インタビュー
「スーパーマリオ 3Dワールド」で,“3Dマリオ”初の本格的なマルチプレイが実現。その道のりを開発陣に聞く
マリオと女性キャラクター2人の
構図を想定したロゼッタの参戦
4Gamer:
そういえばプレイヤーキャラクターとしてはもう1人,ロゼッタが登場するそうですね。
はい,先ほどお話したように,女性にも遊んでほしいと考えているんですが,複数の女性が集まって遊ぶことを想像すると,ピーチが取り合いになるかもしれませんよね。それと,マリオと女性2人の旅という絵も面白いかな? と思って,今回はロゼッタを追加しました。
4Gamer:
確かにマリオシリーズで女性2人が登場するというのは,あまりない構図ですね。
林田氏:
そいうこともあって,キャラクターがかぶらないようにピーチとは対象的な,ちょっと神秘的なロゼッタを選びました。だからネコに変身したときは黒猫になるんです。
4Gamer:
変身後のカラーリングにもそういった意図があるんですね。
ちなみに,なぜロゼッタだったんでしょう? 女性キャラクターとしては,デイジーなんかもいますが。
林田氏:
具体的には言えないんですが,本作で彼女が出てくるのがそういう場所だからというのがあります。
4Gamer:
プレイしてみれば分かる,と。
林田氏:
ええ。ぜひ楽しみにしつつ遊んでみてください。
あとデイジーだと,シルエットもピーチと似ているので,隠しキャラクターとしてちょっとスペシャル感がなかったという理由もあります。
4Gamer:
確かにデイジーだと,単なる色違い感が出てしまうかもしれませんね……。
そういえば,ロゼッタはスピン攻撃というアクションも個性的ですよね。ほかのキャラクターにはない攻撃方法がしっかり用意されていることに,ちょっと驚きました。
元倉氏:
一度クリアした人も,彼女を使ってもう一度ゲームをプレイし直してもらいたいということもあって,特別なアクションを用意したんです。
4Gamer:
ほかのキャラクターを使ったときの,“踏む”とは違う遊び方ができるというわけですね。
元倉氏:
ええ。今回は“踏む”というアクションを大事な遊び方として考えて,コースの構成なども考えています。そういうコースを,スピン攻撃のできる彼女で遊んだときに,どんな感覚になるのかを,ぜひ体験してください。
3D空間をより楽しむために
“踏む”というアクションを強調
4Gamer:
前作の3Dランドもそうでしたが,やはり“踏む”アクションは,ここ2作品で重要視されていたんですね。
はい,マリオ64でパンチができるようになって以降,3Dのマリオシリーズはずっと踏むこと以外にも攻撃方法がありました。そこであえて,3Dランドではジャンプして踏むことに焦点を絞ったんです。今回も,踏むことで3D空間を楽しめるという作りを継承しています
4Gamer:
3Dでありながら,2Dマリオと同様の感覚が味わえたのは,踏むことにフォーカスされているからなのかもしれませんね。
元倉氏:
そこは意識していました。3DSは裸眼立体視で,空間把握もしやすかったですからね。
……そういえば3Dランドは,3Dを切っても問題なく遊べるように作るのに苦労しました。
4Gamer:
それはなぜでしょう?
林田氏:
3DSって,プレイヤーが裸眼立体視をオフにできるんですよね。
裸眼立体視をオフにしてもちゃんと遊べるものにしなければならないということに,開発途中で気付いたんです(笑)。最終的には,裸眼立体視がオフでもきちんとクリアできるようなジャンプアクションにできましたが。
4Gamer:
ああ……そんな苦労が隠されていたんですね。
林田氏:
でもその甲斐があって,今回,裸眼立体視なしのTV画面でも3Dのジャンプアクションが遊べるものが作れたんだと自負しています。3Dランド以前は,そこまでたどり着けませんでしたからね。
4Gamer:
個人的には,マリオ64では空間把握が難しくて敵を踏みづらくなったことで,それを補うためにパンチが導入されたのではないかと思っていたぐらいなんですね。それが3Dランドでは,空間把握もできて敵を気持ち良く踏めるようになっていたので,けっこうびっくりしました。
林田氏:
やっぱり“踏む”アクションは,ある意味でマリオのだいご味ですからね。
デザイナーのちょっとしたミスが
「ダブルマリオ」を誕生させた
4Gamer:
もう一つ新しいパワーアップとして,「ダブルマリオ」がありますが,あれはどのような経緯で導入されたんでしょうか?
元倉氏:
1人で遊んでいるときにマルチプレイの感覚があれば……ということは,ずっと考えていたんです。ただ,ダブルマリオがこういう形になったのは,コースを作っているスタッフが,間違えてマリオを2体,コース上に置いてしまったことがきっかけなんですよ。
4Gamer:
えっ,それは単純なミスとして,ですか?
元倉氏:
ええ。ところがそれを,実際に動かせてしまったんですよ。後ろからついていくような分身は想像しやすいのですが,同期している動きがそれまでの1人プレイとは感覚が違って新鮮だったので,そのまま採用したんです。
4Gamer:
とはいえ,簡単に2人出すだけでは,ゲームとして成立させるのは難しくありませんでしたか?
元倉氏:
はい,確かにそのとおりで,後ろからついてくるほうのスピードを少し早くして追いつくようにするなどの調整を入れたことで,1人でもなんとなくマルチプレイをしているような感覚が味わえるようにできたんです。
一方が引っかかって奈落に落ちてしまうこともあるんですが,マルチプレイで遊んでいても誰かが落ちることはありますよね。
4Gamer:
何やってんの! っていう(笑)。
元倉氏:
ええ。遊んでいる感覚としては,あれに近いものが生まれていると思います。
林田氏:
ダブルマリオはファイアマリオなどの変身と併用ができるので,変身×分身という遊びもできるようになっています。
ハードの性能が上がった分,出現する敵の数も増えているんですが,そこでダブルマリオになれば,1人プレイでもマルチプレイのときように,複数のマリオ対複数のクリボーの対決を実現できます。
4Gamer:
さらにチェリーを取れば,3人,4人と増えてすごいことになりますよね。
元倉氏:
1人なら最大5人,4人同時プレイならば最大8人のキャラクターが入り混じることになりますからね。マルチプレイでの巨大マリオなども含めて,これまで見たことがない絵面がけっこう見られるようになっています。
4Gamer:
ああいう演出を見たときに,グラフィックス性能が向上すると,リアルさの追求だけではなく,こういうものも実現できるようになるんだな……というのが,理解できました。
それはありますね。マルチプレイ時にカメラが引いても見やすいとか,派手さとは別の部分でも,グラフィックス性能が向上した恩恵は受けていると思います。
プレイヤーはキャラクターの動きや姿勢を見て,自分がどういう操作をすればいいか判断するので,クッキリ見えるほうが遊びやすいんです。
4Gamer:
そういえば,コース自体も広く感じられるようになりましたよね。
林田氏:
ええ。実は当初,3Dランドのキャラクター性能で開発を進めていたんですが,そうするとあの広い画面に対してスピードが遅いんです。3DSの画面にマッチしたスピードでは合わないので,途中からスピードの調整もしました。それもあって,より広さを表現できているかもしれません。
4Gamer:
単にマップだけではなく,そういった細かな部分もきっちりチューニングしているんですね。
林田氏:
ええ。それと,道幅などが確実に広がったことで,そのぶん3Dマリオの探索の面白さにフォーカスが当たってくるので,いろんな場所にいろんなご褒美を用意しています。
マリオのご褒美というと,これまでコインや1UPキノコしかなかったので,今回「ハンコ」というものを新たに用意しました。
4Gamer:
プレイヤーがMiiverseで使えるアイテムをゲーム内で入手できるというのは,面白いアイデアだと思いました。
林田氏:
苦労して取った証をMiiverseに投稿できるというのは,嬉しいものだと思うんです。
私は絵描きではないので,緻密な絵を描いている投稿がうらやましくて,このハンコがあれば発想次第で勝負できるかなと思っています(笑)。
4Gamer:
ハンコを使った大喜利みたいな遊び方もできそうです。
5歳から95歳まで遊べるような設計を
常に心がけて開発している
4Gamer:
例えばなんですが……オープンワールドのように,コースとコースがシームレスでつながった世界で自由にマリオを冒険させるといった仕組みを採用することは考えませんでしたか?
それも検証はしているんですが,次のコースをやるモチベーションへつながりにくいというのがありました。細かいストーリーがあるわけではないので,次への目的がないと,どこに行っていいのか分からなくなる可能性があるんですよね。そのため今回は,そういう仕様を入れる可能性は低かったです。
4Gamer:
なるほど,確かにどっちへ行っていいか迷ってしまうかもしれませんね。今後そういうものが出てくる可能性はありますか? それともやはりマリオはステージクリア型にこだわりたいですか?
林田氏:
こだわり……はとくになくて,面白ければなんでもいいと思っています。極端な話,マリオ64などはそれまでの2Dマリオシリーズを全部ぶち壊して完成していますからね。そのときどきのハードに合った,ベストな面白さが実現できるのであれば,何でもいいと思うんです。その半面,いろんな人に遊んでもらいたいという気持ちはあります。
そういえば,任天堂が標榜する「5歳から95歳」というところにのっとって,適正年齢の子供にモニタープレイをさせてみたんですが,コースセレクト画面からW1-1になかなか入ってくれなかったんですよ(笑)。
4Gamer:
微笑ましいですけど,もどかしいですね。
林田氏:
とにかく右へ行こうとして,コースセレクト画面のワールド1にある川を,いかに超えるかの努力をしているのを見て,W1-1に矢印が出る仕掛けを入れました。
幅広い層に遊んでもらうことを考えると,とことんまで親切な作りにしなければいけないんですよね。
4Gamer:
確かに。世の中は,いわゆるゲームの文法を知っていて,画面を見れば分かる人達だけではないですからね。
とはいえ,最初から完全なチュートリアルが入っているわけでもないですよね。そのあたりはどうお考えですか?
元倉氏:
やはり,ゲームを早く遊びたい人もいますから。
4Gamer:
なるほど,それは分かりやすい理由です。
元倉氏:
電源を入れてから遊べるまで,どれぐらいの長さが適切なのかも検証しているので,知っている人ならなるべく早く遊べるようなバランスはとっていますね。
林田氏:
一番考えるのは,すぐ遊べるようには作るけど,そこで分からなかった人をどうアシストするかですね。
ゲームが好きな人にとっては,邪魔にならない形でサポートを入れることを,常に考えるようにしています。
4Gamer:
そういえば,マリオシリーズは,ステージ中に新しいギミックが出てきたとき,それの簡単な使い方がそれとなく配置されている傾向は強いですね。
林田氏:
そのギミックが何のためのものなのかを説明するテキストがなく,やってみることで理解するというのが,ゲームとしては楽しいところでもあるのかなと思うんですよね。
隠された数多くの小ネタが
Miiverse投稿のモチベーションを上げる
4Gamer:
Wii U GamePadの画面をタッチすることで気付く細かいギミックがあったり,望遠鏡を覗くとドット絵のルイージを見つけられることがあったりと,少し遊んだだけでもかなりいろいろな小ネタに触れることができましたが,ああいうものはどれぐらい用意されているんでしょう?
かなりあると思います。とくにタッチするネタはけっこう入れましたね。コース中で芝生をタッチした軌跡に花が咲くというのは,E3に出展したときから入れていたんですが,全然話題にならなくて(笑)。
4Gamer:
それは気付きませんでした(笑)。気付いた方はいたんでしょうか?
林田氏:
ゼロだったと思います(笑)。別に点が入ったりするわけでもないですし,ゲームの進行に必要なものではありませんからね。
4Gamer:
そのあたりを見つけたら,Miiverseに投稿するといいかもしれませんね。
林田氏:
それはぜひやってほしいですね。全部見つけてもらえるのかは分かりませんけど。
4Gamer:
そんなに隠れた小ネタがあるんですか?
林田氏:
数ももちろんありますけど,こんなの見つけられるか!? というものもありますので。
4Gamer:
逆にそれを見つけたら,きっと誰かに言いたくなりますよね。それもまた,オンラインのコミュニケーションを活性化させる要因になるでしょうし。
その一方で,マルチプレイはオンラインには対応していなくて,「ゴーストMii」どまりでしたが,そこに理由はあるんでしょうか?
元倉氏:
最初からオンラインのマルチプレイについては考えていませんでした。マリオシリーズは,比較的長期間にわたって遊んでいたただくことが多いので,自分が遊んでいるタイミングと,一緒に遊びたい人のタイミングが合わないというのも,理由の一つです。
あとは,マルチを遊ぶならみんなで集まってほしいということもありました。
4Gamer:
一か所に集まってワイワイ楽しむというのが,念頭にあるんですね。
多くのコントローラーに対応しているのも,そのためでしょうか。
元倉氏:
はい。当初から,ゲームを遊ぶまでのハードルを下げたいという意識がありました。手元にコントローラーがあって種類を選ばずに手軽に参加できれば,マルチプレイにも向いているということにもなりますよね。
4Gamer:
Wii U GamePad,Wii U PROコントローラー,Wiiリモコン単体,Wiiリモコン+ヌンチャク,Wii クラシックコントローラPRO,そしてWii クラシックコントローラにまで対応しているというのには驚きました。
ではこの中で,どれが一番オススメでしょう?
林田氏:
いろいろ触ってみましたが,それぞれが面白い感触でしたね。ただ個人的には,Wii U PROコントローラーがしっくりきましたね。
4Gamer:
ということは,Wii U GamePadが絶対というわけではないんですね。
林田氏:
はい,1人プレイでも別のコントローラで遊ぶことができます。ただ一部,Wii U GamePadでないと遊べないコースがあるので,そのときは持ち替えていただくことになります。
4Gamer:
Wii U GamePadは手元の画面でも遊べますしね。寝転がって遊べるのは,一度体験してみると実にいいもので(笑)。
林田氏:
それは私も絶対やりたかったんです(笑)。
ゴージャスなサウンドは,
ビッグバンド編成による生演奏
4Gamer:
少しだけ,サウンドについてもお聞かせいただけますか?
ハードウェアの進化もあって,結構リッチな聴き心地という印象を受けたんですが。
林田氏:
今回マリオシリーズとしては初めて,ビッグバンド編成の生音を使ったゴージャスな曲を用意しました。生録音したものが,ゲーム中で流れています。私個人の印象としては,少し大人な感じで,そういう曲も意外にマリオと合うんだなと思いましたね。
元倉氏:
今回の世界観に合っているんですよね。マリオギャラクシーは,オーケストラ演奏で壮大さを出してしましたが,今回はもう少し馴染みのある,聴いたことがあるジャンルにしています。
4Gamer:
一部和風のステージなんかもあって,そこのBGMもマリオとしては珍しい印象を受けました。
林田氏:
ちゃんと尺八や三味線の音も生録しました。クラブニンテンドーのポイント優待でサウンドトラックCDをプレゼントする予定もありますので,そちらも楽しみにしていてください。
4Gamer:
それはいいですね。プレゼントのサントラは毎回ゲームが出るごとに楽しみにしているんです(笑)。
林田氏:
今回はジャケットやCDの盤面も描き下ろしの2枚組で,77曲も収録しているので,きっと楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
これもまたボリューム満点の仕様ですね。
あ,そうそう,実際ゲームのほうは,どのぐらいのボリュームがあるんでしょう?
3Dランドよりは確実に多いです。コースも広くなっていますし,ハンコなどを集めたり,それを使ったMiiverseの投稿などをしていると,さらに時間はかかると思います。
また,最後のほうのお楽しみも,3Dランドと同様に仕込んでいますので,そこもご期待ください。
4Gamer:
3Dランドと比べると,難度に変化はありますか?
林田氏:
うーん,クリアするだけでしたら,3Dランドとさほど差はないと思います。そこからハンコを集めたりとか,いろいろなことをやり出すと,けっこうたいへんかもしれません。
4Gamer:
逆に言うと,それだけ末永く楽しめそうですね。
林田氏:
そう思っていただけると嬉しいですね。
そして攻略に疲れてきたら,「ルイージブラザーズ」で息抜きをしていただければ(笑)。「New スーパーマリオブラザーズ U」のセーブデータがあればすぐ遊べますので。
4Gamer:
ルイージの年ですしね(笑)。
それと最後にお聞きしたいんですが,これまで3Dランド,3Dワールドと来て,次回があるとすれば,一体どんなタイトルになるんでしょうか?
林田氏:
ギャラクシーのときにも同じことを聞かれたんですよ。宇宙まで行ってしまうと,さすがにそれ以上はなくて(笑)。
4Gamer:
ですよねぇ。
林田氏:
そこで考え方を変えて,歴代タイトルの名前をお借りすることにしました。3Dランドは携帯機ということもあって,ゲームボーイの「スーパーマリオランド」から,3Dワールドは据え置き機なので,スーパーファミコンの「スーパーマリオワールド」に由来するタイトルにしています。
どちらも私自身,思い入れのあるゲームですから,その力をお借りしたという形ですね。そういう意味では,当時「スーパーマリオワールド」を楽しく遊んだという人にも,今回あらためて興味を持ってもらえると嬉しいです。
もちろん,現役でずっとこのシリーズを遊んでくださっている方にとっても,「スーパーマリオ 3Dワールド」というタイトルが,記憶に残る作品になるといいな,と思っています。
4Gamer:
そう考えると,マリオシリーズって本当に息が長いですよね。複数の世代をつなぐシリーズになっているというか。
林田氏:
そうですよね。だからこのマリオ3Dワールドを遊んでくれた方々が,ゲームを作る立場になったときに,それに影響された「スーパーマリオ 4Dワールド」を作ってくれれば,本当に嬉しいですよね(笑)。
4Gamer:
4D! どんなことになるのか想像もつきませんね(笑)。
ともあれ,本日はありがとうございました。
開発時のたいへんな苦労を,大笑いしながら明かしてくれた林田氏と元倉氏。そんな取材中の様子から,プレイヤーを楽しませることに対して前向きで,自分達も楽しみながら作っているという印象を強く受けた。
そしてその手腕や熱意は,この「スーパーマリオ 3Dワールド」の細部にまで盛り込まれている。このインタビューのどこか一部にでも反応したり,共感できたなら,ぜひゲームをプレイしてみてほしい。
「スーパーマリオ 3Dワールド」公式サイト
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