レビュー
ついに登場したGTX 560“無印”は,驚くほど高いポテンシャルを持ったGPUだった
GeForce GTX 560
(ASUS ENGTX560 DCII TOP/2DI/1GD5)
NVIDIAが位置づける「ゲーマー向けGPU」としての「GTX」型番においては,GTX 560 Tiと,最下位モデルたる「GeForce GTX 550 Ti」との間に性能差が大きかったため,確かに,間を埋める製品はあったほうがいいが,果たしてGTX 560は,GTX 560 TiとGTX 550 Tiの間にうまく収まる製品となり得ているのか。ASUSTeK Computer(以下,ASUS)から,搭載製品「ENGTX560 DCII TOP/2DI/1GD5」(以下,ENGTX560 DCII TOP)の貸し出しを受けられたので,同製品を用いて,その実力を検証してみたい。
基本的にはメモリ1GB版GTX 460の焼き直し
リファレンスクロックは「設定なし」!?
GTX 560のGPUコアは,GTX 560 Tiと同じく,開発コードネーム「GF114」と呼ばれていたものだ。そのため,48基のCUDA Coreに超越関数ユニットやキャッシュメモリ,テクスチャユニット,頂点処理エンジンたる「PolyMorph Engine」がセットになって「Streaming Multi-Processor」(以下,SM)を構成し,さらにそれが4基集まって「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)を構成する点は変わらない。
ただし,GF114のフルスペック(=GTX 560 Ti)だと,GPCが2基で,48×4×2=384 CUDA Coreとなるところ,GTX 560ではSMのうち1基が無効化されているため,合計336 CUDA Coreということになる。
付け加えるなら,64bit幅のメモリコントローラを4基備える256bitインタフェースを採用していたり,8 ROPで1パーティションを構成するROPパーティションを4基搭載していたりといった具合で,足回りもグラフィックスメモリ1GB版GTX 460(以下,GTX 460 1GB)と変わらず。GTX 560というGPUは,GTX 460 1GBをベースに,半導体設計の見直しなどを図った焼き直しモデルと捉えるのが妥当だろう。
というわけで,あとは基本的に「コア675MHz,シェーダ1350MHz,メモリ3.6GHz相当というリファレンスクロックだったGTX 460 1GBに対して,GF110系のコアアーキテクチャを採用するGTX 560がどこまで動作クロックを伸ばしているか」が焦点となるわけだが,実は,ここに1つ大きな問題がある。GTX 560のリファレンスクロックは明示されていないからだ。同社は,コア810〜950MHz,シェーダ1620〜1900MHz,メモリ4004〜4488MHz相当という「想定される幅」を示しているだけなのである。
一応,明らかになっている仕様を基に,従来製品や競合製品とスペックを並べてみたものが表1となる。
ENGTX560 DCII TOPの基板サイズはGTX 560 Tiと同じ
DirectCU IIクーラー採用のオリジナル基板を採用
気になる動作クロックはコア925MHz,シェーダ1850MHz,メモリ4200MHz相当。ASUSによれば,同社はGTX 560のリファレンスクロックを「コア810MHz,メモリ4004MHz相当」と設定しているそうなので,それと比べた場合には,コア&シェーダで約15%,メモリで約5%高い計算となる。
カード長は実測248mm(※突起部含まず)で,GTX 560 Tiリファレンスカードの同228mmより長いが,これは搭載しているASUS独自のGPUクーラー「DirectCU II」がカードの後方へ出っ張っているためだ。基板だけの長さで比べると,GTX 560 Tiのリファレンスカードと違いはない。補助電源コネクタが6ピン×2で,両方に正常な電力が供給されていないと動作しないのも同じである。
搭載するメモリチップはSamsung Electronics製のGDDR5「K4G10325FE-HC04」(5Gbps品)で,これはGTX 560 Tiのリファレンスカードに搭載されていたものと同じだ。
※GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為です。本稿では読者の便宜を図るべく取り外していますが,取り外した時点で保証が受けられなくなりますので注意してください
“動作クロック幅最低水準”でのテストも実施
レギュレーション11世代から一部先取りも
今回,比較対象としては,先に表1で示したGPUを用いる。要するに,直接の上位モデルと下位モデルであるGTX 560 Ti&550 Ti,基本仕様の変わらないGTX 460 1GB,そして価格帯が比較的近い「Radeon HD 6870」(以下,HD 6870)と「Radeon HD 6850」(以下,HD 6850)を用意したわけだ。
このうち,GTX 560 Ti搭載のGALAXY Microsystems製「GF PGTX560Ti-SPOC/1GD5 WHITE」と,GTX 460 1GB搭載のMSI製「N460GTX Cyclone 1GD5/OC」は,いずれもメーカーレベルで動作クロックの引き上げがなされたモデルのため,今回はMSI製のオーバークロックツール「Afterburner」を用いて,リファレンス相当にまで動作クロックを引き下げている。
また,クロックについて続けると,ENGTX560 DCII TOP/2DI/1GD5のカード定格クロックは以後「GTX 560 OC」と表記する。一方,NVIDIAの想定するGTX 560の動作クロック幅における最低水準にして,ASUSのいう「GTX 560のリファレンスクロック」でもあるコア810MHz,シェーダ1620MHz,メモリ4004MHzを,「GTX 560 Ref.」と表記して区別するので,この点はお断りしておきたい。
そのほかテスト環境は表2のとおり。GeForce勢のテストには,GTX 560のレビュー用として全世界のテスターに配布されたドライバで,Release 275世代となる「GeForce Driver 275.20」,Radeon勢のテストには「Catalyst 11.5」を用いている。
ただし,長らくリファレンス機材として使ってきた電源ユニットが寿命を迎えたため,今回は,目下準備中のレギュレーション11世代から正式に採用する予定のSilverStone Technology製1200W電源ユニット「SST-ST1200-G」を前倒しして用いる。また,これに合わせて,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」に代わって採用する予定の「Crysis 2」を使ったテストも行うことにした。
詳細はレギュレーション11への移行時にあらためてお伝えする予定だが,Crysis 2においては,ADRENALINE製作のベンチマークツール「Adrenaline Crysis 2 Benchmark Tool」を使用。「Central Park」のシーンを用いる。
ただ,ツールからアンチエイリアシングを適用しても正常に適用されなかったため,今回は標準設定の代わりに描画オプション「VERY HIGH」,高負荷設定の代わりに同「EXTREME」を用いて,そこで得られる平均フレームレートをスコアとして採用することにしている。VERY HIGHとEXTREMEでは,テクスチャの詳細と影のリアリティが異なり,負荷のかかり方にも違いが生じているのを確認済みだ。
なお,CPUの「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」は,パフォーマンスに影響し,かつBIOSから有効/無効を切り替えられる機能のうち,「Intel Hyper-Threading Technology」「Enhanced Intel SpeedStep」は有効化。一方,テスト時の状況によって影響が異なるのを避けるため,「Intel Turbo Boost Technology」は無効化している。
HD 6870に近いGTX 560 Ref.の3D性能
GTX 560 OCに至ってはGTX 560 Tiとほぼ同じ
以下,「3DMark06」(Build 1.2.0)の「Feature Test」を除き,3D性能を見るグラフでは基本的にはGeForce→Radeonという順番でバーを並べてあるが,グラフ画像をクリックすると,1920×1200ドット解像度のスコアを基準に並び替えたものを別ウインドウで表示するようにしてある。好きなほうで見てもらえればと思うが,ともあれ,グラフ1,2に示した3DMark06の総合スコアから見ていこう。
ここでGTX 560 Ref.のスコアはHD 6870とほぼ同じレベル。GTX 560 OCはGTX 560 Tiと遜色のないスコアを示している。GTX 560はGTX 560 TiとGTX 550 Tiの間を埋めるモデルだが,少なくとも3DMark06においては,GTX 560 Tiにかなり近い存在だといってよさそうだ。
グラフ3〜7は,3DMark06のデフォルト設定である1280×1024ドットの「標準設定」でFeature Testを実行したときのもの。まずFill Rate(フィルレート)の結果となるグラフ3だが,より傾向がはっきり出るMulti-Texturingにおいて,GTX 560 Ref.とHD 6850がほぼ並んでいる点には注目しておきたい。GTX 560 OCは,総合スコアと同様,GTX 560 Tiと同じレベルにある。
続いてグラフ4,5は順に,Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のスコアとなる。
ここでは,前者でGTX 560 OCがGTX 560 Tiを上回っているのがトピックといえるだろう。336 CUDA Coreでも,1850MHzで動作すれば,1644MHz動作の384 CUDA Coreをピクセルシェーダ性能で上回るわけだ。
ただDirectX 9のピクセルシェーダ性能ではRadeon勢のほうが優勢であり,それはここでも変わっていない。
DirectX 9世代における汎用演算性能を見るShader Particle(シェーダパーティクル),長いシェーダプログラムの実行性能を見るPerin Noise(パーリンノイズ)の結果が順にグラフ6,7となる。ここではさらにRadeon勢のスコアが高めに出るが,GeForce間での比較だと,力関係は総合スコアやピクセルシェーダテスト結果とあまり変わっていない。
では,実際のゲームではどういった傾向になるだろうか。
グラフ8,9は,VERY HIGHおよびEXTREME設定におけるCrysis 2のテスト結果である。Crysis 2にはNVIDIAが技術協力をしていること,そしてRelease 275世代のGeForce Driverでは最適化が進んでいることもあって,GTX 560 OCおよびGTX 560 Ref.のスコアはともに良好。GTX 560 Ref.がHD 6870といい勝負に持ち込んでいる。
一方,GTX 560 OCとGTX 560 Tiの力関係は3DMark06とほぼ同じだ。
ベースはDirectX 10で,DirectX 11が補助的に使われるFPS「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)のテスト結果がグラフ10,11だ。
GTX 560 OC,GTX 560 Ref.のスコアはやはり良好といっていい。GTX 560 OCはGTX 560 Tiに対して安定的に優位なスコア差をつけ,GTX 560 Ref.はここでもHD 6870を上回っている。
一方,ピクセルシェーダ&テクスチャ性能勝負になりがちなタイトルでは,Fermiアーキテクチャらしいところも見て取れる。グラフ12,13は「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果だが,標準設定だとHD 6870が首位に立ち,GTX 560 Ref.はHD 6850と同程度にまで迫られているからだ。
ただ,高負荷設定ではスコアを持ち直しており,高いシェーダクロックの威力も感じさせている。
DirectX 10世代のタイトルである「Just Cause 2」の結果がグラフ14,15。ここでは,高負荷設定においてGTX 560 Ref.がHD 6870に小さくないスコア差をつけている点に注目しておきたい。高いシェーダクロックと,低くないメモリクロックとが,バランスよくスコアに影響したものと思われる。
DirectX 10世代の「バイオハザード5」だと,GTX 560 Ref.はHD 6870とほぼ同じスコア(グラフ16,17)。GTX 560 OCもGTX 560 Tiと同程度で,3DMark06やCrysis 2と似た傾向にまとまった。
3D性能検証の最後はDirectX 11タイトルの「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)。DiRT 2はRadeonへ最適化されている一方,FermiアーキテクチャのGeForceで良好なスコアを示す傾向にあるというのはこれまでも触れてきたが,グラフ18,19におけるGTX 560 Ref.とGTX 560 OCも,過去の傾向を踏襲する結果を残した。GTX 560 OCとGTX 560 Tiが並び,それをGTX 560 Ref.が追う構図は変わっていないが,GTX 560 Ref.とHD 6870との間には,14〜20%ものスコア差が生じている。
動作クロックに相応して高い消費電力
DirectCU IIの冷却性能は優秀
実際のところを,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」で行った,システム全体の消費電力比較から探ってみよう。
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時として,スコアをまとめている。
その結果がグラフ20だ。アイドル時はほぼ130W前後で足並みがそろっているものの,アプリケーション実行時に目を移すと,GTX 560の消費電力は相対的にかなり高いのが分かる。
今回はENGTX560 DCII TOPというクロックアップモデルの動作クロックを引き下げたときのテスト結果となるので,消費電力が高めに出るのはやむを得ない。なので,“リファレンスクロック”時のスコアを額面どおり受け取るのは難しいのだが,GTX 560 OCがGTX 560 Tiを上回っているのは言い逃れできないだろう。消費電力は動作クロックの影響を大きく受けるだけに,性能を稼ぐために動作クロック引き上げた負の面が出てきた格好である。
最後にグラフ21は,3DMark06の30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU温度を計測した結果となる。スコアは,室温20℃の環境にテストシステムをバラック状態で置き,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.5.3)から取得したものだ。
搭載するGPUクーラーが異なるうえ,そもそも今回は主役たるGTX 560がASUSオリジナルのDirectCU IIクーラーを搭載しているため,横並びの比較にはまったく不向きである。その点は注意してほしいが,ただそれでも,動作クロックや消費電力の高さからすると,GTX 560 OCのGPU温度が低めなのは分かる。80mm角のファンに3本のヒートシンクが組み合わされた同クーラーの冷却能力は評価していい。
なお,筆者の主観であると断りつつ付け加えると,動作音はズバ抜けて静かというわけではないものの,ミドルクラスのGPUを搭載したグラフィックスカードのGPUクーラーとしては,まずまずの静かさといったところだった。
NVIDIAは3D性能に舵を切りすぎた?
HD 6800シリーズ対抗モデルの登場に期待
正直,GTX 560が持つ性能のよさには本当に驚いた。NVIDIAが動作クロックの最低レンジとしたコア810MHz動作で,HD 6870と互角の勝負が演じられるのだから,GTX 560というGPUそのものは相当に魅力的な存在だと述べてよさそうである。
GTX 560とGTX 560 Tiの性能差はそれほど大きくなく,両者のクロック設定次第では前者が後者を上回ることすらあるというのは,ここまでのテストから明らかだが,問題は,クロックアップモデルの場合,電源周りや搭載するクーラーのコストがかさみ,いきおい,販売価格も高めになってしまう点にある。
市場に目を向けると,発表から4か月が経過し,順調に店頭売価が下がっているGTX 560 Tiカードの実勢価格は,リファレンスクロック採用モデルで2万円台前半が相場(※2011年5月17日現在)。これに対して,GTX 560カードは,今回GTX 560 Ref.としたクロックに近いもので2万円前後,GTX 560 OCに近いもので2万円台中盤の予想実売価格になっており,後者は完全にGTX 560 Tiと市場食い合ってしまっている。これでは,せっかくの性能でも,高いクロックが設定されたGTX 560カードを選ぶ人は少ないだろう。
コアクロック850〜950MHzの設定で出てくるカードがほとんどになるというNVIDIAのアピールだが,要するにそれは,HD 6800に完勝できるクロック,ということなのだろう。だがそのために,性能が高くなりすぎて,GTX 560 Tiと市場を食い合ってしまっては本末転倒だ。
NVIDIA側の意向にあまりこだわらず,「199ドルから」とされる北米市場の想定売価へ近づけ,店頭価格でHD 6800シリーズと競合する方向の動きが市場で起こってくれば,6月頃の商戦期に向けて,相当に面白い存在になるのではなかろうか。今後の動向に期待したいGPUといえる。
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