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印刷2011/09/12 00:00

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[CEDEC 2011]人気フライトシューティングの最新作は,どのように開発されたのか。「エースコンバット アサルト・ホライゾン ビジュアルワークの俯瞰」をレポート

 CEDEC 2011の最終日となる2011年9月8日,バンダイナムコゲームスのフライトシューティングシリーズ最新作「ACE COMBAT ASSAULT HORIZON」PlayStation 3/Xbox 360。以下,アサルト・ホライゾン)に関するセッション,「エースコンバット アサルト・ホライゾン ビジュアルワークの俯瞰」が行われた。登壇したのは,バンダイナムコゲームスで本作のアートディレクションを担当した菅野昌人氏,カットシーンと背景シーンを統括した反町信哉氏,演出監修および映像ディレクションを担当した糸見功輔氏の3名だ。

写真左から,菅野昌人氏,反町信哉氏,糸見功輔氏
画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2011]人気フライトシューティングの最新作は,どのように開発されたのか。「エースコンバット アサルト・ホライゾン ビジュアルワークの俯瞰」をレポート

「ACE COMBAT ASSAULT HORIZON」公式サイト


アサルト・ホライゾンのムービーも上映された
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菅野昌人氏
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 菅野氏は最初に,本セッションの狙いやアサルト・ホライゾンの概要を説明し,続いて「描画表現の変革(1)」というテーマを挙げ,その要素の一つである「破壊表現」について解説を始めた。
 「エースコンバット」シリーズにはこれまで「戦場空間を飛ぶ」というコンセプトがあった。しかしアサルト・ホライゾンではこれを変更し,破壊表現に注力することにしたという。

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 菅野氏によれば,こうした破壊表現は,実在する航空機が登場する本作のようなゲームではタブー視されていたという。理由は,自分達の航空機が破壊される描写を航空機製造会社が見たいとは思わないからだ。しかし,アサルト・ホライゾンではそのタブーに挑戦することにした。
 リスクを冒してなぜそんなことをしたのか? その理由を,菅野氏は「シリーズの進むべき方向がシューティングであると判断したから」と説明する。最近のシューティングゲームジャンルにおいては,リアルな破壊表現に挑んでいないタイトルのほうが少ない。菅野氏は,「現代的な破壊表現のトレンドに,自分達なりの味付けをしていくことが大切だ」と決断したのだ。

 ちなみに戦闘機を破壊するときに課題になるのが,機体をどれくらいの数に分解するかという「分割粒度」だ。本作の場合,分解される数は,1つの機体につき10パーツ程度だが,物理演算などの計算精度を簡略化した小さな部品を合わせると,約30パーツほどになるという。

 もちろん,ゲーム中に登場するのは戦闘機だけではない。戦車や車両,大型艦船,建造物なども存在する。開発中は,それらをすべてリアルタイムで物理シミュレーションするかどうかが大きな議題になった。
 紆余曲折を経て,最終的に開発チームが選んだのは,艦船や大型建造物など,破壊のスケールが大きいものはグラフィックスソフトウェアの「Maya」でアニメーションを事前に計算しておき,物理演算を用いた破壊表現と分けるという手法だ。これにより,CPU負荷とメモリの消費を抑えることができた。

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 しかしここで,「なんか普通じゃね? もっともげたりちぎれたり,メカのスプラッターにしてよ」とか「オイルとか血みたいにズヒャッと! CEROのZを狙いましょう」などといったツッコミが,プロデューサー達からバシバシ入ってきたという。菅野氏らは,その意見に応えるため「破断」を取り入れることを選択する。
 破断とは,金属部材が衝撃や疲労で切断されることで,例えば,高速飛行中の航空機が敵の攻撃でダメージを受けたとき,空気抵抗で翼がねじ切れるといった状況だ。ガラスのような物質が炸裂するのとは異なる,金属ならではの「鋼材的破壊表現」だ。

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 物理的に正確な破断を再現するには,有限要素法を使った塑性変形シミュレーションなどが必要だが,これはスーパーコンピュータでやるようなことだし,開発チームにはその経験もない。菅野氏らは破断をいかに簡易的に表現するかを模索した。
 その結果,物理的には必ずしも正しくはないが,きわめて航空機的な破壊表現が実現したという。ただ,さまざまなパラメータをあらかじめ設定するため,偶発性がやや薄らいだそうだ。つまり,似たような状況では,似たような破壊シーンになってしまうことがあるということだろう。ともあれ,物理的正確性は多少犠牲にしても,プレイヤーがそれらしいと思ってくれればよいわけで,その意図は十分に達成されたという。
 このようなステップを踏みながら,アサルト・ホライゾンの破壊表現は,完成に近づいていったのだ。


近景表現の強化には接近用シェーダを使用
それによって,より自由な演出が可能に


 続いては反町氏が「描画表現の変革(2)」として,「近接表現の導入と広域表現への融合」に関する説明を行った。まず氏は,これまでのエースコンバットシリーズは,中,遠距離の風景については満足できるものの,近景が弱いこと,そして,従来の手法では空中戦のシーンとカットシーンの表現が大きく異なり,同じ世界の出来事だと感じられないという,二つの問題点を指摘した。

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反町信哉氏
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 その解決策として行われたのが,近接用シェーダの開発だ。そして,それをもとに近景でも遠景でも,またインゲームシーンでも,カットシーンでも使用可能な基本シェーダを構築し,上記の二つの問題を一気に解決してしまおうというわけだ。
 基本となるライティングとマテリアル,そしてそれらに付随するシャドウやテクスチャのレギュレーションなど,基本シェーダの仕様を決め,スキンシェーダ,クロス(服)シェーダといった派生シェーダの開発も進められていったが,やはり問題も発生したという。つまり,やはり本作のようにスケールレンジが広く,しかも高品質が求められるゲームの場合,すべてをフォローするシェーダを作るのは難しいということだ。
 近景,遠景,カットシーンそれぞれでベストの絵作りを求めてアーティストの関与を増やせば,各場面がバラバラになり,要するに上記の問題を解決したことにならない。といって,アーティストの関与を極力抑えると,秩序のある絵作りは可能だが,品質的には今一つになりかねない。

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 そこで,統一感の必要な要素を洗い出し,そこではパラメータの固定化やレギュレーション変更などを行う。そうでないところでは,各種パラメータ,レギュレーションに柔軟性を持たせる。それでもダメなら,専用シェーダを作る,といった基本方針がとられたという。このあたり,技術的な細目にわたるので,筆者を含めた非専門家はなかなか理解しづらいのだが,ともあれ,こうした経過を経てアサルト・ホライゾンは,近景から遠景にわたる統一的な表現を可能にし,リソースの無駄をなくし,品質のアップを可能にしたと反町氏は語った。


PREVISによって,
効率的にスタッフ間のイメージ共有を図る


糸見功輔氏
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 続いて登壇した糸見氏は,「エースコンバットフランチャイズを再活性化させる」というシリーズの目標を掲げた。そして,それを実現させるためには「国内海外双方に向けた製品であること」と「(海外の)TPS/FPSの市場と互角に渡り合える,新しいフライトシューティングゲームを創出する」ことが必要不可欠であると述べた。

 しかし,開発中は「スタッフ間で完成イメージの共有ができていない」「そもそも実現手法が見えていない」といった数々の問題に直面。数枚の企画書だけで,机上の空論になりかけていた時期もあったという。

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 そこで導入されたのが「PREVIS」(プレビジュアライゼーション)によるワークフローだ。糸見氏によると,PREVISとは「初期段階で,必要な制作工程/問題点を洗い出し,スタッフ間で最終イメージの共有を図り,さらに実制作の作業効率を上げるために制作された簡易イメージ映像(または画像)」とのことだという。

 PREVISを導入した後と導入する前では,作業の進行に大きな変化が生まれたと糸見氏は話す。必要な工数や問題点を理解しているので,実装段階においても制作がスムーズに進められることや,演出担当とデザイナーでコンセプトの共有が行われているため,実作業においても意見の食い違うことがなくなったことがとくに大きなメリットだという。
 こうした大規模なゲーム開発の場合,スタッフ間でイメージを共有することが,いかに大切かということを再認識させられる。

PREVISで作られた,開発初期のゲームのイメージCG映像
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 先に糸見氏が述べたように,エースコンバットフランチャイズを再活性化させるためには,シリーズを世界中で成功させることが必要不可欠だ。そのためには,前提としてそれぞれの国の嗜好などを理解しておく必要がある。
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 そして,「その国のことは,その国の人に聞かないと分からない」という糸見氏は,海外作家/海外スタジオとの共同制作を積極的に行ったと話す。

 その一環として行われたのが,社内のアメリカ人プロデューサーを「グローバル開発プロデューサー」として起用し,キャラクタービジュアルや,シナリオのスーパーバイザーを担当してもらうことだ。さらに,海外作家や海外スタジオとのコラボレーションも積極的に展開。アメリカの軍事小説家,Jim DeFelice氏に軍事アドバイザーとして参加してもらい,共同でシナリオ制作を行った。

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 キャラクターデザインは,北米のMassive Blackに依頼し,さらに,さまざまなゲームタイトルのアートを担当しているJustin“Coro”Kaufman氏をアートディレクション担当として迎え入れた。モーションキャプチャーも,SOUNDELUX,Perspective Studioなどの協力を得て,ロサンゼルスで行い,演出監督に,数々の優秀な作品で実績を残しているKris Zimmerman氏とGordon Hunt氏が起用した。
 このように,積極的に海外のトップクリエイターに参加を呼びかけた結果,国内のスタッフだけでは気づかないような細かな部分にもフォローが入れられ,作品のクオリティアップにつながっていったという。

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 ちなみにモーションキャプチャーの収録は,事前に用意したPREVISの映像を確認しながら進められた。実際の収録では,糸見氏がジョークに対して相手の頭を叩いた(漫才でいうところのツッコミ)ところ,「我々はそういうことはしない」と言われたという。文化の違いは,微妙なモノだ。

 最後に,再び登壇した菅野氏が以下のようなメッセージでセッションを締めくくった。
 「アサルト・ホライゾンはもうすぐ制作が終わるのですが,開発中はシリーズの約束事に引っぱられていました。それを突破するのは,とても覚悟がいることです。これからこの世界に踏み込む人には,覚悟を決めてほしいと思います。
 お客さんが期待しているのは,前と同じ体験ではありません。開発では『どう変えるか』かという考えに陥りがりですが,本当に大切なのは『どのような製品なのか』ということをハッキリさせることだと思います。今回は20代の若い開発者が大活躍しました。20代の常識に捕らわれない発想力は,30代40代の開発者にとって憧れです。僕も含めてですが,ベテランの開発者はどんどん若いスタッフに仕事をわたして,組織の力を上げていってほしいですね」
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