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GTC 2018のNVIDIAブースで“世界最大のGPU”こと「DGX-2」の実機をチェック。自動運転やゲームにおけるAI活用の展示にも注目だ
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印刷2018/04/09 20:42

イベント

GTC 2018のNVIDIAブースで“世界最大のGPU”こと「DGX-2」の実機をチェック。自動運転やゲームにおけるAI活用の展示にも注目だ

連日大盛況のNVIDIAブース。主催社だけあって注目度は高い
画像集 No.002のサムネイル画像 / GTC 2018のNVIDIAブースで“世界最大のGPU”こと「DGX-2」の実機をチェック。自動運転やゲームにおけるAI活用の展示にも注目だ
 NVIDIAが主催する開発者向けイベント「GPU Technology Conference 2018」(以下,GTC 2018)では,企業がブース出展を行う展示会「Exhibition」も行われる。NVIDIA主催のイベントだけに,IntelやAMDといった競合企業の出展はなく,主にNVIDIA製品を採用するベンダーやGPGPUに特化したベンチャー企業が軒を連ねるイベントだ。
 最大のブースを展開しているのも当然NVIDIAで,その周りに関連企業のブースが取り巻くといった,まさに「NVIDIA城下町」的なブース展開はとても独特だ。GDC 2018の展示会「EXPO」でのNVIDIAブースに比べると,ややこぢんまりした雰囲気ではあるのだが,NVIDIAのCEOであるJensen Huang(ジェンスン・フアン)氏による基調講演の内容を補う展示が行われることもあり,毎年必見となっている。

 余談だが,展示ホールがオープンしていたのは昼食時間前後の2〜3時間と17:00以降の2〜3時間だけ。時間が時間なので,軽食やドリンクを飲み食いしながら見られるという,なんだかパーティ的な雰囲気なのも特徴的だ。そんなNVIDIAブースの出展内容を紹介しよう。


Tesla V100 32GB×16基搭載の“世界最大のGPU”「DGX-2」をチェック


 NVIDIAブースで一番の目玉は,常に来場者が絶えなかった「DGX-2」の展示コーナーだろう。
 DGX-2については,基調講演レポートで詳しく説明しているが,ディープラーニング向けスーパーコンピュータ「DGX-1」の第2世代的な製品だ。

基調後援でDGX-2の構造について解説するHuang氏
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 2016年にデビューしたDGX-1は,Pascal世代GPUの「GP100」をベースにした数値演算アクセラレータ「Tesla P100」を8基搭載していたが,2017年には,Volta世代GPU「GV100」をベースとする「Tesla V100」を8基搭載する「DGX-1 with Tesla V100」(以下,DGX-1V)にアップグレードされた。
 それがGTC 2018では,GPUコアには一切変更がないものの,GPUパッケージ上に実装するHBM2メモリの容量を2倍の32GBに増やした「Tesla V100 32GB」とし,さらに搭載GPU数も2倍の16基としたDGX-2が発表となったわけである。ハードウェアでは,このDGX-2が,GTC 2018における最大の目玉だった。

 このTesla V100 32GBであるが,追加取材でいくつか新しいことが分かってきた。まず,容量の増えたHBM2は,先代と同じSamsung Electronics(以下,Samsung)製メモリを使っているそうだ。GV100コアは2017年から変わっていないわけだが,4基あるHBM2は,容量が2倍に増えたにも関わらず,チップの高さは先代と同じとのこと。GV100パッケージのサイズにも変更がないという。
 HBM2の1チップあたりにおける容量は,2倍に増えていると思うが,NVIDIAブースにいた担当者に確認したものの,「よく分からない」とのことだった。

HBM2 32GB版のTesla V100 32GB
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GV100のHBM2はSamsung製だそうだが,展示ホールにはSamsungの競合であるSK Hynixのブースがあり,おそらく同容量で同密度と思われるHBM2のチップやウェハが展示されていた
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 話をDGX-2に戻そう。DGX-2では,Tesla V100 32GBを4×2の並びで8基にしたものを1クラスタとして扱っている。1クラスタ分に相当するTesla V100 32GB×8は,背の高いヒートシンクを載せた状態で基板上に実装されており,基板自体は,引き出しのようなレールの付いたシャーシに組み付けられていた。
 レール付きシャーシは2段構成となっているので,1台のDGX-2は,Tesla V100 32GBが8基×2の16基搭載となるわけだ。

DGX-2の内部が見える展示。Tesla V100 32GB×8基分のGPUクラスタを上下二段に配置する
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 各GPUクラスタは,本体前面側にある垂直の基板「Riser Board」に接続されていた。この垂直基板は,2つのGPUクラスタをPCI Express経由でCPUとなるXeon搭載のシステム基板(マザーボード)と接続するものだ。

筐体前方にあるRiser Board(左)。GPUクラスタを接続するPCI Express対応のコネクタが見える。右写真は,GPUクラスタ側の接続コネクタを撮影したものだ
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NVSwitchのパッケージ
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 基調講演レポートでも報じたとおり,DGX-2では,8基のTesla V100 32GBをクロスバー方式で接続するインターコネクト技術「NVSwitch」を使用している。右に掲載した写真は,NVSwitchチップセットのパッケージだ。
 NVSwitchは,1基あたり18リンク分のNVLinkを持つ。一方,Tesla V100 32GBは,1基あたり6リンク分のNVLinkを備えている。このGPU×8基が,クラスタ上で6基のNVSwitchにつながっているわけだ。
 そしてDGX-2では,クラスタ同士の相互接続にもNVSwitchのNVLinkを使っているのだが,その接続基板は,前面のRiser Boardとは別に,DGX-2の背面側にあった。

DGX-2の背面。カバーがかかった上側が2つのGPUクラスタを収めた部分で,6つの電源コネクタやらUSBポートが見える下側は,Xeonを備えたシステム基板部分となる。右写真はNVLink Plane Card。2つのGPUクラスタを相互接続するものなので,システム基板とつながるコネクタはない
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レイトレーシングランタイム「RTX」の応用事例を披露


 基調講演で,Huang氏がたっぷりと時間をかけて説明したのは,GDC 2018で発表となったリアルタイムレイトレーシング技術「RTX Technology」(以下,RTX)の話題だ。なお,RTXとは何かについては,筆者の連載バックナンバーを参照してほしい
 GDCは「ゲーム開発者会議」であるために,話題の切り口も「ゲームグラフィックスにレイトレーシングをもたらす技術」という方向性が強かった。しかしGTC 2018の基調講演では,「映像製作業界のレンダリングコストを下げる技術」という側面に焦点が当たっており,NVIDIAブースにおける展示も,その主旨に沿った内容がメインとなっていたのが興味深い。

 まずは,Adobeの3DCG制作ソフト「3ds max」のデモから紹介していこう。
 これは,レンダリングプレビュー画面をRTXベースのレイトレーシングに対応したもので,数百万ポリゴンからなる複雑なシーンを,レイトレーシングであるにも関わらず,一瞬で描画する様子を披露していた。

3ds maxによるRTXを使ったデモ
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 一瞬で,とは言うものの,当然ながらこれにはタネがある。
 このシーンのレンダリングを真っ正直なレイトレーシングで行うには,1ピクセルあたり数十本のレイをキャストして,3〜5バウンス(※3〜5回の反射)まで計算するので,いくらGPUアクセラレーションとはいえども,一瞬で描画が終わるはずがない。一瞬でレイトレーシングによる描画を終えたように見えたのは,RTXを使った「AI Denoiser」を使っているためだ。
 このデモで実際にレイトレーシングによる計算を行っているのは,描画途中でノイズだらけの画像である。その画像に対して,レイトレーシング途中のノイジーな画像と,レンダリング終了後の鮮明な画像の相関を機械学習させて作り出した推論型ノイズ低減機構(=AI Denoiser)を適用することで,ノイズのないきれいな映像を生成しているのである。

ノイズだらけの画像(左)から,AIによるノイズ低減処理で作り出した画像(右)
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 デモの様子を動画で撮影してみたので,ぜひ再生してみてほしい。


 もちろん,AI Denoiserによるノイズ除去処理は,あくまでも機械学習AIによる推測で行うので,正しいレイトレーシングによるレンダリング結果と完全に一致することはない。そのため,最終的な完成画像には使いにくいのは確かだ。しかし,映画向けCG制作などで,細かなライティング調整やキャラクター配置の変更,ポーズの調整を行ったときに,レンダリング結果のプレビューとしてアーティストが評価するのに使う画像としては,十分な品質を有している。
 そういった事情もあり,AI Denoiserは,レイトレーシングでCG制作を行うプロフェッショナルな制作現場で作業をより効率化する技術として注目度が高いという。

 ちなみに,NVIDIAのAI Denoiserとは別モノだが,同じアプローチによる機械学習ベースのノイズ低減技術を組み合わせたレイトレーシングのテクニックは,Disney Researchなども研究しており,すでに実用導入も行われているそうだ(関連リンク,英語)。
 レイトレーシングでレンダリングするときには,ノイジーな未完成画像をAIで補正したもので評価し,評価の結果をもとに手直しを行って完成画像を作るといった制作スタイルは,今後のCG制作現場では主流となっていくに違いない。

 もう1つ,レイトレーシングによるノイズ除去のデモで注目を集めていたのは,「Star Wars」(スター・ウォーズ)を題材としたRTXの技術デモ「Project Spotlight」だ。
 すでに何度も紹介しているので説明は割愛するが,Project Spotlightは,Tesla V100を4基搭載するDGX Stationを使い,1ピクセルあたり数本のレイをキャストするだけで作った画像に対してリアルタイムにノイズ低減を行うことで,24fpsの映像を作り出しているそうだ。


Project Spotlightのデモは,任意の場面でワイヤーフレーム表示に切り替えられる。ただ,視点の移動はできないので,「基調講演で披露されたデモは,視点移動できたけど?」とブースの担当者に聞いてみたところ,「あれとは別。ILMやDisneyの意向により,展示バージョンはその機能を削除している」(担当者)とのことだった
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Ignacio Llamas氏(Senior Manager of Real Time Rendering Software,NVIDIA)
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 NVIDIAブースのリアルタイムレイトレーシング関連展示コーナーには,GDC 2018やGTC 2018でRTX関連の講演を担当しているIgnacio Llamas氏がいたので,RTXについていろいろと質問してみたところ,リアルタイムレイトレーシングについてまとめたレポート記事を補足する情報が得られたので,簡単に紹介しておこう。

 RTXは,Microsoftの「DirectX Raytracing」(以下,DXR)のランタイムであると同時に,NVIDIAのレイトレーシングフレームワーク「OptiX」の最新版である「Optix 5.0」のランタイムでもあるとのこと。つまりRTXは,OptiXで行うレイトレーシングにおいても,実質的にGPUの動作を担当しているわけだ。

GDC 2018でNVIDIAが公開したソフトウェアスタック図(左)。ここにはOptiXの記述はない。一方,GTC 2018でNVIDIAが公開したソフトウェアスタック図(右)には,OptiXとVulkanが加わっている
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 ここからは筆者の推測になるが,開発の経緯としては,

  1. NVIDIAがOptiX 5.0の開発にあたり,そのランタイムをRTXとして設計する
  2. RTXをDXRとしてDirectX 12に統合する計画をMicrosoftと進める
  3. GDC 2018でDXRが発表となる
  4. 事実上,現状ではRTXのみがDXRの実際に動作するランタイムとなる

といった流れがあったのではないか。

 RTXは,OptiX5.0が持つ全機能を実行するランタイムであるため,AI Denoiserにおいて実際の処理を行う部分もここに含まれているだろう。AI Denoiserの推論処理には,Volta世代GPUが持つ「Tensor Core」を利用するため「RTXはVolta世代以降のGPUに対応」することになるわけだ。
 ところで,Project Spotlightで使っているノイズ低減処理は,AI Denoiserではなく,まったく別の算術的な手法で行っているという説明もあった。このあたりについては,機会があれば改めて解説したい。


DRIVE Constellationによる自動運転AIの訓練デモを公開


DRIVE Constellationの展示コーナー
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 Huang氏による基調講演では,自動運転AIの訓練を仮想世界で行うAI開発プラットフォーム「DRIVE Constellation」の説明が行われたが,その実機もNVIDIAブースで披露されており,とくに自動車業界関係者からの関心を集めていた。

 DRIVE Constellationとは,自動運転AI開発プラットフォームである「DRIVE Pegasus」上に実装した自動運転AIに対して,仮想空間のCG映像やセンサー情報を与えることで,AIの実験や訓練を行うシステムである。人間がVR HMDを被って行うVR訓練を,自動車の自動運転AIに対して行うようなシステムと考えればいい。

GTC 2015で披露された自動運転制御コンピュータの実験デモ。駐車場内に限定した仮想空間内で,自動駐車を行うAIの実験を行っていた
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 実のところ,DRIVE Constellationの基礎実験に相当する展示は,3年前のGTC 2015で公開されたことがある。2015年当時のデモは,仮想空間上に構築した駐車場で,自動駐車をするAIの実験を見せるものだった。DRIVE Constellationは,プロトタイプの訓練範囲を駐車場に限定せず,屋外のあらゆる道路に拡張したものだと言えよう。

 2015年当時のプロトタイプだけでなく,今回発表されたDRIVE Constellationでも,3Dグラフィックスエンジンや訓練道路におけるイベントの制御には,Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 4」(以下,UE4)を利用している。

DRIVE Constellationシステムのイメージ
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DRIVE Pegasusのデモ機。訓練対象の自動運転AIを実行するものだ
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 UE4は,物理ベースレンダリングシステムを採用していることもあって,仮想空間上に配置した樹木や建造物,自動車などで現実世界に近い陰影を表現可能だ。そのため,UE4で描画したリアルタイムCGは,自動運転AIがカメラで捉えている現実世界の映像と同等のものと見なせるという。
 また,昼夜の設定や晴れ,曇り空,雨天といった天候の設定を変えても,登場するオブジェクトは,設定環境下で物理的に正しい陰影を表現できるので,あらゆる状況設定における訓練を,現実世界で行ったものと想定して,スピーディに行えるわけである。
 しかも,「前の車が突然進路を変える」とか「急ブレーキを踏む」実験や,「通行人が飛び出してくる」といった実験をUE4のエディタ上で開発できるため,訓練コストも安くて済むし,訓練環境の更新もスピーディに行えるのだ。なにより,自動運転AIが仮想空間上で他車に衝突したり人をはねてしまっても,現実世界へのダメージはまったくない。ここも大きなポイントだろう。

昼の場面から夜の場面へ切り替えるのも簡単だ。他車の蛇行や,飛び出しといったイレギュラーな行動イベントを挿入するのも,ゲームエンジンのUE4ならば得意中の得意
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 ところで,自動運転AIのカメラで捉える映像をUE4の得意なCGで再現するのはいいとして,レーダーやLIDAR(ライダー)などで取得する電波やレーザーの反射波を模した疑似情報は,どうやって与えるのだろうか。
 ブースの担当者に質問したところ,レーダーやLIDARの反射波を再現して,自動運転AIにフィードバックする仕組みを実現しているとのことだった。つまり,UE4で再現した仮想空間に対して,仮想的な電波やレーザー光を放ち,その反射波を取得できる仕組みが構築済みというわけだ。
 仮想センサーの再現にあたっては,実際の車載センサーを作るメーカーと協力し,さまざまな材質による反射波のデータを提供してもらって開発を進めたという。そのため,レーザー光をあまり反射しない「ふわふわした毛皮のコートを来た通行人」が飛び出すシチュエーションも再現できるそうだ。なかなかすごいものである。

NVIDIAは,2017年12月の「GTC Japan 2017」で,建設機械業界大手の小松製作所との協業を発表したが,その小松製作所もNVIDIAブースに出展していた。建設現場での作業に使うほぼすべての建機にカメラを設置して撮影し,これをビッグデータとして活用するプロジェクトを進行させているらしい。ただ,ブースではイメージ映像を流しているのみで,具体的な発表はまだ先になりそうだ
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機械学習ベースのAIがゲームやeスポーツの世界にも展開


 AI関連の展示では,ゲームに関係のあるものが2つほどあったので,簡単に紹介しよう。

 1つは「AI FOR GAMES」(ゲームのためのAI)というタイトルのもの。
 ゲームのためのAIと聞くと,「ゲームにおけるNPCの行動AI」か,と思われそうだが,まったく違うジャンルの話で,端的に言うと「機械学習を活用したプロシージャルアニメーション」システムといったものだった。

AI FOR GAMESと題したデモ。アニメーション生成がテーマの展示だ
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 NVIDIAブースで披露されていたのは,起伏豊かな地形からなる屋外に登場したキャラクターをゲームパッドの操作で動かすと,地形の起伏に連動して手足や姿勢を自然に動かしながら歩行するデモである。一見,何の変哲もない歩行アニメーションの再生に見えて,地味な展示に思えるが,これをプログラムでやろうとすると,意外に大変だ。
 現在のゲームにおける一般的な手法だと,歩行や走行,横歩き(サイドステップ)といったさまざまな歩行アニメーションデータを作成しておき,ゲームの実行時は,移動の方向や速さ,地形の起伏に応じて,複数のアニメーションデータを算術合成することで,その状況に合ったアニメーションを再生する。それに対して,デモで使っていた手法は,事前にアニメーションデータを用意するところまでは同じだが,移動の方向や速度,地形の起伏と,次に実行すべきアニメーション(身体の動き)の関係性を機械学習するところが特徴的だ。

 つまり,実行時に移動方向や速度,地形の起伏といった条件をAIに与えれば,AIが「次の手足や姿勢はこうあるべき」という推論を返すというわけだ。プログラムベースのアニメーション生成ではないので,急激な操作にもスムーズなアニメーションを生成してくれるところが,既存手法とは異なるポイントというわけである。
 ちなみに,この機械学習には「Phase-Functioned Neural Network」(フェーズファンクション・ニューラルネットワーク)という技術を使っているとのこと。この技術をUnreal Engine 4のアニメーションシステムに組み込んだのが,今回の展示なのだそうだ。

動きや地形に応じて適切なアニメーションを自動生成しながら歩く少年。写真には写っていないが,少年の後ろを無数の人型ロボットたちが付いてきている。これらのロボットも,同じアニメーションシステムを利用して動いているそうだ
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 ちなみに,フェーズファンクション・ニューラルネットワークのベースとなっているのは,エジンバラ大学の研究グループによる「Phase-Functioned Neural Networks for Character Control」という論文のようである(関連リンク)。4Gamerでは,この論文に関わったエジンバラ大学情報学部准教授の幸村 琢氏によるCEDEC 2017のセッションレポートを掲載済みなので,興味のある人は参照してほしい。


 AIを活用したもう1つのゲームに関わる技術とは,スポーツ中継の映像からハイライトシーンを自動抽出する技術「Reely」だ(関連リンク)。同名の企業であるReelyが,NVIDIAとの協業により開発したものである。

 スポーツニュースにおいて,試合を撮影した映像全体から,試合が動いたり有名選手が活躍したりしたハイライトシーンを抜粋して放送しているのを見たことがあるだろう。こうしたハイライト映像の切り出しをAIに自動でやらせてしまおうという技術がReelyなのだ。複数本のビデオストリームを対象にして,並列に処理を実行できるという。

Reelyのシステムについて説明する,ReelyのCEOであるCullen Gallagher
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 気になるのは,なにを基準にハイライトを選ぶかなのだが,ここが面白い。簡単に言うと,ザックリとした編集ポイントのようなものを,AIに明示して学習させるだけでいいそうだ。
 最もシンプルなのは,スポーツ映像の外周に描かれていることが多いスコア表示の文字だ。この数字が更新されたときには,その前後を候補として選択するという。ほかにもシンプルな手法として,注目選手の顔がある。登録済みの選手がアップになった前後を切り出すわけだ。

 より高度で複雑な,いかにもAIっぽい判断が決め手となるのは「群集が大騒ぎしている映像の前後シーン」や「何度もリプレイで流しているシーン」など。最新版では,映像だけでなく音声も配慮するようにしているそうで,サウンドがぶつ切りにならないポイントでカットしたり,歓声が上がった前後のシーンで切り出したりといったことにも対応しているのだとか。

 最近,Reelyには,「eスポーツイベントの映像に対応できるか」という問い合わせが増えているらしい。学習のさせ方次第で普通に対応できると,Gallagher氏は自信を見せていた。たとえば格闘ゲームなら,「KO」表示の直前までを切り出すとか「体力ゲージが短時間で連続で減る」ようなシーンは連続技が決まっているシーンなので,そこをハイライトと見なすわけだ。
 すでに,アメリカの放送局には導入事例があるそうなので,いずれは,AIが切り出した国際スポーツ中継を見ることがあるかもしれないし,eスポーツイベントの映像で使われる可能性も大いにあるだろう。


いまだ姿を現さないVolta世代GeForce

GDDR6メモリの登場は2018年内のはずだが


 基調講演で発表されたハードウェアが,マイナーチェンジモデルのTesla V100 32GBとその応用製品だったこともあり,ニュースとしてのインパクトにはいまいち欠けたNVIDIAだったが,さすがに主催者だけあって,NVIDIAブースの展示は今年も興味深いものが多かった。

ブースには例年通り,NVIDIAの自動運転試験車両が展示されていた
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 自動運転技術に関しては,GTC 2018の開催前に起きたUberの自動運転試験車両による死亡事故の影響が心配されたものだが,とくに悪影響はなかったようだ。むしろ,現実世界での事故が起こったことで,NVIDIAが以前から力を入れている仮想世界での訓練に関心が高まる結果になった面もあり,DRIVE Constellationを訴求しやすくなったかもしれない。

 一方,ゲーマーが気になるのは,Volta世代のGeForceがいつになったら登場するのかだろう。
 展示会場には,今年もSK Hynixが出展しており,次世代GPU向けメモリとなる「GDDR6」のチップとウエハを展示していた。2017年の展示会場で,SK Hynixの担当者は,「GDDR6のリリース時期は2018年になる」と言っていたので,そろそろなんらかの動きがあっても不思議ではない。かつてのGDDR5Xと同様に,新GeForceとの連動リリースがあるのかが気になるところだ。

SK Hynixが披露したGDDR6の試作チップ。ピンあたりのデータレートはGDDR5の2倍となる16Gbpsだそうだ
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 DXRの発表とともに脚光を浴びたRTXだが,その対応GPUをVolta世代GPU以降に限るという思い切った選択をしたNVIDIAだけに,DXRの正式リリースである2018年秋頃には,何らかの製品を世に送り出していると期待したいものだ。

NVIDIAのGTC 2018公式Webサイト(英語)

  • 関連タイトル:

    Volta(開発コードネーム)

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