インタビュー
今,カプコンがキッズ向けに「ガイストクラッシャー」を仕掛ける理由とは。将来を見据えた戦略やアクションの魅力を小林裕幸氏&バナ隊長に聞いた
キッズ向けのゲームではあるものの,“職人集団”として知られるトレジャーが開発を手がけているということで,注目している4Gamer読者も少なくないはずだ。
「ガイストクラッシャー」の概要をおさらいしておくと,物語の舞台は2064年,全身を「ガイメタル」と呼ばれる金属で覆われた生命体「ガイスト」が出現し,人々を襲うようになっていた。人類もこの脅威に対抗すべく超国家ガイスト対策組織「ガイストクラッシャーギャリソン」(通称「GCG」)を結成し,ガイストの核であるガイメタルを加工した可変武装「ガイストギア」を身にまとった少年「ガイストクラッシャー」が激しく熱い戦いに挑む……というストーリーだ。
専門用語が多くなったが,“敵のガイストを倒すと,新たな装備であるガイストギアを獲得してパワーアップできる”という点が重要なフィーチャーとなっている。さらにガイストギアは,攻守のバランスが取れた「メイルフォーム」,ガイストギアが巨大な武器になる攻撃特化の「ウェポンフォーム」,そして巨大なガイストそのものの姿に変化する「エクストリームフォーム」という3つの形態に変形可能。ガイストクラッシャー達は,これらのフォームを使い分けて戦っていく。
「ガイストクラッシャー」公式サイト
今回,4Gamerではゲーム版の発売に合わせて,本作のエグゼクティブプロデューサーを務める小林裕幸氏と,攻略隊長のバナ隊長にインタビューを実施した。カプコンとトレジャー,アクションゲームの制作に定評のある両社が手を組んだ本作について,アクションへのこだわりや奥深いシステムをはじめ,プロジェクト全体の狙いなどを語ってもらった。
5年後,10年後を見据えたキッズ向けプロジェクト
本日はよろしくお願いします。
今年4月に発表された「ガイストクラッシャー」のプロジェクトですが,そもそも立ち上げのきっかけはどういったものだったのでしょうか。
小林裕幸氏(以下,小林氏):
何年も前からキッズ向けのゲームをやりたいと考えてはいたのですが,なかなか「これだ!」という企画が出てこなくて難航していたんです。とくに小学生男子をターゲットとしたゲームの場合,ゲームだけの展開ではなかなか浸透させるのが難しいという側面もありました。つまり,ゲームに加えてアニメやマンガ,玩具,音楽,映像などを含めたプロジェクトとして展開しなくてはならなかったわけです。
4Gamer:
当初から大きなプロジェクトを想定されていたんですね。
小林氏:
ええ。そして,「ガイストクラッシャー」の主要コンセプトである「武装アクションゲーム」というアイデアが固まったのが約2年前ですね。当時はまだ別のタイトルで呼んでいましたが,そこからクロスメディア展開に向けて,パートナー会社を集めていきました。
4Gamer:
2年前と言えば,キッズ向けゲーム市場の競争が激しくなり始めていたと思います。なぜこのタイミングだったのでしょうか。
小林氏:
競争が激しいのは分かっていましたが,今のうちにキッズ向けの新作をやらないと,5年後,10年後のカプコンはないと思っているんです。
現在でも小学生の皆さんに,弊社の「モンスターハンター」シリーズや「戦国BASARA」シリーズといったゲームを遊んでいただいていますが,あくまで「中高生以上の年齢層で生まれたブームが波及した」という状況であって,小学生の間にカプコンのゲームが十分に届いていないと認識しています。だから,小学生からカプコンのファンになってもらって,中学,高校,大学,社会人へとカプコンのゲームと共に歩んでいくプレイヤーを育てたいと思ったんです。
4Gamer:
なるほど。将来を見据えた戦略だったということですね。
「ガイストクラッシャー」のプロジェクトはゲームが出発点とのことですが,そのほかのメディア展開に関してはどのように関わっているのでしょうか。
バナ隊長:
メディア間の連動に関しては,すごく気を使っていて,子供がアニメやマンガ,ゲームなどで違いを感じることがないように,カプコンが監修を行っているんです。例えば,ゲームの内容やストーリーラインを制作するときには,アニメやマンガなどで展開しやすくなるように意識しています。
小林氏:
ゲームが出発点という表現をされましたが,アニメやマンガ,玩具などのすべてが「ガイストクラッシャー」なんです。アニメを観てからゲームを遊んでも,ゲームを遊んでからアニメを観ても,玩具からゲームやアニメ,マンガを好きになってもらっても,どんな順番でも楽しんでいただけます。
アニメ版では等身大の主人公によるリアルな戦いを描く
10月からスタートしたアニメ版「ガイストクラッシャー」も監修されているとのことですが,とくに印象的だったのは主人公達の戦いがリアルであるという点です。ゲームや玩具といった多メディア展開を視野に入れているアニメの場合,ホビーやカードによる戦いが描かれることが多いのですが,ガイストクラッシャー達は死の危険と隣り合わせで戦っていて,キッズ向けの作品にしてはなかなかシビアだと思いました。
バナ隊長:
ガイストクラッシャー達は武装しているとはいえ,己の身体だけで強大な敵に立ち向かいます。これはプレイヤーにリアルな体験をしてもらいたいと思ったからなんです。ガイストが暴れることで街に被害が出るといった,リアルな描写があるのもそのためです。
激しく熱いバトルを演出して,子供達に「ガイストクラッシャーのようになりたい」と思ってもらうことが,このプロジェクトにおけるアニメやマンガの役割です。キッズ向け作品にはいろいろなタイプの主人公がいますが,「ガイストクラッシャー」の白銀レッカというキャラクターは,いわゆる「天才型」ではありません。レッカは根性が武器なんですが,根性によって奇跡を起こすのではなく,努力して成長を遂げていくというのもリアリティへのこだわりです。普段はサボっていても,目標を見つけて努力すれば,自分にもやれるんだと感じてもらいたいですね。
4Gamer:
それでは,カプコンが手がけているからこその見どころがあれば教えてください。
バナ隊長:
ゲーム版のウリの一つに「収集」というものがあります。プレイヤーは100種類以上のガイストギアを入手できるのですが,これはつまり100体以上のガイストが登場するということです。もちろんアニメ版も同様なのですが,アニメは全52話の予定なので一話あたり2〜3体登場するペースです。毎回異なるガイストが次々に登場するのは大きな見どころだと思います。
小林氏:
アニメ版だけを考えるのであれば,100体以上ものガイストを作る必要はありません。しかも,それぞれに3つの形態がありますので,デザイン面の作業量は相当なものでした。ただ,収集要素においてボリュームは重要ですから。
バナ隊長:
ガイストをたくさん登場させることは,当初から実現すべきポイントとして決めていました。
実際,開発中のモニターテストでは紙芝居風にガイストのデザイン案を子供達に披露したんですが,キャラクターが多いとすごく喜んでくれて,「お前はどれが好き?」「オレはこれがいい!」といった具合に盛り上がっていました。
4Gamer:
子供達の反応が良かったんですね。
バナ隊長:
100体以上のガイストを色違いパターンなしに制作する,ということに関してはスタッフの間でも議論になりましたが,このモニターテストの結果を受けて「長い道のりだけど頑張ろう」と決心したんです。もし,お子さんの反応を見ていなかったら,途中で心が折れていたかもしれませんね(苦笑)。
ゲームと連動する玩具「ガイメタル」のコンセプト
続いて,ゲームと連動する玩具「ガイメタル」について教えてください。
バナ隊長:
ガイメタルはバンダイさんと協力して開発した玩具で,ゲームと連動する要素としてはニンテンドー3DSに二次元コードを読み込ませると,ガイストギアやソウルガイスト,ミッションが追加されます。
とくにミッションは,通常のゲームプレイでは出現しない特別なものです。ゲームに先駆けて発売した「ガイメタル0弾 ガイストクラッシャー誕生編」に続いて,12月下旬に「ガイメタル1弾 ヤマトガイスト討伐編」が発売予定なのですが,こちらは通常のゲームプレイではなかなか出会えないガイストと戦えるミッションが登場します。
ちなみに1弾以降のミッションはストーリーの要素もあり,ゲームクリア後の展開が楽しめるようになっています。
ガイメタル「0弾 ガイストクラッシャー誕生編」(左),「1弾 ヤマトガイスト討伐編」(右) 発売:バンダイ 価格:各998円(税込) |
4Gamer:
ガイメタルのアイデアは,カプコンで生まれたのですか。
バナ隊長:
そうですね。ニンテンドー3DSと玩具を連動させるアイデアは,プロジェクトの立ち上げ当初からありました。
「オフラインDLC」というコンセプトで,おもちゃ屋でガイメタルを買ったら,その場でニンテンドー3DSに読み込ませるという遊び方を実現したかったんです。ただ,連動の仕様に関しては試行錯誤が続き,何とか形になったのが「本体カメラで二次元コードを読み込む」というものでした。
小林氏:
4Gamer:
「変身グッズ」としてのガイメタルだったわけですね。それでは,開発中にはどのような苦労があったのでしょうか。
バナ隊長:
本当にいろいろとありましたが,「ガイフォンカバー」の試作品が完成した翌週,ニンテンドー3DS LLが発表されたのは参りましたね(苦笑)。LLは本体の大きさだけでなく,カメラの位置も違うので,そこから改良を重ねてパーツの付け替えで対応できるようにしました。
そのガイフォンカバーで,本体にガイメタルを装着するんですが,この状態だとカメラと二次元コードの距離が近すぎるんです。こんな至近距離での撮影は,任天堂さんも想定していませんから,何らかの工夫が必要になりました。
小林氏:
そこで生まれたのが,ガイメタルを装着すると自動的に接写用レンズがスライドして,本体カメラにセットされるというアイデアです。
バナ隊長:
このおかげで至近距離でも二次元コードを読み込めるようになりました。ガイメタルを外すと接写用レンズは引っ込むため,ガイフォンカバーを装着したままでも,通常のカメラ撮影が可能です。
これが完成するまでには,東急ハンズでさまざまなレンズを購入して試しました(笑)。
“職人集団”トレジャーと手を組んだ理由とは
4Gamer:
ゲーム版はトレジャーが開発を手がけていますが,これはどのような理由だったのでしょうか。
バナ隊長:
「未来のカプコンユーザーを育てる」というプロジェクトの意義を考えると,やはりジャンルはカプコンが得意とするアクションゲームにこだわりたいと思っていました。さまざまなソフトハウスと話をさせてもらいましたが,その中でも「子供に面白いアクションゲームを提供したい」という点において,我々とトレジャーさんの意見が一致したんです。これまでタッグを組んだことはありませんが,「アクションゲーム」のキーワードで結ばれた仲ですね。
4Gamer:
なるほど。トレジャーに期待されていたことはありますか。
小林氏:
アクションゲームで最も大事な「手触り」ですね。ただ,トレジャーさんの過去の作品を知っていますから,まったく心配していませんでした。
バナ隊長:
トレジャーさんは,このあたりの機微を最初から分かっていました。そのうえで,アクションに対するこだわりがものすごい。
例えば,同じ武器を持つキャラクターが複数いても,極力モーションを使い回すようなことをしません。ガイストギアの一つにバイク型の銃があるんですが,普通に撃つのではなく,「バイクに乗って敵に突撃する」という専用のモーションを用意していただきました。
アイデアや仕様に関して意見を戦わせるのはしょっちゅうでしたが,「これはできない」と断られたことはなかったですね。
4Gamer:
トレジャーと言えば,コアゲーマーを唸らせる「通好みのソフトハウス」として知られていますが,キッズ向けのゲームを制作するうえでの難しさはありませんでしたか。
バナ隊長:
私としては,コアゲーマーに限定されない「いいものを作るソフトハウス」という認識でした。とにかく,いいものを作っていただければ,キッズ向けであっても必ず成功するだろうと思っていました。
ただ,カプコンでも久しぶりのキッズ向けということで,難易度の調整には気を使いました。とはいえ,単にゲームを簡単にしたわけではありません。序盤は易しくして,ゆるやかに難易度が上がっていきますので,いつの間にかうまくなっているはずですよ。
武装アクションのカギはフォームを切り替える
「フォームチェンジ」と「クイックチェンジ」
4Gamer:
それでは,ゲームシステムについて教えてください。
武装したガイストギアには,「メイルフォーム」「ウェポンフォーム」「エクストリームフォーム」という3つの形態がありますが,どのような特徴があるのでしょうか。
バナ隊長:
敵が多数のときや相手を気絶させたいときは,攻守のバランスが取れたメイルフォームが適しています。ガードが可能で堅実に戦えますが,攻撃力が低く戦闘が長期化しやすいという弱点もあります。
逆に,一気呵成に攻めたいときはウェポンフォーム。防御力が低くなるので,受けるダメージは大きいですが,攻撃力は上昇します。どちらもメリットとデメリットがあるので,状況に応じて使いこなしてほしいですね。
メイルフォーム |
ウェポンフォーム |
小林氏:
基本的にはメイルフォームで戦い,敵が気絶したときのようなチャンスが来たらウェポンフォームに切り替えるという戦い方が有効です。
エクストリームフォーム |
さらにゲージが溜まると使えるのがエクストリームフォームですが,これは巨大なガイストそのものの姿に変形するので攻撃が派手になります。しかも変形と同時に体力が回復するので,ピンチのときにもおすすめです。
4Gamer:
意外と言っては失礼ですが,戦闘アクションの種類が多彩で驚きました。
バナ隊長:
「クイックチェンジ」を使いこなせば,さらに自由自在に戦えますよ。
通常,メイルフォームとウェポンフォームを切り替えるときには隙が生じますが,攻撃中にRボタンを押すと一瞬で完了します。対戦格闘ゲーム風に言えば,ほとんどの技において「攻撃後の戻りモーションがキャンセルできる」ということです。
クイックチェンジを使えば,メイルフォームとウェポンフォームを切り替えながら連続攻撃するコンボを編み出せます。
4Gamer:
自分も技をキャンセルできることに気づいてから,グッと面白くなりました。
ほかにもプレイするうちに分かってくる要素が隠されていますので,キッズ向けとしては不親切なのかもしれません。しかし,自由度の高い3Dアクションゲームですから,いろいろな驚きを感じてほしいという意図なんです。やはりカプコンとトレジャーが組むなら,こういうこだわりを期待されているかなと。
小林氏:
キッズ向けのゲームではありますが,まずは「面白いアクションゲーム」が最優先だったということです。ただ,子供さんは新しいことを覚えるのが早いので,どんどん試して見つけてくれると思っています。
バナ隊長:
もしも「ゲームが難しくて進めない!」という場合は,「属性」に注目してもらいたいですね。これは知っていると戦いが格段に有利になる要素です。
「自然属性」と「武器属性」がありますが,どちらも有利になるようにガイストギアを選択すれば,かなり倒しやすくなるはずです。
4Gamer:
攻略のカギになる情報ですね。
ちなみに,やりこみ要素についてはいかがでしょうか。
バナ隊長:
先ほどの話に出ましたが,100種類以上のガイストギアが登場しますので,ストーリーをクリアした後の収集要素も遊びごたえがあります。難易度もグイグイ上がりますので,アクションゲームに自信のある人はコンプリートに挑戦してほしいですね。
その際には,ぜひ協力プレイを活用してください。協力プレイは専用ミッションが登場するのですが,獲得したガイストギアや経験値はストーリーと共通なので,友達に助けてもらうのも一つの手ですよ。
バナ隊長:
ガイストギアの種類も豊富ですが,カスタマイズ要素も奥が深いです。ミッションをクリアして覚えたメイルフォームの技は,プレイヤーが自由に選べるので,飛び道具を中心にしたり,気絶させやすい技を中心にしたりとカスタマイズができます。自分なりのスタイルを探していただきたいですね。
4Gamer:
なかなかのゲームボリュームですね。
それでは最後に4Gamer読者に向けてメッセージをお願いします。小学生の読者は少数だと思いますが……。
小林氏:
自分は小学生のとき,ヒーローものの作品が好きでした。それが大人になって「ガイストクラッシャー」に関わることで,あの頃のワクワクした気持ちを思い出すことができたんです。小学生はもちろん,もう大人になった方も「ガイストクラッシャー」で同じ気持ちを感じてもらえると思います。
バナ隊長:
爽快なアクション,収集,育成,カスタマイズといった要素を詰め込みました。遊べば誰でも「本当に熱い!」と思ってもらえる,そして4Gamer読者の皆さんには「やっぱりカプコンだな」と納得してもらえる内容になっています。
ガイメタルも,ただの「なりきり玩具」ではありません。ゲーム内で手に入れられるものをリアルで集めたり,ゲームにコンテンツが追加されたりする感覚が面白いので,ぜひ手に取ってほしいですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。今後の展開にも期待しています。
バナ隊長:
いずれは劇場版アニメもやりたいので,頑張ります!
「ガイストクラッシャー」公式サイト
- 関連タイトル:
ガイストクラッシャー
- この記事のURL:
キーワード
(C)CAPCOM CO., LTD. 2013 ALL RIGHTS RESERVED.