プレイレポート
これまでのACとは一味違う。フロム・ソフトウェア渾身の一作「ARMORED CORE V」のインプレッションを掲載
昨今,4Gamer上での注目度も凄まじく,とてもニッチなジャンルとは思えないほどの盛り上がりを見せているACVなのだが,4Gamerでは,製品版とほぼ同仕様のサンプルROMを入手して,一足先に本作に触れることができた。
本稿では,さっそくそのプレイレポートをお届けしよう……と思うのだが,白状すると,筆者がシリーズのファンだったこともあり,仕事を忘れてがっつりと遊びこんでしまい,うっかり全ミッションをコンプリートしてしまった。
だが,そのおかげで本作がマルチプレイ前提の作品でありながらも,従来以上にシングルプレイが充実したゲームだということを,いちプレイヤーの立場で確認することができた。あ,言い訳っぽいですか?
ともあれ今回は,本作をネットワークに接続していないオフラインモードで一通りプレイした感触を元に,あえてシングルプレイにフォーカスしたインプレッションをお伝えしていこう。
関連記事:フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
「ARMORED CORE V」公式サイト
ロボットアクションゲームの最高峰「アーマード・コア」とは
さて,まずは「アーマード・コア」(以下,AC)シリーズにあまり詳しくない人向けに,シリーズの概要を軽く説明していこう。
数百種類にも及ぶパーツ群の中から,文字どおり機体の核となる「コア」パーツを中心にマシンをカスタマイズして,ライフルやミサイルといった武器を搭載することで“武装化”(アーマード)した機体を組み上げる。
プレイヤーはACを駆る傭兵となり,企業やクライアントの依頼を受けてミッションに出撃するのだが,その内容は千差万別。多数の敵を相手にするミッションもあれば,とある対象を護衛するものや,迷路のようなマップを探索するものなど,さまざまなシチュエーションに対応しなくてはならない。プレイヤーは,パーツを自在に組み替えられるACの利点を活かし,目的に応じたアセンブルで,ミッションの遂行を目指すのだ。
依頼を達成して報酬を受け取り,新しいパーツを購入することで愛機をより強力にカスタマイズしていくというのが,ゲームの大まかな流れである。もちろん,作品によって細部は異なるが,内容は概ねこのようなものだ。
では,シリーズ最新作であるACVは,これまでのACとどう違うのか。
真っ先に挙げられるのは,チームを組んで領地を奪い合うというマルチプレイの要素を前面に押し出したこと……というのがオフィシャルのアナウンスなのだが,最も注目すべきは,従来のタイトルに比べて「根本的に作り込みのレベルが違う」という点ではないかと思う。
とくに,シリーズ2作目にあたる「アーマード・コア プロジェクトファンタズマ」にいたっては,前作からわずか半年という短期間で制作されているのだから驚きである(こちらのインタビューでも触れられている)。
シリーズのファンだからこそあえて言わせてもらいたいのだが,制作期間の短さゆえか,従来のACシリーズは,どこか淡白というか,若干物足りない印象を受けることも少なくなかったように思う。メカカスタマイズアクションという骨組み,土台部分に関しては文句なしに素晴らしい出来映えなのだが,中堅メーカーであるフロム・ソフトウェアにとって,そこから先を作り込んでいくことは,資金的にも開発体制的にも難しかったのだろう。
しかしACVは,実に3年という長期間をかけて制作されており,開発陣のこれまでのうっぷんを晴らすかのような,素晴らしいまでの作り込みが実現されている。
公式サイトのトレイラーなどを見てもらえばわかると思うが,ACVは前作「アーマード・コア フォーアンサー」と比較しても,映像のクオリティが格段に上がっている。
映像だけではなく,メカのギミックや効果音ひとつ取ってもいちいちカッコよく,ロボット好きであればハイテンションになれること請け合いである。
作り込みから生まれる“雰囲気の良さ”
また,実際にACVに触れてみて最初に感じたのは,全体的な“雰囲気の良さ”だ。すごく曖昧な表現だが,一言で表すとこう言うしかない。
なぜ,雰囲気がいいと感じるのか? それはきっと本作が,細かい作り込みや配慮から,シリーズ史上最も“濃厚”な作品になっているからだと思う。
例えば,ミッション開始時に発せられる「メインシステム,戦闘モード 起動します」というシステム音声は,過去シリーズをプレイした人なら耳にタコができるほど聞き慣れたセリフだが,ACVでは,この音声が流れると同時に,画面上にさまざまな情報が表示されていき,まるでOSを起動したときのような演出が入る。
文字だとあまりピンとこないかもしれないが,これがまた非常に格好良く,出撃する度にテンションが上がって仕方がない。
これは,「自機が所持している武装が相手にどれだけ有効なのか」というデータをグラフ化したもので,しかも自機と相手の位置関係によってリアルタイムに変動するのだが,このグラフがまたいちいち格好良く,その作り込みっぷりには唖然としてしまうほどだ。
ゲームにおいて,“ルール的に重要な情報”……例えば,HPバーなどをどう表示するかは,ゲームデザインの根幹をなす重要な部分だ。それが本作では,とにかくゲームの世界観を壊さないよう配慮されており,結果として本作の「雰囲気の良さ」を演出しているのである。
このあたりは,重厚なゲームならではの良さというか,据え置き機のゲームだからこその部分でもあるだろう。従来作と比べてカメラが引き気味になったことで,没入感はスポイルされているのではないかと思う人もいるだろうが,圧倒的な作り込みが生み出す数々の「らしさ」によって,没入感はむしろ高まっているとさえ言える。
シングルプレイだけでも遊び応えは十分
新要素のアセンブルに新たな可能性を見る
オンライン要素を前面に押し出している本作だが,もちろんネットワークに接続していなくともプレイすることはできる。PlayStation Networkに接続しないままゲームを開始する場合,オンライン同様にまずはチームを作成することになるわけだが,一旦チームを作ってしまえば,以後は従来のシリーズとほとんど変わらない感覚で遊べるのだ。
ゲームを開始すると,「ストーリーミッション」と「オーダーミッション」という二つのコンテンツを選択できる。簡単に説明しておくと,ストーリーミッションはその名のとおりストーリー性を重視したものとなっており,ミッションの進行に合わせて次々と作戦目標がアップデートされていくという,新しいスタイルのミッションだ。
一方のオーダーミッションは,作戦目標が明解で比較的短時間で完結するタイプの,従来のACに近いミッションとなっている。
ストーリーミッションとオーダーミッションは,最初からどちらもプレイ可能で,一度クリアしたミッションに何度も挑戦できるため,とにかく自由に遊べるのが大きな特徴だ。もちろん,クリア済みのミッションでも,クリアすればきちんと報酬が貰えるので,資金稼ぎにもってこいである。
資金稼ぎといえば,ACではミッションに出撃すると,使用した武器や機体に受けたダメージに応じて,弾薬費や修理費といった費用が発生する。依頼を達成することで収入は得られるのだが,場合によっては費用がかさんで赤字になることもあり得る。ACVのクローズドβテストでも,ミッションに失敗すると,修理費などで大きな赤字となってしまうことが多々あった。
しかし,今回プレイしたバージョンでは,少なくともオフラインモードでは,ストーリーミッションやオーダーミッションに失敗しても修理費などは発生しなかった。βテストの意見を元に,初心者に配慮したのかもしれない。
ミッション中に機体の組み換えができるということは,つまり,出撃したあとからでもアセンブルをやり直せるわけで,出撃してみたはいいものの「あ,この機体じゃ厳しい」と感じた場合でも,割となんとかなってしまうのだ。
今までの作品であれば,こういったケースではどうにもならず,ミッションを放棄するか,無理矢理なんとかするかしかなかったので,プレイヤーとしては実にありがたい。
また,ミッション中に補給が行えることから,汎用性や継戦能力にこだわる必要がなく,思い切ったアセンブルや戦法を実践しやすかったということも報告しておきたい部分だ。
例えば,装弾数の少ないスナイパーキャノンやヒートパイルのように,運用方法が限られる兵器も,ピンポイントで投入すれば取り回しの悪さを克服できてしまうので,使いどころが難しいパーツを攻略に取り入れやすくなったのだ。これは大きな変化だろう。
さらに本作では,敵に蹴りをお見舞いできる「ブーストチャージ」があるので,これを接近戦で活用すれば弾薬の節約にもつながる。ブーストチャージは攻撃手段としても大変有効で,ちょっと面倒な雑魚敵の駆除はもちろん,ACに対しても強烈な一撃で大ダメージを狙える切り札となり得る。もっとも,高機動な敵ACに対して「当てることができれば」の話だが……。
ガレージポイントのおかげで柔軟なプレイが可能になったとはいえ,ストーリーミッションは全般的に攻略難度が高く設定されている。また,全体的に長期戦となる傾向が強いため,初見プレイではシリーズ経験者でも十分な歯応えを感じられるはずだ。
各ミッションは,攻略するのに平均して20分ほどかかったが,冗長な展開と感じることはなく,ジェットコースターのごとく激しい勢いで突き進んでいく内容となっている。最も時間をかけたミッションでは,40分以上にも及ぶ死闘を繰り広げたこともあった。過去作とミッション単位で比較すると,本作の1ミッションには,過去作の3〜5ミッション分の内容が詰まっているという印象である。
もう一つのシングル要素であるオーダーミッションは,上でも軽く説明した通り,短時間でサクっと遊べるようになっていて,シリーズ恒例の「アリーナ」のような,1対1のAC戦も組み込まれている。シンプルにスッキリとまとめられているので,ストーリーミッションの合間にプレイするのにちょうどいい感じだ。
ストーリーミッションがこってりとした流行りのとんこつラーメンなら,オーダーミッションは昔ながらの中華そばのような,馴染みのある味わいだ。
機体ごとの得手不得手はより顕著に
本作は,「チームによるAC同士の団体戦」という方向にかなり振ったタイトルであるため,パラメータ関係なども従来とは違った思想で設計されている部分が多い。その最もたる要素が,弱点を突くことが重要視される戦術性だ。
これまでのACタイトルにも,実弾やエネルギーといった属性の概念は存在していたのだが,今作における属性の影響は凄まじく,弱点となる属性で攻撃されれば,どんなACといえどもひとたまりもない。逆に,一定以上の装甲に対して,十分な攻撃力を持たない場合,攻撃が「跳弾」してしまい,攻撃がまったく通らなくなるのだ。
属性の重要性はシングルプレイでも変わりなく,とくに対AC戦においては,機体の相性は勝敗に直結する。もちろん,相性差を覆して勝つのは決して不可能ではないが,苦戦は免れない。装甲が弱い分には「当たらなければどうということはない」と,シャアよろしく腕前でカバーできなくもないが,こちらの武器が相手に通用しない場合は,「DARK SOULS」以上に心が折れそうになる。
まぁそんな状況を打破するためにも,より一層アセンブルの重要性が高まっているのだが,実際問題,ミッションの成否はアセンブルの段階で8割方は決まってしまいそうな勢いである。これはネガティブな話ではなく,単なる力押しだけではどうにもならない一面もあるという意味で,むしろ,試行錯誤を重ねて優れた機体構成を模索する楽しみは,シリーズでも随一といえるだろう。
全てをぶち壊すイレギュラー兵器「オーバード・ウェポン」
「オーバード・ウェポン」は,2010年にお披露目された「アーマード・コア 5」(当初,ナンバリングはローマ数字ではなく数字の“5”だった)のトレーラーを見たACファンから,大きな注目を集めていた新要素だ。
見た目といい攻撃方法といい,かなり突き抜けているこのトンデモ兵器は,一撃必殺の破壊力を備える代償として,大きなデメリットを抱えている。
具体的にいうと,
- ハンガーユニットが塞がれて予備の武器を搭載できなくなる
- 極度に使用回数が少ない/制限時間内しか使用できない
- 武器から発せられる熱によって機体がダメージを受ける
などの大きな欠点を抱えているため,有効に使えなければ無用の長物となってしまう諸刃の剣なのである。弱すぎると興ざめだが,強すぎてもゲームバランスを崩しかねない。その意味で,いったいどんな使用感なのかが気になっていたという人も少なくなかったはずだ。
グラインドブレードは,鋸状の刃を備えた6本のブレードが目を引く無骨な兵器で,それはAC用パーツというにはあまりにも大きすぎる,文字通りに規格外のサイズを誇るものなのだが,攻撃方法も尋常ではない。腕部に装着されたユニットから伸びるブレードが高速回転し,そのまま猛烈な勢いで突進してミキサーのように敵を粉砕するという,実に荒々しく大雑把なものである。
まずは使ってみようとグラインドブレードを装着してみたところ,その接続には左腕を切り離す必要があるらしく,片腕の状態になってしまった。しかも,画面が乱れる演出も発生し,視界が悪くなるので,なかなか扱いが難しい。ともあれ,試し打ちということで敵ACにぶっ放してみると,轟音が鳴り響くと同時に,なんと一撃で敵は動かなくなった。
相手が弱かったのかと,強敵が出現するいくつかのミッションに持ち込んでみても,そのほとんどの対象を瞬殺。とてつもない破壊力を持った武器である。
しかし,やはりデメリットが非常に大きいため,装備したからといって楽勝というわけではなく,攻撃を外してジリ貧になったり,強引に突っ込んだ結果命中させる前に撃破されてしまったりするケースも多い。今回はシングルプレイで使用したが,これがマルチプレイであれば,当てるのはさらに難しいはずだ。
また,ストーリーミッションのような長期戦では,なおさら使いどころを見極めるのが難しく,結果的に死重量(デッドウェイト)となることも多かった。そのため,筆者がプレイした限り,最終的にオーバード・ウェポンは特定のミッションで使うという運用法になりがちだ。やはり,ミッション攻略の安定感を求めるなら,いつでも持ち替えられる武器を搭載しておきたい。
まとめると,おそらく多くの人が想像しているとおり,メリットとデメリットが非常にはっきりした武器,といったところだろうか。当たり障りのない結論で申し訳ないが,あくまで局地的な戦術で使うパーツといった感じだろう。
ただ,どんなに使いづらいといっても,やはりその破壊力は魅力的で,何かにつけて使いたくなってしまうのは確かである。一度オーバード・ウェポンに味をしめると「面倒な時はコレをぶっ放して,運任せの一発大破を狙ってやるか……」などという,危険極まりない思考へ走りかねない。
そんな危うい魅力が満載のオーバード・ウェポンだが,当然,これを敵が使ってくるシチュエーションがあることを忘れてはいけない。詳細は伏せるが,ストーリーミッションの山場では,その恐ろしさを嫌でも実感できるはずだ。
まだ見ぬ新規要素も多数
製品版でのオンラインプレイにも期待
さて,ここまでシングルプレイの印象をお届けしてきたが,本稿の内容はあくまでネットワークに接続していない状態でプレイしたものであり,まだACVのすべてを紹介できているわけではない。
しかし,それでもなお,ACVのプレイボリュームはほかのシングルゲームや従来シリーズ作と比べて,何ら不足のないものだった。また,ゲーム全般のプレイフィールは,いい意味で旧シリーズの匂いを感じ取れることが多かった。
それはミッション開始前にACを投下する演出であったり,通信の内容であったりとさまざまなのだが,個人的に最も嬉しかったのは,本作が“本質的にブレていない”という点だ。
操作性やシステム面では大きく変化しつつも,根本的なゲームの流れや面白みを感じるポイントは変化していない。ガレージにこもってパーツを組み合わせたり,カラーリングで悩んだりといった,アセンブルの熱中度はそのままだし,試行錯誤を経てACを思い通りに動かせるようになったときの喜びも,ACVにはしっかりと受け継がれている。
ACシリーズは,よく「難しいゲーム」「取っつきにくいゲーム」だと言われる。事実,ACは相当にマニアックなゲームだろう。まず,題材からしてロボット好きでないと響かないし,ガンダムなどの版権物と比べて知名度も低い。
筆者自身,友人知人にACシリーズを勧めたことは数限りなくあるが,「あの難しいゲームでしょ?」「操作が無理」などの返事を一体何度聞いてきたことか。
しかし,難しいと言われる操作にしても,「アーマード・コア4」以降見直しが図られ,一般的なTPSに近い形になっているし,遊びやすさという面では,近年,かなり洗練されてきているのではないかと思う。とくにACVは,作品として作り込まれていることもあって,かつてのシリーズ作よりも確実にゴージャスなゲーム体験が味わえる。
本作は,マニアックなゲームではあるものの,カスタマイズ要素の奥深さやアクション性の高さにおいて,他の追随を許さないロボットアクションに仕上がっている。そもそもACシリーズ自体,常に供給不足なロボゲー界における貴重な存在であり,渇き続けるロボットファンにとってのオアシスのような存在であり続けてきたわけだが,ACVは,その期待に見事に応えた傑作と言えるのではないだろうか。
オンライン要素全般について語るには,ゲーム発売後,しばらくの時間が必要だろうが,シングルプレイで感じた印象は,コアなACファンを自認する筆者をして「ほぼ完全に期待通り」だったと明記しておきたい。
とはいえ,ACVが本来の面白さを発揮するのは,正式にサーバーが稼働した後のこと。「Demon's Souls」は,血痕やメッセージといった間接的なネットワーク要素がゲームプレイを大いに引き立ててくれたが,「ARMORED CORE V」は,オンライン要素によってどう化けてくれるのか。シングルプレイをさんざん楽しんだ今なお,その発売が楽しみでならない。
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