インタビュー
夢を拡張する物語「ROBOTICS;NOTES」が目指したもの――5pb.志倉千代丸氏が語る,コンテンツとビジネスの理想の関係
拡張現実――夢とシステムの二重性
4Gamer:
ではここからは,本作のテーマとなっている部分についてのお話をお聞きしたいと思います。本作のキーワードとして,「ロボット」が大きな位置を占めているのは分かったのですが,そのほかにも物語の軸となるキーワードがいくつか登場しますよね。
「拡張科学アドベンチャー」という冠に含まれているARもその一つですし,携帯電話やメール,Twitterといった現代的なコミュニケーションも大きな主題になっていると感じられました。
志倉氏:
ARを扱うことについては,プロットの段階から決まってました。ただARって,掘り下げようとすれば,どこまでだって掘り下げられる題材なんですよ。だから,逆にそれで悩んだ部分はありますね。それこそサスペンスやミステリの要素を加えつつ,ARだけで話をひとつ作ることだって十分に可能なんです。だからこそ,もう一つのテーマであるロボットとのバランスを調整する必要がありました。
4Gamer:
作中では,「ガンつく2」をポケコン越しに見るとカッコ良く見えるという形で,ロボットとARが結びつくシーンがありました。
志倉氏:
そうですね。単に組み合わせるだけではなくて,ARを使うことで,ロボットに賭ける夢がより魅力的に映るようにしたかったんです。だから,ARには拡張現実という意味だけでなく,「夢を拡張していく」というイメージも含めたつもりなんですよ。
4Gamer:
ポケコン関連でいえば,Twitterをモチーフにした「ツイぽ」も面白い。とくに本作では,ツイぽでの返信によってルート分岐が発生するようになっていて,ゲームシステムとも深く結びついています。「STEINS;GATE」でも,メールに返信することでルート分岐するフォーントリガーがありましたが,その発展系ですよね。
志倉氏:
Twitterをモチーフにしたのは,何よりリアリティのある日常を描きたかったから,というのが大きいですね。今は街中でも電車の中でも,みんな携帯電話やiPhoneを触っているのが当たり前でしょう? ゲームの中のキャラクターだって,みんな携帯電話を持ってるし,Twitterもやっているハズです。だからこそ,それを描かないと嘘くさくなるじゃないですか。
4Gamer:
ツイぽがあることによって,ある種のリアルさを感じる部分はすごくありました。自分のあずかりしらないところで,物語がどんどん進んでしまっているというような。志倉さんご自身が,Twitterをかなり活用されていることもあってか,その辺りの空気感はとても良く再現されていると感じました。
志倉氏:
それはありますね。実際,Twitterで人生が大きく変わってしまうような人っているじゃないですか。自分で責任の取れないことを呟いた結果として,職を辞することになってしまったり,友達を失ってしまったりね。そういった人生における分岐点みたいなものは,盛り込めたと思います。
4Gamer:
……なんだか,例えがネガティブな方面ばかりなのが気になるんですが(笑)。
志倉氏:
それはもう,僕自身が色々経験してますからね。それをぜひ追体験してもらいたいと(笑)。でもSNS上でのトラブルって,この先どんどん増えていくハズなんですよ。Twitterの発言一つとっても,これをつぶやいていいのかって,色々葛藤があったりするわけで。そういった拡散にまつわる恐怖は,今回ぜひ取り入れたいと思っていたんです。
4Gamer:
ネットのネガティブな面でいえば,作中ではフラウのツイぽアカウントが乗っ取られ,社会的に追い詰められていくというシーンが描かれていましたね。
志倉氏:
Twitterって,システム的に見たら割と単純ですからね。パスワード一つのセキュリティですし。この先もきっと事件が起こるだろうし,その危険性は先取りしておきたかった。
4Gamer:
事実,そういう事件はときどき耳にしますし,とてもリアルに感じられました。……その一方で,ゲームとしての難度がかなり上がってしまっているとも思えたんです。ただ面倒に感じる人も少なくないのかな,と。前作もそうでしたが,志倉さんがノベルゲームにおける選択肢をどう考えているのか,というのは,今回ぜひお聞きしてみたかったポイントです。
志倉氏:
難度の調整って,ゲームを作る上で一番難しいところの一つですよね。ただ僕自身としては,例えば攻略サイトを見ながらプレイしてもらうのも,全然ありだと思ってるんですよ。ただストーリーだけを追いたいのなら,そうすれば良い。もちろん悩みながら自分でクリアした人のほうが,先に進めた喜びは大きいと思いますけど。
4Gamer:
だとすれば,最初から分岐はなくてもいいのでは?
志倉氏:
完全な一本道で物語を作ってしまうと,やっぱりそれは小説やアニメでいい,ということになってしまうんです。だから,どこかでゲームならではの面白さは取り入れたい。
「ROBOTICS;NOTES」の場合も,分岐の辿り方によっては,4章から急に8章の愛理ルートに飛ぶことだってあり得るわけです。その結果,戸惑ってしまうこともあるかもしれないけど,でもそれって,その人は愛理がすごく好きだからそうなったわけですよね。それは肯定すべきだと僕は思うし,それも含めてゲームじゃないですか。
4Gamer:
ああ,なるほど。物語としての整合性よりも,ゲームとしての体験を重視すると。
では少し話を戻しますが,Twitterのポジティブな側面については,どうお考えですか? 志倉さん自身がTwitterを続けてらっしゃるからには,メリットも感じてらっしゃると思うのですが。
志倉氏:
一番のメリットは,ライブ感を簡単に生み出せることかな。例えば,先日代官山あたりを車で走ってたんですが,そこにあるライブハウスの前に行列ができてたんです。僕はたまたま通りがかっただけなので,それが何の行列か分からないんだけど,ライブハウスの名前をTwitterで検索すれば,何の行列かすぐ分かっちゃう。Google検索だと出てこないわけだから,そのスピード感,ライブ感はすごいと思います。
4Gamer:
志倉さんご自身がTwitterで発言されるのも,そのライブ感からですか。
志倉氏:
うーん,どうなんだろう。僕のアカウントは,会社としてではなく,あくまでパーソナルなものとしてやっていますからね。あんまり企業然としたアカウントにしても,意味がないというか,面白くないじゃないですか。
4Gamer:
それはその通りだと思います。しかしいくらパーソナルなものと但し書きを入れたとしても,志倉さんが志倉さんとして発言する以上,公的なものとして受け止められてしまうのは必然ですよね。……ぶっちゃけ怒られたりはしないんですか?
志倉氏:
会社からは怒られないですね。僕が代表なんで(笑)。ただ自分の発言には,責任を持つようにはしています。それができないなら,やるべきではないというスタンスです。
4Gamer:
ときどき炎上しているのを見ると,「ああ,もう止めとけばいいのに」って思うことが,正直あるんですが……。
これでも結構,抑制はしているんですよ。「これはやっぱりやめたほうがいいな。消そう,消そう」とかね。でも人間性が見えないものにはしたくない。そこでもやっぱりライブ感は大事なんですよ。現代の企業としては,むしろそうあるべきなんじゃないのかと思っています。
4Gamer:
うーん,なるほど。ちょっと脱線してしまってるんですが,志倉さんご自身は,今のインターネットに対して,どういう印象をお持ちなんでしょうか。ポジティブなのかネガティブなのか,ちょっと気になってしまって。
志倉氏:
ビジネスマンとしては,やっぱりネガティブな方が大きいですね。いっそ無くなってくれたらって思ってますよ(笑)。
4Gamer:
おおっと,具体的には?
志倉氏:
ネットがなければ,出版やデジタルコンテンツ業界って,もっと成長できていたはずなんです。例えばさっき話にあがった攻略コンテンツだって,昔は書籍ランキングの上位に,ゲームの攻略本が普通に入ってたじゃないですか。
4Gamer:
初代PlayStationの時代(1990年代)なんかはまだそうでしたね。
志倉氏:
そんな時代を体験してきた自分としては,現状はちょっと寂しいと感じます。それから物流においても,ネットが中間マージンをカットすればするほど,全体としての仕事は減っていくわけじゃないですか。消費者はそれでいいかもしれないけど,その消費者だって仕事をしてるわけなんだから。
4Gamer:
確かにそうです。でもその流れは,恐らくもう止められない。
志倉氏:
そうですね。まあ個人として考えると,僕自身がもうネットに依存しているところがありますし,今の仕事だってネットなしには成立しないわけです。本当になくなってしまったら,それはそれで困るんですけどね(笑)。
バーチャルアイドルとしての愛理
4Gamer:
話をARに戻したいと思います。愛理ルートの話が先に出たんですが,ARキャラクターである彼女は,ある意味で「ROBOTICS;NOTES」のテーマやシステムを体現するようなキャラクターだと思うんです。彼女が生まれてきた経緯は,どのようなものだったんでしょう。
愛理は,ARがこの先発展していったときに,きっと生まれてくるだろうと僕が考えるアプリケーションが元になっているんですよ。ARとナビゲーションって,親和性が高いじゃないですか。
4Gamer:
というと?
志倉氏:
例えばiPhoneを開くと,中からキャラクターが出てきて道案内をしてくれるようなイメージです。「今日は喫茶店に行きたい気分なんだけど」っていうと,店まで連れてってくれるような。そこで一緒にしゃべりながらお茶したりね。そういうバーチャルなキャラクターを,リアルな街並みの中に落とし込むことって,もう今の技術でも不可能ではないですよね。
4Gamer:
「ラブプラス」などの試みは,それに近い気がしますね。AR技術の未来という意味では,アニメの「電脳コイル」で描かれた世界が,業界全体の共通認識にもなっているとも感じます。
志倉氏:
さっきも言いましたけど,バーチャルなキャラクターって,歳を取らないのが最大の武器だと思うんですよ。いつまでも同じ姿で,ファンの前にいてくれる。リアルじゃないからこそ,フィクションとしての面白さを獲得しているんじゃないかと思います。
4Gamer:
そこにマーチャンダイジングやメディアミックスの可能性を感じているというお話でした。バーチャルなアイドルキャラクターということでは,初音ミクが,まさに今その状態にあると思うんですが,5pb.はライブイベントを主催したりで,初音ミクのプロデュース的な側面にも関わってらっしゃいますよね。
志倉氏:
初音ミクの場合は,視聴者やユーザーの参加があって初めて成立するモデルなので,ちょっと違う文脈ですね。「俺達が育てた」「俺達が作った」という感覚を持った人達によって市場が形成されているじゃないですか。特定の誰かが作ったわけはでなく,皆で作り上げた膨大なバックストーリーを含めて,「初音ミク」という存在が成り立っている。
4Gamer:
そうなってくると,ビジネス的にはかえって扱いが難しい存在のように思えます。
志倉氏:
そうかもしれません。例えばこれが海外になると,そこの物語がまったく共有されていないわけです。今では海外公演なんかも行えるようになりましたけど,海外の人は,ミクのことを「世界一豊富な楽曲を持ったデジタルアイドル」とだけ認識しているわけです。そこは間違いではないんだけど,国内でのミクの愛され方とは,やっぱり温度差を感じますね。
4Gamer:
海外でミクが成功するためには,ストーリーの部分――ミクを軸にした創作活動の土壌を,まるごと輸出しないとダメだと。
志倉氏:
今後のミクがビジネス的な世界戦略を採っていくとするなら,そういう視点が必要になると思います。弊社は,そんな初音ミクというキャラクターの持つ可能性を常に検討し,実行に移していますが,もちろん育ての親ではありません。だから,そもそも僕が偉そうに言える立場でもないのですけどね。
4Gamer:
少なくとも国内を見れば,ミクが持っている「人を創作へ向かわせる原動力」って,ものすごいじゃないですか。「ミクのためなら,しゃーねーな。やってやるか」みたいな。「ROBOTICS;NOTES」でも,あき穂がロボットについて,アニメ作品からモチベーションを得ていましたけど,そこはミクにも通じるところがある。
志倉氏:
あの無償のモチベーションは,すごいですよね。愛を感じます。
4Gamer:
それが海外でも通じるのかというのは,チャレンジとして面白い気がします。あとミクとの関連でいえば,愛理がバグってしまって,支離滅裂なことを勝手にしゃべり出すというシーンがありますよね。あの時に感じた可愛らしさ,あるいは不気味さって,ミクが片言の日本語でしゃべっている時に通じるものがある気がしたんです。
志倉氏:
ああいう人工無能的な会話って,今の我々がリアルに感じるAIとの会話なんですよ。もし今,実際に愛理を作ろうとしたら,あのくらいの会話が限度だと思うので。
4Gamer:
これを可愛いととるのか不気味ととるのかで,その後の受け取り方が変わってくる気がします。アニメになった「ROBOTICS;NOTES」で,海外の人達がバグった愛理を見たときにどう感じるのるか,ちょっと気になります。
志倉氏:
そうですね。ただ音声合成的には,たぶん英語の方が親和性が高いはずなので,もし英語が綺麗に発音できるように調整できれば,もしかしたらミクの海外進出はうまくいくかもしれない。あと身近なところでは,愛理のお天気アプリなんかは,今すぐにでもできそうです。
4Gamer:
ああ,お天気を読み上げてくれる。……そしてクリスマスにバグるわけですね(笑)。
志倉氏:
クリスマスが近づくと,「来る来るぞ……」ってね(笑)。
現実と虚構の境目
4Gamer:
もう一つ,「ROBOTICS;NOTES」で重要な位置を占めている「陰謀論」についてうかがいたいんですが,これは本作に限らず,科学アドベンチャーシリーズに共通するテーマでもありますよね。「STEINS;GATE」では,この部分が若干薄まっていた気がしますが,日常に忍び寄ってくる非日常の気味の悪さというのは,しっかり描かれていました。
志倉氏:
そうですね。現実と虚構の境目を曖昧にするというのは,常に考えているテーマだし,作っていても面白い作業なんですよ。「CHAOS;HEAD NOAH」では,作中に登場するURLを実際に開くと,ちゃんとサイトが用意されているという仕掛けを用意しましたし,「STEINS;GATE」でもゲーム内の携帯電話ではなく,実際の携帯電話と連動するような仕掛けを最初は考えてたんですよ。
4Gamer:
「STEINS;GATE」のそれは結局実現しなかったとお聞きしていますが,具体的にはどんな感じのものを想定していたんですか?
志倉氏:
例えば紅莉栖が「ちょっと120#って送信してみて」と言った時に,実際の携帯電話から特定のアドレスに送信することで物語が先に進むというようなイメージですね。それでイタズラ心で「168#」とか送信すると「なんで168#なんて送ってるのよ。もう一回ちゃんとやって」と怒られたりね(笑)。
4Gamer:
なるほど。それは面白い……けど,実現は難しそうですね。
志倉氏:
あとこれは機会があればいつかやりたいと思ってるんですけど,ノベルゲームのセーブ&ロードって,それだけでループ的な要素を持っているじゃないですか。それを利用して,例えばプレイヤーが同じセーブポイントから何度もやりなおそうとすると,「どうでもいいけど,お前,何回やり直す気なの?」ってプレイヤーに話しかけてくるとか。画面の向こう側のキャラクターが,突然こちらに話しかけてきたら,ドキッっとしますよね。
4Gamer:
ビクッとするでしょうね。自分がゲームの外にいるという安心感が,突然壊されてしまう,みたいな。
志倉氏:
「STEINS;GATE」のキャンペーン※で,現実のラジオ会館に人工衛星を落としてみたのも,そういうのがやってみたかったからなんです。ちょうどラジオ会館がなくなるという話は聞いていたので,現実と虚構をリンクさせてみたかった。それって,まさにつながらないはずの世界線が,ひとつに収束するってことじゃないですか。
※「STEINS;GATE」のキャンペーン……2011年10月に実施された同作のキャンペーンイベント。秋葉原のラジオ会館ビルに人工衛星が激突するという作中の事件を再現し,現実のラジオ会館の最上階部分に,人工衛星がめり込むような形で設置された。
4Gamer:
いや,あのイベントには驚きました。タイミング的にもぴったりでしたし。……しかし作中に登場する陰謀論って,志倉さんとしてはどこまでが「あり得る」話として考えているのでしょう。君島レポートの内容があまりに具体的なので,ちょっと怖いんです(笑)。
志倉氏:
もちろんフィクションですから,世界を操る意思をもった存在なんてのは,妄想に過ぎないですよ。でも君島レポートに書いてあったようなことが,偶然かもしれないけど,引き起こされるというのは,十分に可能性があるんじゃないですか。
4Gamer:
情報の氾濫の中に,真実が隠されてしまうような?
志倉氏:
報道規制や情報統制ってのは,僕達の生きる現実世界でも,実際に行われていることですからね。マスメディアがあえて報道しないニュースや,逆に選択された情報がプロパガンダとして流されるというのは,過去から現在まで,世界中で枚挙にいとまがないわけです。それが現代の日本にだけないと考えるほうが,かえって不自然ですよね。
そうった情報の偏りによる恐怖を匂わせたい気持ちは,僕は「CHAOS;HEAD NOAH」の頃からずっとある。どんなホラー映画よりも,さまざまなことが覆い隠されてしまう現実の方が,僕にとっては怖いものなんですよ。
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(C)MAGES./5pb./Nitroplus
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