ニュース
[GDC 2010]「メトロイド」「ワリオ」を手がける坂本賀勇氏 シリアスなゲームもコミカルなゲームも制作可能な創作の秘密とは?
メトロイドシリーズ,ワリオシリーズなどを手がけた開発者 坂本賀勇氏
講演の導入部で坂本氏は,まず自己紹介を行った。坂本氏は自分が欧米の開発者にとって,とくに名前の知れ渡っている存在ではない,と自身を分析しているためだ。その理由として,坂本氏は「自身の作品のうち,欧米でも知られている作品はメトロイドシリーズのみであり,しかも近年のメトロイドプライム関連作品はほとんどノータッチなので,なおのこと印象が薄くなっている」と,冗談めかして解説した。また自分の作るタイトルには「マニアックでドメスティックでクセの強いタイトル」が多く,ニッチ傾向が強いことも,欧米での知名度があまり高くない理由の一つであると述べた。
つぎに坂本氏は,自身の代表作について解説を進めていった。
まずはメトロイドシリーズだ。坂本氏とメトロイドとの関わりは,ファミコン版「メトロイド」にデザイナーとして参加したことから始まる。次のゲームボーイ版「メトロイド2 リターン・オブ・サムス」の開発にはいっさい参加していないが,本作の“サムスの目の前で生まれたメトロイドが,サムスを親だと思う”という演出からは,強いインスピレーションを得たそうだ。
巨大なボスキャラクターの前で絶体絶命のピンチに陥るサムス。そこへ,サムスを味方だと思っているメトロイド(ちなみにメトロイドとは作中に登場する宇宙生物の名前)が助けに入り,メトロイド自らが犠牲となってサムスを助けるというシーンだ。
アザーエムの冒頭ムービーでは,スーパーメトロイドのクライマックスであるシーンそのものが,最新のグラフィックスでいわば“リメイク”されている。今回の講演では,旧作の該当シーンとアザーエムのオープニングムービーをシンクロさせる形で編集したムービーが流され,二つの世界が同じであることが示された。
スーパーメトロイドの次の作品であるゲームボーイアドバンス版「メトロイドフュージョン」では,さらにストーリーとドラマ色が濃くなっている。最新作アザーエムは時系列的には,スーパーメトロイドとメトロイドフュージョンの間に位置する作品になっているという。
一方で,坂本氏は「メイド イン ワリオ」シリーズも長く手がけている。
ゲームボーイアドバンスを回転させて遊ぶ「まわるメイド イン ワリオ」は,ジャイロセンサーの評価版を依頼されていたエンジニアが実験的に作ったものが,もとのアイデアにつながっているそうだ。
それがあまりにも良くできていたために,坂本氏は岩田社長に自慢しにいった。岩田社長はそれをたいそう気に入って,本体を回すとアナログレコードが再生されるコンテンツを試すために,イスにGBAを置いてぐるぐるまわし,満足そうに「クダラネー」とつぶやいたことがきっかけとなって,開発が始まったそうだ。
そしてシリーズを続けていくにつれ,坂本氏は「遊んでいるプレイヤーの姿を,見ている人も面白がれる」ことが大事であると考えるようになっていったそうだ。そのことは,ワリオシリーズ最新作「メイド イン 俺」にも生かされている。
この作品では,プレイヤーが自分でプチゲームを作って楽しめる。その魅力は「ばかばかしさのセンスが問われること」であると坂本氏は解説する。また,多くの人々と“作ったものを共有”する仕組みがあることで,さらなるセンスの向上が見込めるため,“ハイセンスなばかばかしさ”を身につけるには,まさにうってつけの作品――だそうだ。
「トモダチコレクション」は,究極の内輪受けを目指した「遊び方がすでにドメスティックな作品」であるそうだ。この作品は予想外の大ヒットとなり,発売から一年を待たずして,300万本超え目前という状況だという。
と,ここで坂本氏は,自身にとって重要だった作品として「ファミコン探偵クラブ」の名前を挙げた。この作品は氏がゲームシナリオを書くきっかけとなり,氏のその後のゲーム作りのスタイルを決定づけた作品であるという。
なぜ坂本氏は,シリアスなゲームもコミカルなゲームも作れるのか
シリアスでストーリー性の高いメトロイドと,コミカルでエキセントリックなワリオやともだちコレクションを作っているのが,同じ人間であるとは興味深い。その秘密が分かれば,きっと面白いのでは? という話になって,講演をすることになったという。
これまで,そういうことはあまり意識していなかったが,これをきっかけとして,坂本氏は自身の内側を掘り下げてみることにしたそうだ。
坂本氏はかつて,ダリオ・アルジェント監督の映画「Suspiria Deep red」(邦題:サスペリアPART2)から大きなインスピレーションを受けたそうだ。もともと恐怖映画に興味があったものの,既存の作品を心から支持できずフラストレーションを感じていたころに,この作品に出会い,その手法の斬新さに度肝を抜かれたという。そして「彼(ダリオ・アルジェント)のような作品を作りたい」と思うようになり,その手法をこう分析したそうだ。
――すなわち,大事なものは「ムード,間,伏線,コントラスト」であると。
そして,その考えを実践したのが「ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女」であり,それはダリオ・アルジェント監督へのオマージュでもあるという。
その後,坂本氏は,この手法を使い続けたそうだ。アザーエムも例外ではないという。また氏は,以降たくさんの映画を観るようになったそうだが,決して「映画マニアではない」と自身を分析する。
映画に対するあこがれは強いけれど,(映画とゲームを比較しての)コンプレックスを抱いていたり,映画を自分で撮りたいと思っていたりするわけではない。あくまでも,映画から受けた感動や刺激をゲームの中に持ち込もうとして,自分の“秘密の引き出し”を豊かにしているイメージである,とのことだ。
他方,幼い頃から坂本氏は笑いにもこだわっており,自分自身を面白がってもらえるためのネタを,常に求めているという。
普段から感覚を研ぎ澄まして,使えそうなネタを見つけては“秘密の引き出し”にしまっておく。品揃えは豊富に。高品位なネタを見つけたときには,それを披露するときのシミュレーションを頭の中で繰り返す。そうやって,お笑いのために日々ベストを尽くしているそうだ。
あるとき,なぜそこまで自分が笑いにこだわっているのか不思議に思い,自分が「笑いをコントロールしたい」と考えていることに気がついたという。そして,そこで使っている手法は結局,先ほどと同じ「ムード,間,伏線,コントラスト」であることにも気がついた。
――つまり,シリアスなゲームを作るときも,コミカルなゲームを作るときも,以前に興味を持ったものを,いつか使うものとして“秘密の引き出し”に蓄積し,最も適切だと思われる状況で打ち出していく,という発想法自体は共通している。
さらに,具体的な表現手法についても「ムード,間,伏線,コントラスト」を作り手がコントロールするという,要素のレベルでは共通している……。
人が“怖い”と思うことも,“面白い”と思うことも,一言でいえば「心が動くこと」だ。そして感情のタイプにかかわらず,「心を動かす」という効果は,どうやら同様のプロセスから導き出される。
つまり,いろいろなものに共鳴しようとする感性と,それを掘り下げようという心があれば,共通の手法において,人の心をさまざまな方向に動かすことが可能なのだ。それこそが,自分がシリアスな作品もコミカルな作品も手がけられる理由なのではないかと,坂本氏は今回,結論するに至ったということだ。
メトロイドアザーエム最新情報
次に坂本氏は,現在自身が手がけているアザーエムについて語った。
シリーズの集大成的な作品であるアザーエムには,メトロイドフュージョンのときに仕込んでおいたキャラクター,アダム・マルコビッチが登場するそうだ。そして作中では,少女時代のアダムとサムスの関係が描かれる。ファミコン探偵クラブのノウハウを生かして,全体的なストーリーはサスペンスタッチのものになっているらしい。
人間ドラマの要素も豊富に盛り込み,“伏線”と“コントラスト”のコントロールを厳密に行った。そしてその後,サムスを美しく描き出すのに最も望ましいゲームデザインのアウトラインを考えたそうだ。
そのようにして準備が整い,あとはパートナーを探すのみというところで,非常に優秀な開発チームであるTeam NINJAとのコラボレーションができることになったそうだ。
そんなあるとき,Team NINJAからヌンチャクの使用を提案されたが,坂本氏は断固拒否したという。その理由を説明したら,Team NINJAはきちんと理解してくれたうえ,驚いたことにTeam NINJAは,新たにフル3Dのマップを十字キーで動き回るシステムの提案をしてくれたそうだ。
坂本氏は半信半疑だったという。しかし彼らの作ってきたものを試してみたところ,それはパーフェクトな出来映えだったそうだ。このようにして,アザーエムは2Dライクで快適な移動+ポインティングでのFPSビューという理想的な基本システムを手に入れた。それは「最新技術を使ったファミコンゲーム」のようなものだそうだ。
最後に,坂本氏は聴衆であるゲーム開発者達に向かって,こう語りかけ,講演を締めくくった。
坂本氏:
ゲーム開発とは,イメージを形にすることだと私は考えています。
これまで私は,誰かの作品や,美しいもの,素晴らしいもの,楽しいもの,怖いもの,そういった多くのものに,心を動かされてきました。
そういった心の動きが,心の中にイメージを形作ります。ゲーム開発とは,今まで感じ,心を動かされたことを,分かりやすい形に置き換えることではないでしょうか。
ゲームを開発する人間の使命は,自分のイメージを形にして,他人に伝えることであると,私は考えています。
皆さんの心に蓄積された,美しいものや楽しいものを,ゲームを愛する方々に伝え続けてください。そうすればゲームは永遠に続いていくと,私は信じています。
- 関連タイトル:
METROID Other M
- この記事のURL: