できる限りクリーンな音で収録するのに,低周波と高周波を丸めるのは理に叶っている。
※1.4〜4kHz程度の中高域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。
また,そのバランスのよさも特筆すべきだろう。プロ用というかプロシューマー用の低価格コンデンサマイクだと,大半はプレゼンスが強すぎてガリガリした音のものが多く,使用に堪えなかったりするのだが,AM310はこの手のコンデンサマイクとしては低価格であるにも関わらず,プレゼンスが強すぎることもなく,低周波や高周波の丸め方も緩やかなので,「プレゼンスだけで聴かせる,ヘッドセットのブームマイク」のような特性にならず,結果として,けっこう気持ちよい音で声を録音できる。声の響く低周波帯域である60〜80Hzがプレゼンスより少し弱めに残っているのは,とくに心地いい。
ただしこのあたりは,極端な低ビットレートで収録した場合,籠もる原因になることもある。つまりAM310は,ボイスチャットのような低ビットレートに使うのではなく,あくまでも比較的高いビットレートで録音するのを前提とした製品だということである。
指向性が結構強いのも特徴で,高価な製品のように指向性を切り換えたりもできないが,「これで十分だろう」と思わせてくれる,しっかりしたカージオイド型なので,扱いやすい。
というのも,AM310の横や後ろから喋った場合,音が籠もって,音量も小さく聞こえるからだ。正面からしゃべりかけたときだけ,先ほど示した周波数特性で集音してくれるわけで,横や背面で鳴っているノイズを,低周波と高周波のロールオフと,指向性とで低減して,声がノイズまみれにならないよう調整してくれているわけである。筆者宅だと,とくに配慮せずとも,ほぼノイズの乗らない声で収録できたくらいだ。
なお,コンデンサマイクのレビューではいつも書いていることだが,コンデンサマイクは感度が高く,マイクに触れてしまうと,一般的な普通のダイナミックマイク以上にタッチノイズも拾う。また,机を叩いたりした場合は,マイクスタンドを通じてその音もすべて拾うと考えて差し支えない。
なので,机をバンバン叩いて実況するようなタイプのユーザーは,宙づり式のマイクスタンドに付け替えたりするような対策が必要だ。また,ノブのあるほうが話者の側なので,そこから左右15度くらいの範囲内でしゃべることもお忘れなく。
ヘッドフォン出力は,周波数特性こそ良好ながら,位相が若干ズレる
お次は出力品質だ。
AM310はヘッドセットのヘッドフォン部のようにスピーカーがあるわけではなく,空気を通った状態で計測するわけではないため,ダミーヘッドは必要ない。今回は,シンプルにAM310のヘッドフォン出力からピンクノイズを出力し,RME製マイクプリアンプ「Quad Mic Pre」でレベルマッチングを行ってから,専用インタフェース「HD I/O 8x8x8」経由で,Pro Tools用PCI Expressインタフェースカード「Pro Tools|HDX1」の差さっているMac Proへ音を入れて,Mac Pro上の「Pro Tools 12.7 Software」で録音。それをWaves Audio製の「Paz Analyzer」(旧称:PAZ Phychoacoustic Analyzer)で解析し,周波数特性と位相特性を取得することになる。
結果は下に示したとおり。差分画像の見方は先ほどと同じだ。
ヘッドフォンモニタリング出力の周波数特性は,マイクの“オマケ”的な機能としては非常に優秀だ。90Hz以下のわずかな落ち込みを除き,ほぼフラットなのはお見事と言うほかない。
そもそも録音する声自体がモノラルマイクで収録されたモノラル音源なので,AM310のヘッドフォン出力で位相を気にする必要はないだろう。また,モニタリングしていて,位相ズレが原因の気持ち悪さを感じることもなかった。AM310で本格的にゲームサウンドを聞いていくとか,そういうことなら話は別だろうが,モニタリング用であれば必要十分と言い切ってしまっていいだろう。
ゲーム実況の音声品質レベルを向上させる,低価格な実用機
ただ,純粋にUSB接続型コンデンサマイクとして,AM310は優秀だ。とにかくノイズが少なく「いい声」で録音できるのは,ユーザーにとって恩恵が大きい。また外観も,最高ではないにせよ,価格なりに頑張っているため,少なくとも映像越しだと,貧相には見えないだろう。
実際の運用にあたっては,マイクミュートの切り替えとヘッドフォンモニタリング出力の音量調整を除き,すべて録音機器側で調整を行う必要があるものの,声の録音用なのだという前提に立てば,AM310の仕様は必要十分だと考えているため,そのあたりは減点対象にならないと,筆者は考えている。
一言でまとめると,AM310のコストパフォーマンスは高い。「ヘッドセットのマイクを用いた実況」から一歩前へ踏み出したいとき,考慮に値する製品だ。
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