インタビュー
「サガ3時空の覇者」は,リメイクによって本当の意味で「サガ」シリーズ作に。NDSで表現される「サガ」らしさとは? 開発者インタビューを掲載
シリーズかつてない,懇切丁寧なチュートリアル
4Gamer:
ところで,本作はストーリー本編にちゃんと沿っていけば,比較的迷うことなく進められますよね。これは,従来のレベル制のRPGに慣れている,新規のプレイヤーを意識したものですか。
そうですね。初心者には,やはりサガ独自のルールって少々わかりにくい部分があると思います。ですので,今回はチュートリアルをしっかりと入れるようにしました。シリーズ中で,もっとも細かく説明しているサガになっていると思います。
河津氏:
昔のゲームは,あまり説明がありませんでしたね。そもそも,ROMの容量にそんな余裕もありませんでしたけど。
4Gamer:
たしかに,ゲームボーイの頃は,1バイトを入れるか,削るかでせめぎ合っていたのではと思います。
三浦氏:
もっとも,自分でいろいろと試して,こんなこともあるのかと発見していく楽しさも絶対にあると思います。ですがサガ2GODでは,ほかのRPGとは違ったシステムが原因で,よく理解できずにいた人が少なくなかったので,今回は細かく説明することにしました。
乙女スライムのチュートリアルが,もの凄く細かいのでびっくりしました(笑)。でも,改めてチュートリアルを見ていると,忘れていたこともありましたし,そうなのかと今になって新しい発見があったりもするんですよ。
三浦氏:
やはり新規プレイヤーの方に,理解できる前に投げ出してほしくはないですからね。もちろん,シリーズファンの方にとっても,サガというゲームを再確認するいい機会だと思います。
繰り返し遊べるサガシリーズに秘められた裏話
4Gamer:
先ほど,サガ3Solは爽快感よりも,戦略的なバトルを選択したと話していましたが,連携もしやすくてバトルのテンポはむしろ良いと感じます。これに加えて,何を覚えたのかが楽しみになる技の“閃き”(サガ3Solでは“習得”)だったり,サガシリーズはこういった,戦闘を楽しくする要素を大切にしていますよね。
そうですね。RPGは,戦闘結果のご褒美としてシナリオの続きが見えたり,謎を解いたあとに面白い戦闘があったりというのを,繰り返していくものですから,戦闘の楽しさはとても重要だと思っています。戦うのが苦痛だと続けるのが辛いですからね。もっとも,別の意味で辛いことはあると思いますけど(笑)。
4Gamer:
どうやっても倒せなくなったり(笑)。とはいえ,ギリギリの戦いだからこそ,面白かったりします。
河津氏:
「サガ」シリーズは,あといくつレベルが上がると,確実にその敵を倒せるというようにはしていません。うまく新しい技を修得したり,たまたま良い肉が手に入って強くなったりして,次こそは倒せるかも? というのはあっても,いつ倒せるかは保障されていないんですよ。だからこそ,プレイヤーは工夫が必要ですし,根性も必要になります。
4Gamer:
ただレベルを上げる,つまり時間を掛ければ進められるというものには,したくなかったということですか?
河津氏:
予定調和的に倒せるのが分かっていて,このボスを倒すにはあと100回,ここの敵を倒せば良いというのは,もうゲームではなくて作業です。それは自分でもやりたくないし,やってほしくもありません。そうなってしまう誘導は,作り方として良くないと考えています。
4Gamer:
河津さんは,RPGとはそうあるべきだと考えているわけですか?
河津氏:
いえ,“「サガ」シリーズはこうあるべき”でしょうね。もちろん,ほかのゲームだったり,テーマが違えば遊び方は変わってくるものでしょう。成長要素が必ずしもゲーム性なのではなく,作品によっては,ストーリーであったり,ほかに力を注いでいる部分があります。そうであれば,成長要素はそれなりのものにするなど,結局は作品のバランスになるでしょうね。
でも,私が制作するのであれば,RPGはプレイヤーキャラクターの成長が,一番うれしい見返りですから,成長要素は自分自身も楽しめる,いろいろと凝った作りになると思います。
4Gamer:
分かりました。ところで,同じ成長要素というところで,サガ3Solは,成長の過程でいろいろな種族のキャラクターになれますよね。
河津氏:
僕の観点からすると,ゲームボーイ版のサガ3は種族がちょっと多くて,成長要素も複雑になるので,もっとシンプルで良いと感じていたんです。
ですが,リメイクにあたって,オリジナルから減らすわけにもいかないですよね。逆に最初の企画では,もっと増やしましょうなんて意見もあったくらいです(笑)。
4Gamer:
まだ種族が増える可能性があったんですね。今の種族の数でも,一回のプレイじゃ遊びきれないという印象が強いくらいなのに。
河津氏:
そこは,ぜひ繰り返し遊んでいただければと思います。もともと,ゲームボーイ版のときから,何度も遊んでもらうことを前提に作っているんですよ。当時ほど短い時間では終わりませんが,本作ももちろんそうです。でも,据え置き機のRPGのように,長時間かかるわけでもないので,1回クリアした後は,持ち歩いてもらって,気の向いたときに遊んでもらえればと思ってます。
4Gamer:
「ロマンシング サ・ガ」」シリーズ以降は,選択する主人公が複数いることもあって,「サガ」シリーズは繰り返し遊ぶ作品という印象もありますよね。
河津氏:
実は「ロマンシング サ・ガ」って,当初は何度も遊ぶことを意図はしていなかったんですよ。
4Gamer:
え,そうだったんですか。
ただ「いろいろな主人公がいて,選択できるほうが良いでしょう」という意味で用意したので,必ずしも主人公の数だけ,何度も遊んでくださいということではありませんでした。
でも,ロマンシング サ・ガは比較的ルールが複雑なので,1回目よりも,ゲームが理解できたあとの2回目の方が面白いとは思います。ですので,全員とはいかなくても,2〜3人のキャラクターで遊んでもらうのが最適でしょうね。それは「サガ3Sol」でも同じで,2回目のプレイでは,1回目で仕組みを理解して,違った遊び方を模索することが楽しくなると思います。
4Gamer:
2回目と言っても,前にプレイしたことをなぞるのではなくて,どう進めるかを悩める自由度の高さが魅力ですね。
河津氏:
やはりプレイヤーが自由に遊べるものがゲームだと思います。せっかくコンピュータを使ってゲームをやっているわけですから,誰がやっても同じ道を辿るといった必要がない自由度があったほうが面白いですよ。
4Gamer:
コンシューマ作品の「ロマンシング サ・ガ」シリーズは繰り返してプレイする意図はなかったとのことですが,一方の「サガ」シリーズを,繰り返しプレイ前提で制作したのは,やはり携帯ゲーム機だからということが大きかったのでしょうか。
三浦氏:
そうですね。当時のゲームボーイ版の話を聞くと,その気持ちが強かったみたいです。クリアまで約8時間くらいなんですが,これは海外へ飛行機で出かけるあいだに,ゲームがクリアできるくらいのボリュームにしておいて,何度でも遊べるようにしようと考えて作られていたんですよ。
河津氏:
まあ,ROMの容量の都合で,それくらいの時間までしか,引っ張れないというのもありました(笑)。
一同:(笑)。
河津氏:
それに携帯ゲーム機ですから,クリアするまでに何度も(ゲームボーイの)電池を入れ替えるのも,どうなのかと思いますよね。
ですから,ある程度の時間でクリアできて,その後に「ああ,あそこはもう少しこうしたかったな」と思い,電池を替えて始めから遊んでもらえる。そんなゲームになれば良いなという設計にしていました。
「サガ3」をサガシリーズの一つにしたいという想い。そして,今後サガシリーズはどうなっていく?
今回の話を聞いていても思うんですが,「サガらしいゲームってサガだけ」だよねという印象を持てますよね。なんというか,ほかではあり得ないような要素というのか。サガ3Solでも,ヒロインの女の子がモンスターに変化して,そのままイベントに入れたりしますし。
三浦氏:
そのときの組み合わせによっては,結構ショッキングなシーンになったりしますね。ですが,ありがたい話で,ほかではあり得ないことでも,サガだから許容してもらえるというか。これは,20年というシリーズの歩みであり,ファンの思いだと思います。
河津氏:
シリーズという意味では,「サガ3」という作品をきちんとシリーズ中の一作と位置づけたいと,ずっと思っていたんです。システムがまったく違うので,無茶な要求だと思っていましたが,スタッフにお願いしてみたところ,良い感じで「サガ」ができていたことに感謝してます。
4Gamer:
たしかに,サガ3はシリーズでは異端児的な作品という認識になっています。河津さんは,それが心残りだったわけですね。
河津氏:
ええ。同じ名前が付いているのに,「サガ3」だけ別扱いされているというのは,非常に気になっていました。
4Gamer:
今回の「サガ3」リメイクの完成で,ようやくサガというシリーズが一つに繋がったのかもしれませんね。ところで,「サガ」シリーズは,しばらくリメイクが続きましたね。
河津氏:
そうですね。これで一通りのリメイクはできたと思います。
4Gamer:
そうすると,期待したくなるのが最新作です。2010年の年末に4Gamerに掲載した「ゲームクリエイターのコメント集」で,“「ロマンシング サガ 4」を死ぬ前に作るのが義務”と回答されていました。これは大きな反響があり,かなり期待されていると感じたのですが。
最新作については,現状はなかなか難しいので,今後「やれれば」というところです。ですが,どこかで言っておかないと,なかなか実行できないですからね(笑)。言ったからにはやらなければいけないと,自分を追い込んでおく必要があると思ったので,あの回答をさせてもらいました。
でも,同じ会社の人にまで「いつやるんですか?」とか言われたりするんですよね(笑)。
4Gamer:
内外問わず期待されてますね(笑)。ちなみに,「サガ」シリーズとしては,これからも,まだまだ続けていきたいと考えていますか?
河津氏:
正直,「わからない」が答えですね。どうしても「サガ」として制作を始めると,そのタイトルありきで制作することになります。自分としては,そうした制限を付けてゲームデザインはするべきじゃないと思っています。ただ,「ロマンシング サガ 4」についてはあえて,作ろうと考えていると明言しておくことは,意味があると考えました。
どちらにしても先ほど話したように,リメイクするものは一通りやりましたから,次になにかをやるとしたら新作という時期にはきていると思っています。
「サガ」シリーズの次回作があるなら,僕もぜひやりたいですね。ずっと関わってきてたシリーズですし,その中でこういうサガも作ってみたいというアイデアもありますので。
4Gamer:
一ファンとして新作の発表を期待してます。ところで,仮に「サガ4」というものが世に出るとすれば,それはやはり携帯ゲーム機になるのでしょうか?
河津氏:
「ロマンシング サガ」ではなく,「サガ」ということであれば,携帯機,あるいはスマートフォンという形がいいのかもしれませんね。サガは,そうした携帯ハードのほうがイメージに合うでしょう。
据え置き機で作ったとして……,バリバリバリ! と,モンスターにリアルに変身するようなものは,プレイヤーも望んでいないと思いますから(笑)。
4Gamer:
ちょっと見てみたい気もしますが,表現の仕方は変わってくるでしょうね(笑)。それでは,最後に4Gamer読者にコメントをお願いします。
三浦氏:
サガ3Solは,プレイしていただいたプレイヤーさんに好評ですので,まだプレイしていない人はぜひ遊んでみてください。
河津氏:
ちょうどニンテンドー3DSの発売が近いですね。3DSはDSのソフトも遊べますので,3繋がりでぜひ一緒に遊んでいただければ(笑)。そして,みなさんの声を聞かせてもらえればと思っています。
4Gamer:
1人のサガファンとしては,その反響がぜひシリーズ次回作への活力になってくれればと思います(笑)。
河津氏:
そうですね(笑)。みなさん,よろしくお願いします!
4Gamer:
本日はありがとうございました。
今回のインタビューを通してあらめて感じたのは,「サガ」シリーズの面白さの根底にあるのは,とにかく自由であるということだろう。クリアできるかどうかは別として,こっちに進みたいと思えば,ちゃんと進める。ときには行き詰まることもあるが,自分の考えどおりに行動できることは,気持ちが良いものだ。読者の中には,インタビューを読んでいて「そうそう,サガってそうなんだよね」と,遊んでいたときの面白さを思いだした人もいるだろう。そんな面白さが,サガ3Solにもちゃんと存在しているのである。
何がこれほどファンを惹きつけてやまないのか。これまでシリーズに触れたことのない人は,今からでも本作をきっかけに,「サガ」シリーズの魅力に触れてほしい。最初は一般的なRPGとの違いで戸惑うかも知れないが,少し遊んでみれば,それを知ることができるだろう。
また,2010年末に河津氏が発言した,「ロマンシング サガ 4」の件については決意表明的なものだったようだが,インタビューでの河津氏の言葉からは,シリーズ最新作への強い意志が感じられた。新しい「サガ」を待ち望んでいる1人として,最新作の制作をぜひ,実現してほしいところだ。
「サガ3時空の覇者 Shadow or Light」公式サイト
- 関連タイトル:
サガ3時空の覇者 Shadow or Light
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