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[SIGGRAPH]DirectX 11級のグラフィックスがスマートフォンに。「Mali-T604」の実動デモが公開された「Exhibition」展示セクションレポート(前編)
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印刷2012/08/15 00:00

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[SIGGRAPH]DirectX 11級のグラフィックスがスマートフォンに。「Mali-T604」の実動デモが公開された「Exhibition」展示セクションレポート(前編)

 コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の国際会議と展示会であるSIGGRAPHには,さまざまな展示セクションが設けられており,最新技術の数々が披露されている。それは今年のSIGGRAPH 2012も例外ではない。
 「E-TECH」こと「Emerging Technologies」と題された展示セクションのレポート第1回をすでに掲載しているが,今回は,一般企業が出展している展示セクション「Exhibition」のレポート(前編)をお届けする。今回取り上げるのは,ARMブースとImagination Technologies(以下,Imagination)ブースだ。

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ARMブース
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Imagination Technologiesブース


ARMはMali-T604によるリアルタイムレンダリングデモを披露


Maliのイメージキャラクター
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 SIGGRAPH 2012のタイミングで,ARMがMali-T600シリーズの第2世代モデルとなる「Mali-T624」「Mali-T628」「Mali-T678」の3製品を発表したのは,2012年8月7日に掲載した記事でお伝えしているとおりである。そんなARMがSIGGRAPH 2012で構えるブースも,当然のようにMali-T600シリーズ一色だった。
 Mali-T600シリーズの技術的な解説は,昨年11月に掲載した記事が詳しいので,そちらも参照してほしいが,ここでも簡単に紹介しておこう。

 Mali-T600シリーズは,スマートフォンやタブレット向けのかなり高機能なグラフィックスIPコアである。
 DirectX 11や,先日発表された「OpenGL ES 3.0」などのAPIに対応しているのもポイントとなるが,ARMが最も強調しているのは,「OpenCL 1.1」のFull Profile対応と,Android環境下における「RenderScript Compute」といったGPGPUへの対応だ。

 そのほか,GPGPU対応型世代のグラフィックスプロセッサとして当たり前ともいえる統合型シェーダアーキテクチャを採用しており,各シェーダコアが64bit倍精度の浮動小数点演算に対応するだけでなく,その演算精度が「IEEE 754-2008」に準拠していることも特徴といえるだろう。
 統合型シェーダアーキテクチャを採用する点についてARMは,「固定型シェーダアーキテクチャに留まっている『Tegra 3』よりも一歩進んでいる」と強くアピールしている。

 ところで,組み込み向けGPUたるMali-T600シリーズで,なぜそんなにもGPGPUポテンシャルにこだわるのか。それは,SoC(System-on-a-Chip)の世界では,できるだけ機能を重複させたくないからだ。実は,DSP(Digital Signal Processor)が行う処理のほとんどはGPGPUで代行できるため,うまく設計すれば,SoCの製造に掛かるコストを削減できることにもつながる。そういった事情により,GPGPUにかけられている期待は,PCの世界以上に大きくなっているのだ。

Mali-T624とMali-T628は同一アーキテクチャだが,シェーダコア数が異なる
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 今回発表されたMali-T600シリーズのラインアップは,前述のとおり3モデル。Mali-T624は「Mali-T604」のアーキテクチャがベースとなっており,各シェーダコアに32bitスカラプロセッサ(SP)と128bitベクトルプロセッサ(VP)を2基ずつ備え,最大4基のシェーダコア構成を実装することが可能だ。スマートフォンやタブレット,スマートテレビ,携帯ゲーム機への搭載が想定されている。

 Mali-T624の上位モデルとなるMali-T628は,Mali-T624の倍となる最大8基のシェーダコア構成を実装できるのが特徴だ。グラフィックスレンダリングと同時に,GPGPU用途でも活用することを想定したモデルとされている。
 統合型シェーダアーキテクチャなので,シェーダコアをすべてグラフィックス用途に活用すれば,Mali-T624の倍のグラフィックスパフォーマンスを発揮できることになるが,ARMでは,増えた分のシェーダコアはGPGPU用になると想定しているようだった。

Mali-T678は,コアあたりの演算ユニット数をMali-T624の倍にしている。Windows RT採用機器を視野に入れたモデルだと思われる
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 最上位のMali-T678は,「Mali-T658」の後継にあたるモデルで,各シェーダコアの「32bitスカラプロセッサ(SP)+128bitベクトルプロセッサ(VP)」が4基となり,最大8基のシェーダコア構成を実装可能となっている。MaliT-628と比べて,ピーク性能は2倍高いのだ。

 ARMよれば,Mali-T678は,「デスクトップPCクラス相当のグラフィックス性能とGPGPU性能を要求する用途向け」とのことなので,おそらくWindows RTの動作を想定したようなデバイスへの搭載を狙っているのだろう。

 さて,ARMブースのレポートに移ろう。Mali-T624とMali-T628,Mali-T678の発表がSIGGRAPH 2012の会期中に行われたため,ARMブースでの展示に期待が集まったのだが,今回発表された3モデルの実動デモは行われていない。その代わりに,Mali-T604のテストシリコンを使ったリアルタイムレンダリングデモが2つ披露されていた。
 Mali-T604は,2011年の夏ごろ発表された製品だが,2011年11月に開催された「ARM Technical Symposia 2011 Japan」でも実動シリコンがなかったので,今回のデモはなかなか興味深いところだ。

お化け屋敷のデモHauntheimは,一人称視点になっており,実際にジョイパッドを操作して屋敷内を探検することができた
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 1つは,お化け屋敷を探検していくアドベンチャーゲームのような「Hauntheim」というデモ。OpenGL ES 3.0とOpenCL 1.1の両方が使われているのだが,ユニークなのは,OpenCLで「Deferred Lighting」(Light Pre-pass)パイプラインを実装している点だ。

 Deferred Lightingパイプラインでは,OpenGL ES 3.0で実装された「MRT」(Multi Render Target)と,ジオメトリレンダリングとともに深度情報や法線情報を先出しする「G-Buffer」でレンダリングし,OpenCL側でG-Bufferを参照しつつ,ライティングとシェーディングを行っている。これは,「バトルフィールド 3」の「Frostbite 2」エンジンで,DirectX 11の「Compute Shader」によりライティングとシェーディングを行わせる「Deferred Rendering」の実装形態と同じだ。

 今回のデモでも,Deferred Lightingの特長を活かした,無数の動的光源を配置したライティングリッチなグラフィックスになっており,確かにこれまでのスマートフォンにおけるグラフィックスとは世代が異なるビジュアルとなっていた。
 お化け屋敷の中に設置されている椅子や机,そして木箱などにインタラクションが行えるようになっていたが,それらに対する剛体物理シミュレーションは,OpenCLで実装されているとのことだ。

デプスシャドウマップ法の影生成により,シーン内ほぼすべてのオブジェクトに対してリアルタイムで影が生成されていた。また,ハイダイナミックレンジ(HDR)レンダリングにも対応しているので,高輝度部分から光が溢れ出るような表現も
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中央下のディスプレイに表示されているのがMali-T604版で,その上のディスプレイに表示されているのがMali-400版。画面サイズは異なるが,解像度はMali-T604版,Mali-400版ともに720p相当となる
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 もう1つのデモは,オフロード型レースゲーム風の「Timbuktu2」だ。こちらは,Mali-T604によるOpenGL ES 3.0ベースで動作させているものと,「Mali-400」によるOpenGL ES 2.0ベースで動作させているものが比較できるようになっていた。
 HDRレンダリングによる高輝度部分からのブルームや,被写界深度表現のようなポストエフェクト,車が巻き上げる土煙に対して交差線が出ないようなソフトパーティクル処理など,深度情報を応用する高度なシェーディング技術を使っていることがアピールされていたが,車両にセルフシャドウが見られる点や,タイヤに法線マップが適用されている点など,パッと見た感じでは,初代Xboxと同等かそれ以上のグラフィックス品質と思えるほどである。

 ブース担当者によれば,Mali-T604やMali-T658を搭載した製品は,2012年内に登場するとのこと。今回発表されたMali-T624,Mali-T628,そしてMali-T678を搭載した製品が登場するのは,2013年以降の見通しになるそうだ。

いずれの写真も左がMali-T604,右がMali-400によるものだ。なお,Mali-T604を動作させているタブレットのようなデバイスは開発途上の試作機で,特定のメーカー製品ではない
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Imaginationブースでは,ついにRogueのテストシリコンが公開に


 一方のImaginationだが,その社名にはピンと来なくても,「PowerVR」と言えば,「ああ」となる読者が多いのではないだろうか。
 PowerVRといえば,スマートフォンやタブレットに広く採用され,PlayStation Vitaにも採用されているGPUコアである。
 そんなPowerVRの最新モデルは,開発コードネーム「Rogue」こと「PowerVR Series6」。Rogueという名称は,コア名を表すのに引き続き使われるそうだ。

PowerVR Series6のテストシリコンを搭載した開発者向け評価カード
画像集#016のサムネイル/[SIGGRAPH]DirectX 11級のグラフィックスがスマートフォンに。「Mali-T604」の実動デモが公開された「Exhibition」展示セクションレポート(前編)
 Imaginationは,事前にSIGGRAPH 2012の同社ブースで「Rogueの実動デモを公開する」とリリースを出していたので,期待してブースを訪れたところ,実際には,テストシリコンを搭載したPCI Express x1接続型のテストカードが公開されているのみだった。
 ただ担当者によれば,「テストシリコンができている事からも分かるように開発は順調で,ライセンシーからのフィードバックもとてもいい」とのこと。「Windows RTが動作するハードウェアにおいて,PowerVR Series6はきわめて高い性能を発揮する」という。


 もう1つ,SIGGRAPH 2011レポートで,Imaginationが開発を進めているレイトレーシングアクセラレータ「RTU」(Ray Tracing Unit)を紹介したが,こちらも少しだけ進展があったようだ。ブースでは,テストシリコンを搭載したプロトタイプカードをPCに差し,「3ds Max」「Maya」「Rhinoceros」といったソフトウェア用にImaginationが開発した,レイトレーシングベースのビューポートプラグインを用いた実動デモが行われていた。
 リアルタイムというよりは,「秒間数フレーム」という感じのインタラクティブ性能ではあったが,着実に完成へと向かっているようだ。なお,RTUのテストカードは撮影不可だった。

実際にRTUアクセラレーションでレンダリングしたビューポート画面
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 さて,RTUは,2011年11月に掲載したインタビュー記事でも触れたように,Imaginationが規格策定を進めるプログラマブルレイトレーシングAPI「OpenRL」をアクセラレートするというアプローチで開発が進められている。
 インタビュー記事では,OpenRLをKhronos Groupが策定しているOpen規格へプロモートしていくということだったが,その進展について聞いてみると,あまりよい反応が返ってこなかった。というのも,OpenRLは,プロジェクトがまだ初期段階すぎて,多くの開発者や業界関係者と議論するには時期尚早だと判断されたようなのだ。

 RTU以外にプログラマブルなレイトレーシングプラットフォームというと,NVIDIAが開発した「OptiX」が思いつくが,こちらはCUDAベースで構築されていて,NVIDIA製GPUでアクセラレーションできるのが特徴だ。付け加えれば,8月10日に掲載した記事のとおり,Samsung Electronicsもプログラマブルレイトレーシングアーキテクチャに向き合い始めている。そんなわけで,プログラマブルレイトレーシングは,今後しばらくの間ホットなテーマになるだろう。


 ……というわけで,SIGGRAPH 2012の一般企業展示セクション「Exhibition」レポート前編をお届けした。後編では,IntelやAMD,NVIDIAといった,PCユーザーに馴染み深いメーカーのブースをレポートするので,楽しみにしていてほしい。
  • 関連タイトル:

    Mali,Immortalis

  • 関連タイトル:

    PowerVR

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