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世界初のCore Ultra搭載携帯型ゲームPC「MSI Claw A1M」をチェック。性能だけでなくゲームパッドや放熱にも見どころあり!
そんな数あるCore Ultra採用製品の中で,一際異彩を放っているマシンがあった。それが,Intelの全面協力を受けてMSIが開発した携帯型ゲームPC「Claw」(型番:A1M)だ。
携帯型ゲームPCは,もともとAMDのRyzenシリーズを搭載した製品が中心で,しかも,どちらかと言えば新興メーカー製のものが多かった。しかし,2023年に発表となった「ROG ALLY」や「Lenovo Legion Go」は,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)やLenovoといった大手PCメーカーが開発したことや,AMDが携帯型ゲームPC向けに開発したAPU「Ryzen Z1」シリーズを採用していたことで,注目を集めた。
基本スペックをチェック
Clawの搭載CPUは2種類あり
先述したように,ClawのCPUはIntelのCore Ultraプロセッサであるが,上位モデルは「Core Ultra 7 155H」を,下位モデルには「Core Ultra 5 125H」を採用するとのこと。
製品ラインナップとしては,CPU 2種類の違いだけでなく,プリインストールのWindows 11のエディション(Windows 11 Homeか同Proか)や,内蔵SSDの容量といった組み合わせにより,いくつかの製品バリエーションが用意される。
ちなみに内蔵SSDは,PCI Express 4.0 x4接続タイプのM.2 SSD(サイズは2230型)を採用しており,最大容量は1TBとなる見込みだ。価格は,最も安価なモデルで699ドル(約10万1300円前後)を考えているとのこと。発売時期は第1四半期の予定だ。
画面輝度は500nitと,携帯型ゲームPCとしてはかなり明るめだ。HDR対応については「不明」(MSIの担当者談)とのことだが,携帯機でこの明るさであれば,高確率で対応しているのではないか。ちなみに,sRGBの色空間カバー率は100%であるという。
無線LAN機能は,Wi-Fi 6Eにまで対応する。Wi-Fi 7対応についてはオプション扱いだそうだ。
内蔵バッテリーは,携帯型ゲームPCの中では最大クラスの53Whrを誇り,システムに最大負荷をかけた状態で,バッテリー駆動のみでゲームを2時間プレイできるとのこと。これについてMSIは,「競合機に対して1.5倍ほどバッテリー駆動時間が長い」とアピールしている。ただ,この手の携帯型ゲームPCは,長時間のプレイ時は給電しながら使うことが多いので,この点がどの程度,ファンの心に響くかは分からない。
アナログスティックとトリガボタンにホールセンサーを採用。ドリフト対策に抜かりなし?
Clawにはほかにも,携帯型ゲームPC好きに響きそうな点がある。
それはMSIが,Clawのアナログスティックに,ホールセンサー式(Hall Effect Sensor)のスイッチを採用したことだ。
競合の携帯型ゲームPCでは,ブラシ状の金属端子が物理的に接触するメカニズムで方向入力を検知するため,このブラシ端子が汚れたり,摩耗したり,あるいは変形すると,ユーザーが操作していないのに特定方向に入力が行われてしまう「ドリフト現象」に見舞われることになる。使い込んだNintendo Switchの「Joy-Con」で生じがちなドリフト現象は,まさにその典型だ。
ドリフト現象が起きにくいセンサーとして,最近,注目を集めているのが,電磁気学的なホール効果を応用して動作する非接触型のホールセンサーだ。MSI担当者によると,携帯型ゲームPCのファンコミュティの間で,ホールセンサー採用を望む声が多かったことから採用したそうだ。
Clawでは,ホールセンサーをアナログスティックだけでなく,トリガーボタンにも採用しているとのことである。
担当者も,「ホールセンサー部は非接触構造なので,Claw本体の製品保証は2年だが,多くの個体において,操作系のセンサー部は2年以上持つのではないか,と考えている」と,その長寿命に自信を持っていた。なお,万が一のアナログスティックの故障時は,ユーザーによる交換は行えず,修理対応となるという。
ゲームパッド部分にはユニークな機能として,ユーザーが持ったClawの前後左右上下の移動や回転方向を検出する6軸モーションセンサーを備えているとのこと。「Nintendo Switch Proコントローラー」のようなジャイロ操作にも対応しているわけだ。
携帯型ゲームPCとしての使いやすさと価値を高めた独自ソフト
Clawは,ゲームパッドを左右に割って,ディスプレイの左右にくっつけたSwitchスタイルの一般的なデザインとなっているが,両手で持ったときの握りやすさと,重心バランスについても,こだわりをもって設計したという。
実際,筆者は実機でゲームをプレイしたが,2本のアナログスティックやD-Pad(十字ボタン),[A/B/X/Y]ボタンは,慣れ親しんだゲーム機のゲームパッドに近い配置と感触で違和感はない。なによりも,ショルダー側のトリガーボタンやショルダーボタンが,押しやすいように感じた。
Clawには底面ボタンも実装されているが,こちらも押しやすかったように思う。
ゲームパッドでは定番の[START]や[SELECT]ボタンのほかに,[MSI]ボタンと[Quick]ボタンがあるのも,Clawの特徴とのこと。
[MSI]ボタンを押すと,MSI独自のClaw用ホームアプリ「MSI Center M」が起動する。ClawはWindows11搭載PCだが,単体ではキーボードやマウスが使えない。MSI Center Mは,ゲームパッドの操作系だけで,Clawにインストールされているゲームをメニューから選んで起動したり,Clawの動作設定を呼び出したりできるフロントエンドソフトウェアというわけだ。
なお,この種のホームアプリは,キーボードを持たない携帯型ゲームPCでは必須なので,MSIだけの特徴ではない。
MSI Center Mから呼び出せる「設定画面」を,ゲームプレイ中に直接呼び出したいときに使うのが,[Quick]ボタンだ。
また,PC向けAndroidエミュレータ「BlueStacks」ベースのMSI版「MSI App Player」がプリインストールされているので,Androidゲームを簡単にClawで動かせるようになっているのも面白い。MSIは,この機能を「業界初」だと猛アピールしていた。
「microSDカードの熱破壊は,うちでは起きません」
Clawの開発において,MSIが最も重要視したテーマは,放熱設計だったという。
空冷ファンは,本体底面の左右に計2つ実装されており,底面の左右スリットから吸入したフレッシュエアは本体中央に導かれて,2本のヒートパイプに風が当たるようになっている。熱を奪った温風は,ユーザーとは逆方向の背面から排気される構造だ。
また,ユーザーが両手で握るグリップ周辺には,なるべく熱がこもらないようにと,本体内部のヒートシンクをこだわりのレイアウトで配置しているとのこと。タッチ対応の画面も,熱くならないように設計したそうだ。
そこで筆者は,「あの件」を思いだして,「microSDカードスロットは大丈夫なの?」と,ちょっとジョークっぽく質問してみた。MSI担当者もピンと来たようで,「そこはちゃんと工夫した。microSDカードが過熱することはない」と即答だった。
あの件とは,ASUSのROG ALLYで生じることのある問題で,放熱経路近くにmicroSDカードスロットがあったため,長時間プレイしていると挿入していたmicroSDカードが過熱してしまうこと。最悪の場合,microSDカードでアクセス不良が起きたり,カード自体が破損したりすることもあり,ユーザーコミュニティからASUSに対して対応を求める声が出ているのだ。携帯型ゲームPCは内蔵ストレージ容量が大きくない製品が多いので,追加のストレージとしてmicroSDカードを使うユーザーも多かったため,大きな問題となったようだ。
MSIは,ROG ALLYのmicroSDカードスロット過熱問題を対岸の火事とはせず,熱設計の確認をしたそうである。
ところで,携帯型ゲームPCのストレージについては,ユーザーによるSSDの交換を行えるのかが気になるところ。これについても質問したところ,「SSDについては基板直付けではなく,M.2スロットに接続している。分解した時点で,メーカー保証対象外となるが,交換は事実上可能である」ということだった。
Thunderbolt 4ポート搭載は見どころだが,USB Type-Cポートは1つだけ
インタフェース周りも見ていこう。
Clawは,電源ボタンにWindows Hello対応の指紋認証センサーを内蔵しているので,Windowsのログインやサスペンド状態から復帰などに,生体認証を簡単に利用できる。
入出力ポートとしてはUSB Type-C形状のThunderbolt 4ポートを,本体上側面に1ポート備えており,外付けGPUとの接続もサポートしているそうだ。ここもClawならではの特徴だと言えよう。
ただ,USB Type-CポートはThunderbolt 4の1基のみで,それ以外にUSBポートはない。HDMI出力やDisplayPort出力もClawにはない。これ以上の拡張性を求める場合は,汎用のThunderbolt 4ドックを活用するか,別売のMSI純正Claw専用ドックを組み合わせるしかないという割り切り具合だ。
Ryzen Z1以上,Ryzen Z1 Extreme未満くらいのGPU性能か
初のCore Ultra搭載携帯型ゲームPCとして面白そうなClawだが,実際にどのくらいの性能が有るのだろうか。
Core Ultraに統合されたGPUである「Intel Arc GPU」の理論性能値は,以下の式で計算できる。
- SIMD 8×XVE 16×Xeコア数×2 FLOPS(積和算)×動作クロック(Hz)
これで計算すると,Core Ultra 7 155H搭載モデルのグラフィックス性能は約4.6 TFLOPS。Core Ultra 5 125H搭載モデルで約3.9 TFLOPSといったところ。ノートPC向けの単体GPUで比較すると,AMDの「Radeon RX 6450M」(約3.8 TFLOPS)以上で,「GeForce RTX 2060」(約4.6 TFLOPS)に近い性能といったところか。
ちなみに,ROG ALLYやLenovo Goが搭載する「Ryzen Z1 Extreme」が約8.6 TFLOPS,ROG ALLYの下位モデルが備える「Ryzen Z1」が約2.8 TFLOPSなので,この間に入るくらいの性能がありそうだ。
個人的には,CPUとGPUで共有するメインメモリの容量が,LPDDR5 16GBで固定仕様というのが少し気にかかる。肥大化した最新バージョンのWindows 11でゲーム用途に使うとなると,32GBモデルを望むユーザーは,少なくないのではないかと思うのだが。
なおMSIでは,Clawに32GBモデルが欲しいかどうかのアンケートを公式Xアカウントで実施中だ。
日本での発売も調整中のClaw。発売が楽しみである
MSIのClaw製品情報ページ(英語)
MSI 公式Webサイト
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