インタビュー
[インタビュー]「フォートナイト」のオリジナルマップでeスポーツ大会。Sony Esports Projectでマップ開発を指揮する田中和治氏に開発秘話を聞く
これまでも映画「スパイダーマン」のIPを利用した「SHIBUYA MULTIVERSE」などを展開していたが,2023年11月には,タクティカルシューターベースのオリジナルマップ「Tactical SkyArena」での大会を開催。100チーム近くエントリーし,出場者たちがハイレベルな戦いを繰り広げた。
「フォートナイト」に作られたオリジナルマップ“Tactical SkyArena”を使用したeスポーツ大会“Sony Creative Cup featuring Fortnite”レポート
ソニーグループは,「フォートナイト」上に制作したオリジナルマップ「Tactical SkyArena」を使用したeスポーツ大会「Sony Creative Cup featuring Fortnite」の決勝戦を2023年11月23日に開催した。本稿では100チームがエントリーした本大会の決勝戦の模様をお届けする。
そこで気になるのが,オリジナルマップをどうやって作っているのか,ということだろう。そこで本稿では,Sony Esports Projectで「フォートナイト」のオリジナルマップ開発を指揮する田中和治氏に話を聞いた。コンシューマゲームの開発経験もある田中氏だからこそ分かる,通常のゲーム開発との違いに注目だ。
4Gamer:
よろしくお願いします。
まずは田中さんの経歴を教えてください。
TV番組やCMで使われるCGを作る仕事からクリエイターとしてのキャリアをスタートさせました。ですが,元々はキャラクターにアニメーションをつけて動かすということに興味を持ってCGを始めたので,アニメーターとしてゲームを作りたくなりゲーム会社に入りました。
最初の頃はサッカーやバスケットボールなどのスポーツゲームを中心にゲーム開発に携わっていましたが,SIE JAPANスタジオ(現在はTeam Asobiに統合)に入ることになり,「サルゲッチュ」チームのアニメーターとして,キャリアを積んでいきました。
その後はプロデューサーとして開発に携わる機会をいただき,「The Tomorrow Children」などいくつかのタイトルを作りました。
4Gamer:
CEDECでの講演のときはVR推進室のテクニカルプロデューサーという役職についてましたよね。
田中氏:
そうですね。当時ソニーグループ内で横断型の「Project Lindbergh(プロジェクト・リンドバーグ)」というXRを使った新しいエンタメ体験を作るというプロジェクトがあったのですが,そこに私も参加して,ソニー内のテクノロジーを使ったコンテンツをいくつかプロデュースしました。CEDECの講演もその時作ったコンテンツの一つでボリュメトリックキャプチャ技術を使った事例を紹介させていただきました。
4Gamer:
そこからSony Esports Projectにも関わっていくことになったんですね。
田中氏:
はい。Sony Esports Projectはソニーグループ内のテクノロジーとコンテンツIPをうまく融合させて,プラットフォームを限定せずにエンタテインメント性の高い新たなeスポーツ体験を多くの方に届けることを目指しているプロジェクトで,私はその中で「フォートナイト」のクリエイティブツールのUEFN(Unreal Editor for Fortnite)を使ってオリジナルマップを作り,新たなeスポーツ体験を提供する試みでいくつかのオリジナルマップ開発のディレクションを担当しました。
4Gamer:
「Tactical SkyArena」を作った切っ掛けというのはなんだったのでしょうか。
田中氏:
「Tactical SkyArena」が初めてのオリジナルマップではなく,今までも「フォートナイト」内ではマップを作ってきました。「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の公開に合わせてリリースした「SHIBUYA MULTIVERSE」では渋谷の街を再現し,街中でのランレースでクリアタイムを競うものや,ピッケルをメイン武器としてエリア占拠を目的としたPvPの「SKY BATTLE IN SHIBUYA MULTIVERSE」などを提供してきました。
その流れの中で,IPを使わないSony Esports Projectのオリジナルマップを使ったeスポーツの大会開催を目指してみようというのが「Tactical SkyArena」を作ったきっかけです。
4Gamer:
ベースとなる「フォートナイト」はTPSですが「Tactical SkyArena」はFPSとして作られていますよね。技術的にも難しかったと思うのですが,なぜFPSにしたのでしょうか。
田中氏:
おっしゃる通り,「フォートナイト」はTPSで,UEFNで作られているクリエイティブマップもほとんどがTPSです。そこに今からTPSのマップを作っても,すでに人気マップがある中で遊んでもらえずに埋もれてしまうという話になりました。
ちょうどその時に,UEFNでFPSとして作れるかもしれないと開発チームから提案されて,FPSができるのであればUEFNの中では先行マップとしてリリースができるし,今までとは違ったものが作れるかもしれないと考えて,挑戦してみたんです。
最初はTPSとFPSの両軸で作っていたのですが,最終的にFPSでうまくゲーム化できる目処が立ち,FPSとして制作することを選びました。
4Gamer:
「Tactical SkyArena」はいわゆるタクティカルシューターというジャンルなんですが,このジャンルを選んだ理由はなんでしょうか。
田中氏:
前提として大会の開催が予定されていていたので,まずはeスポーツとして楽しめるものを作るというものがありました。UEFNはベースが「フォートナイト」なので,機能的なものを考えるとやはりシューター系がマップとしての完成度が高くなるだろうと考えて決めました。
次にシューター系として銃撃戦自体が楽しいもの,そして個人戦ではなく団体戦として成り立つもので検討している中で,個人のスキルだけでなくチーム戦略が勝敗に影響を与えるゲーム性なら,プレイするだけでなく,イベント時の視聴側も楽しいだろうと思い,タクティカルシューターを選びました。
4Gamer:
タクティカルシューター以外のアイデアもあったのでしょうか。
田中氏:
今回は企画段階で最初にシューター系でいくと決めたので,他のジャンルの候補はなかったですが,ゲームルールを肉付けしていく際には,チームデスマッチやフリーフォーオールなどは話にあがったりしました。
4Gamer:
開発期間はどのくらいだったのでしょうか。
田中氏:
企画期間入れて半年もなかったです。4か月くらいですかね? 夏に作り始めて秋にリリースしたくらいの感覚でした(笑)。
4Gamer:
かなり短いですね。大会を実際に見させてもらい,こう言っては失礼だと思いますが,バランス調整が難しいタクティカルシューターで,ゲームとしてちゃんと成立しているなと。
田中氏:
正直僕もそう思います(笑)。僕もUEFNでクリエイティブマップを作るのは初めてだったので手探り状態の中,開発チームが頑張ってくれたと思います。昔のゲーム開発者からするとあり得ない感覚でした。
3か月ほどでゲームルールが実装されてチーム戦で勝敗を決められるものが作れる,UEFNってすごいなと思いましたね。
バランス調整は特に力を入れた部分で,開発チームの方で常にプレイテストを繰り返して,バランスを取っていきました。「Tactical SkyArena」はキャラクターがいて性能に違いがあるので,キャラクターごとの有利不利のバランスを取る部分には注意して時間をかけましたね。
4Gamer:
キャラクターごとに性能が違うというヒーローシューター要素もあったのですが,そのキャラクターたちは初めから考えられていたのでしょうか。
田中氏:
作りながら考えていきました。キャラクターを考えるために開発を止めると時間が足りないので,作っていっていけそうなら残す,ダメそうならやめる,という繰り返しでしたね。UEFNだとまずは試してみるというのを簡単に行えるので,手軽にというと語弊があるかもしれませんが,ドンドン試すことができました。
4Gamer:
スピード感というか,作りながら考えていくというのはすごいですね。
UEFNだからできたのかなというのはあります。アセットも1から作っていくと時間が足りないので,ストアから持ってきてカスタムして使って,開発時間を短縮していました。予算も開発に関わった人数も普通のゲーム開発と比べられないくらい小規模なんですよ(笑)。
4Gamer:
「Tactical SkyArena」はフォートナイトにもともとある,ブッシュや建築の要素も取り入れてましたよね。大会で実際にプレイしているのを見て,開発時に想定していなかったことなどはありましたか。
田中氏:
やはり建築要素ですね。「ここに行っちゃえるのか!」みたいな驚きがありました。建築要素もかなり苦労して調整した内容の1つで,攻略バランスを壊さないように入念にチェックして1つずつ,バランスを崩す場所はつぶしていきましたが,プレイヤーはいつも想像を越えてきますね。
大会を作り手側として観戦してみて,感動するくらいみんな上手くて驚きましたね。リリースから大会までそこまで日付がない中で,たくさん研究をしてくれて,ハイレベルな戦いが見られたと思います。
4Gamer:
リリースされたばかりのマップとゲーム性で,あそこまで研究されているのは僕も驚きました。想像以上にハイレベルな戦いが繰り広げられたこともそうですし,「Tactical SkyArena」自体がハイレベルな戦いを演出できるハイクオリティなタクティカルシューターとして仕上がってました。
田中氏:
「Tactical SkyArena」は開発チームのメンバーがかなり熱心で,こちらが期待していた以上のものを作ってくれたと思います。自分が作ったオリジナルマップが大会になるっていうのがモチベーションになっていたみたいで,それがあったからこそ,あそこまでのものができたのかなと。
4Gamer:
なるほど。これらの経験を生かして,今後もクリエイティブマップを開発していくのでしょうか。
田中氏:
はい,これからもソニーの多様なテクノロジーやコンテンツIPと融合してオリジナルマップをお届けしていきたいです。ご期待ください!
4Gamer:
ありがとうございました。
「Sony Esports Project」公式サイト
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