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ゲームがあってこそのゲーム音楽――「ソウルキャリバーV」の音楽監督を務めた由良浩明氏が,作品に込めた思い
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印刷2012/03/03 00:00

インタビュー

ゲームがあってこそのゲーム音楽――「ソウルキャリバーV」の音楽監督を務めた由良浩明氏が,作品に込めた思い

 3D武器対戦格闘ゲームとして知られる「ソウルキャリバー」シリーズ。その最新作となる「ソウルキャリバーV」PlayStation 3 / Xbox 360)が2月2日に発売された。前作から17年後の世界が舞台ということもあり,キャラクターや世界設定などさまざまな部分に変化が見られるが,音楽にも大きな注目が集まっている。従来までの世界観を守りつつ,より幅広さを増した音楽は,どのように制作されたのだろうか。
 4Gamerでは,ゲーム中で流れる音楽のディレクションを行う「音楽監督」である由良浩明氏に,ソウルキャリバーVの音楽に込めた思い,そしてゲーム音楽の地位向上に向けて取り組んでいることなどを聞いた。

1月31日に,ゲームに先駆けて「ソウルキャリバーV」のサウンドトラックが発売された。各キャラクターのバトル曲は,BLUE SIDEとRED SIDEのディスク2枚に分けて収録(1キャラにつき3ループ)。メニューやストーリーモードなどの曲をゲームの流れに沿って収録したディスクと合わせた3枚で,ゲームで使用された全56曲すべてを網羅している。さらに,初回特典版は,ダブルデジパックハードカバーケース付きの豪華パッケージに加え,20ページにも及ぶライナーノーツ,メイキング映像やPVが収録された特典DVD,特製キャラクターカードという豪華な特典が用意されている
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「ソウルキャリバーV」公式サイト

「SOULCALIBUR V Original Soundtrack」商品情報

Creative Intelligence Arts公式サイト



音楽監督に就任したきっかけは,

「ソウルキャリバー」の曲を演奏したこと


4Gamer:
 よろしくお願いします。まずは「ソウルキャリバーV」の音楽を担当することになった経緯から教えてください。

由良浩明(ゆらひろあき)氏。1981年生まれ。6歳からシドニーに渡り,バイオリニストとしての教育を受ける。以後,数々の国際コンクールで入賞を果たすなどの活躍。2003年にはゲームとアニメの楽曲を演奏するエミネンス交響楽団を設立。「戦場のヴァルキュリア」「涼宮ハルヒの消失」といったタイトルの楽曲制作および演奏を受け持っている。2011年には,自身が代表を務める音楽制作会社Creative Intelligence Arts(CIA)で,TGSにブース出展を果たしている
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由良浩明氏(以下,由良氏):
 2006年頃のことなんですが,「ソウルキャリバー」シリーズのサウンドディレクターである中鶴(潤一)さんの曲を,うちのオーケストラ(エミネンス交響楽団)で演奏したくて,コンタクトを取ったんです。
 そこでやりとりをしている過程で,せっかくだからゲストとしてステージに登場していただこうということになり,2007年にシドニーで開催した「A Night in Fantasia」というコンサートにお呼びしました。

4Gamer:
 まずは,由良さんから接点を作ったんですね。

由良氏:
 その段階では,今回のような話に繋がるとは思ってませんでしたけどね(笑)。
 ただ,その後にうちの楽団が「ロミオ×ジュリエット」というアニメや,「オーディンスフィア」「デルトラクエスト」といったゲームの楽曲を担当させてもらって実績を積んでいたところ,中鶴さんから「『ソウルキャリバーIV』の音楽もオーケストラで演奏したいね」というオファーをいただけたんです。そこで演奏と録音を担当したのが第2のステップです。

4Gamer:
 あくまで演奏を担当するという立ち位置だったと。

由良氏:
 はい。それ以降,しばらく間が開いたんですが,2010年末に中鶴さんから,ソウルキャリバーVを制作をするので手伝ってほしいという連絡があったんです。
 その時点ではすでに企画が動いていて,ゲーム内で描かれている時代が前作から17年後であることや,これまでとは違った世界観を打ち出したいという説明を受けました。

4Gamer:
 由良さんはソウルキャリバーVでは音楽監督という立場ですよね。音楽監督というポジションに決まった理由を教えてください。

由良氏:
 中鶴さんはサウンドディレクターという立場なので,音楽だけでなく効果音やセリフの録音など,“音に関するあらゆる仕事”を抱えているんです。ローカライズのために,渡米して作業することもありますし,音楽だけに専念するのが難しかったようでした。
 バンダイナムコゲームスさんにももちろん,才能に恵まれたコンポーザーはいるんですが,ソウルキャリバーVだけを作っているわけではないので,やっぱり音楽だけに専念できる方がいなかったそうなんです。そこで僕が,音楽監督という立場で参加させてもらうことになりました。

4Gamer:
 音楽だけを見る立場,ということですね。多くの場合,サウンドディレクターが兼任しているようですが……。

由良氏:
 多いようですね。
 でも,例えばコンポーザーがプロデューサーを兼任すると,どうしても自分の楽曲を冷静な目で判断できなくなってしまうことがあるんです。そういうときにプロデュースに専念できる立場の人間がいると,ほかの楽曲とのバランスを考えたりして,全体的な質を向上させられます。
 私は演奏家なので作曲はできませんが,音楽を専門に生きてきましたので楽曲の善し悪しは判断できます。そういうところを買われたみたいです(笑)。

4Gamer:
 いわば音楽のまとめ役ということですね。
 今回,中鶴さんが作曲した曲もあるそうですが,それも由良さんからオーダーする形だったんでしょうか。

由良氏:
 ソウルシリーズとしての統一感を出すためにも,システム系の基礎となる音楽は自分が作るべき,という判断が中鶴さんからありました。そこで相談の上,キャラクターセレクトなどのシステム系の音楽を3曲,僕からお願いしました。彼が金管プレイヤーだということもあって,ブラスがバーンと鳴る“始まり感”を出すのに長けているんです。さっきの話ですけど,そういうワクワク感があるからこそ,私も演奏しようと思ったんです。
 そうそう,中鶴さんご自身は「楽譜を作るのが苦手」なんて謙遜しておっしゃるんですが,打ち込みがもの凄く上手くて,生音に近い仕上がりなんです。弊社所属のジョン・カーランダー(グラミー賞受賞経験のある凄腕エンジニア)がミックスダウンに際して音をバラしたところ,エフェクトに頼らない凄く素直な音鳴りだったんですね。寿司に例えるならシャリがすごくいい(笑)。


作曲家のカラーを見極めて楽曲をオーダーする

それが音楽監督として一番大事な仕事


4Gamer:
 由良さんは,どういう手順で楽曲作りに携わったんですか?

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由良氏:
 最初の仕事は,作曲家を選ぶことでした。このキャラクターの音楽を作るには,誰が一番マッチしているかを考えながら――例えばCRIS(VELASCO氏。代表作:「God of Warシリーズ」「Warhammer 40,000: Space Marine」など)なら重厚な曲を得意としているのでジークの曲などを,現在はCIAの一員である菊田(裕樹氏。代表作:「ロマンシング サ・ガ」「聖剣伝説2」など)は,日本や中国の歴史にマニアレベルで詳しいので,吉光やシバの曲を担当してもらっています。ちなみに菊田には,「ソウルキャリバー」の文脈とは離れた“ロック”な曲も作ってもらっています(笑)。
 それと,映画音楽家を目指している三好(智己氏。なんと現役高校生!)には,尺の決まっているデモシーンの楽曲を書いてもらいました。また,INON(ZUR氏。代表作:「Fallout 3」「Dragon Age: Origins」など)みたいに,さまざまなタイプの曲を表情豊かに作れる作家もいますので,各人の方向性を見極めてオーダーを出していきました。

4Gamer:
 由良さんから作曲家の方々に発注をするにあたって,どのようにイメージを伝えたのでしょうか。

由良氏:
 まず僕からキャラクターの性格や経歴,ソウルキャリバーVで担った役目といったことを作曲家に伝え,それを元に作曲家がいくつかのスケッチ(曲の元となる短いフレーズ)を送ってきます。その繰り返しで,まずは打ち込みでのプリプロダクションを完成させました。それをゲームに乗せてみて,中鶴さんに判断してもらうという流れでしたね。
 バトルの音楽には約束ごとがあって,最初の5,6秒がイントロで,その後の60秒以降がループになっています。約束ごとに合っていて,かつバトルのテーマに相応しいものということで,何度かリテイクを繰り返した楽曲もあります。

4Gamer:
 なるほど。そうやって打ち込みでOKが出てから,オーケストラで録音という流れですね。

由良氏:
 はい。そういう具合に段階を踏んで制作していきました。
 一番重要なのは,音楽と効果音が重なったときにどう聞こえるかという点なんです。とくにVでは,映画的なリアルな効果音と,アニメ的な派手な効果音の2種類を切り替えられるようになっているので,どちらと組み合わさっても違和感ないようにするために,けっこう悩みました。

4Gamer:
 どちらとも調和がとれた音楽にするのは,並大抵のことじゃないですよね。

由良氏:
 日本のゲームや映画サウンドの作り方って,メロディが主体なので,トレブルが高くハーシュ(歪んだ)な効果音にも耐えられるんです。一方,海外ではベースを土台にハーモニー,メロディと積み上げていくスタイルで,極端な話,メロディなんていらないぐらいなんですよね。でもそうして作った曲は,ハリウッド的な効果音にしかなじまないんですよ。
 なので,楽曲のミックスダウンにはすごく頭を悩ませました。作業中はすごくジレンマを感じましたが,最終的にはアニメチックな効果音で映える方向に少し寄せています。

4Gamer:
 アニメチックな効果音で映える方向というと,海外の作曲家の方達がとくに苦労されたのではないかと思うのですが……。

由良氏:
 INONとCRIS(VELASCO氏。代表作:「God of Warシリーズ」「Warhammer 40,000: Space Marine」など)は非常に苦戦していましたね。
 ただそれは,効果音と合うかという部分よりも,「ソウルキャリバー」シリーズ独特の,“キャラクターのテーマ曲を作る”という部分に慣れていなかったのかもしれません。曲によっては8回ほどリテイクを出したものもありますし。

実際に楽曲の作成工程で生まれたバージョン違いの曲を聞かせてくれつつ詳細に説明してくれた由良氏
画像集#003のサムネイル/ゲームがあってこそのゲーム音楽――「ソウルキャリバーV」の音楽監督を務めた由良浩明氏が,作品に込めた思い

4Gamer:
 なるほど。いわゆるキャラソン的な作り方には,ある種,独特の文法がありますもんね。
 そうやって生まれていった楽曲の中で,とくに注目してほしいものがあれば教えてください。

由良氏:
 たくさんありすぎて絞り切れないんですが……。まずは新キャラクターであるツヴァイの曲ですね。これは,弊社所属のAndrew Aversaというコンポーザーに担当させたんですが,ツヴァイの“一匹狼”というコンセプトが非常に捉えづらかったようです。
 一時は「暴れん坊将軍」的な曲にしたらどうかという流れもあったんですが,それだと海外のプレイヤーには意味が分からないですよね(笑)。そこで最終的には,キャラクター同様に少し異端な曲に仕上がっています。僕もバイオリンを弾いていますので,そこにも注目してほしいです。

4Gamer:
 バイオリンのサウンドにも期待ですね。ほかにはどんな曲が注目でしょう?

由良氏:
 ラファエルの曲では,格闘ゲーム,あるいはゲーム音楽で初めてかもしれないんですが,ピアノコンチェルトを取り入れています。ピアノ曲が好きな人には,オススメです。
 それと……「アサシンクリード」からゲスト参戦しているエツィオの曲も,なかなか面白いものになっています。実は「アサシンクリード2」の音楽にも我々CIAからエンジニアを派遣するなどのご縁がありました。そのアサシンクリード2の曲をちょうどそのまま使う予定だったんですが,原曲を担当したJesper kyd氏にソウルキャリバーVのためのアレンジを依頼しようというアイデアが,CIAとバンダイナムコゲームスさんとの打ち合わせ中に生まれたんです。
 屋根の上でレースをするシーンの曲をアレンジしているんですが,生音やコーラスを新録していたりと,かなり手が加わっています。この曲は,ゲーム中とサウンドトラックにしか収録されていません。

4Gamer:
 アサシンクリードシリーズの音楽が好きだという人も注目すべき! ということですね(笑)。

プレイヤーの誰もが“ありえない!”と思うようなシーンの曲にも注目してほしいとのこと。映像と合わせたときに最大限の効果を発揮するようディレクションされているそうだ
画像集#004のサムネイル/ゲームがあってこそのゲーム音楽――「ソウルキャリバーV」の音楽監督を務めた由良浩明氏が,作品に込めた思い
由良氏:
 是非,聞いていただきたいですね。
 それと,スタッフロールで流れる曲も,大きな思い入れがあります。これはCRISに曲を書いてもらったんですが,初期段階ではマイナーキーのすごくメロウな曲だったんです。でもソウルキャリバーVは,今後さらに続いていくシリーズの起点となるゲームなので,希望を感じさせなければいけません。ゲーム中で描かれるストーリーでも,次に繋がる伏線が多数用意されていますし。
 そこで,何度かやり取りを繰り返すうちに物語の“甘酸っぱさ”を感じさせる楽曲に仕上がりました。繰り返しのフレーズは泣かせどころと思って頑張りましたので,ぜひ注目していただければと思います。

4Gamer:
 こうしてうかがってみると,由良さんはコンポーザーにイメージを伝えるという仕事の比重が大きかったように感じるんですが,新キャラクターの多いソウルキャリバーVでは,イメージをどう膨らませていったんでしょうか。

由良氏:
 確かに,新キャラクターのイメージが分からないことは多々ありました。開発途中のコンセプトアートを見ながら作業を進めていたんですが,コンセプトアート自体が途中で変更になる場合もありましたし。実際,ナツの曲を作るときには,ゲーム制作側とのイメージの行き違いで,まるまる1曲をボツにしてしまったという残念なケースもありましたし。
 でも結局のところ,僕が作曲家さんを信じなくてはいけないんです。彼らがどう感じとるのかを制限してしまったら,アーティストとしての価値がなくなってしまいますから。

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