インタビュー
夢を拡張する物語「ROBOTICS;NOTES」が目指したもの――5pb.志倉千代丸氏が語る,コンテンツとビジネスの理想の関係
新たに紡がれていく世界線
4Gamer:
では,これまでも何度か触れられたメディアミックスについて,もう少し掘り下げてお聞かせください。志倉さんは以前のインタビューでも,メディアミックスの核となるコンテンツとして,ノベルゲームをとらえているというお話をされていました(関連記事)。
また法政大学でのトークイベントでも,一つの企画書を元にして,さまざまなメディアで作品を展開することが理想ということもおっしゃっていましたが(関連記事),「ROBOTICS;NOTES」が世に出る場所として,まずノベルゲームを選ばれたのはどういう理由からなのでしょうか。
志倉氏:
うーん,メディアミックスをやろうとしたときの選択肢で,かつ,うちの会社でいちばん市民権を持っているジャンルをと考えたら,やっぱりゲームなんですよね。
4Gamer:
それはビジネス的な必然から,ということですか。
志倉氏:
そうなります。だから,もしうちに出版部門があれば,ひょっとするとライトノベルのような形があり得たかもしれない。というか,それもぜひやってみたいとは考えているんですけど。ただ,仮にライトノベルを最初に出したとしても,市場規模や色々な経費を考えると,テレビCMを打ったりなんかはできないわけです。そうしたバランスを考えると,ゲームという市場が持っている力は,やっぱりかなり大きいんですよ。
4Gamer:
ああ,なるほど。しかし「ROBOTICS;NOTES」では,発売前の段階からアニメ化が決定していましたよね。もちろん「STEINS;GATE」が多くの人に評価されたことが大きいのだと思いますが。
志倉氏:
そうですね。そういった手応えは,「STEINS;GATE」の頃からはっきりと感じました。アニメなどの後発メディアから,遡ってゲームをプレイしてくれる人も多くて,すごくありがたかった。おかげで「ROBOTICS;NOTES」では,早い段階からメディアミックスを動かすことができたんです。
4Gamer:
メディアミックスの理想の形ですよね。しかし,それでも最初にアニメというのは,やはり難しいですか。
志倉氏:
アニメになると自社だけで完結するプロジェクトでもないですし,ビジネス的に言っても失敗したときの損失が大きいんですよ。だから,最初からそこを狙っていくというのはちょっとリスキーすぎる。それに,やっぱり段階を踏んでいった方が,応援してくれるファン的にも,盛り上がれると思うんですよね。
4Gamer:
ああ,応援していた作品がアニメになると,ファンとしてはやっぱり嬉しいですね。
志倉氏:
原作となり得る作品がたくさんあって,そこを勝ち抜いたものがアニメになるってイメージが,なんとなくあるじゃないですか。
4Gamer:
ありますね(笑)。まずコミックになってドラマCDになって,そろそろ次はアニメ化,みたいな。
志倉氏:
そうそう。さっきの初音ミクの話じゃないですけど,その過程も含め,参加型のコンテンツとして一緒に歩いていけたら,楽しいと思うんです。それは作り手にとって嬉しいことですから。
4Gamer:
……なるほど。志倉さんは,その場合のメディアミックスの終着点って,どこだと考えてらっしゃるんでしょうか。やっぱりアニメですか?
志倉氏:
うーん……。アニメといっても,テレビか劇場かとかありますけど。……そうだな,凄くバカっぽく聞こえてしまうかもしれないけど,ハリウッド映画じゃないですかね。
4Gamer:
ああ,それは面白いですね!
志倉氏:
といっても,作品をそのまま実写化してほしいわけではないんです。さっきも言いましたけど,実写になるとやっぱり別物になっちゃうわけで。だから「STEINS;GATE」で言えば,オカリンやラボメンの設定は一旦忘れてもらってよくて,フォーントリガーやDメールといったギミックだけで,どんな物語が可能かというような……。
4Gamer:
「STEINS;GATE」だったら海外ドラマ的な雰囲気もありますし,いけそうな気がしてきました。
志倉氏:
舞台もいっそニューヨークとかにしてもらって……うん,これは熱いな。
4Gamer:
ハリウッド映画っていうのは,それこそ世界中で見られるメディアですしね。ユーザーの間口を広げていきたいという志倉さんとは,凄く相性が良さそうに思えます。
志倉氏:
アニメの映画だと,やっぱり現実的には限界がありますから。オタク層に届けつつ,それが世界に届くものになったら楽しそうです。海外の人に「おお,『STEINS;GATE』の志倉か!」って言ってもらえることを妄想すると,ちょっとワクワクしますね(笑)。
10月からのアニメ版と,シリーズ第4弾へ向けて
4Gamer:
では,そんな野望(?)も見据えたメディアミックス展開について。10月からはアニメ版の「ROBOTICS;NOTES」も始まりますが,そちらでの見どころやゲームとの違いなどをうかがえるでしょうか。
志倉氏:
やっぱりアニメの一番の見どころは,ロボットと人間の大きさの違いが実感できるというところですね。ゲームの「ROBOTICS;NOTES」では,人間とロボットの対比が見られるシーンって,実は凄く少ないんですよ。アニメではそこを補完してもらえるので,ロボットの動きの迫力とかと合わせて,楽しんでもらえれば嬉しいですね。
4Gamer:
志倉さんとしては,ご自身が企画したロボットがアニメで動くということに関しては,どう思ってらっしゃるんでしょう。
志倉氏:
ロボットということを差し引いても,アニメになるというのは常に感慨深いですね。それこそ「CHAOS;HEAD NOAH」がアニメ化された時にも,「ああ,自分の妄想がアニメになるなんてまさに妄想科学じゃねーか!」って思ってましたから。
4Gamer:
公開されているPVを拝見しましたが,あき穂がさっそくネコ耳を付けられてましたね。ARもアニメならではの表現がありそうで,楽しみです。
志倉氏:
「居ル夫。」の着せ替え表現は,アニメなら好き放題できますからね。ゲーム版では素材の準備があって,時間との闘いでしたけど(笑)。
PVの中で,あき穂が亀のコスプレをさせられてるシーンがあったでしょう? あそこって,実は部活がなくなるかどうかの瀬戸際の,シリアスなシーンなんですよ。それがARを使うことで急にコミカルになってしまう。場面の空気を一瞬で変えてしまえるARの凄さを,ぜひアニメで体感してもらいたいですね。
4Gamer:
おお,では映像のクオリティにも期待していいと?
志倉氏:
クオリティはそう……いや,これを言うと最近うるさくて(苦笑)。そこはぜひお楽しみに,ということで。もちろん制作チームの仕事は素晴らしいです。
4Gamer:
あー……分かりました(笑)。差し支えなければ,先日発表された次回作,科学アドベンチャーシリーズ第4弾についても,お話しいただきたいのですが……(関連記事)。
志倉氏:
作品のイメージとしては,雨,曇り,晴れとやってきたので,次はなんでしょうね。雷かなあ? いや,全然別の物になるかもしれないですけど。
4Gamer:
雷となると,物語が二転三転するような,激しい作品になりそうですね。
志倉氏:
「科学アドベンチャー祭り」でも発表したんですが,内容的にはミステリーやサスペンスに寄ったものになる予定です。それだけでも「ROBOTICS;NOTES」とは,だいぶ違うイメージですね。その上で,「ROBOTICS;NOTES」にあったポケコントリガー全般のギミックは発展させて活用したいなと。あのシステムにはまだまだ可能性があると思っているので。
4Gamer:
「CHAOS;HEAD NOAH」「STEINS;GATE」「ROBOTICS;NOTES」の3作品には,互いにリンクする部分がありましたが,第4弾も何かしらのつながりがあると考えていいのでしょうか。
志倉氏:
そうですね。「STEINS;GATE」でプレイヤーの皆さんに世界線という概念を覚えていただいたので,そこは意識せざるを得ないです。「ROBOTICS;NOTES」は「STEINS;GATE」のトゥルーエンドの延長線上の物語ですが,それはそうでないと核戦争が起こっちゃうから。でないと青春ものとして純粋に楽しめないですよね。でも「STEINS;GATE」におけるバッドエンドの先の物語だって,あり得るはずなんです。
4Gamer:
核戦争を背景にした,ダークな世界観の物語ということでしょうか。
志倉氏:
第4弾がそうなるということじゃないですよ? そういうこともあり得るという話で。世界線という概念を使えば,そんな風に物語の可能性をもっと広げていけると思っているんです。それこそ,大人になった綯ちゃんが,包丁を持って登場するかもしれない(笑)。
4Gamer:
ダークサイドに落ちた綯ちゃんの成長後の姿は,ぜひ見てみたいですね。
志倉氏:
世界線を使えるからこそ,色々なパラレルワールドを描くことが可能になるし,自由に作品を展開できる。そんな感触があるんです。なので,次もぜひ期待していただければと。
4Gamer:
分かりました。それでは最後になりますが,今後の科学アドベンチャーシリーズに期待しているプレイヤーに,何か熱いメッセージをいただけますか。
志倉氏:
なぜか科学アドベンチャーシリーズは全3部作という噂が流れたりもしますが,「とりあえず,それ嘘だから」ということはお伝えしておきます(笑)。
すでに第4弾も動いていますし,その先の企画もイメージできているので,2つの企画が同時並行で走っている状態です。なので,何年も待ってもらうことなく,次々と作品を出していきたいなと。理想としては2013年の春と冬に1本ずつ,とかね。
このインタビューの内容に共感していただける人なら,きっとこれからも僕と趣味が合うと思うので,ぜひ今後の作品もプレイしてもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
はい。本日はありがとうございました。
本インタビューの中でも部分的に触れているが,「ROBOTICS;NOTES」ではすでに多方面でのメディアミックスが行われている。
まず押さえるべきは10月11日からノイタミナ枠で放送されるアニメ版だろう。本作をプレイしたプレイヤーも,ロボット同士の迫力ある戦闘シーンが,アニメではどんな表現になっているのかなど,ゲームとの違いを楽しむことができるのではないだろうか。
また,コミカライズに関しても,メインストーリーを追う形式の「ROBOTICS;NOTES」(コミックブレイド)のほか,愛理をメインヒロインとした「ROBOTICS;NOTES Phantom Snow」(ファミ通コミッククリア),神代フラウをメインに据えた「ROBOTICS;NOTES REVIVAL LEGACY」(ウルトラジャンプ)が連載中だ。
さまざまなメディアミックス戦略をとる5pb.だが,その最大の強みは,本編で語りきれなかったキャラクター達を改めて語り直すことで,作品がより豊かなものなるということだろう。「STEINS;GATE」の劇場版アニメもひかえ,ますます拡張を続ける科学アドベンチャーシリーズ。その世界から,まだまだ目を離せない。
――2012年8月2日収録
「ROBOTICS;NOTES」公式サイト
テレビアニメ「ROBOTICS;NOTES」公式サイト
■■坂上秋成(ライター)■■
1984生まれ。文芸批評家。純文学,ノベルゲーム,ライトノベルを中心に批評を執筆。主な批評に「捏造の技法」(「wasebunU-30」),「涼宮ハルヒの失恋」(「ユリイカ」2011年7月臨時増刊号「涼宮ハルヒのユリイカ!」),「『浄化の物語」』を願いながら」(「ユリイカ」2011年1月臨時増刊号「村上春樹」)など。ミニコミ誌「BLACK PAST」責任編集を務め,2012年に近刊「BLACK PAST vol.2」を刊行。
- 関連タイトル:
ROBOTICS;NOTES
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