レビュー
「KINGDOM HEARTS III」レビュー。遊ぶ人をとことん楽しませることにこだわった,最高のエンターテイメントを体験しよう
奥深いストーリーが人気の本シリーズは,2002年から展開されているが,「KINGDOM HEARTS II」から数えると,実に14年ぶりのナンバリング新作となる。多くの登場人物によって綴られてきた,マスター・ゼアノートを巡る「ダーク・シーカー編」の物語が,ついにクライマックスを迎える。本稿では,そんな本作のレビューをネタバレ少なめの内容でお届けしていきたい。
なお,今回プレイしたのはPS4版で,コントローラのボタン表記は,DUALSHOCK 4のものに準じている。
本作はナンバリングとしては3作目だが,シリーズとしては9作目(リメイク,アップデートタイトルは含まない)。その間に発売されたタイトルや発売年,時系列などについては,筆者が2014年に担当した「KINGDOM HEARTS -HD 2.5 ReMIX-」のレビュー記事に記載しているので,気になる人は確認してほしい。
本作が発表されたのは,E3 2013のSCE(当時)カンファレンスだった。発表から実に6年,開発期間はそれ以上のものとなるはずで,発売日を首を長くして待っていたファンも多いことだろう。
その期待感は,本作のオープニング映像で大きく膨れ上がる。宇多田ヒカルさんとSkrillexさんが歌う「Face My Fears」に合わせて,過去シリーズと本作のストーリーがリンクしてクライマックスへと向かっていく内容だ。すでに公開済みのムービーではあるものの,実機で見るとやはりグッとくるものがある。
目を見張るのはその映像の美しさだ。PS4とXbox Oneで発売されたことで,ただ綺麗になったというだけでなく,収録作品の絵柄を踏襲したグラフィックスの再現度が上がっており,キャラクターの動きや表情なども原作に忠実だ。このあたりはシリーズで培ってきた演出におけるノウハウや,長期にわたるコラボの実績が生きているのだろう。
また,ムービーとゲーム画面のグラフィックスにほとんど差がなく,プレイしていて違和感を覚えることがない。実際にリアルタイムムービーも多く,操作できるシーンへとシームレスに移行していく様子は,プレイしていて心地よかった。
本作の主人公は,もちろんソラだ。「KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]」のキーブレードマスター承認試験において,闇に飲み込まれゼアノートの器にされかけたことで,持っていた多くの力を失ってしまう。ゼアノートとの決戦を前にその力を取り戻すのが,本作の冒険の目的の1つとなっている。
毎度のことながら,過酷な境遇にありつつも明朗快活を地でいくソラのキャラクターは本作でも変わらず,見ていて清々しい。好みもあるだろうが,個人的には彼のような正統派の主人公には好感が持てる。ソラの中にはあの人物の心が眠っていて,彼はそれを復活させようとするわけだが,その結果が一体どうなるのかもストーリーにおいて楽しみなところだった。
ソラの前に現れたアンセムとゼムナス。彼らの登場が,ソラに新たな決意をさせる |
リクももちろん登場。王様とともにソラ達とは別に行動している |
物語の進行はこれまでと同様,宇宙船のグミシップに乗って,ワールドマップに存在するワールドへと移動し,そこを冒険していく。本作のワールドマップにはいくつかの空間が存在していて,ワールドをクリアすることで新たな場所へと行けるようになる仕組みだ。
宇宙空間に点在するワールド。最初におもむくときはグミシップで移動する |
3Dシューティングの移動シーンでは,敵との戦闘もある |
ワールド内はアクションゲームの要領で自由に行き来ができ,「ハートレス」や「ノーバディ」といった敵と遭遇することでシームレスにバトルへと突入していく。キーブレードを使って戦うアクションバトルでありながらも,方向キー入力または[L1]のショートカットからRPGのようにコマンドを選んで戦えるのも,KHシリーズの大きな特徴だ。
画面左下にあるのが「コマンドメニュー」で,通常はこれが「たたかう」の状態となっているため[○]を押すだけで攻撃を行え,方向キーで素早くコマンドを選んで[○]を押せば装備中の魔法やアイテムなどを使用できる。
攻撃や魔法の対象は,付近にいるカーソルが出ている敵となるが,[R1]を押すことで対象を固定するロックオンも可能だ。攻撃は対象に向かってホーミングするので,ボタンを連打しているだけでも気持ちのいいコンボが繰り出せる。
その一方で,敵も確実にこちらを狙って攻撃してくるので,周囲を認識しながらの回避やガードも重要だ。また,敵とのレベル差が大きいと進むのが困難な場合もあり,各ワールドに表示された「バトルレベル」を基準に進むのが確実だろう。
敵に攻撃を連続してヒットさせるなど,バトル中に特定の条件を満たすと,一定時間「シチュエーションコマンド」が出現する。これは[△]を押すと発動し,より強力なアクションを繰り出せる。攻撃の場合は「フィニッシュコマンド」,魔法の場合は「上位魔法」,さらには瀕死の状態から発動する攻撃的なモード「レイジフォーム」,装備中のキーブレードの変形,同行の仲間との連携など,その種類はさまざま。
さらに本作では,新システムとして「アトラクションフロー」が登場している。これはバトル中に緑色の「チャンスマーカー」が表示された敵を攻撃すると現れるシチュエーションコマンドで,ソラ達がテーマパークのアトラクションのような攻撃で,敵に大ダメージを与えるというものだ。巨大な海賊船がスイングして敵を巻き込む「パイレーツシップ」,一人称視点で敵を撃ちまくる「シューティングライド」,3つのコーヒーカップが壁に反射しながら敵に体当たりする「スピニングカップ」など,見た目や効果はフィールドのシチュエーションによって異なっている。ライトアップされた乗り物が現れる演出で,バトルをさらに楽しく盛り上げてくれる。
本作のバトルの優れているところは,こうした選択肢が多い点だ。コマンドとシチュエーションコマンド,別の世界から仲間を呼び出す攻撃「リンク」,キーブレードの切り替え,アビリティ装備によるアクションの変化,FOCUSゲージを消費して遠距離の敵を攻撃する「シュートロック」,仲間の行動設定など非常に多彩で,初心者から上級者まで,好みやプレイスタイルに合わせた幅広いゲームプレイが楽しめる。ゲームを進めることで,見た目に面白いものがどんどん増えていくので,飽きずにプレイを進められるのだ。
こうしたプレイヤーを楽しませる要素は,バトルのみならず,ちょっとした移動やイベントシーンにも,そこだけでしか体験できないようなギミックやミニゲームが無数に組み込まれている。プレイヤーを少しも退屈させないという開発陣の心遣いが,コントローラを通じて伝わってくる仕組みはさすがだと感心させられた。
筆者は,携帯端末の「モバイルポータル」からプレイできるミニゲーム「クラシックキングダム」の「GIANTLAND」がお気に入りだ。1980年代初頭に流行った携帯型の液晶ゲームをオマージュしているわけだが,当時の製品を知っている筆者にも納得できるような作りが嬉しかった。
モバイルポータルは写真撮影もできる。ソラが自撮りをする日が来るとは…… |
クラシックキングダムの一部は「KINGDOM HEARTS Union χ」でもプレイが可能だ |
本作で登場するディズニーのワールドは8つ。そのうち5つが今回新たに登場したものだ。「トイ・ストーリー」や「モンスターズインク」など,時代的にも世界観的にも登場していそうでしていなかった作品のワールドも用意されている。
個人的には,「トイ・ストーリー」の「トイボックス」がお気に入りだ。小さなおもちゃの姿になったソラ達が冒険するこのワールドは,ウッディやバズ達のスケールに合わせた巨大な世界である。
主なフィールドとなる「ギャラクシートイズ」は,いかにもアメリカンな大型トイショップで,派手なパッケージや棚の値札,ゲーム売り場の試遊台など,細かなところまで作り込まれていて,走り回っているだけでもワクワクする。ソラはここで「ギガース」というおもちゃのロボットに乗り込んで戦うことになるのだが,その実物が欲しくなってしまうような,いかにもなデザインがまた心憎い。
日本にはない雰囲気を持ったトイショップ,ギャラクシートイズ |
ギガース相手にはギガースが確実。ソラが搭乗できる機体は3種類 |
ワールドに登場するキャラクターは,作品と同じ人物が声をあてているものが多いが,筆者がグッときた存在は,ラプンツェル役の中川翔子さんだ。声優としての演技がうまいのはもちろんのこと,かつて筆者は彼女が対談連載を持っていたゲーム雑誌でライターを担当していて,彼女と本作のディレクター野村哲也氏の対談に立ち会った記憶がある。当時は野村氏のいちファンのアイドルだった彼女が,10年以上のキャリアを経て声優としての実力を身に付け,タイアップなどではない形で同氏の作品に出演していることを感慨深く思いながらワールドを進めていた。
長い長い髪の毛を使って活躍するラプンツェルは,キャラクターとしてもかなり面白いので注目してみてほしい。
ワールドに関してもう1つ,「トワイライトタウン」に触れておきたい。ディズニーの作品からの出典ではなく,「KH」シリーズオリジナルのワールドで,常に夕日に照らされている。街中をトラムが走る懐かしい街角には,スクルージが開業したレストランや野外シアターが設けられ,かつて訪れたときよりもずっと賑やかな印象を受けるはず。もちろん,街外れの幽霊屋敷も健在だ。ソラはここである大きな決断をするのだが,そちらはゲーム本編でお楽しみいただければと思う。
シリーズを通してのストーリーに大きな注目が集まる作品であり,本作でもシリーズに関わる人名や専門用語などが多数登場するので,通して遊んでいないと理解できない部分も多いだろう。実のところ筆者も,「あれ,これってどうなんだっけ……?」と考えてしまうところがそれなりにあったりする。
幸いゲームには,本編のストーリーに関する「メモリーアーカイブ」(5本の「IIIに繋がる物語たち」のムービー)や「キーワードグロッサリー」(用語辞典),「キャラクター事典」などが完備されているので,自身の記憶にないところや忘れてしまったところはそれで補完するといい。本作の完成度が非常に高いので,少し大変かもしれないが,プレイの前後に過去シリーズのHDリマスター版を体験してみる手もあるだろう。
アクションゲームとしての手触りや,エンターテイメントとしての体験なども非常に高いレベルで完成した最新作。17年にもわたって語り継がれてきた物語の結末を,ぜひとも体験してほしい。
「KINGDOM HEARTS III」公式サイト
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