インタビュー
「見えない壁」に取り囲まれたゲーム業界への想い。ヨコオタロウ氏が「ドラッグ オン ドラグーン3」やゲームの未来を語ったインタビューを掲載
今回,4Gamerはその世界観の生みの親であるゲームデザイナーのヨコオタロウ氏へインタビューを行った。「DOD3」の話だけでなく,ヨコオ氏のゲームに対する想いや,氏のクリエイター性に深く切り込んているので,ぜひ目を通してほしい。
なお,発売からもう2か月以上が経過しているということで,ゲームの結末にも言及しているなど,ネタバレを多分に含んでいるので,その点はあらかじめご了承を!
ヨコオ流のメメント・モリ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。せっかくのヨコオさん(?)なので,あまり「DOD3」だけにこだわりすぎず,いろいろとお聞きしていこうかと思うのですが……。
「DOD3」については,ほかの媒体さんにもだいぶ話してしまっていますからね。何か新しいことを話したいという気持ちがあります。僕も43歳になりますし,いろいろと考えなければいけない頃ですよ。ディレクションした作品もこれで3作目ですし。年齢的にゲーム業界でも高齢者の側に足を突っ込み始めています。言ってしまえば,晩年を迎えつつあるわけです。
4Gamer:
ヨコオさんの“老い”の基準は何歳くらいからなんですか。
ヨコオ氏:
40を越えたあたりでしょうか。そこからは体を壊すと治らなくなってきて,“死”を意識するようになりました……。
4Gamer:
ええ……(ドン引き)。
ヨコオ氏:
でも,死を意識するのって嫌いじゃないんですよ。僕は自分が死ぬ時の想像をよくするんです。死後どうなるんだろうとか,死ぬと分かったら自分は取り乱すのかなぁとか。そういうことを,一生懸命に頭の中でシミュレーションするんです。
4Gamer:
「メメント・モリ」ってやつですか? 開始早々,ダウナーな話題をあえて掘り下げていきますけど……具体的には?
ヨコオ氏:
「明日,死刑になります」と宣告された,と仮定するんですよ。ベッドの上で。自分がそのとき,どういう気持ちになるのか。……死ぬってどんな感じなんでしょうね?
4Gamer:
死んだことないので分からないです……。ヨコオさんのシミュレーションの結果はどんな感じだったんですか。
ヨコオ氏:
恐怖とはちょっと違いました。「明日になったら,自分という存在が消えてしまう」という感覚。例えるならば……高いところから下を見たりすると,キン○マが“ヒュンッ”ってなるじゃないですか。アレに似てますね。
4Gamer:
俗に言う「タマヒュン」ですね。
ヨコオ氏:
怖いというよりも,「これで終われる」という開放感と「消えてしまう」という喪失感が入り混じったような気持ち。……で,そこから「死ぬことの何が怖いんだろう?」という考えにつながっていきます。そういうことを考えていると,いい暇つぶしになるんですよ。
4Gamer:
ソクラテスばりの暇つぶしですね……。でもヨコオさんのそういうところ,やっぱり作品に出てますよね。
ヨコオ氏:
そんなに出てますか? 出してるつもりはないんですけど……。
4Gamer:
それこそ「DOD」シリーズは“死”を強く意識した作風だと思いますが(笑)。
ヨコオ氏:
どうなんでしょうね。「DOD3」なんかは,全体的に半笑いで作ってましたよ。
4Gamer:
半笑いって(笑)。
ヨコオ氏:
いろいろなことを「シリアスに捉えすぎない」というか。なんと言えばいいのか……。
4Gamer:
ああ,たしかに従来のシリーズ作品に比べると,ギャグっぽい描写が多かったですね。
ヨコオ氏:
ちょっと話が脱線するのですが,知人がヤンチャだった頃,商店街のアーケードにあるような長い屋根の上を友達と一緒に歩いていたらしいんですが,その中のひとりが屋根から落ちて,亡くなってしまったらしいんですよ。
で,その落ちた男はピクリとも動かないのになぜかアソコだけが勃っていて……それを見て,大変な状況なのに皆で笑ってしまったという話がひどく記憶に残っています。
きっと,そのヤバイ状況をどう捉えたらいいのか分からなかったんだと思うんですよ。DOD3ではそういう風に,“恐怖”や“死”について,一面的な感情表現だけで終わらない感じを出したかった。
4Gamer:
だから殺戮シーンにあえて笑いを盛り込んだんですか。
ヨコオ氏:
意外と人間は,「怖いから叫ぶ」というようなシンプルな構造ではないんだと。もっと複雑で,それこそさっきのエピソードみたいな。
4Gamer:
恐怖と笑いが紙一重とはよく言いますが。
ヨコオ氏:
そうですね。この場合は,“動揺”が「感情をかき混ぜる」という具合でしょうか。その結果が“叫ぶ”という形で出力されるか,“笑う”という形で出力されるかの違いなのかもしれません。そこで「DOD3」では,戦闘中に敵が「嫌だ! 殺されたくない!」と叫んでいるのに対して,味方は猥談をしているという異常な光景が出来上がりました。
失望と葛藤の“歪み”から生まれた「DOD3」
4Gamer:
個人的には「B級映画っぽい」とか思いつつ楽しんでいたのですが,そういった意図で演出されていた部分なんですね。だから従来の「DOD」シリーズとは違った雰囲気に。
ヨコオ氏:
はい。そもそも「DOD3」は,オファーを受けた時点でゲームの構造や開発の座組などがある程度決まっていて,新しいことに挑戦しづらいような状態からのスタートだったんです。だから最初はもう,「めんどくさいな」と思ってしまって。……でも,よくよく突き詰めてみたら「毎回,新しいことをやらなければいけない」という思考に自分が囚われていたことに気付きまして。
新しいことができないから「めんどくさい」と感じたのに,その「新しいことをしなければ」という気持ち自体がもう「新しくない」ということに気付いてしまったんです。
4Gamer:
それは……なんとも……。
ヨコオ氏:
それで自分の芸の幅の狭さに内部的にも,外部的にも失望して。そういったさまざまな感情がない交ぜになって出来上がったのが,「DOD3」なんです。だから,自分の中でこれはかなり歪んだ作品なんですよ。完成品を見て,「ああ,自分の答えはこれなんだ」と感じました。
4Gamer:
ずいぶんと……こじらせてしまったんですね。でも,その話を聞いたことで,自分の中でも「DOD3」をプレイして感じていた“歪(いびつ)さ”のようなものに,なんとなく納得がいきました。
ヨコオ氏:
あとは“続編”という立場の作品に対して,どのような立ち位置で向きあえばいいのかという点でも悩みました。
4Gamer:
具体的にはどういった葛藤が。
ヨコオ氏:
まず最初に,「絶対に同じことはやらない」と決めました。作品を縮小再生産することで“磨り減って”いくようなことをしても仕方がありませんし。そうなるくらいなら,違う方向にブッ飛んでしまおうと。
4Gamer:
それも実にヨコオさんらしいですねぇ。
ヨコオ氏:
「ニーア」(PS3用ソフト「ニーア レプリカント」とXbox 360用ソフト「ニーア ゲシュタルト」)の制作時も同じ考えで,そのときは比較的いい反響をいただくことができました。なので「ニーア」と同じことをもう1回やろうと思えば出来ないことはないんです。……ただ,あれが良かったのは「それまでにないことをやった」部分だと思うので,やはり同じことをしても仕方ありません。だから今回も,「これまでにないこと」を一生懸命考え続けていた,という感じです。
4Gamer:
ぶっちゃけヨコオさん的には,「DOD2」の続編を作りたい気持ちはあったんですか。
ヨコオ氏:
僕は「DOD2」のシナリオにはタッチしていないので,その気は全然ありませんでした。でも,初代「DOD」を作っていた時は続編を作りたい気持ちがありましたね。
ただ,作っている最中にキャビアのプロデューサーである岩崎拓矢さんから「続編は無理だと思うよ」と言われてしまって……。それを聞いてからは,「無理なら無理でいいや!」と諦めていたんですよ。だから初代「DOD」は続かなくていいというか,続けられない話にしたつもりでした。だからこそ,“新宿エンド”とか無茶苦茶なことをやったんですけど……。
4Gamer:
結果的には新宿エンドも「ニーア」に続きましたから,どうなるか分からないものですねぇ。
ヨコオ氏:
「DOD」って,ルート分岐によってストーリーが変わるじゃないですか。1本のゲームにおいて,ルートによって違った出来事が起こるというのは,言ってしまえば設定にバグ,矛盾があるということなんです。だから,最終的なエンディングがどこに落ち着くのかは,プレイヤーに対して投げっぱなしになる。結果としては,その“投げっぱなし感”が「DOD」シリーズの核になっていたように感じています。そしてそれは,物語の構造として「DOD3」のテーマにもなっています。
4Gamer:
だからこそ「DOD」シリーズには妄想の余地というか,世界観の広がりが無限大に感じられて,そういった部分に惹かれているファンが多いんだと思います。
ヨコオ氏:
「DOD」シリーズにはさまざまな分岐があって,すべてのエンディングをIFの世界として作っています。でも,プレイヤーのみなさんが受け取っている「DOD」世界の印象って,僕が作ったものとは違うと思うんですよ。僕からゲームとしてアウトプットされた情報が,ユーザーの頭の中でまた新たなイメージとして形作られる。これって,なんだか“コピー”みたいだなと思うんです。情報を転写するため,間に物理的な何かを挟むという。でも,僕が頭の中でイメージしたものと,実際に作り上げたものでは,どうしても違いが出てしまうんですよね。それは開発を頑張るとか頑張らないとかの話ではなく,どうしてもそうなってしまう。
4Gamer:
でしょうね。どんなクリエイターでも,理想とのギャップに向き合いながら作品を手がけていると思います。
ヨコオ氏:
理想と現実の違い。結婚生活みたいなものです。そして,ゲームとして形を変えて出力された僕の情報から,ユーザーが組み上げる情報がこれまた違うものになるんですよ。具体例を言いますと,とくに大きなイメージの違いを感じたのは「カイム」と「アンヘル」の関係ですね。よく「恋愛感情のようなものを感じる」と言われるのですが,僕はまったくそんな風に考えていなかったんです。
でも,プレイヤーはそこに意味を見い出して,そこを好きになってくれている。僕としては,そんな要素を組み込んだつもりはないのに。つまり,元のイメージには存在していなかったはずの要素が転写先には現れている。ただ,それもひとつの正解だと思うんです。「DOD」はパラレルな世界観なので,プレイヤーが作り上げたイメージも分岐のひとつ。……いや,むしろそのイメージこそが,その人にとっての“一番の正解”なんだと思っています。
4Gamer:
面白いもんですねぇ。ユーザーの数だけ世界が存在するのだと考えるとワクワクします。
ヨコオ氏:
そのうえで「DOD3」を作るにあたり,僕がやるべきことは何かということを考えたら「物語に隙間や刺激をたくさん作ること」という結論が出まして。その答えを反映させました。なんというか……クリエイターが神のような存在で,その神の言うことこそが真実だという構図に違和感を感じていて。僕としては,そうでない形にしたかった。
4Gamer:
クリエイターが神でないのならば,ヨコオさんは自身がどういった立ち位置であると考えているのでしょうか?
ヨコオ氏:
世界の傍観者のひとりではないかと,僕は思っています。ファンの方もそれに近いと思うのですが,「キャラクターが本当に生きているかも」という幻想は作家が作るものではなく,お客さんと作品の間で生まれるものじゃないかと。
最近はメディアが親切になってきて,こうしたインタビューなどでも設定の解説をちゃんとしてくれますよね。でも,やりすぎると「これが真の正解ですよ」という提示になって,それこそクリエイターが神様みたいな立ち位置になってしまう。
4Gamer:
結果的にプレイヤーがアレコレと想像を巡らせる余地が無くなってしまう,と。
ヨコオ氏:
その点では「ニーア」でもすこし反省しています。設定資料集で思っていることを全部書いてしまって,ユーザーが“正解”を考える余地を奪ってしまいましたから。
4Gamer:
自分も読みましたが,ちょっとおかしいくらい充実した本でした……。
ヨコオ氏:
あれのせいで僕が「ニーア」という世界の頂点にいる……みたいな状態になってしまったし,マズかったなと。例えば,あれをWikipediaのようにユーザーが作り上げたとしたらすごく面白いなと思うんですが。それを僕がやってしまったというのは時代の流れとして,個人的な好みとしても,あまり良くなかった。
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