レビュー
海外生まれの2D格闘ゲーム「Skullgirls」レビュー
Skullgirls
海外産の格闘ゲームといえば,「Mortal Kombat」シリーズのような写実的なゲームを想像してしまうが,Skullgirlsはそうではない。登場するキャラクターはすべてアニメ調の美少女達で,彼女らは願いを叶える謎のアーティファクト(工芸品)「スカルハート」を巡ってバトルを繰り広げていく。
「Skullgirls」日本語公式サイト
一口に美少女といっても,本作のキャラクター達の個性はかなり強烈だ。パラサイト(寄生生物)を頭に乗せた女子高生や,自分の首を取り外して武器にする女盗賊,狙撃兵やバイク兵など軍人仲間と共にパラソルで戦う王女,さまざまな薬品を敵に注射し,果てはその場で手術を開始してしまうナース(?),そして一見シスター姿だが,文字通り裏返ると(!)凶悪な本性を現す怪物などなど。滑らかなドット絵で表現された彼女達が繰り広げる奇想天外なバトルが,本作の大きな魅力となっている。
「美少女オンリー」というパワーと吹っ切り
そもそも格闘ゲームは,日本で成立し,ブームとなったゲームジャンルだ。古くは「空手道」「対戦空手道 美少女青春編」(1984),「イー・アル・カンフー」(1985),「黄金の城」(1986)などを草分けとし,「ストリートファイターII」(1991)で,“1レバー+6ボタンで操作,2P対戦および乱入可能”というフォーマットが完成。続く「ストリートファイターII’」(1992)では,現在でもよく見られる対面型の対戦台が一般化して,「対戦格闘ゲーム」の一大ブームを巻き起こした。
その後も「ヴァンパイア」(1994)や「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズなどがブームを牽引し,現在の「ストリートファイターIV」シリーズや「鉄拳」シリーズに至るまで,数多くのタイトルが日本で生み出されている。
本作,Skullgirlsは,先に挙げたうちの一つであるヴァンパイアや,「MARVEL VS. CAPCOM」シリーズの流れをくんだ格闘ゲームといって差し支えないだろう。ヴァンパイアシリーズといえば,ややアニメ調の絵柄による滑らかなドット絵で,当時の格闘ゲームシーンに大きなインパクトを残したタイトルだ。またキャラクターが吸血鬼や狼男といった,いわゆる人外になったことで,(波動拳など,いささか誇張はあるものの)人間の格闘家達が主人公だったそれまでのタイトルとは,ゲームデザインのレベルでも大きな差別化が図られていた。
Skullgirlsのキャラクター達も,ヴァンパイアのキャラクター達と同様,実に滑らかな動きで戦う。大量のアニメーションの1コマ1コマにも細かな気配りがされており,人外(といって良いだろう)であるキャラクター達のあり得ないような攻撃に,カートゥーン的な説得力を与えている。もちろん1280×720ピクセルのHDグラフィックスに対応していて,ヴァンパイアの解像度が384×224ピクセルだったことを思えば隔世の感がある。
垂直上昇がヒットすると斜め下に急降下するという,いわゆる対空系の無敵技である,フィリアの超必殺技「Fenrir Drive(フェンリルドライブ)」を一例にすると,この技で主体となっているのは,フィリアの頭に乗っているパラサイトの「サムソン」だ。頭上のサムソンは巨大な口となり,フィリアを持ち上げる形で急上昇。頂点で一回転し,今度は狼のように変形。フィリアを背中に乗せるような形となって斜め下へと急降下していく。
彼女は「目が覚めるとある日突然不気味なパラサイトが頭に寄生していた」という,恐ろしい状況の中で戦う16歳の女子高生だ。「フェンリルドライブ」中のフィリアはサムソンに振り回されるばかりで,急降下の際などには,恐怖のあまりか目までつぶってしまっている。こうした細かいアニメーションが,フィリアの「普通の少女」というキャラクターに説得力を与えている。
そんな本作のアニメーションは,すべて手描きによって産み出されているとのことで,その詳しい制作過程は,海外サイト「G4」による取材動画「Skullgirls "Art Process" Behind The Scenes Video」で見ることができる。ノートに書かれた線画がスキャナーでPCに取り込まれ,ペンタブレットによる修正と彩色,コマ割りの微調整などを経て,キャラクターに命が吹き込まれていくのは,まるで魔法を見ているかのようだ。
また制作過程もさることながら,日本の影響を受けていながらも,単純なコピーに終わらないデザインの美少女キャラクター達もまた素晴らしい。
冒頭でも少し触れたように,海外産の格闘ゲームといえば初期の「MORTAL KOMBAT」(1991)や「Killer Instinct」「Primal Rage」(1994)など,実写取り込みやプリレンダで作られたリアル調のキャラクターによる作品がよく知られている。
「BloodStorm」(1994)や「Time Killers」(1996),「ファーストサムライ」で知られるVivid Imageが作った剣豪格闘「Dual Blades」(2002)のように,いわゆる手描きグラフィックスの作品もあるにはあるが,総じてリアル寄りが多いことは間違いない。本作のように,日本でも通用しそうなアニメ系キャラクターが登場するというのは,非常に珍しい例といって良いだろう。
美少女キャラクターを主体にした格闘ゲームといえば,現在は「AQUAPAZZA」などが人気を集めているが,そのハシリといえば「あすか120%」(1994)だろう。それまで男性キャラクターを中心に,少年漫画的な世界を構築していた格闘ゲームの世界において,美少女キャラクターのみが戦う格闘ゲームというのは,ちょっとした事件だった。
家庭用オンリーのタイトルだったため,アーケードが主体の格闘ゲーム史においてはやや軽視されがちなタイトルではあるが,ゲームパッドで遊ぶことを前提にデザインされたシステムなど,後に与えた影響は決して少なくない。
シリーズは後に多機種で展開され,またその流れを汲んだフォロワーをいくつも生み出すのだが,同作がそこまで支持されたのは,ゲームのでき映えに加えて,大好きな美少女を集めてゲームを作るというパワーと吹っ切りが,多くの人に支持された理由なのではないだろうか。
パワーと吹っ切り。これはSkullgirlsにも共通するポイントであるように思える。
手描きグラフィックスによる格闘ゲームは,想像以上に手間のかかるもので,資金的にも潤沢とは得ないだろうインディー系メーカーにとっては,決して楽な道のりではなかったハズだ。これはもう,格闘ゲームと美少女に対する熱いパワーと吹っ切りがなければ,なかなかできないことに違いない。
ゲームシステムにも溢れる格闘ゲーム愛
美少女系という側面ばかりを強調してきたが,本作の細かなシステムの中には,格闘ゲームそのものへの思い入れも,強く見ることができる。
本作の操作方法は,8方向レバーに,パンチとキックにそれぞれ弱/中/強の3種のボタンが用意された,いわゆるカプコン格闘を踏襲した形となる。また後述のチームバトルシステムやアシスト攻撃,アドバンシングガードや「Co-STAR Combo(=いわゆるディレイドハイパーコンボ)」といったゲームシステムから,本作が「MARVEL VS. CAPCOM」シリーズを参考にしているのは明らかだが,それに止まらないオリジナリティが,本作からは溢れているのだ。
例えば,自由度の高い格闘ゲームにはつきものの永久コンボに対しては,これを防止する「Infinite Prevention System(永久防止システム)」が用意されている。このシステムは,大まかに説明すると,コンボをいくつかの「セクション」に分け,同じ動きが繰り返されると,犠牲者側が無敵の緊急離脱攻撃を繰り出せるようになるというシステムだ。これにより,特定の技を繰り返すだけの永久コンボなら,ある程度抑制できるようになっている。
本来,ゲームの自由度が高くなればなるほど,永久コンボを完全に排除するのは難しいものだ。簡単なのは動きの自由度を下げ,吹き飛びやダウンの最中に一切の追撃を許さないようにすることだが,それは制作者達の望みではなかったのだろう。かといって,ゲームバランスを崩してしまう永久コンボを放置するわけにもいかず,永久コンボが見つかる度に,パッチがオンライン配信されたりするのが最近の定番だったりするのだが,それに対する対策を試みているのが面白い。
アシストシステムも興味深い。本作は最大3人のキャラクターでチームを組んでの対戦が可能(1vs.3の対戦も可能。ただし3人のチームには体力に大幅補正がかかる)だが,2人以上のキャラクターを選んだ場合,控えの仲間に援護攻撃を出してもらうことができるようになっている。ここまでならよくあるシステムだが,Skullgirlsではアシスト時にどの技を出すかを,選択したキャラクターのすべての技から任意に設定できる。必殺技だけでなく通常技を設定することもできるので,自由度の高い組み合わせが可能。こうしてプレイヤーが研究開発する余地を作り出しているというわけだ。
果たして日本語版の発売は?
筆者が確認したところ,2012年7月現在,Skullgirlsの日本版は発売元となるパブリッシャーが決まっていないとのことで,日本語版への道のりは,険しい様子。英語版であれば,まもなくPC版がSteamにて配信されるとのことなので,今までよりは入手しやすくなるだろう。しかし,やっぱりストーリーモードなどを日本語で見てみたいという人は,少なくないに違いない。
イラストコミュニケーションサイトの「pixiv」では,日本未発売であるにも関らず,すでに数多くのイラストが寄せられている(2012年7月3日現在,「skullgirls」タグで519件)。もともとが日本の文化に近いタイトルではあるのだが,言葉も感性も違う人々が作ったゲームが産み出す熱気が,こうして海を越えるというのはゲームを趣味とする者として素直に喜ばしい。
日本のパブリッシャ各社には,ぜひ本作の日本語版の発売に向け,前向きに検討してほしいものである。
「Skullgirls」日本語公式サイト
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