インタビュー
2年の開発期間を経て生み出された“本格タクティクス系SRPG”の実力とは。「シュヴァリエ サーガ タクティクス」インタビュー
本格的なタクティクス系SRPGをブラウザゲーム上で実現するにあたり,NHN Japanおよびイメージエポックにはどのような苦労があったのか。そして両社の狙いはどこにあるのか。今回4Gamerでは,イメージエポックの代表取締役を務める御影良衛氏をはじめとする,本作のキーマン3名に話をうかがってきた。コンシューマ向けSRPGのファンや,イメージエポックの動向が気になるという人にもぜひ読んでもらいたい。
「シュヴァリエ サーガ タクティクス」公式サイト
「ブラウザゲームとして開発すべきではない」規模の作品
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,本作を開発するに至った経緯についてお聞かせください。
NHN Japan プロデューサー 薬師寺健治氏(以下,薬師寺氏):
こちらこそよろしくお願いします。「シュヴァリエ サーガ タクティクス」の発端となるのは2008年頃で,当社からイメージエポックさんに「SRPGを作りませんか?」と共同開発を持ちかけたことがきっかけです。ただ,そのときは実現には至らなかったんです。
確か,僕はあのとき「興味がないです」ってお断りしたんですよね(笑)。イメージエポックとしては,当時のオンラインゲーム市場に大きな興味は持てませんでした。また実際問題として,メインで行っているコンシューマゲームの開発が忙しくて,オンラインゲームの新規ラインが作れなかったこともあります。
4Gamer:
そんなイメージエポックが,シュヴァリエ サーガ タクティクスを開発することになったのは,やはりタイミングの問題ですか?
御影氏:
はい。2009年頃にオンラインゲーム,とくにPCのブラウザゲームが,本格的にはやり始める兆しが見えました。ちょうどその頃,コンシューマ用のラインが一つ開いたという事情も重なって,「そろそろ実験的にやってもいいかな」と思い始めたんです。
4Gamer:
2009年頃のブラウザゲームというと,「ブラウザ三国志」のヒットが印象深いですが,御影さんはどう思いましたか?
御影氏:
あのタイトルが大ヒットしたのを見て,きっとこれから,カジュアルなプレイヤーをメインターゲットにしたブラウザゲームが,山のように出てくるだろうな,とは思いました。
けれど,ほかの会社が同じターゲットを狙うのなら,ウチがやる必要はありません。自分たちの持ち味を生かすという意味では,やはりコンシューマライクなオンラインゲームを作りたい。それらの中でも,「ルミナスアーク」で開発ノウハウを培った,シミュレーションRPGがベストだと考えていました。
4Gamer:
コンシューマライクなシミュレーションRPGをオンラインゲーム化するなら,クライアント型のほうが作りやすいような気もするんですが,なぜ最終的に,ブラウザゲームを選択したのでしょうか。
御影氏:
一つは,当時クライアント型の代表ジャンルといえるMMORPGが,若干下火になりつつあったと感じたことです。クライアント型はどうしても開発費がかさむため,ここはあまりにもリスキーだろうと考えました。
一方ブラウザゲームは,クライアント型に比べれば開発作業が簡単に行えます。当時,社内でリサーチを行ってみたところ,ブラウザゲーム=チープという見方はさほど支配的でなく,むしろブラウザの持つ可能性に注目しているスタッフのほうが多かったんですよ。この流れで行けば,2010年頃にはグラフィックス面でも,クオリティが出せそうだと感じました。その流れの上に立って,2009年頃から本格的に検討し始めたんです。
4Gamer:
数あるオンラインゲームパブリッシャの中からNHN Japanを選ぶにあたっての,決め手は何だったんでしょうか。
御影氏:
僕らがオンラインゲームを作るにあたって,「開発期間は2年,コンシューマゲームと同等のバジェット」という条件を定めました。ほかの国内大手メーカーさんともお話しをさせていただいたのですが,NHN Japanさんだけが,こちらの条件に納得してくれたんです。最終的には,開発費を半分ずつ出し合って,共同でチャレンジをしてみましょうと。僕のほうからNHN Japanさんを逆指名させていただく形になりました。
4Gamer:
NHN Japan側の意見も聞きたいのですが,一体どうしてオンラインSRPGを作ろうと考えたんですか? その組み合わせで成功した例も聞きませんし,プロジェクトとしてはかなりチャレンジングですよね。
以前,ハンゲームの会員向けにアンケートを行った際に,“最も興味のあるジャンル”の2位がSRPGだったんです。
4Gamer:
それは意外な結果ですね。SRPGは,どちらかというとコンシューマ層,それもコア寄りのゲーマーが好みそうなジャンルに思えますが。
薬師寺氏:
はい,私も意外に思いました。ここに注力するのはリスキーかもしれませんが,逆に誰も挑戦していないジャンルという見方もできます。そこで,コンシューマ用のSRPGをきちんと作れる開発会社を探していく中で,実力と勢いのあるイメージエポックさんに声をかけさせていただきました。
4Gamer:
実際にコンシューマ系の会社と共同開発を行ってみて,感想はいかがですか?
薬師寺氏:
いやぁ,どうでしょう。何とか上手くやっていると思いますよ(笑)。
御影氏:
多分,口うるさい開発会社だなあと思われてるんじゃないかなぁ。どこのパブリッシャからも「口が悪い」といわれますし(笑)。
4Gamer:
それは,イメージエポックというより御影さん個人によるところかもしれませんが,「開発者としてクオリティに妥協しない」という意味でしょうか。
御影氏:
自分たちが正しいと思ったことは,最後まで通しているつもりです。シュヴァリエに関しても,最初に提案資料をいただいたとき,「つまらない」という理由で突っぱねたりしています。そんな感じなので,ゲーム内容に関しては今でも薬師寺さんと衝突していますね。
4Gamer:
それはもちろん,「良いゲームを作りたい」という気持ちの表れということですよね。
御影氏:
自分たちが納得できないモノは,基本的に作りたくないんです。もちろん,呑めるところは呑みます。これは,私に限らず,社員も含めてのスタイルなので,もう社風と言っていいかもしれない。普通の会社だとイエスマンが多いですが,うちは本当に口うるさい社員が多いんですよ(笑)。
4Gamer:
気苦労がうかがえますね……。ところでイメージエポックにとって,本作は初めてのPCオンラインゲームということになります。実際に開発してみて,事前に抱いていたイメージと印象が異なっていたことはありましたか?
御影氏:
最初は不安もあったんですが,実際に開発を始めてみると,思いのほか想定どおりに進んでいます。初めてブラウザ上にバトル画面を表示させたときは,「これなら余裕でコンシューマのクオリティを出せるじゃん」という,確かな手ごたえを感じましたね。
4Gamer:
先ほど実際のゲーム画面を見させてもらいましたが,“コンシューマクオリティ”は確実に実現されていますね。予備知識のない状態でパッと見せられたら,ブラウザゲームだとは分からないと思います。
御影氏:
ありがとうございます。このレベルを実現しようと思ったら,普通なら2年くらいはかかるでしょうね。もしシュヴァリエがハンゲームのユーザーに受け入れられた場合,それを見て他社が追従したとしても,完成は2年後になるはずです。その2年間は,うちとNHN Japanにとって大きなアドバンテージです。
4Gamer:
ブラウザゲームというと,手早く開発して短期で回収……というコンパクトなプロジェクトというイメージを抱いていました。ですが本作は,ブラウザゲームとしては規格外の作品になっていますね。
御影氏:
そういった意味では,シュヴァリエ級のゲームってなかなか作るチャンスがないんですよ。
4Gamer:
チャンス,ですか。
御影氏:
たとえばシュヴァリエは,一般的なブラウザゲームと比べると破格の開発費をかけています。そんなブラウザゲームのプロジェクトに「GO!」と言える会社役員がまず,今の時代そうそういないと思いますよ。おそらくブラウザゲームにこれだけの予算をかけた会社は,過去に一社もないでしょう。
イメージエポック ディレクター 東郷真哉氏(以下,東郷氏):
しかもシュヴァリエは,コアゲーマー層に向けて一直線に作っていて,それが許されているんです。
御影氏:
奇跡の一本だよね。
薬師寺氏:
タイトルの開発を行う際は一般的に,ゲームの中身や規模でプラットフォームを決めるものです。「こういう規模,システムなら据え置き機だよね」「これなら携帯ゲームだよね」といった感じで。そう考えると,シュヴァリエは本来,ブラウザゲームとして開発する作品ではありません。NHN Japanにとっても,これまでの常識では考えられないレベルの,例外的なプロジェクトなんですよ。
SRPGをブラウザゲームに落とし込むプロセス
SRPGというゲームジャンルは,複数のユニットへ個別に指示を出す必要があるので,一回あたりのプレイ時間が長くなりがちです。ブラウザで動作するオンラインSRPGを作るにあたり,とくに注意した部分はどのあたりでしょうか。
東郷氏:
とにかく,プレイ中のテンポを良くすることを第一に考えました。SRPGで,長時間にわたるバトルの末に敗北してしまったときのうんざり感って,たまらないじゃないですか。
4Gamer:
「また同じことをやらなきゃいけないの?」という気分になるのは確かですね。
東郷氏:
ですよね。強敵との戦いにおいては,どうせ負けるにしても,さくっとやられたほうが,再挑戦に対するハードルも下がると思うんです。そこで,ハーフオート機能や前に装備していたアイテムの自動補充など,戦略性を低下させることなく,利便性を高めるような仕様を盛り込みました。
それともう一つは,コンシューマのSRPGと違って,敵味方のパワーバランスがかけ離れたバトルが起こり得ます。ここの調整は,正式サービス後にも継続的に行う必要があるでしょうね。
4Gamer:
開発中,大きな仕様変更などはありましたか?
東郷氏:
もう随分変わっています。たとえば最初は,画面内にほかのプレイヤーが見える形で表示されるのが前提のゲームでした。コンテンツに関しても,そこにいる人と一緒にマップを攻略したり,一つのマップを多人数が攻略することが前提だったり。
4Gamer:
最初はMMOに近い感じだったんですね。
東郷氏:
ええ。通信周りの仕様や,シュヴァリエが目指すべきバランスを含めて検討した結果,さすがにMMOにするのはやめました。こういった感じで,ゲーム仕様のほとんどの部分において,沢山のアイディアが出ては消え,出ては消えの繰り返しでした。社内では皆が考えてくれて,あちこちからアイディアが出てくるのですが,それだけにゲームシステムをまとめるのが大変です(笑)
4Gamer:
とはいえ現状の仕様でも,メインストーリーを進めるだけではなくて,遠征したり,攻城戦を繰り広げたりと,かなりのボリュームがありそうですよね。
御影氏:
でも我々としては,「ボリュームたっぷり」だとは全然思っていません。むしろ,プレイヤー達のコンテンツの消費速度を考えると,「頑張って作ったこのコンテンツも,何か月かで食い尽くされちゃうんだろうなぁ……」って(笑)。
4Gamer:
オンラインゲームのコアプレイヤーは,とことん突き進んでしまいますからね。
御影氏:
最初は1日8時間のプレイ時間を想定して,コンテンツの消費速度を計算していました。でも最近は「20時間にすべきでは?」といった声も社内から挙がっています(笑)。
そのあたりも考慮しつつ,正式サービス後のアップデート企画を練っています。サービスインから1か月間でプレイヤー達の動向を把握して,11月初旬頃に今後の展開を決定。そのうえで,年内に1回目の大型アップデートを行う予定です。
東郷氏:
サービスインの段階では,自分達の構想しているコンテンツの,2割くらいしか実装されていないイメージです。2〜3か月に1度のペースで大型アップデートを行いつつ,方向性を随時調整していきたいです。
4Gamer:
遊ぶ側にとって食い尽くされにくいコンテンツというと,PvP関連がまず思い浮かびます。本作の場合は,攻城戦がそれにあたるのでしょうか。
御影氏:
そうですね。最初の取っ掛かりはストーリーモードですが,長期的に見ると,キモとなるのはやはり攻城戦です。攻城戦で勝つために,自分達のギルドや城をどうやって強化するか。攻城戦を通じて,プレイヤー達による“世界観”を作ってもらいたいですね。
東郷氏:
一応補足すると,ギルドの攻城戦については,正式サービス後のアップデートで導入される予定です。ぜひ期待していてください。
4Gamer:
PvP / RvRは敬遠している人も少なくないですが,一度ハマると病み付きになってしまう魅力がありますよね。
ええ。最初に僕が東郷に伝えた構想……というよりポエムは,「自分が作った城で敵を撃退したい」というものでした。そこから,「城を取り合おうよ」「城をみんなで作ろうよ」といった風に展開していきました。自分がオンラインゲームを遊び続けるプレイヤーなら,きっとそう思うでしょうし。
4Gamer:
ゲーム内では,実際にどうやって城を手に入れるんですか?
東郷氏:
城はワールドマップ上に実在していますが,数が限られています。したがって,各ギルドが城を取り合う形になります。
4Gamer:
インスタンスではなく有限ですか。それはアツいですねぇ。
東郷氏:
城によって,配置できるギルドメンバーの数が5人,10人,20人などといった感じでキャパシティが異なっています。そのため,ギルドが大所帯になってきたら,「今の城よりもっと大きな城を攻め落とそうぜ!」といった流れになるでしょうね。
4Gamer:
ワールドマップの中に,どれくらいの数の城が用意されるんですか?
東郷氏:
プレイヤーの動向に応じて調整しようと考えています。ですが,全部のギルドが城を所有できる,といったバランスにはしないつもりです
4Gamer:
城を所有しているギルドには,もちろん特別なメリットがあるわけですよね。
東郷氏:
はい。ギルド攻城戦で勝利すると,城をしばらくのあいだ所有できます。その間,美味しい特典が得られる形で考えております。ただし,城を所有しているギルドは,敵対ギルドからの進攻に脅かされるわけですから,その備えが重要になります。城を維持するのは大変ですが,防衛側には,城に兵士や砲台などを配置できるといった,何らかのアドバンテージを検討しています。
4Gamer:
一部の有力ギルドが城を長期間独占して,ほかのプレイヤーがお手上げ状態になるといった懸念はありませんか?
東郷氏:
城の規模によって得られる特典の種類も異なるので,上位のギルドは,より上を目指したくなるはずです。自分たちのギルドの実力に応じた城を狙って,どんどんランクアップしていきたくなるように調整したいですね。
また,城を所有していないギルドでも,ボーナスダンジョンへの挑戦権が得られるシステムを検討中です。
4Gamer:
バランス調整が大変そうですね。城に対してまったく手が届かないようだと,モチベーションを維持するのが難しいでしょうし,逆にあっさり手に入ってしまっても,手応えがないですし。
御影氏:
PvP関連は予想しにくいコンテンツなので,開発側としては,どのような調整にもすぐに対応できる体制を整えています。たとえばプレイヤーの動向を見て,城の数をアップデートで増やすことも可能です。なにしろ,国産SRPGをオンラインゲームとして作った会社はほとんどないわけですから,こちらもしっかりと体制を整えて,柔軟に対応していくつもりです。
東郷氏:
そういう意味でも,正式サービス開始後からが本当の勝負になると思います。現在も,開発作業には苦労していますが,βテストなどで,「作ったものが無駄になるかもしれない」という覚悟もしています。でも,きっとそこからが,オンラインゲーム制作の,本当の意味でのスタートなんでしょうね。
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