インタビュー
ニンテンドー3DSにおいて3D立体視を実感させられる見せ方とは? 「スーパーモンキーボール 3D」プロデューサーの馬場保仁氏へのショートインタビューを掲載
2011年1月8日〜10日に千葉県・幕張メッセで開催されたニンテンドー3DS体験会「NINTENDO WORLD 2011」では,本作は映像出展のみでプレイアブル展示はなされていなかったが,会場でプロデューサーであるセガの馬場保仁氏に話を聞くことができた。ニンテンドー3DSならではの開発の難しさや工夫についていろいろと聞けたので,興味のある人は最後まで読み進めてほしい。
なお4Gamerでは,2010年に開催された任天堂カンファレンス2010において,プレイアブル出展されていた本作のプレイレポートを掲載しているので,気になる人は「こちら」にも目をとおしてほしい。
「スーパーモンキーボール 3D」公式サイト
4Gamer:
よろしくお願いします。
今回,ニンテンドー3DSで「スーパーモンキーボール 3D」をセガとして最初に出すタイトルの一つに選んだ理由を教えてもらえますか?
モンキーボールって,ゲーム性がシンプルで,直感的にどなたにも遊んでいただけるので,セガの中ではある意味,新しいハードでいち早くリリースするタイトルの一つなんです。
また,海外市場ではモンキーボールの認知度が高いので,そういう意味も大きいということで,先陣を切ることになりました。3Dの相性ももちろんあります。
4Gamer:
「スーパーモンキーボール 3D」の完成度はどのくらいですか?
馬場氏:
最終的な調整をしている段階で,ほぼ完成しています。
4Gamer:
あらためて,「スーパーモンキーボール 3D」の特徴を教えてもらえますか?
「スーパーモンキーボール 3D」は,モンキーボール,モンキーレース,モンキーファイトという3種類のゲームで構成されていて,そのどれもが1本のゲームとして成立するくらいのボリュームとクオリティだというのが,一番の特徴です。
ニンテンドー3DS向けということで,ユーザーさんも“3D感”を期待していると思うんですね。それをどう見せるのかということを考えると,3D立体視に適したものを選ぶべきだろうと。
また,従来の「モンキーボール」シリーズはアクションゲームで,たくさんのミニゲームを遊べるという構成だったんですが,僕自身は,ミニゲームがたくさんあって面白いけど,どれももう少しやりごたえがあるといいなと感じていた部分があったんです。
そこで今回は,アクションパズル,レースゲーム,対戦格闘という全然違うジャンルの3本が1本に入る形にして,「この1本を買っていただければ間違いなし」という形で商品をリリースするために頑張ろうと。
4Gamer:
3DSのハード特性に合わせたゲームに絞ったと。
馬場氏:
とくにモンキーボールは,いかに3Dを実感できるかという点を意識して作っています。……とは言いながらも,開発当初,まず3DSで今までのポリゴンモデルをどれくらい表示できるのか試したら,すごく綺麗に表示できたので,僕らも楽しんで作っていたんですが,名越(※)に「すごく綺麗でよくできているけど,3DSっぽいってどこなの?」と言われて,単に綺麗なだけじゃだめだと気付かされたのですが(笑)。
3Dというと,画面から飛び出して手前に迫ってくるものという印象がありますが,3DSの画面サイズだと,それよりも画面の奥に向かって奥行きを感じさせるほうが適していると感じたんです。
なので,今回の「スーパーモンキーボール 3D」では,飛び出すというよりは空間に奥行きが感じられることを“3D”と定義しました。
どこにどうオブジェクトを置いたり,カメラやライトの見せ方を工夫したら3Dを実感できるのか,プラス,3DSにおけるモンキーが3D立体視を実感させられる見せ方はどんなものなのか,そのために何をしなきゃいけないのか,開発スタッフみんなでものすごく研究しました。
※本作の総合プロデューサーである名越稔洋氏。
4Gamer:
見せ方の工夫とは,具体的にはどのようなものですか?
まずは普通にコースデザインをして,たとえばジャングルだったらコースの両脇に木を生やして,「プレイヤーキャラクターが通過したときに,その両脇の木がワサワサっと揺れたら3Dっぽく感じるのでは?」といった感じで作っていたんです。
ところが,実際に3D立体視で見ると,あまり3Dに見えないんですよ。というのもモンキーボールでは,画面の手前から奥に向かって転がっていくんですが,そうすると,眼の焦点はボールとその奥に向くので,通過した瞬間に両脇は周辺視になってしまうんです。
4Gamer:
意識が向いているのはボールとその周辺で,それ以外の部分は見えてはいるけど漠然としか捉えられていないから,3D立体視にしても効果が薄いというわけですね。
馬場氏:
なので,中心視と周辺視におけるオブジェクトの配置の割合にはかなり配慮しました。
中心視として意識しているオブジェクトと視線の間に動くオブジェクトが入ってくると,人間の眼ってその瞬間に奥行きを感じるんです。なので,たとえば蝶々がひらひらと飛んで,上のほうからすっと視界に入ってくるような演出を入れています。またバナナも,今までは邪魔だったので両脇に飛ばしていたんですけど,今回はあざとく手前に向かって飛んできます(笑)。
あと,両脇にオブジェクトがあっても3Dに見えないという話をしましたけど,トンネルのようなものをくぐるときは,案外3D立体視で感じられるんです。トンネルやゲートをくぐると,その瞬間に影が一瞬入るので,そこで奥行きを感じられるんです。
4Gamer:
なるほど。
馬場氏:
少なくとも「スーパーモンキーボール 3D」においては,光と影,そしてカメラの使い方を工夫しないと,3Dという見方はできず,認識しづらいんだろうな,と思いました。
あとカメラの角度についても,トンネルなどをくぐったときに実感できるように,今までのシリーズよりもちょっとだけ下から見せているんです。ささいなことなんですけど,やはり違いが出るんですよ。
また,今までよりも,モンキーボールも実は若干スピード感を変えているんです。スピードが速すぎると3Dを感じづらくなってしまうんですが,遅くしてしまうと気持ちよさが失われてしまうので,その調整にはずっと苦しんでいました。
4Gamer:
3Dで見えるかどうか,演出に左右される部分がかなりあるんですね。
馬場氏:
我々が開発当初に作って自己満足していたときのものと,今のものを比較してご覧いただければ,本当に変わったのが分かっていただけると思うんですが,今や恥ずかしくてお見せできません(笑)。
3D立体視で見せるという点には,すごく時間をかけて努力してきましたし,マスターアップまで,今でもできる限りの工夫を続けています。
4Gamer:
3D立体視だと,タイトルロゴやメッセージウインドウなど,平面的な部分は浮いて見えてしまいますよね。
そういう印象はありますね。なので今回は,文字が浮いていてもおかしくないシチュエーションを作るしかないと思って,飛び出す絵本をテーマにしたんですよ。
不自然さを感じさせないように,魔法の文字が飛び出すという形を作りました。飛び出す絵本を開いたら,いくつもの異なるレイヤーが起き上がってくるじゃないですか。その真ん中を自分が進んでいくというようなイメージですね。
世界観のコーディネートをはじめとして,ゲーム作りというものを3Dに合わせていろいろな意味で考え直さなければいけなかったので。すごく勉強になりましたね。
4Gamer:
3D立体視以外に,3DSの機能で対応しているものはありますか?
馬場氏:
モーションセンサーに対応しています。モンキーボールは床を傾けてゴールに近づけるというゲームなので,最初はモーションセンサーでの操作を前提に作っていたんですが,3D立体視でプレイすると表示がブレてしまうんです。
モーションセンサーのときは直感的な操作が楽しめるんですが,3D立体視を捨てて2Dで遊んでくださいというのも変な話ですし,スライドパッドでの操作にも対応しました。より3Dを楽しみたい人は,スライドパッドで遊ぶのがお勧めです。
そのほかにも,3DSの機能を使った面白い遊びもあるので,期待していてください。
4Gamer:
3D立体視以外の3DSの機能で,今後の制作において利用してみたいと考えている機能はありますか?
馬場氏:
すれ違い通信/いつの間に通信ですね。
僕は「野球つくDS」シリーズを作っていたので,たとえば,全国の強者と自分が作ったチームが寝ている間に対戦する,野球つく甲子園みたいなものが,すれ違い通信やいつの間に通信でできたらと考えると,すごくワクワクしますね。
ニンテンドー3DSというハードの裸眼立体視は素晴らしいと思いますし,皆さんはまず3Dへの期待感を持つでしょう。とっかかりとしては,もちろんそれでいいと思います。ただ個人的には,すれ違い通信/いつの間に通信という機能は,大げさかもしれませんが,この先ゲーム業界を変えていくようなきっかけになるのではないかと思っています。
そうするためには,我々を含めた作り手が,その機能を最大限に生かしたタイトルを,早く開発して出していかないといけません。ソーシャルまではいかないまでも,浅く広く繋がっていける形で,しかもそれが意識しない間にできてしまう仕組みを上手く使ったゲームを作れたらと考えると,すごくワクワクしますね。
4Gamer:
では最後に,読者に向けてメッセージをお願いします。
馬場氏:
今回「スーパーモンキーボール 3D」を作ってみて,皆さんが期待されている3D立体視を実感できるタイトルにするために,僕らも思っていた以上に勉強や工夫をする必要がありましたが,すごくいい経験をさせてもらいました。
「スーパーモンキーボール 3D」は60フレームで滑らかなアクションを楽しんでいただけます。レースとファイトに関しても,今までのミニゲームからタイトルはもらっていますが,ゲームとしてはまったく違うものを一から作り直しているので,友達同士で4人対戦が楽しんでいただけるレースゲームと対戦格闘ゲームになっています。
3本のゲームすべてがじっくりと楽しんでいただけるボリュームとクオリティになっているので,ぜひ手にとってみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「スーパーモンキーボール 3D」公式サイト
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