業界動向
Intelのチップセットロードマップを確認。まもなく登場の「Z68」から「Sandy Bridge-E」対応の「X79」,「Ivy Bridge」対応の「Z77」まで
今回は,これらIntel製チップセット,そしてプラットフォームのアップデートを整理してみよう。
SSDをHDDキャッシュとして用いる技術と
グラフィックス仮想化技術に注目のZ68
Z68チップセットは,「CeBIT 2011」で搭載マザーボードが展示されていたり,基調講演で概要が公開されていたりするなど,4Gamerでも何度か取り上げているのでご存じの読者も多いだろうが,簡単にいうと,「Intel P67 Express」(以下,P67)に,「Intel H67 Express」(以下,H67)のグラフィックス機能対応を追加したチップセットだ。いわゆるKシリーズを使ったときのオーバークロック設定やマルチGPU構成の対応といったP67の特徴部分はそのままに,H67でサポートされるSandy Bridgeコア版のCore iプロセッサが統合するグラフィックス機能――というか,統合されたビデオデコード&トランスコード機能「Quick Sync Video」と紹介したほうが適切かもしれないが――も利用できるという製品である。
ただ,Z68の新要素はそれだけに留まらない。従来のIntel 6チップセットにはなかった「RST SSD Caching」(Rapid Storage Technology SSD Caching)と「Virtu GPU Virtualization」(以下,Virtu)のサポートも追加されているのだ。
●RST SSD Caching
順に見ていこう。まずRST SSD Cachingだが,これは端的にいうと,SSDをHDDのキャッシュとして動作するよう設定することで,HDDの大容量を活かしつつ,ストレージ性能を向上させようというもの。当初はIvy Bridge世代のプラットフォームで「Intel Smart Response Technology」として採用される予定になっていた技術なのだが,前倒しでZ68にもたらされた次第である。
RST SSD Cachingを使うには,ストレージ周りを制御するドライバソフトウェアの最新版「Intel Rapid Storage Technology 10.5」が必要。SSDとHDDが接続されたシステムで,本ソフトウェアからSSDをHDDのキャッシュとして設定すると,「接続されたSSDが持つ転送速度比80%の性能」を,HDDにもたらすことができるという。
もちろん,あくまでもSSDをHDDの先読みキャッシュとして利用するだけなので,大量のデータ転送では,シーケンシャルリード/ライト性能でHDDが持つ性能を超えることはない。むしろレイテンシの関係で(若干ながら)性能が低下する可能性もあることは押さえておくべきだろう。SSDを“そのまま”使用したときのような,OS&アプリケーションの高速起動を期待できるものではなく,HDDの弱点であるランダムアクセスの遅さを隠蔽するものなのである。
それもそのはず,マザーボードベンダー関係者はRST SSD Cachingについて「これはそもそも,Intel 5シリーズチップセットでサポートされる予定だった『Braidwood』(ブレイドウッド,開発コードネーム)がベースだ」と述べている。もちろんBraidwoodからキャッシュアルゴリズムの改良などが加えられ,性能向上も果たしているとは思われるが,2011年2月28日の記事にあるようなNVELOやSamsung ElectronicsなどのSSDキャッシュソリューションと比べると,仕様面で見劣りする面が否めない。
また気になるのは,同関係者が「現時点では,Intel製SSDを使用した場合でも『SSD比80%』の性能は出ていない。60%前後だ」と述べていたこと。好意的に解釈すれば「まだチューニングの余地はある」ということになるので,Intelがキャッシュアルゴリズムを改良させていくのを期待したいが,現時点では,過度の期待を抱かないほうがよさそうな気配である。
なお,同関係者は「Intelは,RST SSD Cachingでキャッシュとして用いるSSDを同社製品には限らないとしている一方,他社製品では動作検証をしていないので,額面どおりの性能が出るとは限らず,動作の安定性も保証できないというスタンスを取っている」と述べている。このあたりは実際に動かしてみるまで何とも言えない感じだ。
●Virtu
IDF 2011 Beijingで行われたVirtuのデモでは,「Radeon HD 5870」が使われていた |
IDF 2011 Beijingで行われていたVirtuのデモ。「Heaven Benchmark」と「MediaEspresso」を同時に実行するというものだ |
CeBIT 2011の記事でもお伝えしているが,Virtuは,LucidLogix Technologies(以下,LucidLogix)のグラフィックス仮想化技術で,「H67チップセット搭載環境で単体グラフィックスカードを差したとき,Quick Sync Videoを利用できない」という問題に対処するものだ。
先日開催された「Intel Developer Forum 2011 Beijing」(以下,IDF 2011 Beijing)で,Intelは,同技術のアップデートを披露している。その内容は,DirectX 11にも対応したUnigine製3Dベンチマークソフト「Heaven Benchmark」を動かしながら,同時にCyberLink製のトランスコードソフト「MediaEspresso」からQuick Sync Videoを活用して動画のトランスコードを行うというデモだった。
「最新のVirtuドライバでは,CPUに統合されたグラフィックス機能をプライマリに設定した場合でも,単体GPUのパフォーマンス低下が抑えられている」とデモの担当者は説明している。
ただし,「アプリケーションと仮想化ドライバの間に互換性問題が存在するため,すべてのゲームタイトルやグラフィックスカードで効果が得られるわけではない」と同担当者が注意していた点も押さえておきたい。程度の違いこそあれ,挙動自体はLucidLogixの異種混合マルチGPU技術「HYDRALOGIX」(旧称 Hydra Engine)とあまり変わらないようだ。
次期ハイエンドとなるLGA2011は2011年末までに登場
「Sandy Bridge-E」は3モデルで離陸へ
IntelはIDF 2011 Beijingで,LGA2011プラットフォームを採用するサーバー&ワークスステーション向けCPU「Sandy Bridge-EP」の概要を明らかにしているので,まずは本製品のポイントから押さえてみることにしよう。
2-wayもしくは1-way用となるSandy Bridge-EPは,各CPUコアに2.5MBのLLC(Last Level Cache)を統合し,最上位モデルで8コア16スレッドを実現するCPUである。
各コアとLLCとがリングバスで結ばれる構造なのはSandy Bridgeと同じだが,コア数が増えたことによって必要となる帯域幅を確保すべく,メモリインタフェースはクアッドチャネルのPC3-12800へと引き上げられた。また,内蔵するPCI Expressインタフェースが40レーンのPCI Express 3.0となっている点と,グラフィックス機能を統合しない点も特徴だ。
では,同じLGA2011を採用しつつ,デスクトップPC向けCPUのトップエンドに置かれるSandy Bridge-Eはどうなるのかというと,Sandy Bridge-EPのようにコア数を増やすのではなく,動作クロックをできる限り引き上げるような構成になる。マザーボードベンダー関係者によれば,Intelは2011年末までに3モデルのSandy Bridge-Eを投入するが,そこに8コアモデルは含まれないとのこと。最大でも6コアになるが,代わりに定格クロックは6コアモデルで最大3.30GHz,4コアモデルでは3.60GHzに達するという。
具体的なラインナップとその主なスペックは下記のとおり。「K」になるのか「Extreme Edition」になるのかは分からないが,6コアモデルは「Fully Unlocked」,いわゆる倍率ロックフリーモデルになる見込みだ。
- 6コア12スレッド,15MB LLC,定格3.30GHz
- 6コア12スレッド,12MB LLC,定格3.20GHz
- 4コア8スレッド,10MB LLC,定格3.60GHz
これらLGA2011パッケージのCPUと組み合わされるチップセットは「Intel X79 Express」(以下,X79)だ。X79は,少し前まで海外を中心に“X78”と呼ばれていたもの。Core i7-900番台と組み合わされる「Intel X58 Express」だと2チップ構成になっているのに対し,Intel 6シリーズチップセット同様の1チップ構成になるのが特徴である。
I/Oコントローラということで気になる拡張性だが,PCI Express 2.0インタフェースは8レーン,Serial ATAは14ポートがそれぞれサポートされ,後者ではうち10ポートで6Gbps対応となる。RST SSD Cachingも利用可能になる見込みだ。
なおUSBは2.0ポートが最大14となっており,X79でもUSB 3.0は外部コントローラによるサポートということになる。
面白いのは,X79でCPUとチップセット間の帯域幅を確保するため,Intelがマザーボードベンダーに対し「DMI 2.0だけでなく,PCI Express x4でもCPUとチップセットを接続すること」を推奨している点。これにより,DMI 2.0だけで接続した場合の2倍,片方向4GB/sの帯域幅を確保できるようになるという。Serial ATA 6Gbpsポートを使ってソフトウェアRAID 5アレイなどを構築した場合,DMI 2.0だと帯域幅が足りなくなる可能性があるわけだが,そういった問題に対処しようということのようだ。
次期メインストリーム向け「Ivy Bridge」は
3-wayのマルチGPUをサポートする
さて,Sandy Bridge-Eの次,2012年の初頭には,22nmプロセスを採用した次期メインストリーム向けCPUたるIvy Bridgeが控えているわけだ。IntelのTick-Tock戦略もあって,マイクロアーキテクチャ的にSandy Bridge世代から大きな変更はないIvy Bridgeだが,プロセス技術の進化を活かした高クロック化が図られるのと,Sandy Bridge-Eと同様にPCI Express 3.0への対応を果たす点,そして統合型グラフィックス機能がDirectX 11に対応する点がトピックとなる。
マザーボードベンダー関係者によれば,同CPUと組み合わされるチップセット「Panther Point」(開発コードネーム)の最上位モデルとなるZ77では,PCI Express 3.0 x8+x4×2構成による3-way SLI/CrossFireXがサポートされる計画とのこと。Intelチップセットとして初めてUSB 3.0をサポートし,14ポートのうち4ポートがUSB 3.0対応となるようで,これも大きな特徴となりそうだ。一方,Serial ATA 6Gbpsは,現行チップセットと同じく2ポートの対応となる見込みである。
ちなみに同関係者によれば,「Intel P67 Express」のような,統合型グラフィックス非対応チップセットは用意されないとのこと。「Ivy Bridgeに対応したすべてのIntel 7シリーズチップセットで統合型グラフィックスがサポートされる」(同関係者)そうだ。
というわけで,CPU周りに大きな変化がない以上,PCI Express 3.0やUSB 3.0のネイティブ対応,3-wayのマルチGPU対応がないことを我慢できるのなら,(BIOSやEFIのアップデートさえ提供されれば,という注釈は必要であるものの)現行のIntel 6シリーズチップセットでもIvy Bridgeの利用は可能になる。よって,いま手持ちのシステムに性能面の不満がある場合は,ひとまずLGA1155プラットフォームへ移行しておいて,Ivy Bridgeを待つという選択もアリだろう。
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