テストレポート
「3DMark」の新ベンチマーク「Steel Nomad」とはなにか? 現行GPUの性能を計測してみた
予告どおりSteel Nomadは,3DMarkの有料版であるAdvanced EditionやProfessional Edition,Steam Editionだけでなく,無料版のBasic Editionでも実行できるテストであり,DirectX 12のGPU性能テストとして,主力となるように作られたものだ。本稿では,報道関係者向けのプレリリース版をもとに,Steel Nomadのおもな特徴などをまとめていきたい。
古びてきたTime Spyを置き換えるSteel Nomad
Steel Nomadについて説明する前に,DirectXの変遷と3DMarkによる対応の歴史について,簡単に振り返る必要があるだろう。
DirectX 12を取り巻く環境は,Time Spy登場当時とはかなり変わっている。Time Spyは,DirectX 11ベースが多かった当時のGPUでも対応できる「DirectX 12 Future Level 11」に基づいて作られたものだが,昨今のゲームは,「DirectX 12 Future Level 12」以降を使うのが一般的だ。それにともないゲームエンジンの構造も変化している。
今どきのGPUは,DirectX 12 Future Level 12以降に対応するのが当たり前だ。そんなわけでTime Spyは,DirectX 12の性能指標としては相応しくなくなってきた,というのがUL Benchmarkの主張だ。
Speed Wayは,Xbox OneシリーズとWindowsのゲームにおける共通基盤である「DirectX 12 Ultimate」の性能をテストするベンチマークだ。DirectX 12の機能レベルで言うとFuture Level 12_2の最新機能に対応する(※DirectX 12 Ultimate=Future Level 12_2ではなく,Future Level 12_2にDirectX 12 Ultimateが含まれるというイメージ)。
Speed Wayでは,DirectX 12 Ultimateに含まれるリアルタイムレイトレーシング機能である「DirectX Raytracing」を多用している。一方,PCゲームのほとんどは,レイトレーシングを使っていないか,Speed Wayほど多用はしていないタイトルがまだ多数派だ。Speed Wayのスコアは,レイトレーシング性能が高くないGPUだとスコアががっくりと落ちる傾向があるが,その傾向がリアルなゲーム性能を表しているかと言われると,いささか疑問が残る。
そもそも,エントリー市場向けGPUの中には,DirectX 12 Ultimateに対応していない製品もまだあり,そうしたGPUの性能は,Speed Wayでは計測できない。
そのほかに,2018年に登場したテスト「Port Royal」もあるが,こちらはDirectX Raytracingの描画性能に焦点を当てたテストなので,Time Spyの代わりにはならない。といった具合で,Time Spy以降に追加されたDirectX 12対応テストは,いずれも,リアルなゲームに近い性能指標とするには,使いにくいものばかりだったわけだ。
今回のSteel Nomadは,そんな隙間を埋めるテストだ。レイトレーシングは使用しておらず,「DirectX 12 Future Level 12_0」に対応するGPU,つまり現行世代の全GPUで動作する。なおかつ,重量級のグラフィックスを,標準4K解像度でレンダリングすることで,最新世代のGPUにとっても,十分に負荷の高いベンチマークとなった。
要は,Steel Nomadとは,レイトレーシングを使用していない現行世代ゲームの性能指標となることを目指して作られた新ベンチマークと理解すればいい。
Steel Nomadには,マルチプラットフォーム向けのLite版もある
Steel Nomadには,PCのゲーム性能を計測する“無印”版だけでなく,マルチプラットフォーム対応となる軽量版の「Steel Nomad Lite」というベンチマークもある。
どちらもグラフィックスシーンを描いてフレームレートを測定する,いわゆるGraphics testだけがあり,CPU性能を測るテストは含まれない。UL Benchmarkは現在,CPU性能は「CPU Profile」ベンチマークで測定することを推奨している(※4Gamerでも,GPU性能計測ではTime SpyやFire StrikeのCPU性能テスト結果を使っていない)。Time SpyのようなCPU性能テストを含む総合ベンチマークが作られることは,今後なさそうだ。
Steel Nomad(鋼の放浪者)というタイトルどおり,ベンチマークではスチームパンク風の世界が描かれる。街を訪れた放浪者が,掲示板のようなものを見て自身が手配されていることを知り,同時に追手が現れるというショートストーリーが,美しいグラフィックスで展開されるという内容だ。
Steel Nomadでは,レンダリング解像度3840×2160ドットが標準設定だ。ただ,実際の画面表示は接続しているディスプレイ解像度に応じて行われるので,テストに4Kディスプレイが必要というわけではない。
技術資料が公開されていないので,報道関係者向けガイドを基にすると,使用しているグラフィックス技術は,ボリュメトリックな空や雲の描画,プロシージャルな草の表現,ボリュームイルミネーション,アンビエントオクルージョン,被写体深度といったものだそうで,とくにSteel Nomadでは,HDRを有効化すると,よりポップな映像になるとのことである。
ちなみに,使用している技術のひとつとして,「XeGTAO」が挙げられていた。XeGTAOは,DirectX/HLSLを使用したスクリーンスペースアンビエントオクルージョン関連のオープンソースによる実装のひとつだ。すでにプロジェクトを主催していたIntelが手を引いており,開発プロジェクトも終了しているが,開発成果であるソースは公開されたままだ。おそらくSteel Nomadのエンジンでは,XeGTAOをそのまま流用しているか,多少改造して利用しているということなのだろう。
Steel Nomadでは,グラフィックスAPIとしてDirectX 12とVulkanをサポートしている。システム要件は以下のとおりだ。
- OS:64bit版のWindows 11またはWindows 10 21H2以降
- CPU:SSE3命令セットに対応するクロック周波数1.8GHz,デュアルコア以上のCPU
- システムメモリ:8GB以上
- GPU:DirectX 12 Future Level 12_0以降およびShader Model 6.0以降に対応するGPU
- グラフィックスメモリ:6GB以上(※統合GPUでは16GB以上のシステムメモリ容量推奨)
- ストレージ空き容量:1.5GB以上
少し前のエントリー市場向けGPUだと,グラフィックスメモリ容量がハードルになりそうだが,少なくとも現行世代ならば,エントリー市場向けのゲームPCでもクリアできる程度だろう。
なお,Steel Nomadのリリース当初はWindows版のみだが,近日中にLinuxおよびmacOS版の提供を予定しているという。
軽量版であるSteel Nomad Liteでは,基本的にSteel Nomadと同じシチュエーションのグラフィックスシーンを描く。ただ,周囲は夜間になっており,Steel Nomadにおいて負荷が高いグラフィックス処理を省略しているという。
シーンを比較してみると稲妻のような表現がなくなるなど,Steel Nomadとは微妙に異なる部分が確認できる。また,レンダリング解像度が2560×1440ドットに抑えられ,エントリー市場向けGPUでも実行しやすくなっている。
Steel Nomad Liteは,Windows版とWindows on Arm版,Android版とiOS版がリリースの予定だ。また,Linux版とmacOS版の提供も予定されており,各種プラットフォームを横並びで比較できるテストになる。同じ横並びのマルチプラットフォームテストが可能なWild Lifeよりも,処理負荷の高いテストなので,新しい世代のスマートフォンにおける性能テストに役立ちそうだ。
WindowsにおけるSteel Nomad Liteのシステム要件は以下のとおり。
- OS:64bit版のWindows 11またはWindows 10 21H2以降
- CPU:SSE3命令セットに対応するクロック周波数1.8GHz,デュアルコア以上のCPU
- システムメモリ:8GB以上
- GPU:DirectX 12 Future Level 12_0以降およびShader Model 6.0以降に対応するGPU
- グラフィックスメモリ:4GB以上(統合GPUでは8GB以上のシステムメモリ容量推奨)
- ストレージ空き容量:1.5GB以上
Steel Nomadとの違いは,グラフィックスメモリ容量のみだが,4GBでも動作することから,少し古めのエントリー市場向けGPUでも,問題なく動作するあたりがWindows版における特徴と言えよう。
Steel Nomadの実行方法
Steel Nomadの実行方法についても,簡単に紹介しておこう。Steel Nomadには,標準のベンチマーク実行に加えて「Stress test」と「Explorer mode」という3つの実行モードがある。
ベンチマークモードは,「Settings」欄のプルダウンメニューで,実行するGPUおよび表示するディスプレイと,使用するAPI(DirectX 12かVulkan)を切り替えられる。先述のとおり,レンダリング解像度は3840×1440ドット固定だが,繰り返しになるが4K解像度のディスプレイは不要だ。グラフィックスシーンが表示されたあとで,平均フレームレートから重み付けを加えたスコアが算出されるという,3DMarkでお馴染みの仕組みだ。
「VS. mode」を有効化すると,3DMark.comが提供しているスコア集計サイトのデータと自分のスコアを比較できるが,本稿を執筆している時点ではサイトがオープンしていないため機能しなかった。
ベンチマークは「Custom run」でカスタマイズして実行することも可能だが,設定できる特別な項目はあまりない。Windowsの設定でHDRが有効ならば,「Enable HDR」でHDRをオンできるが,当然ながらHDR表示が可能なディスプレイが必要である。
そのほかにも,「Image quality tool」ではレンダリング画像をファイルとして出力し,ほかのGPUでの結果と比較できるが,ゲーマーが利用する機会はあまりないだろう。
「Stress test」モードは,ベンチマークシーンを初期設定では20回連続で実行して,その間の最大および最小スコアやGPU温度の変化などを確認するものだ。連続実行によって持続的に高負荷をかけた状態での性能や温度変化を調べるために活用できる。
最後のExplorer modeは,シーンの中をウォークスルーで移動してみたり,各種エフェクトなどをオン/オフして変化を確認できたりするモードだ。
移動可能範囲はわりと狭く,街の一部分を歩けるくらいだが,UL Benchmarkによると,Steel Nomadのマップを探索することで「過去25年の間にリリースしたベンチマークの,隠された秘密を発見できる」そうだ。Futuremark時代からの,3DMarkシリーズの各シーンを熟知していると自信のある人は,秘密の発見に挑戦してみると面白いかもしれない。
スコアはTime Spyに似た傾向だが,差のつき方がやや異なる
それでは,Steel Nomadを実行して,スコア傾向をチェックしてみよう。今回は時間が限られたので,すぐに用意できた5種類のGPUでSteel Nomadを実行してみた。
比較対象として,既存のDirectX 12系テストから「Time Spy」「Time Spy Extreme」「Speed Way」も実行した。使用した機材は表のとおりだ。
CPU | Core i9-14900K(P-core 定格クロック3.2GHz, |
---|---|
マザーボード | ASUSTeK Computer |
メインメモリ | G.Skill International Enterprise |
グラフィックスカード | GeForce RTX 4080 SUPER Founders Edition (GeForce RTX 4080 SUPER,グラフィックスメモリ容量16GB) |
GeForce RTX 4070 Founders Edition (GeForce RTX 4070,グラフィックスメモリ容量12GB) |
|
MSI GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC (GeForce RTX 4060,グラフィックスメモリ容量8GB) |
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PowerColor Hellhound AMD Radeon RX 7900 GRE 16GB GDDR6 (Radeon RX 7900 GRE,グラフィックスメモリ容量16GB) |
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Radeon RX 7800 XTリファレンスカード (Radeon RX 7800 XT,グラフィックスメモリ容量16GB) |
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ストレージ | GIGABYTE AORUS NVMe Gen4 SSD 2TB (PCIe 4.0 x4接続, |
電源ユニット | SilverStone Technology |
OS | Windows 11 Pro |
チップセットドライバ | Chipset Software |
グラフィックスドライバ | GeForce:GeForce |
Radeon:AMD Software |
Steel Nomad(グラフ1),Speed Way(グラフ2),Time Spy(グラフ3)の順で,スコアを見ていこう。
大雑把に言うと,Steel Nomadのスコア傾向は,Time Spy Extremeに近いと言える。最も高いスコアを記録したのがGeForce RTX 4080 SUPERという点は,4つのテストすべて同じだ。だが,レイトレーシングを使用しないSteel NomadとTime Spy(およびTime Spy Extreme)では,2番手がRadeon RX 7900 GRE,3番手がRadeon RX 7800 XTとなるのに対して,レイトレーシングを使用するSpeed Wayでは,2番手にGeForce RTX 4070が浮上し,Radeon RX 7900 GRE以下が3番手以降に沈んでいる。
よく知られているように,Radeon RX 7000シリーズは,GeForce RTX 40シリーズにレイトレーシング性能で及ばない。その傾向が,はっきりと出ているわけだ。
ただ細かく見ると,Steel Nomadと古典的なTime Spy,Time Spy Extremeでは,スコア差のつき方に若干の違いがある。
GeForce RTX 4080 SUPERのスコアを100とした場合,Steel NomadではRadeon RX 7900 GREが73,Radeon RX 7800 XTが62となるのに対して,Time Spyでは81と73,Time Spy Extremeでは77と69といった具合に,Steel Nomadのほうがスコア差は大きいのだ。同様に,GeForce RTX 4070やGeForce RTX 4060も,GeForce RTX 4080 SUPERと比較したときのスコア差が,Steel Nomadでは大きくなっている。
つまりSteel Nomadのスコアは,GPUの性能差が,強く出やすい傾向があるわけだ。これは,Steel NomadがTime Spy系よりは新しいグラフィックエンジンを使っているからではないだろうか。今後登場するGPUをテストする場合でも,Time Spy系よりもSteel Nomadを利用したほうが,性能差が顕著に出やすい可能性があると言えよう。
Steel Nomad+ほかのテストが性能計測の標準になる……か?
UL Benchmarkは,システム性能を測定するときは,Steel Nomadと既存のベンチマークを組み合わせることを提案している。たとえば,最新のゲーマー向けPCの性能を測定するのであれば,Steel NomadとSpeed WayでGPU性能をテストし,CPU ProfileでCPU性能,Storage Benchmarkでストレージ性能をテストするという具合だ。
一方,ノートPCやエントリー市場向けGPUの性能テストでは,Steel Nomad Liteとレイトレーシングベンチマークとしては軽めのSolar Bayを組み合わせることを提案している。
いずれにしても,今後,Time Spyの利用は,推奨しないスタンスであるようだ。「4Gamerベンチマークレギュレーション」ではTime Spyを使用しているが,今後は変更することがあるかもしれない。
3DMark 公式Webページ(英語)
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