インタビュー
ブラウザゲームとMMOの2本立てもアリか? 電撃発表されたオンライン版「ファントム・ブレイブ」について,キーマン2人に話を聞いてみた
コンソールゲームの「ファントム・ブレイブ」は,2004年にPlayStation 2向け,2009年3月にWii向けにリリースされ,今年の10月下旬にはPSP版がリリースされる予定のシミュレーションRPGである。これまで出た作品はすべて純粋なシングルプレイ用のゲームだったので,これがオンラインゲームメーカーのガマニアと手を組むことで,いったいどのような形になるのか,気になっている人も多いのではないだろうか。
今回はその辺りを探るべく,TGS2010のプレスカンファレンス後にインタビューを行ってきた。対応して頂いたのは,ガマニアの代表取締役社長兼COOの浅井 清氏と,日本一ソフトウェアの代表取締役社長の新川宗平氏のお二人だ。
本日はお忙しい中対応していただき,ありがとうございます。
プレスカンファレンスでの発表を拝見しましたが,率直に言って,驚きました。
ガマニアデジタルエンターテインメント 代表取締役社長兼COO 浅井 清氏(以下,浅井氏):
今は,ようやく発表できるときがきたんだな,という思いでいっぱいですね。
日本一ソフトウェア 代表取締役社長 新川 宗平氏(以下,新川氏):
我々はこれまでずっと,コンシューマゲーム業界で食べてきたメーカーです。そういったこともあり,オンラインゲームの業界に対しては,なんとなく距離感のようなものがありました。ゲームコンセプトやキャラクターの作り方をはじめ,きっと何から何まで違うんだろうなぁ……,という漠然とした不安があったんです。
4Gamer:
なるほど。
新川氏:
そういった気持ちを長く抱いてきた中,ガマニアの浅井さんと知り合いました。彼と話していくうちに,オンラインゲーム業界のことが少しずつ分かってきたのと同時に,ガマニアという会社にとても親近感が湧いてきました。
というのも,我々は常日頃から,世界観やキャラクターにはとくに力を入れているのですが,そのポリシーがガマニアとぴったり一致したんです。今回のプロジェクトではそういった相乗効果に期待しています。
4Gamer:
お二人が出会ったのは,いつ頃なのでしょうか。
浅井氏:
初めて新川さんと出会ったのは4年前くらい前ですね。日本一ソフトウェアはコンソールで大きな実績を築き上げてきたメーカーですし,私自身も元々はコンソール畑の出身ということで,たびたび親交を深めさせていただきました。オンラインゲームについても「いつか一緒にやれたらいいよね」と話してきたのですが,今回のプロジェクトに関して具体的に検討し始めたのは,今年に入ってからになります。
4Gamer:
4年前というと2006年ですか。そういえば2006年の東京ゲームショウでも,ガマニアさんが大々的にブース出展されていたのを思い出しました。
浅井氏:
それはまた懐かしい話ですね(笑)。
当時出展していたタイトルは,台湾のガマニア本社が作ったコンテンツが中心でした。しかし今年は台湾だけじゃなく,日本や上海で作っているコンテンツも出展でき,当時と比べると運営メーカーとしての幅を広げることができたと実感しています。
4Gamer:
今年は「Langrisser Schwarz」もプレイアブル出展されてますしね。
浅井氏:
実をいうと,2006年頃から,日本のメーカーさんのIPとの提携は積極的に考えていました。「ファントム・ブレイブ」に関しても,前々から暖めてきたプロジェクトが,ようやく具体化して発表できるタイミングになってきたわけです。
新川氏:
お互い「やりましょうよ」と言い始めてから,動き出すまでに随分時間が掛かってしまいました。「オンライン化してどうする?」「これならやれるんじゃないの?」といった方向性を煮詰めるのが大変でした。
4Gamer:
Langrisser Schwarzもそうですが,日本国内のIPと協業するうえで,とくに気をつけている点などはありますか。
浅井氏:
ファントム・ブレイブはオリジナル作品がしっかりと出来上がっており,ユーザーさんからも高い評価を得ている作品です。今回オンラインゲーム化するうえで,そういった評価が下がるようなことは絶対にしてはならない,というプレッシャーは強く感じています。それを大前提としたうえで,日本のコンテンツを世界へと発信し,世界中のユーザーに受け入れられたいと考えています。
オンライン化される「ファントム・ブレイブ」はどんなゲームになるのか
4Gamer:
今回の発表で初めて知るという読者に向けて,ファントム・ブレイブの魅力をあらためて教えていただけますでしょうか。
ファントム・ブレイブの魅力を大きく分けると二つあります。一つは世界観やストーリーで,背景やグラフィックスなど,ゲーム全体から伝わってくる“空気感”のようなものを大切にしています。また,ストーリーに関しても,可哀相な境遇の女の子が頑張って世間に認められていくプロセスが描かれており,世界名作劇場っぽい雰囲気があります。
もう一つはゲーム性ですね。いま説明したような世界観とは相反する,自由度の高いシステムを数多く採用しています。霊を実体化させて戦闘に参加させる“コンファイン&リムーブ”や,マップ内にあるあらゆるものを持って投げたりと,仮に「できるかな?」と考えたときにそれができる驚きを実現しています。
4Gamer:
そのファントム・ブレイブが,オンラインゲームでどのように変わるかが気になるところです。現在の開発状況はどのようになっているのでしょうか。
浅井氏:
今はまだ,開発中のグラフィックスとか,コンセプトアートなどをお見せできる段階ではないですね。
4Gamer:
開発前の企画段階といったところなのでしょうか。
ただ一つ言えるのは,コンソール版のファントム・ブレイブを,そのままオンライン版にする気はありません。それなら,日本一ソフトウェアさんが出せばいいわけですし。これまでずっとオンラインゲームを作ってきたガマニアが関わるのですから,オンラインならではの仕掛けをたくさん盛り込んでいきますよ。
4Gamer:
開発作業はガマニアだけで行うのですか。
新川氏:
弊社はライセンスを供給し,ゲーム部分に関しては全面監修という形で関わらせていただきます。
4Gamer:
ちなみに,開発スタジオはどちらで行うのでしょうか?
浅井氏:
日本・台湾含めて,現在検討中です。
4Gamer:
それでは大枠のあたりを伺っていきますが,ファントム・ブレイブのようなIPをオンラインゲーム化する場合,残すべき部分と加えるべき部分について,どのようにお考えでしょうか。
ファントム・ブレイブの完成度はとても高く,ユーザーからもご好評をいただいています。ですが,やりこみ要素なども含め,若干コアユーザー寄りの印象がありますね。
今の時代はよいモノが売れるとは限らないわけで,オンラインゲーム化するのであれば,元の素材を生かすのは当然として,ライト層でも遊べるように間口を広げる必要があると感じています。
4Gamer:
なるほど。
浅井氏:
なので「ファントム・ブレイブ」のオンラインゲームは,まず1本目をブラウザゲームとして検討しています。また,ブラウザゲーム版の後になりますが,従来のサーバー/クライアント型も検討しています。
4Gamer:
そうきましたか。ブラウザゲームになった場合,ゲームジャンルはどういった形になるのでしょうか。
浅井氏:
私の頭の中では,ある程度固まってはいるのですが,今はまだお話しできる段階ではないですね。
4Gamer:
ブラウザ上で動かす場合,仮に非同期タイプだったりすると,元々のファントム・ブレイブの戦闘システムを大きく変えなければならないと思うのですが,その辺りはいかがでしょうか。
浅井氏:
我々は元々あったファントム・ブレイブのシステムを丸々入れればいいという風には考えていません。現代のオンラインゲームとして相応しい形にシステムを変える必要があるでしょうし,そのプロセスで切ったり,広げたりする部分はたくさんあるでしょう。
結果として大きく手を加えることになりますが,それでも最終的に従来のユーザーから見て「あ,これはファントム・ブレイブだ」と感じていただけるものを作る。これが今の目標ですね。
4Gamer:
話を聞いていると,基本的なゲームジャンルから大きく変わるような印象を受けますね。極端な話,マイキャラの操作すらせずに,都市育成タイプになったりとか。
浅井氏:
その可能性もあるかもしれませんね(笑)。
我々としては,ファントム・ブレイブだからといってシミュレーションRPGでなければならない,といった拘りはありません。オンラインゲーム化するにあたり,オンラインゲームなりの料理の仕方があるでしょうし,そのシェフとしての腕を見込んだからこそ,弊社はガマニアと手を組んだわけです。
4Gamer:
現在はまだ開発作業を行っているのではなく,その前の企画検討といった段階なのでしょうか。
浅井氏:
両社にとって新しいチャレンジであるので,慎重に作業を進めています。時期がくれば,詳しいお話ができると思いますので,いましばらくお待ちいただければと。
新川氏:
とりあえず「大きく変わります!」ということだけは,宣言しておいたほうがいいかもしれませんね。
浅井氏:
ファントム・ブレイブという素材をベースに,料理を作り直しているイメージでしょうか。
4Gamer:
サービス開始時期は,いつ頃を予定されていますか?
浅井氏:
今のところ2011年の後半には,なんらかの形で遊べるようにしたいですね。
4Gamer:
ブラウザゲーム版の後に予定されている,クライアント/サーバー版についてはいかがでしょうか。
浅井氏:
現時点では具体的に話が動いているというわけではありません。実は台湾の開発スタッフの中に,昔からファントム・ブレイブが大好きなメンバーが何人いるんですが。彼らが「MMORPGで作りたい!」と息巻いていたりします。こういったところから企画が動き始めることもあるので,可能性はゼロではないですね。
新川氏:
それは嬉しい話ですね(笑)。
日本のIPを世界に問うガマニアの国内タイトル開発戦略
4Gamer:
ガマニアは他社のIPと組むことが増えていますが,その際になにかポリシーのようなものはありますか。
タイトルだけとか,ガワだけ乗せ変えたらいいやとか,安直な展開は行いたくないです。せっかくファントム・ブレイブという立派なIPと組むのですから,世界観とかストーリーだけ持ってきたとかではなく,そこにちゃんとした意味がないとOKは出しません。
新川氏:
私も同感です。ほかのIPでもよいような企画なら,弊社もライセンス供給しなかったでしょう。
4Gamer:
オンラインゲーム化にあたり,新川さんのほうからはどのようなオーダーを出したのでしょうか?
新川氏:
基本的に“餅は餅屋”で,苦手なところはお任せしています。ただし,最終的に「日本一ソフトウェアと組んだからこそ,こういうことができた」「ファントム・ブレイブを使ったからこそ,こういうことができた」といった意味を打ち出していきたいですね。
4Gamer:
ビジネスモデルはどのようになっていますか。
浅井氏:
今まで弊社のタイトルとは,大きく外れないものになるでしょう。
正直申し上げて,ゲームのイメージがなかなか掴めず,どういった切り口で質問すればいいのか悩んでしまいます。
浅井氏:
それはある意味,「してやったり」といった気分ですね。まだ,具体的なところは掴めないでほしい,という思いで今日は来ましたので(笑)。
4Gamer:
それなら切り口を変えてみますが,浅井さんはブラウザゲームの市場に対して,どのような見解を持たれていますか?
浅井氏:
二つの側面で考えています。一つは,日本人のライフスタイルにとってマッチしているゲームであること。短時間で遊べて,プレイする環境も選びませんし,時代にも即していると思います。
それともう一つは,ブラウザゲームということで描画処理やスペックなどさまざまな制約があることが,とても魅力的に映っています。なぜかというと,限られた環境でいかにして面白いモノを作るのかと考えたら,ゲームデザインを工夫せざるをえないからです。それって,ゲームの本質だと思うんですよね。もちろん,ハイスペック化やゲームのボリュームの大きさを否定する気はないのですが。
4Gamer:
開発系出身の浅井さんらしい見解ですね。
浅井氏:
「トラビアン」をプレイした際は,本当に目からウロコでしたよ。オンラインゲームがまだまだ新しい遊び方が生まれる可能性があるフィールドだ,というのを実感できたのは,非常に励みになりましたね。
4Gamer:
ちなみに,新川さんは,PCゲームとかブラウザゲームとかで遊ばれるのですか?
新川氏:
いいえ,全然やりません(笑)。
4Gamer:
自社のIPを,別業界といってもいい他社に託すというのは,どういった気持ちなのでしょうか。
いわれてみれば,他社さんに自社のIPを全部預けるのは,会社を設立してから今回が初めてですね。タイトルの移植にしても,これまでは社内でやるか,あるいは関連会社でないとソースを渡さないという方針でしたし。ゲーム内容ではチャレンジする会社ですが,コンテンツを守るという意味では,保守的な会社だったかもしれません。
4Gamer:
その割に今回のプロジェクトでは,ゲームシステムが根底から変わっても構わないと,だいぶ太っ腹にも見えますが。
新川氏:
そこは私と浅井さんとで,経営理念やゲームに対する見方とかが,“同じ方向を向いている”から,安心しているのだと思います。逆に,そこが納得できなければ,今回のプロジェクトも成立しなかったでしょう。
4Gamer:
両社が協業するにあたり,ファントム・ブレイブ以外のIPで行う可能性はありましたか?
新川氏:
ほかのIPもテーブルに載せましたね。最もオンラインゲームに適するのは何かと考えた結果,ファントム・ブレイブを選びました。
4Gamer:
10月には,ファントム・ブレイブのPSP版がリリースされます。コンシューマ版とオンライン版とでの連携は検討していますか?
新川氏:
それに関しては,リリーススケジュールには余裕があるので,現在前向きに企画しているところです。弊社のタイトルは,一つのコンテンツを出したときに,別のタイトルからキャラクターがゲスト出演といった展開をよく行うんですが。これを今回のプロジェクトで実現できたら面白いんじゃないかな,と。
4Gamer:
IPが異なると社内的にもいろいろありそうですが,その辺りは大丈夫なのでしょうか。
新川氏:
大手メーカーだと結構ありえない展開だと思うのですが,その点弊社は一度世界観を作ってしまったあとは,割と何でもアリな展開が多いです。直近にリリースされる別タイトルから,キャラが遊びにきたりとか面白いよね,とか。
4Gamer:
実現できれば素敵ですね。オンライン版で初めて知った人が,オフライン版に興味を持つきっかけにもなりますし。
それでは,最後にお二方から読者にそれぞれメッセージをお願いします。
今回,日本一ソフトウェアさんとガマニアがタッグを組むということで,楽しみな人もいれば,不安だという人もいると思います。しかし日本一ソフトウェアさんがこだわりを持って「ファントム・ブレイブ」を作ったように,弊社もこれまでこだわりを持ってオンラインゲーム業界で頑張ってきています。なのでオンラインゲームならではのファントム・ブレイブをお見せできれば,と考えています。
今日の段階ではあまり多くの情報をお伝えできなくて恐縮なのですが,続報を楽しみに待っていただければと思います。よろしくお願いします。
新川氏:
今回はガマニアさんとご縁があって,一緒にプロジェクトをやらせていただくことになりました。せっかくファントム・ブレイブという素材を使っていただくからには,それだけの意味を打ち出していく必要がありますし,それが出来ると考えたからこそプロジェクトの成立に至りました。
オンラインゲーム版のファントム・ブレイブでは,従来のファンだけでなく,これまで知らなかった人も含め,新しいゲームとしての驚きを提供できればと考えています。ぜひ,ご期待ください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
(2010年9月16日収録)
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