Snapdragon 845のパッケージをピンと並べた写真
|
ハワイ時間2017年12月6日,
Qu
al
commは,
ハワイで開催した独自イベント「
Snapdragon Technology Summit」で,
次世代のハイエンドSoC(Sys
tem
-on
-a
-Chip)「
Snapdragon 845 Mobile Platform」(型番:
SDM845,
以下 Sn
ap
dra
gon
845)の詳細を明らかにした。
第2世代の10nm LPP FinFETプロセスで製造されるSnapdragon 845は,「
Adreno 630 Visual Processing Subsystem」(以下,
Adreno
630)と称するGPUと,
8コア仕様のCPU「
Kryo 385」,
AI処理にも応用できるDSP(Di
gi
tal
Sig
nal
Pro
ces
sor)「Hex
agon
685
DSP」などを集積し,
既存のハイエンドSoCである「
Snapdragon 835 Mobile Platform」(以下,Snapdragon 835)と比べて,グラフィックス性能は最大30%,CPU性能は最大25%向上するという。
Qualcommによると,すでにスマートフォンメーカーなどへのサンプル出荷を行っており,2018年の早い時期には,搭載製品が市場に登場するようだ。
Snapdragon 845のブロック図
|
表 Snapdragon 845と既存SoCの主なスペック
|
Snapdragon 845 |
Snapdragon 835 |
型番 |
SDM845 |
MSM8998 |
製造プロセス |
第2世代 10nm LPP |
10nm LPP |
CPUコア |
Kryo 385 |
Kryo 280 |
物理コア数 |
8 |
8 |
最大動作クロック |
2.8GHz |
2.45GHz |
GPUコア |
Adreno 630 |
Adreno 540 |
メモリコントローラ |
LPDDR4X 1866MHz |
LPDDR4X 1866MHz |
統合型モデム |
Snapdragon X20 LTE |
Snapdragon X16 LTE |
Snapdragon 845は,現行世代のSnapdragon 835と比べて,主要なコンポーネントが一新されたと言えるほど大きく変わっている。以下に,それらのポイントを簡単にまとめてみよう。
まず,ゲーマーにとって一番重要なGPU部分のAdreno
630であるが,グラフィックス処理以外に,6軸自由度(6DoF)のモーショントラッキングやハンドトラッキング,さらに音声入力UIといった要素も担当するようになった。そうしたさまざまな機能を担当する複合的なプロセッサということで,名称もGPUではなく,Visual
Processing
Subsystemという,いささか大仰なものに変わったようだ。
Adreno 630の特徴。グラフィックス性能は,Snapdragon 835と比べて30%向上し,消費電力は30%削減されたという
|
「Tile-based Foveation with Eye-Tracking」のイメージ。視線を示す円を含むタイルを高解像度で,それ以外のタイルは,円から離れるほど低解像度でレンダリングするといった処理を行うのだろう
|
Adreno
630において,とくにQualcommが重点を置いているのは,
仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった没入型の体験――まとめて「XR」と呼ばれる――への対応だ。Qualcommが公開したプレゼンテーションによると,Adreno
630は,2K×2K解像度で120fpsのVR映像をレンダリングできる性能を有しているほか,映像をタイル状に区切って行う視線追跡型レンダリング「Tile-based Foveation with Eye-Tracking」や,複数のビューポートでVR映像を描画する「Mutiview Rendering」――NVIDIAが言うところの「
Simultaneous Multi-Projection」と似たようなもの――といった機能を実現できるという。
次にCPUのKryo 385を見てみよう。Kryo 385は,4基の高性能(big側)CPUコアと,4基の低消費電力(LITTLE側)CPUコアを搭載するbig.LITTLE構成を採用している。big側の動作クロックは最大2.8GHzに達し,Snapdragon 835と比べて25〜30%の性能向上を,LITTLE側の動作クロックは最大1.8GHzで,同様に15%の性能向上を実現したという。
Kryo 385のブロック図。2次キャッシュは各CPUコアごとにあり,容量2MBの共有型3次キャッシュも備えるという
|
これらのGPUやCPUと合わせて,AI処理の一翼を担うのが,Hex
agon
685
DSPである。GPUのAdreno 630がFP32(32bit単精度浮動小数点型)およびFP16(16bit半精度浮動小数点型)の演算を,CPUのKryo 285がFP32とINT8(8bit整数型)の演算を担当するのに対して,Hex
agon
685
DSPはINT8型の演算を担当するという。得意分野に応じて最適なプロセッサを使い分けられるという点が,Qualcommの主張するSnapdragon 845の利点というわけだ。
AI用途におけるSnapdragon 845の利点を説明するスライドより。使用する演算の種類によって,最適なプロセッサを使い分けるという。その使い分けをソフトウェア側で担当するのが,「Snapdragon Neural Processing Engine (NPE) SDK」という開発キットとなる。NPE SDKは,TensorFlow LiteやONNX(Open Neural Network Exchange)といったフレームワークに対応しているとのことだ
|
SoCに集積するモデム機能も強化されている。新しい「Snapdragon X20 LTE modem」(以下,X20 LTE)は,最大で5つの周波数帯を束ねて通信する「5x20MHz Carrier aggregation」に対応しており,最大下り通信速度は1.2Gbpsと,Snapdragon 835が搭載する「Snapdragon X16 LTE modem」(以下,X16 LTE)の1Gbpsよりも高速なデータ通信が可能だ。
もちろん,利用する通信キャリアがこの方式に対応したうえで,その方式を利用できる通信環境での理論値であるから,実際にその恩恵を得られる場面があるかどうかは,別の話である。また,最大上り通信速度は150Mbpsのままで,X16 LTEと変わっていない。
そのほかにも,4K解像度で「Rec.2020」色空間での録画に対応する映像処理プロセッサ「Spectra 280 ISP」の搭載や,セキュリティ機能を担う「Secure Processing Unit」の搭載も特徴に挙げられている。
Qualcommの主張どおりであれば,早ければ2018年夏モデル,遅くとも2018年秋冬モデルのハイエンドスマートフォンで,Snapdragon 845を採用するものが登場するであろう。また,Snapdragon 845を使ったスタンドアロンタイプのVRヘッドマウントディスプレイも,登場してくるかもしれない。ゲーマーにとっても,今後の展開が楽しみなプロセッサとなりそうだ。