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先に攻めるべきは都市か野戦軍か? 連載「そうだったのか! シヴィライゼーションV」の第2回は,幾多の将軍達をも悩ませてきたジレンマに迫る
「都市か野戦軍か」というのは大きな選択だが,そもそも「戦争するか否か」というのも重大な選択肢。言うまでもなく,今回は「戦争をする」ことが大前提 |
人類は有史以来,片時も戦争を止めたことがないが,戦争という行いそのものは,歴史の中でゆっくりと変化し続けてきた。ことこの200年における戦争は,激しい社会の変化に歩調を合わせるように,革命的といえる変化を何度も迎えている。
その背景には,“科学技術の進歩”という要素が欠かせない。例えば木と石でできた武器しか持たない軍隊は,金属製の武器を持った軍隊に対し圧倒されがちだ。火薬を有効利用できる軍隊はそうでない軍隊に対し優位に立つし,これと同じことは兵器のみならず情報や通信といった分野でもいえる。
だが,長い歴史の中で何度か戦争の常識がひっくり返ってきたにも関わらず,非常に長い期間にわたって覆らなかったジレンマがある。それが「都市と野戦軍」にまつわる問題の存在だ。
今回は,歴史上幾多の将軍達を悩ませてきたこの問題を,Civ5の文法に合わせつつ見ていきたい。念のため先に言っておくと,実用性は0.5ユニット程度と思われるので,そのあたりはご理解頂きたい。
都市と野戦軍,その始まり
こういう状況であれば,都市の攻撃が最優先になる。というかそれ以外の目標が見えない |
欧州において,都市とはすなわち城のことであり,ある意味において国家そのものといえた。例えば1453年,ビザンチン帝国の首都コンスタンティノープルはオスマントルコの軍勢に包囲され陥落,これはビザンチン帝国の滅亡を意味した。あるいは1529年には同じくオスマントルコ軍がウィーンを2か月にわたって包囲,陥落させることはできなかったものの,ハプスブルグ家は重篤な危機に瀕することになった。
これほど重要な意味を持つ都市であるから,その防備は非常に堅固だ。コンスタンティノープル包囲戦においては攻防の戦力比は単純数比で10:1を超えていたし,ウィーン包囲でも概ね4:1だった。Civシリーズにおいて都市がなかなか攻め落とせないのは,故なきことではない。
都市攻撃を優先とはいえ,画面右端にいる騎兵を意識するのであれば,北京の左下にいるライフル兵は一歩前に出す(敵騎兵に渡河攻撃を強要する)のは選択肢の一つだ。もっともこのケースでは都市にこもっている連弩兵が恐いので森をキープする以外の選択は難しい |
1ユニットを犠牲にしたものの(後方にいるライフルは増援),首都を陥落させることには成功。勝てばいいんです,勝てば。それが戦争だ |
一方,野戦軍は,都市とは別の位置を有している。
都市の城壁に依って戦う軍勢を守備隊と呼ぶが,野戦軍は,文字通り,都市の外で戦う能力を持った軍隊のことだ。
野戦軍は,ナポレオン戦争時代のあたりまでは,軍団がひとかたまりになって移動していた。野戦軍の目的は,都市の攻略か,その阻止であったが,ナポレオン戦争時代には敵野戦軍の壊滅そのものにも力点が置かれるようになった。つまり,「都市か野戦軍か」という二者択一が,クローズアップされることになったわけだ。
いずれにしても,巨大な集団である野戦軍は,同様に巨大な集団である敵野戦軍とどこかの段階で衝突し,その決着のつきかたが戦争全体に大きな影響を与える――イメージとしては,Civ4の超巨大スタックが激突するところ――というのは,長らくヨーロッパにおける「戦争」そのものだった。
ところが第一次世界大戦の西部戦線において,この「野戦軍の衝突による決着」という文法に狂いが生じたのだ。
越えられなかった塹壕
騎兵によるラッシュで敵首都を陥落させたところ。ドイツは長槍兵を安価で量産できるので(ユニークユニット:ランツクネヒト),騎兵ラッシュが若干効きにくい |
そして,「機動する軍隊が激突して勝敗を決する」というシチュエーションは消滅,内陸で誕生した塹壕は,海を目ざして延長されていく。こうなってはもはや会戦など起こりようもなく(事実上24時間会敵しているのに「会戦」も何もあったものではない),戦いは「前線」を前提とした戦争へと変わった。
かくして,野戦軍と都市という分類そのものは変わらなかったが,野戦軍の有り様は大きく変化。軍はより細かく分割され,野戦軍は「集団」から「線(領域)」へと変貌した。この背景には,無線によって情報の伝達範囲と速度が根っこから変わったということも挙げられる。これが,「1ヘクスに1ユニット」で運用されるCiv5での戦争といってもいいだろう。
しかしながら,第一次大戦以降「野戦軍を撃滅するか,都市を攻略するか」というテーマが消えてしまったのかというと,そうではない。
都市は,そこに多くの人口が集中するという政治的意味のみならず,その地方における工業生産の中心であり,経済の拠点であり,交通および情報通信という点においても大きな結節点となる。
都市を攻略すればその都市の生産力や経済力,人的資源を占領軍が利用できるというのはまったくのファンタジーだが,少なくとも敵国から生産力を削減させる効果はある。国民国家の発達に伴い,大規模な戦争というもののあり方が,敵国の政治体制に動揺を与えてその絶対的指導者から譲歩を引き出す戦争から,国家と国力のすべてを賭けて戦う戦争へと完全に変化したため,都市の占領が持つ「敵国を消耗させる」効果はやはり大きいのだ。
一方で,たとえ薄く引き伸ばされようとも,野戦軍は野戦軍だ。野戦軍が全体で1つの戦線を維持できている間はともかく,攻撃側が突破に成功し,前線が分断され始めると,ここには古典的な野戦軍が再登場することになる――そしてそれは,突破側の指揮官に昔ながらのジレンマを提示する。分断された敵野戦軍を撃滅するのが先か,その時間と補給物資を使って敵の都市を攻略してしまうのが先か?
この「都市か野戦軍か」というジレンマの,おそらく歴史上最も大きな対立は,第二次世界大戦の東部戦線初期に発生したものだ。破竹の進撃を成し遂げたドイツの軍人グデーリアンは,モスクワの直撃を提案したが,南方のキエフ付近にはソビエト軍の大兵力が残っていた。ここにおいてヒトラーは軍の南方遷移を指令し,この命令によりドイツ軍は史上最大の包囲網を構築,一方でグデーリアンとヒトラーの関係は悪化していく。
独ソ戦初期における,ドイツ軍の方針転換。「そもそもモスクワを陥落させたらドイツは勝てたのか?」という問いも含めて,無数の議論がある。地図は「独ソ戦2」http://commandmagazine.jp/other/wws/002/index.html(国際通信社) (C) 1974, 1975 Jedoko Games, 2000, 2010 Kokusai-Tsushin co., ltd. |
正解は勝利の後で!
ひたすら増援をつぎ込み続け,ついにローマ劫掠成る。戦争中の幸福度が,常時−1あたりをふらついていたというのは国家機密 |
都市への攻撃を優先した場合のメリットは明白で,占領するにせよ焼き払うにせよ,都市の攻略に成功すればそれだけ敵文明の国力を低減させられる。また,占領した都市の支配地域が自国の文明圏に組み込まれるのも重要だ(姫路城や,社会政策/国家主義によるボーナス)。
一方,陥落させたばかりの都市は,耐久力が落ちていることもあり,敵に奪還されやすいので,ある程度の難度になると,敵軍との奪い合いになることが珍しくない。また,敵の増援などによって都市を陥落させ損ねた場合,敵文明は非常に大きなアドバンテージを得ることになる。
野戦軍への攻撃を優先し成功した場合,敵の増援に怯えることなく都市の攻略ができるというだけでなく,敵文明の成長を間接的に抑止できるというメリットがある――敵文明は軍事ユニットを再生産しなくてはならないのだから,その間,都市の各種設備を作って研究力や生産力を向上させることはできなくなる。またAI相手の戦争であれば,野戦軍が壊滅したところで停戦を申し込んでくることが多い。
とはいえ,敵野戦軍を撃滅してもゲームの勝利条件に直接影響はない。戦争を「我が文明有利」で終えるためには,自分の軍隊が受けた損害以上のものを,敵文明に与えることが絶対条件だ。そのための最高手段が,敵都市の攻略であることは変わらない。
「全部いっぺんに」を食らっているところ(難易度:不死)。攻撃ヘリ2機を処理したものの,MBTの群れがどうにもなりません。まさに「Shock and awe」 |
それに,ヒトラーとグデーリアンの意見のどちらが正しかったかは,いまだに完全な結論は出ていない。一般的にはヒトラーの見解に理があるといわれてはいるものの,結局ドイツは負けているのだから虚しい議論に過ぎない――つまるところ,あなたが勝ったならその選択は正しくて,負けたなら間違っていたことになるとされる。戦争とはそんなものだ。
ちなみに現代において,「都市か野戦軍か」という問題には,「全部いっぺんに」という類の結論が導かれている。まあ,それができる国力なら,そもそも戦争なんかしなくたって。……いやもちろん,Civ5的にはやっちゃいますけどね,ぷちっと。
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