レビュー
混迷を深めるセダス大陸の危機を,「審問会」の仲間と共に救うのだ
ドラゴンエイジ:インクイジション
筆者はそんな本作を一足早く試すことができたので,そのプレイレポートをお届けしよう。なお,プレイしたのは日本語ローカライズ済みのPC版で,操作の表記などもそれに準じているが,発売前のバージョンということもあり,製品版や他機種版とは若干異なるところがあるかもしれない点はご容赦願いたい。
また,前述のように本作は「Dragon Age: Origins」「Dragon Age II」に続くシリーズ作だが,残念ながら筆者は両方ともプレイ経験がないので,シリーズ初心者の目線でレポートしていきたい。
「ドラゴンエイジ:インクイジション」公式サイト
大混乱状態の「セダス大陸」を舞台に,「審問会」を率いて世界の危機を救え
まずは物語の舞台と,大まかなストーリーを紹介しよう。
本作の舞台は「セダス大陸」。人間とエルフやドワーフが共存し,ひとたび戦いになれば剣と魔法がぶつかり合い,政治的には貴族と教会が国を支配しているという,かなり典型的なファンタジー世界だ。「指輪物語」を引き合いに出すまでもなく,ゲーマーならお馴染みの世界観と言えるだろう。
セダス大陸では現在,大きな動乱が発生している。魔法はこの世界では比較的ありふれたものなのだが,この世界に住む人々からは非常に危険なものだと認識されており,それを扱う魔道士の立場はかなり悪い。基本的に魔道士は特殊な自治組織の中でしか生きられず,日々の生活にも大きな制限を受けているのだ。
ところが突如その魔道士達が反乱を起こし,自ら自治組織を解体。その管理と監視を行っていた「テンプル騎士団」と全面戦争を開始し,内戦が勃発する。
テンプル騎士団と魔道士の血みどろの戦いが続く中,教会の仲介で和平会議が開催され,主人公は何らかの理由(キャラクターメイキングの結果によって異なる)でその会議に同席することになる。これで平和が訪れるかと思いきや,会場の神殿は原因不明の大爆発に見舞われ,主人公を除いた参加者全員が死亡してしまうのだ。
しかも混乱はこれだけでは収まらず,大爆発と同時に「天の裂け目」が各所に生まれ,そこから凶悪なモンスターが発生し始める。爆発による各陣営の指導者の喪失,天の裂け目とモンスターの発生,和平会議の失敗による内戦の継続など,セダス大陸は今,混乱の極みにあるのだ。
唯一爆発を生き残った主人公だが,気がつくと事件の犯人と勘違いされて囚われの身となっていた。それだけでなく,いつの間にか左手には天の裂け目と同じ,光る緑色の印が刻まれていた……といったところでゲームは始まる。その後,その左手には天の裂け目をふさぐ力があることが判明し,主人公は成り行きから秩序の回復を目指す有志達の組織「審問会」に参加する。そして審問会の「審問官」として,この混乱を収拾するための戦いに奔走していくことになるのだ。
ストーリーは,序盤から怒濤の展開が続くうえ,筆者のように旧作をプレイしていない人には分からない用語も目立つ。そのため,すぐには状況が飲み込みにくいのだが,プレイを続けると徐々に理解できるようになっていくはずだ。
「大爆発を引き起こした真犯人は?」「なぜ主人公だけ生き残ったのか?」「天の裂け目と左手の印の正体は?」といった謎も多く,自然にストーリーに引き込まれていく。シリーズ作だけあってバックボーンは相当にしっかりしているので,ファンはもちろん新規プレイヤーでもどっぷり世界観に浸れるだろう。
審問会という存在がプレイにスパイスを加える
ざっくりとストーリーを説明するつもりが,ずいぶん長くなってしまった気もするが,次にゲームシステムの説明をしよう。本作はオープンワールドタイプのアクションRPGであり,戦闘や探索をこなしながらジャーナルに記録されるクエストを任意の順番でクリアしていくという,定番のシステムになっている。オープンワールドを採用したゲームとしては極めてスタンダードな作りであり,慣れた人なら迷うところはまったくないだろう。
では本作は,システム面に関してとくにひねりのない作品なのか……といえばそうではなく,ストーリーの説明で少し触れた審問会(=インクイジション)が,ゲームを進めるうえで大きな役割を果たしている。
前述のとおり,舞台であるセダス大陸は大きな混乱のさなかにあり,プレイヤーが属する審問会は,その事態収拾を目的としている。混乱が大陸全土に広がっている以上,主人公1人ですべてを解決できるわけもないので,審問会自体の組織力を高めていかなくてはいけない。組織としての審問会の規模は「勢力」と「影響力」という数値で表現されており,新しい地域(マップ)をプレイするためには勢力が,「パーク」と呼ばれる特殊技能をアンロックするためには影響力が必要になる。
ゲームの流れをざっくりとまとめてしまえば,クエストをクリア → 勢力と影響力がアップ(しないこともある) → 集めた勢力と影響力で新しい地域やパークをアンロック → またクエストを受注しクリア……といった感じになる。
プレイヤーが移動できるのは審問会が行動できる範囲に限られるため,「ひたすらレベルだけを上げて先に進む」といった進め方はできないと考えたほうがいいだろう。
とはいえ,一度アンロックした地域では自由に行動できるので,メインクエストそっちのけで,ひたすら探索や収集,サブクエストのクリアに明け暮れることも可能だ。冒険の舞台となるマップはかなり広く,さまざまな特色を持ったサブクエスト用のマップもあるため,数十時間プレイしても筆者の探索はまったく終わらなかった。
ちなみに,これらサブクエストをクリアすることによっても,勢力や影響力が増えたりするので,結果的にメインクエストを進める手助けになるのも嬉しいところ。
収集した素材は,武具やポーションの作成に使用でき,さらに武具はアップグレードアイテムで強化することも可能だ。おまけにそのアップグレードアイテム自体も作成可能と,アイテム作成の要素も充実している。
各所に用意されている洞窟などの探索ポイントや,大量にあるサブクエストも含めて,ゲームのボリュームは相当なもの。次から次へと新しい目的が発生するため,探索好きな冒険者にとっては,嬉しい悲鳴が止まらないはずだ。
自らキャラクターを操作して戦うもよし,一歩引いて戦局を見極めながら指示するもよし
RPGの醍醐味といえば戦闘だが,本作のバトルは最大4人で行うパーティ戦だ。敵発見と同時にシームレスに戦闘態勢になり,リアルタイムで武器攻撃やアビリティを使って敵を倒すスタイルとなっている。
プレイヤーは,パーティメンバーの中のいずれか1人を操作することになるが,操作するキャラクター自体はいつでも任意に切り替えることができる。よって主人公そっちのけでずっとほかのパーティメンバーを操作することも可能だ。なお,プレイヤーが操作するキャラ以外は,AIが自動で戦闘を行う。
PC版ではマウスの左クリックで通常攻撃,キーボードの1から0までがアビリティとアイテムとなっており,これらを任意のタイミングで発動できる。それぞれの武器やアビリティには射程や攻撃範囲が決められており,射程外や範囲外からは,いくらアビリティを使っても当たることはない。
全体的な雰囲気としては,MMORPGのパーティ戦を一人で行う形に近いだろうか。高い防御力を持つ戦士が敵のヘイトを稼いで攻撃を引きつけつつ,ローグが中距離から弓や罠で弱らせ,遠距離から魔道士が強力な魔法をヒットさせる……といった流れが定石になるだろう。
それぞれのキャラクターは職業とアビリティによって特徴が決まっており,基本的にほかの職種では代用がきかない。したがって,役割分担を明確に意識しないと先に進むのは難しい。
たとえば,防御力の低い魔道士が敵の攻撃を受け続ければ,あっという間に死んでしまい,戦闘が一気に不利になる可能性が高い。戦士を操作して敵と激戦を繰り広げていたら,後ろに別の敵が現れて魔道士がピンチになっていた……というのはありがちなので,全体の戦局を把握して立ち回る必要があるわけだ。
このように書くと本作の戦闘は難しそうに感じるかもしれないが,実は味方AIの頭がかなり良く,プレイヤーの操作が今ひとつでもどんどん敵を倒していってくれるので,あまり心配するは必要ない。筆者は戦闘がへたなので,目測を誤って届かない距離で剣をブンブン振り回していることが結構あるのだが,それを尻目に味方が敵をあっという間に壊滅させていたのも1度や2度ではない。なので,アクション操作が苦手な人でも,安心して楽しめるはずだ。
上記は標準のバトルスタイルだが,本作ではさらに「戦術カメラ」という視点に切り替えることで,戦闘方法が一変する。戦術カメラモードに入ると,プレイヤーはキャラを直接操作するのではなく,移動先や攻撃対象をカーソルで選択し,細かい挙動はAIに任せる形になる。画面を見るとまったく別のゲームにすら見えるのだが,見た目だけではなく,プレイフィールも一気に変わるのは特筆すべき点だろう。
前述のような「戦士で敵を完全に引きつけ,魔道士は攻撃のみに集中する」という戦い方を,通常の直接操作スタイルで徹底するのは,視野の問題もあるので正直難しい。その点,戦術カメラモードなら時間を止めて味方に適切な指示を出すことにより,パーティ全体をかなり細かく操作することができる。
またそれだけではなく,たとえば「狭い道に戦士を『壁』として配置し,敵が集まりきったところで,後ろから雨あられのように魔法と矢を撃ち込む」といったシミュレーションゲームのような戦い方も可能だ。筆者はアクションが好きなのでTPS視点の通常モードで戦っているのだが,パーティ戦の醍醐味をより味わえるこちらのほうが好きという人も多そうだ。
余談になるが,上でも触れたようにAIは全般的に優秀なので,「戦術カメラに切り替えてとくに指示は出さずに,そのまま眺めて戦闘が終わるまで待つ」というやり方でも意外と進めたりする。敵が明確に弱かったり,探索済みの場所で戦闘が面倒に感じるときは,このようなオートバトル的な使い方も悪くないという印象だ。
こだわりのキャラメイキングで,自分の分身をセダス大陸に作りだそう
お次はこの手のRPGには欠かせない,キャラクターメイキングの話に移ろう。選択できるのは性別,人種,職業,外見となっており,種族は「人間」「エルフ」「ドワーフ」「クナリ族」の中から,職業は「戦士」「ローグ」「魔道士」から選ぶことになる。組み合わせの制限は,生まれつき魔力のないドワーフが魔道士になれないことを除けばとくになく,種族による補正もあまり大きくないので,好きな組み合わせでゲームを開始するのが良さそうだ。
外見は細かくカスタマイズ可能で,目や耳などパーツ単位で位置やサイズを調節できるほか,顔色や傷跡の量まで自由に変えられるのだ。したがって,たとえデフォルトやプリセットの顔が気に入らなくても,時間をかければお気に入りの顔が作れるだろう。ただ,髪型に関してはあまり選択肢がなく,個人的にはもう少し種類が充実していても良かったのではないかと感じた。
なお,このキャラメイキングで設定した項目は後から変えることができない。ここで作成したキャラクターは,主役として最も目にする時間が長いので,よく吟味してから決めていきたい。
キャラクターつながりということで,職業と種族についてももう少し整理しておこう。本作の職業は「戦士」「ローグ」「魔道士」に分かれており,それぞれ「近距離戦」「弓による遠距離戦と短剣による暗殺」「遠距離戦」に特化している。キャラクターはレベルアップによって強化されていくが,ステータスの振り分けなどはできず,自動的なステータスアップと,任意のアビリティ取得によって能力が決まっていく。「物理攻撃にめっぽう強い魔道士」などは実現不可能なので,自然と能力に適した立ち回りが必要になるわけだ。
一方の種族に関しては見た目が多少(巨人のクナリ族に関してはかなり)変わること,防御耐性のボーナスが異なること,種族専用の装備品があることを頭に入れておこう。ちなみに,戦闘での立ち回りは職業と取得したアビリティで決まるため,種族による差はそこまでない。
ただ,戦闘面以外での変化は結構大きい。セダス大陸では人間が多数派として政治権力を握る一方,エルフは奴隷身分に近く,ドワーフやクナリ族は完全によそ者という扱いで,社会的な立ち位置が大きく異なるからだ。よって選んだ種族により,人々と交流したときの反応はかなり違う。RPG作品では,種族が戦闘パラメーターを決めるための要素になっていることが多いが,本作の種族はそれだけではなく,ゲーム内で描かれる社会に深みを持たせている印象だ。
審問会の存続をかけた厳しい選択は,仲間との軋轢を生むことも
本作はパーティを組んで戦うのが基本となるため,道中さまざまな味方が加わっていくことになる。ゲーム開始後すぐに騎士のカサンドラとエルフのソラス,ドワーフのヴァリックが仲間になって4人パーティが完成し,その後も各所でメンバーを増やす機会が訪れるという仕組みだ。
だが,仲間を増やしていくと困った問題も発生する。多くの仲間は「天の裂け目をふさぐ」という目的では意見が一致しているが,それ以外はそれぞれが固有の信念と政治信条を持っており,それがプレイヤーの選択と合致しないと,好感度が下がってしまうのだ。
プレイヤーは審問官として,ゲームを進めるごとに,ある人や組織への対処をどうするか,仲間に加えるか加えないか,といったことを選択していかなくてはならない。これらの選択には善悪といった比較的分かりやすい尺度で決められるものもあるが,政治的要因が絡むため「答えがない」ものも多く,また「伝統を守るか,破壊するか」といった価値観を問われるものもある。
ある選択が特定の仲間の好感度を大きく上げる一方,別の仲間の好感度を一気に下げるというのは日常茶飯事で,八方美人的な行動はかなり難しい。好感度が下がりすぎると審問会からの離脱もあり得るうえ,ストーリーの変化にもつながってくるので,好感度だけで選ぶのも考え物だ。
自分の信念を貫くのか,はたまたお気に入りの仲間に配慮するのかというジレンマは,プレイヤーを悩ませるだろう。
まさに「王道」かつ「満漢全席」な一作
正統派RPGを楽しみたいなら,プレイしない手はない
では,そろそろまとめに入ろう。
ドラゴンエイジ:インクイジションは,危機に陥った世界を救うため,特別な力を秘めたヒーローが奔走する英雄譚だ。またゲームとしては,オープンワールドを探索しながら任意でクエストを進めていくという,ゲーマーには見慣れたシステムが採用されている。良く言えば奇をてらわない「王道」,悪く言えば目新しさが少ない,まさにド直球のRPGといえるだろう。
そんな本作だが決して凡庸な作品ではなく,ゲーム全体としてのクオリティは極めて高い。それは恐らく,ゲーム中の多くの要素が非常に高いバランスでうまくかみ合っているからだろう。
美しいグラフィックス,深い世界観と謎多きストーリー,個性的な仲間達,バラエティ豊かで広々としたマップ,収集・生産などのやりこみ要素,戦闘におけるTPS / 戦術モードの自然な融合……と弱点がほとんど見当たらないのだ。まさにRPGに必要なものをありったけ詰め込んだ「満漢全席」ともいえるボリューム感で,プレイしていてちょっと圧倒されてしまうほど。ローカライズもかなり丁寧で,音声こそ英語のみであるものの,作中の書籍や町中の会話もきっちりと翻訳されている点はかなり嬉しい。
もちろん,いくつか気になるところはある。全体的にロード時間が少し長めのようで,とくに別の地域(マップ)に入るときにそれなりに待たされる印象はある。また,会話できるはずの人と話せなかったり,同じクエストの終了告知が何度も表示されたりすることがあるなど,大作ゆえか細かい不具合がいくつか残っているようだった(この2つはロードすると直るが)。そして,シリーズ作ゆえの専門用語が多い。
だが,それらの点を考慮しても,本作が「2014年の秋冬にRPGをプレイしたいならこれだ!」と大プッシュしたいデキなのは間違いない。筆者は本稿を執筆するにあたって約40時間ほどプレイをしたのだが,これでもやり込んだどころか,未だメインシナリオのクリアにすら至っていない。軽い気持ちでマップ散策を始めると,次々と探索ポイントやイベントが見つかり,メインの話がまったく進まないのだ。それぐらい,セダス大陸は発見に満ちている。旧作を知っていればより楽しめそうだが,たとえ知らなくても何か問題に感じたことはほとんどない。
もっと簡潔にまとめれば,本作は非常に良質なRPGであり,時間を忘れて没頭してしまう魅力がある。筆者のように旧作を未プレイの人も,それを理由に食わず嫌いしてしまうのは,はっきり言ってもったいない。「国産のRPGしか受け付けない」とか「リアル寄りのグラフィックスがどうしてもダメ」といった事情がない限り,多くのRPGのファン達に,ぜひプレイしていただきたい一作だ。
「ドラゴンエイジ:インクイジション」公式サイト
- 関連タイトル:
ドラゴンエイジ:インクイジション
- 関連タイトル:
ドラゴンエイジ:インクイジション
- 関連タイトル:
ドラゴンエイジ:インクイジション
- 関連タイトル:
ドラゴンエイジ:インクイジション
- 関連タイトル:
ドラゴンエイジ:インクイジション
- この記事のURL:
キーワード