インタビュー
「みんなのGOLF 6」,携帯機初のナンバリングタイトルは,作り手の自信。ついに登場したPS Vita版について,あれこれ聞いてみた
みんGOLがPlayStation系プラットフォームを代表するシリーズなのはファンならずともご存じのとおり。PlayStaion Vitaの発売に合わせてその最新作がリリースされるのを,自然な流れとして受け取っていた人も多いのではないだろうか。そんな本作のプログラマーであるクラップハンズの桑原利行氏に,見どころやこだわって開発したポイントなどを聞いてきたのでお伝えしよう。
「みんなのGOLF 6」インプレッション記事
「みんなのGOLF 6」公式サイト
「NEXT」でも「ポータブル3」でもなく,「6」である意味
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。最初に「みんなのGOLF 6」での桑原さんの担当を教えてください。
クラップハンズ 開発部 エグゼクティブチーフ/プログラマー 桑原利行氏 |
シリーズには「みんなのGOLF 3」から関わっていて,主に弾道計算やレンダリングを担当していました。みんなのGOLF 6では,全体を監修しつつ,レンダリングエンジン周りなどを作成していましたね。
4Gamer:
本作は発表当初,「みんなのGOLF NEXT」という名前でしたが,あえて「6」にしたのはなぜでしょうか。
桑原氏:
もちろん「ポータブル3」や「NEXT」といった選択肢もありましたが,開発を進めていくなかで「5」を超えられるものにできたと思えるようになったので,本流といえるナンバリング「6」にしました。
4Gamer:
なるほど。「6」にしたのは自信の裏返しというわけですね。
桑原氏:
開発当初のバージョンは,PSP版の「みんなのGOLF ポータブル」の流れを汲み,キャラクターの頭身が低かったんです。デフォルメキャラだとごまかしが効くのですが,作り込んでいくうちに,動きに関して嘘をつきづらくなる高い頭身,「5」と同じようなキャラクターにしても問題ないと判断して切り替えました。まあ,そこからが“戦い”の始まりでしたけれど(笑)。
4Gamer:
素人考えですと,キャラクターの長さが違うだけでと思えてしまいますが,どのあたりに苦労したのでしょうか。
桑原氏:
みんGOLで大切なのは,インパクトの瞬間の気持ち良さなんです。ただ,インパクトの瞬間はどうしてもゲームの処理が集中します。製品版のようにインパクトがスムーズになったのは,開発もかなり後半で……。
4Gamer:
ほんの一瞬の処理落ちで感じ方が大きく変わってしまうんですね。
「5」以前のシリーズだと,ゲージがすべて確定し,計算処理がすべて終わってからキャラが動き始めていたので,動きとしてはスムーズに見えていたんです。ですが,「5」ではゲージとキャラの動きを連動させており,プレイヤーがインパクトした瞬間にキャラがボールを打つようにし,さらに上の気持ち良さを求めていました。
ただ,この処理を実行するためには,インパクトの瞬間に計算されたものが即座に描画されなくてはなりません。そこはもう,「4」までとは全然違う考え方で作らないと実現しないものでした。
今だから言えますが,「6」はわりとギリギリまでインパクトの瞬間に画面が一瞬止まってしまうような状態だったんです。そこを修正できたのはある意味,奇跡なんですけど――そこを直せなかったら本当にやばかったなぁと思います(笑)。気持ち良さが全然違うんですよね。
4Gamer:
奇跡ですか……。
桑原氏:
まあ,PS Vitaのハード構成に助けられましたね。開発を終えて「無駄のないハード」だな,とあらためて思います。
「6」はそういった部分も含めてナンバリングタイトルと言っていい仕上がりだと思います。タイトル名には,「『5』をプレイしていた人に『6』も遊んでください」というメッセージも込めていますね。
「みんGOLらしさ」を崩さず,PS Vitaのインターフェースを取り入れた操作
4Gamer:
では,本作ならではといえる要素を教えてください。
桑原氏:
遊び方に一番影響があるのは「エキストラパワーショット」ですね。これはインパクトの瞬間にPS Vita本体をタイミング良く振ると発動するというものです。通常のショットより発動は難しいので,ここぞという場面で使ってもらうイメージですね。
4Gamer:
エキストラパワーショットを使うと,飛距離はどれくらい伸びるのでしょうか。
桑原氏:
通常のショットと比べると10%ぐらい飛びます。
4Gamer:
ここぞという場面で微妙な違いを生みそうな数字ですね。
桑原氏:
ええ。飛距離に関するトロフィーも用意しているので,コレクターのかたは,エキストラパワーショットの習得が重要かもしれません。
4Gamer:
エキストラパワーショットはちょっと特殊な操作方法ですが,基本操作はこれまでと同じでしょうか。
桑原氏:
そうです。最初はタッチ操作によるショットも試しましたが,やっぱりみんGOLはボタン入力だね,という結論に落ち着きました。そうそう,細かいところですがタッチ操作でティーポジションを変更できるようにしましたよ。
4Gamer:
そういえば従来作ではできなかったことです。あえて今回なぜ導入したのでしょうか。
桑原氏:
以前からアイデアはありました。ですがボタン操作だけでティーポジションを変更できるようにすると,手順がかなり増えてしまうので採用していなかったんです。
ですが,PS Vitaにはタッチスクリーンがありますから,キャラクターを触って移動ということが可能になったんですね。
4Gamer:
言われてみればその通りですね。では,背面タッチパッドを利用した機能についても教えてください。
桑原氏:
背面パッドの使い方は一番悩みました……。
4Gamer:
ほかのハードウェアでは実装されていない機能ですからね。
桑原氏:
そんなこともあって,最初は背面パッドをまったく使用しないものを作りました。
4Gamer:
えっ,そうなんですか。
桑原氏:
背面パッドは,知らないうちに指がセンサー部を触ってしまうことがないように,背面の中央に指を伸ばさないと反応しないようにしました。
そんなこんなで実装したのが,背面にタッチして任意の地点をホールドすると,ショットする位置との高低差と距離が分かるようにした機能です。
4Gamer:
それは便利そうですね。
桑原氏:
ショットする場所と狙っている地点での高低差が分かりやすくなったので,攻め方が考えやすくなりました。さらに,カーソルを動かしていくと,地形の細かい凸凹も分かるので,どこに落ちたらどう跳ねるのかということも事前に予測しやすいでしょう。
4Gamer:
利便性や戦略性がアップする進化というのは嬉しい部分ですね。
桑原氏:
また,ゲームには直接影響しませんが,モーションセンサーを用いて,プレイヤー目線で周囲を見渡せるという要素や,AR撮影機能もあります。ちなみにみんGOL6に実装したARは,マーカーを用意しなくてもキャラクターを表示できる,ソニーの「SmartAR」という機能を使っています。
4Gamer:
マーカーが不要なARですか。
桑原氏:
要素としては面白かったですね。ただ,開発中はなかなか意図通りに表示されなくて悩みましたね(笑)。
4Gamer:
では,PS Vitaならではといえるそのほかの要素についても教えてください。
ゲーム画面を見たときに「すごく綺麗」と感じるのも一つのPS Vitaらしさではないかと思います。ご家庭で有機ELのテレビを使用している人ってまだほとんどいないでしょうから,有機ELディスプレイの綺麗さというのは,かなりインパクトがあると思います。
4Gamer:
初めてPS Vitaを手に持ったときは「おっ」と思いました。
桑原氏:
ですよね。PS Vitaならではありませんが,携帯ゲーム機ということで,みなさんのプレイ環境が統一されていることも助かりました。テレビによって応答速度が違いますので,フレーム単位の調整が重要なみんGOLにとってPS Vitaは,最高の環境だったといえるでしょう。
4Gamer:
ゴルフゲームはタイミングが命ですので,携帯ゲーム機のほうが向いているかもしれませんね。
桑原氏:
「5」のときは応答速度の悪さを補うために「本格ショット」というシステムを用意したのですが,今回は,よりゴルフらしさを発揮するという方向でショットのシステムを5種類用意しました。
4Gamer:
2〜3種類ならよく聞きますが,5種類は多いですね。どんなものがあるのでしょうか。
桑原氏:
例えば,矢印の方向にボールが飛んでいく「矢印ショット」があります。ゴルファーというのは常に真ん中だけを打とうとしているわけではないので,そういった現実の感覚がある人に向いていると思います。もちろん,今まで通りの「ゲージショット」もあるので,安心してください。
4Gamer:
なぜあえて5つも用意したのでしょうか。
桑原氏:
5種類にはなっていますが,内部処理自体は全部一緒なんですよ。当初は1種類にしようとも思いましたが,人によって好みが分かれる部分だったので,全部入れてしまえと(笑)。
3G通信との相性も考えられた「デイリー全国大会」と「マルチ対戦モード」
4Gamer:
では,通信機能に関連した要素についても聞かせてください。
桑原氏:
みんなのGOLF 6で特徴的なのは「デイリー全国大会」ですね。
これは大会データを毎日3試合ずつ配信し,そのプレイデータを集計したランキング結果の発表,順位に応じた「ツアーポイント」の付与が行われます。
4Gamer:
毎日大会があると聞くと,ワクワクしてきますね。
桑原氏:
大会を毎日行うという試みは初めてなので,どのように遊んでくださるか不安な部分でもありますが,ぜひプレイしてほしいですね。また,ソフトの発売時点では実装していませんが,「マルチ対戦モード」もあります。
4Gamer:
なんとなく大勢で楽しめそうな雰囲気の名前ですが,どういったモードでしょうか。
これは1対1で,1ホールごとにスコアとコメントを送り合うモードです。感覚としては野球に近いかもしれません。例えば“1回表”に先攻の自分が1ホール目のスコアを「バーディだぜ!」みたいなコメントをつけて相手に送る。それを受け取った側は“1回裏”に同じく1ホール目を遊んで「いやー,こっちはパーだったよ」といったコメントとスコアを返す。そして次は“2回表”をこちらがプレイする,といった具合です。
4Gamer:
リアルタイムで対戦するのではなく,お互いに都合の良い時間にプレイをするわけですね。
桑原氏:
相手によってはレスポンスが悪いかもしれませんが,複数の相手と並行して対戦することも可能です。
4Gamer:
なるほど。プレイの仕方によっては,数週間以上の長いスパンでの戦いになるかもしれませんね。
桑原氏:
レスポンスの良い相手ならば短時間にどんどん対戦が進むでしょうし,片方のプレイヤーがスコアを送らなければ永遠に終わりませんね(笑)
ですので,「棄権」は用意したほうがいいかもしれません。
4Gamer:
そういった細かい仕様については現在調整中というわけですか。
桑原氏:
そうですね。利便性ですとか,トラブルが起こらないためにはどうしたらいいのかといったことを考えており,2012年に用意する予定です。
4Gamer:
そういったアップデートはほかにも予定しているのでしょうか。
桑原氏:
ええ,まだ詳しいことはお話できませんが,計画的にアップデートしていきます。
間口の広さを維持しつつ,ゴルフゲームとしての奥深さも追求
4Gamer:
今作のコースやキャラクターについても質問させてください。
桑原氏:
コースもキャラクターもすべて新規で,コースが6つ,キャラが“公称”12人です。
4Gamer:
公称ということは,隠れキャラがいるかもしれないということですかね……。
桑原氏:
まあそのあたりは察していただけると(笑)
4Gamer:
では,コースやキャラクターはどのように増える,もしくは増やすのでしょうか。
桑原氏:
ゲームで溜めたポイントと引き換えにショップで購入します。キャラクターに「VSモード」で勝つと,そのキャラクターの使用権がショップで売られるようになります。
コースは,ゲームの進捗に合わせて使用権がショップに並びますので,買いたいものから優先して手に入れていただく形になります。
4Gamer:
なぜ従来のシステムと変えたのか教えてください。
桑原氏:
これまでのように,オンラインで遊んでいるとキャラクターやコースなどを増やせない,という事態を避けるために変更しました。好きなモードをプレイして,いろいろな要素をアンロックしていただければと思います。
4Gamer:
なるほど。ではこのほかに,過去作から意識的に変更した部分はありますか。
桑原氏:
ドライバーでショットした際の,ボールの“ぶれ”を大きくしました。今までは上級者にとって簡単になりすぎていた部分があったため,今回はそうした人達がハラハラするようにしたわけです。なので,1打目をドライバーではなくあえて3番ウッドで打つとか,そういった選択が必要な場面があるかもしれません。
4Gamer:
その“ぶれ”を考慮したプレイが必要になりそうですね。
桑原氏:
また,コースもハラハラドキドキを生み出せるように調整しています。「5」などは,池があっても滅多にボールが入らないので,あまり気にされなかったと思いますが,今回は違います。
4Gamer:
池ポチャが増えそうなんですね……。みんGOL5はウォーターショットがなかったので,なかなか厳しくなりそうです。
桑原氏:
あ,今回は水位の浅いところからならウォーターショットができるようにしてあります。
4Gamer:
そうなんですか。いい意味で裏切られました(笑)。
桑原氏:
もっとも,浅瀬から次のショットを打つということが必ずしもプラスにつながるとは言えませんけど。
4Gamer:
ですよね。とはいえ,より実際のゴルフに近づいた感じがします。
桑原氏:
そういった意味ですと,風の影響もこれまでと違います。今までアプローチショットを打つときは,風をあまり意識しなくても問題なかったと思いますが,今回は風の影響を大きくしています。さらに,打ち下ろしのホールが以前より多くあるので,「5」をやり込んだ人にも良い刺激になるでしょう。
4Gamer:
風の影響を大きくしたというのも,スコアのインフレを抑えるためですか。
桑原氏:
そうですね。あと,これまではボールが当たるオブジェクトはすべて静止していました。ですが,今回は風車やヨットなど,動いているオブジェクトにもボールが当たります。
4Gamer:
うまくいけばショートカットできそうな位置に風車などが置かれていそうですね(笑)
桑原氏:
かもしれません。そこは実際に見て確かめてください。
4Gamer:
そういったお話を聞くと,従来作をプレイしてきた人達から「難しい」といった声が出てくるようにも思えますが。
桑原氏:
そこまでではないと思います。上級者向けにシフトしたというよりも,初心者から上級者までがより楽しめるように幅を広げたといったイメージです。
本作を初めてプレイする人達のことは考慮してあり,例えば,ショットを一度失敗すると,次のショットでは選択されるクラブが自動で変わるんですよ。「こっちのクラブの方がいいんじゃない」と。
4Gamer:
なるほど。ほかに従来作と明確に違う部分があれば教えてください。
画面全体が自然の景色として動くようになりました。「5」は静止画として綺麗だったんですが,今作では風によって木が揺らいだり,鳥が飛んでいたりと,全体的な風景というのがすごく変わったと思います。自然表現については“静止画”というより“ムービー”として美しくなったという印象ですね。
4Gamer:
演出もしっかり進化しているんですね。
桑原氏:
今作はデザイナーさんの頑張りもあって,空間が広がっているような見せ方がうまくできたと思っています。
4Gamer:
打つ前に本体を動かしてグルグルと見回したほうが良さそうですね(笑)。
桑原氏:
あと,地味なところでいうと,ピンの旗が今回は決まった動きをしていません。って,さすがに分かりづらいですけど。
4Gamer:
言われなければ意識しなかったと思いますが,注目してみます。ところで,オフラインの大会などは予定されていますか。
桑原氏:
「デイリー全国大会」が感覚としてはオフライン大会に近いので,今後のアップデートでいろいろな賞品を用意するなどして,参加する意義があるようなものにしていきたいですね。
もちろん,オフラインの大会についても開催を検討しており,2012年7月にみんGOLが15周年を迎えるので,そういったことを絡めて,良い山場を作りたいと考えています。
4Gamer:
初代から数えるともう15年も経つんですね。そんなに続いているスポーツゲームのシリーズは本当に少ないです。
桑原氏:
みんGOLはプロ選手のデータを更新していくタイプではありません。ゲーム性で勝負して15年間支持されているというのは,「ゴルフについて妥協しない」という部分がきちんと伝わっているからだと考えています。
4Gamer:
では最後に,ファンへのメッセージをお願いします。
桑原氏:
クラップハンズが自信を持っているからこそタイトルに「6」と付けました。ぜひ実際にプレイしていただきたいですね。新しいハードだからこう変わった,という部分もしっかり体験していただけると思います。
また,PlayStaionやPlayStation 2版でプレイをやめてしまっている人達が遊んでも,過去のプレイ感覚を活かせて,なおかつ「これだけ進化したんだ」という違いを感じていただけるようになっていますので,ぜひ遊んでください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「みんなのGOLF 6」公式サイト
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