レビュー
MSIが本気で取り組んできたゲーマー向けノートPCを検証する
GT660R
世界市場でも同様の流れにはあるようで,MSIは2010年3月のCeBIT 2010で,ゲーマー向けノートPC「GT660」の存在を公表。量産に向けた準備を進めていたのだが,8月24日,同社の日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパン(以下,MSI-J)から,「GT660R」(および「GX660」)として国内展開の発表があった。発売予定は9月4日だ。
これまでも国内に存在していなかったわけではない「MSIブランドのゲーマー向けノートPC」だが,本格展開されるのは今回が初めてと言ってしまってもおそらく間違ってはいないだろう。では,実際のところ,先行する各社のゲーム用ノートPCと戦えるだけのポテンシャルを持っているのか。今回は,GT660Rの特徴と,どの程度のゲームを快適にプレイできるのか,MSI-Jから入手した評価機をチェックしてみたいと思う。
15.6インチフルHD液晶パネルを搭載した筐体に
RAID 0構成のHDD,Dynaudio印のスピーカーを採用
GT660Rは,15.6インチ,実解像度1920×1080ドットの液晶パネルを採用する製品だ。キーボードは日本語配列で,10キー付き。ゲーマー向けモデルらしく,[W/A/S/D]キーには目立つ刻印があり,これが単なる飾りかと思いきや,慣れないノートPCでホームポジションを把握するうえでは意外と役に立ったりする。
気になる同時押し対応は,組み合わせ次第で2〜7キー(※修飾キー除く)といったところ。言ってしまえば,普通のノートPCと同じである。
なお,タッチパッドは一言でまとめると残念な完成度で,カーソルの移動すらおぼつかないこともあったが,15.6インチクラスのノートPCでゲームをプレイするのにマウスを差さないというのは考えられないので,大きな問題とはならないだろう。
GT660Rが内蔵するのは2.1chスピーカーシステムだが,筆者の主観になることを断ったうえで続けると,確かに通常のノートPC用スピーカーシステムとはまったく異なる音が鳴る。高域がカサカサするなど,必ずしも完璧とまではいえないが,ゲームの臨場感を高めるという用途では十分な音質を提供できている印象だ。この点でも,GT660Rはゲーム用途を謳うだけのことはあるといえる。
さらに,液晶パネルの解像度が1920×1080ドットと十分な広さがあること,回転数7200rpm,容量500GBの2.5インチHDD×2によるRAID 0構成になっていること,USB 3.0ポートを2基搭載している点も含め,日常的にPCを使っていくうえでボトルネックや不満の原因となる部分にメスが入っているのが,GT660Rの大きな特徴とまとめることができそうだ。
本体左側面にUSB 3.0×2,7 in 1カードリーダー,USB 2.0×1,カードスロットを搭載。右側面にはヘッドフォンやマイク入力を中心としたサウンド入出力とUSB×1,Blu-ray Disc読み出し対応のDVDスーパーマルチドライブを搭載する | |
本体背面には外部電源とアナログRGB出力用のD-Sub 15ピン,eSATA,HDMIの端子を用意。前面インタフェースはなく,すっきりしている |
i7-720QM&GTX 285Mを搭載。性能面では
自動OC機能「Turbo Drive Engine+」がキモに
クアッドコアCPUと高いモデルナンバーのGPUを搭載することもあり,ACアダプタはなかなか大きめ |
本体底面の温度はけっこう高くなる。可能なら別途ノートPC用クーラーを用意したいところ |
なお,「Enhanced Intel SpeedStep Technology」により,CPUがアイドル状態に入ると動作クロックは933MHzにまで下がる。
一方のGPUは「GeForce GTX 285M」。型番からはデスクトップPC向けのGeForce GTX 200シリーズと同じGT200コアを採用しているように感じられるが,実際は「GeForce 9800 GT」などと同じG92bコアを採用する製品だ。いずれにせよDirectX 10世代のGPUということになる。
そのほかGT660R評価機の主なスペックは表のとおりとなる。
また,数々の独自機能が盛り込まれ,キーボードの上部のタッチセンサーにオン/オフのスイッチが用意されているのも,GT660Rの特徴だ。
その1つが自動クロックアップ機能の「Turbo Drive Engine+」(以下,TDE+)である。従来のMSI製ノートPCは,一部に「Turbo Drive Engine」というCPUの自動クロックアップ機能が用意されていたのだが,TDE+ではCPUだけでなく,GPU動作クロックも引き上げられるようになった。しかも,いわゆる「オーバークロック」とは別の扱いで,MSIによる動作保証付きである。
タッチセンサー部の[Turbo]に触れるとTDE+が有効になる。なお,その右でファンのアイコンが光っているが,このように,有効時はタッチセンサー部のアイコンが光る | |
[Turbo]センサーに触れると,デスクトップ中央にオン/オフを示すアイコンが短時間表示される |
ただ,今回の評価機で,GPUクロックの変化は確認できなかった。TDE+が有効になると,プリインストールされた「NVIDIA OC」というユーティリティが起動し,これによりオーバークロック状態の有効/無効を設定できるようなのだが,どちらに設定しても,GPUの動作クロックは変わらなかったのである。より正確に言えば,GTX 285Mの定格クロックがコア576MHz,シェーダ1020MHz,メモリ1500MHz相当なのに対し,今回試した評価機ではコアだけ標準で630MHzになり,この状態から動いていない。製品版で改善が図られていることに期待したい。
「CPU-Z」(Version 1.55)実行結果。TDE+が有効になると,ベースクロックは140MHz程度にまで引き上げられた |
こちらは「GPU-Z」(Version 0.4.4)実行結果。TDE+の有効/無効にかかわらず,コアクロックのみ定格より高い |
Eco Engineの動作モード切り替えボタンは本体向かって右側。無線LANやBluetoothコントローラのオン/オフスイッチなどと並んでいる |
[Eco]センサーに触れるときにもアイコンが登場。どのモードで動作しているのか教えてくれる |
なかでもEco Engineは,「Gaming」「Movie」「Presentation」「Office」「Turbo Battery」というプリセットから順番に動作モードを切り替えるもので,例えばGamingモードだとCPUがアイドル状態に入らなくなるとか,Movieを選ぶとディスプレイの輝度が下がるとかいった,「Eco」の言葉から受けるイメージよりも広い概念に基づき,積極的な電力管理機能を提供してくれる。
また,パフォーマンスには直接関係ないものの,天板部と天板両側面,そして本体手前側左右両端にはオレンジ色のLEDが組み込まれており,「LED Management Utility」により,Windows上からオン/オフや,常時点灯,明滅,サウンドボリュームに合わせた明滅といった点灯方法も選択できるようになっている。光は露骨に派手過ぎたりしないので,これはこれでアリではなかろうか。
新旧ドライバでパフォーマンスを比較
TDE+の効果も確認
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション10.0準拠。ただし,搭載するGPUがG92bコアということを踏まえ,今回はDirectX 10&9世代の「3DMark06」(Build 1.2.0)「バイオハザード5」「Just Cause 2」の3タイトルを使うことにし,さらに「高負荷設定」は省略。一方,「FINAL FANTASY XIV」の公式ベンチマークソフト(以下,FFXIVベンチ)と「ストリートファイターIV」の公式ベンチマークソフト(以下,SFIVベンチ)を新たに追加している。
なお,今回入手した評価機でセットアップされていたグラフィックスドライバは「Verde Notebook Driver 189.45」で,Verdeドライバプログラムに対応していたため,今回はテスト時点における最新版,「Verde Notebook Driver 258.96」を適用した状態でもテストを行うことにした。さらに,その状態でTDE+によるクロックアップ設定時の検証も実施することにし,以下,本文,グラフ中とも,「GT660R[189.45]」「GT660R[258.96]」「GT660R[258.96/OC]」と書いて区別する。
ではまず,グラフ1に示した3DMark06のスコアから見ていくことにしよう。
GT660Rはグラフィックスドライバを最新のものに入れ替えることで若干ながらスコアが向上し,とくにGT660R[268.96/OC]はGT660R[189.45]に対して4〜5%高いレベルに達した。
続いてグラフ2は,3DMark06と同じくDirectX 9世代のタイトルとなるFFXIVベンチのテスト結果になる。テストに当たっては,8月7日に掲載したテストレポートとベンチマークソフト側の条件を揃えているが,LowモードでGT660R[258.96]のスコアが,スクウェア・エニックスが示す指標で言うところの「やや快適」に達している点は注目しておきたい。Lowモードで設定されている,1280×720ドット程度の解像度であれば,十分にプレイ可能なレベルにあると述べていいだろう。
DirectX 10世代のバイオハザード5におけるテスト結果がグラフ3となる。今回はベンチマークレギュレーション10.0の「エントリー設定」を用いたが,いずれも目安となる平均60fpsを上回っており,グラフィックス設定さえ適切に下げれば,最新世代のゲームエンジンを用いたタイトルでも,快適にプレイできることが分かる。
なお,今回のテスト条件においては,オーバークロックの恩恵がほとんど認められなかった。
グラフ4は,Just Cause 2における「低負荷設定」のスコアをまとめたもの。Just Cause 2で快適にプレイしたい場合は本テストで60fpsを超える必要があるのだが,GT660Rでは遠く及ばない。Just Cause 2クラスのタイトルを快適にプレイするには,もっと解像度を下げ,描画オプションをさらに引き下げる必要がありそうだ。
その一方,描画負荷の低いストIVベンチでは,すべてのグラフィックス設定を最高に設定した今回のテスト環境でも平均100fpsをゆうに超え,まったく問題のないスコアが得られている(グラフ5)。ただ,GT660[258.96/OC]は若干ながらスコアを落としており,オーバークロック設定が何か別のボトルネック要因を発生させている可能性が窺えよう。すべてのゲームにおいてTDE+が有利に働くわけではないという点は憶えておきたい。
ところで,そんなTDE+を使ってオーバークロックを行った場合,消費電力はどの程度上がるのか。今回はバッテリーユニットを外し,ACアダプタのみで動作しているGT660R[258.96/OC]とGT660R[258.96]について,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」から,システム全体の消費電力を計測することにした。
テストに当たっては,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
結果はグラフ6のとおり。描画負荷の低いストIVベンチを除くと,アプリケーション実行時の消費電力はGT660R[258.96/OC]がGT660R[258.96]より15W前後高い。これは全体の1割にも相当する数字だ。アイドル時も30W近く上がってしまっており,TDE+のデメリットは相応にあると言わざるを得まい。
もっとも,上で述べたように,TDE+は手元の[Turbo]スイッチでオン/オフを切り替えられる。ゲームをプレイするときに限って有効化するような使い方なら,デメリットは最小限に抑えられるだろう。
最後に,回転数7200rpmの2.5インチHDDを2台使ったRAID 0アレイのパフォーマンスもチェックしておきたい。
下に示したのは「CrystalDiskMark 3.0」(Version 3.0.0f)で,GT660Rのストレージ性能をチェックしたところ。ストレージを1台の2.5インチHDDでまかなう標準的なノートPCだと,どうしてもストレージ性能は低めで,OSやゲームアプリケーションの起動時にボトルネックとなり得るが,GT660Rではこの点で大きな改善がある。実際,体感でも,SSD搭載機ほどの速さは感じないにせよ,少なくとも遅すぎるといった印象はない。
デスクトップでいうところの「バランスに優れた
ミドルクラス機」。サウンド面の魅力も大きい
また,強くアピールされているサウンド周りが看板倒れになっておらず,十分に良好な音質を実現できているのも,使ってみるとかなりのメリットと感じた。いわゆるホワイトボックス系のゲーマー向けノートPCと比べて割高なので,そこはどうしても人を選んでしまうが,全体的な体感速度とサウンド面を重視する場合,GT660Rは悪くない選択肢だとまとめることができるだろう。
※2010年8月24日19:20追記
TDE+およびTDEの動作について,動作保証の範囲内であるという確証が得られたため,本文を一部アップデートしました。
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