インタビュー
元特殊造形物制作者の仲良し3人組がPSP用SFアクションを作ると,こういうゲームになります。「100万トンのバラバラ」開発者インタビュー
本作は,PSP用“ダンジョン・マネージメント”「勇者のくせになまいきだ。」と同様,SCEのクリエイター発掘育成プロジェクト“PlayStation C.A.M.P!”と,アクワイアのタッグによって制作されたゲームだ。
100万トンのバラバラは,無人制御の戦艦がたくさん飛んでいる世界を舞台とした,“解体切断アクション”。戦艦は,人々の暮らす町の上空を通過することがあるのだが,それは人々にとって,意外と困った事態だったりする。プレイヤーは町の防衛部隊の下っ端隊長“ティトリ”となり,戦艦に張り付きつつ,のこぎりや爆弾などを駆使して,戦艦をバラバラにしなければならない。戦艦が町に到着するまえにバラバラにできれば,ステージクリアとなる。
……といった説明や,スクリーンショットなどを見てみると,本作がどんなゲームなのかが何となく分かるだろう。「どっちかっていうとネタ寄りのゲームかな?」という第一印象を抱く人もいるかもしれないが,さすがはPlayStation C.A.M.P!×アクワイア作品,ゆるさと確かなゲーム性を併せ持ったタイトルに仕上がっている。現在,PlayStation Storeにて,本作の体験版が配信中なので,世界観やゲームタイトルなどに少しでも目を奪われたなら,ぜひ一度解体切断アクションを体験してみてほしい。
前置きが少々長くなってしまったが,今回4Gamerでは,本作を生み出したPlayStation C.A.M.P!の池田佑基氏,寺島誠一氏,中塚健太氏にインタビューする機会を得た。100万トンのバラバラという妙に気になるタイトルは,どのようにして誕生したのかを聞いてきたので,興味のある人はぜひ目を通してほしい。
「100万トンのバラバラ」公式サイト
某アミューズメント施設に関連した前職の経験は
ゲーム作りに大いに役立って……いない?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,池田さん,寺島さん,中塚さんは,以前某アミューズメント施設で使われる造形物を作る会社で,一緒に働いていたそうですが,某アミューズメント施設というのは,やはりあの……?
そうですね,耳の大きい白手袋のネズミさんなどがいる,あそこです。
4Gamer:
なんと。では,某ランドに行くと,みなさんが制作した造形物が見られるわけですか。
池田氏:
といっても,僕らは下請けの下請けみたいな立場だったんですけどね(笑)。
4Gamer:
具体的にはどういった造形物を?
池田氏:
ずっとやっていたのは,パレードカーとか,デカい船などですかね。最後のほうでは,某シーで活躍しているちっちゃい船を,3艇作りました。
4Gamer:
100万トンのバラバラに登場するオブジェクトは,何やら楽しげというか,暖かみのあるデザインですが,やはりそういった経験や知識が生かされているんですかね。
そこもまた不思議な話で,そういう好みや世界観が3人で共有されていると思って企画書を用意したんですが,できあがったモノには,ほとんど影響がなかったという(笑)
4Gamer:
あれ,そうなんですか(笑)。
池田氏:
まあ,あまり前職での経験は関係なかったですね。
4Gamer:
3人で企画を練っていたら,自然とこういう形に落ち着いたと。
寺島氏:
具体的には,池田がディレクター,僕が世界観のデザイナー,中塚がUI周りのデザイナーという役回りなんですけど,そういう分担でやっていたら,自然と……というか,デザイナー2人の世界観が反映されて,このようなゲームになりました。
4Gamer:
(広げられているイラストを指して)実際,これらも寺島さんが描かれたんですか?
寺島氏:
そうですね。公式サイトに掲載されている4コママンガも僕が描いています。クレームも僕のほうに転送されます(笑)。
4Gamer:
「こちら」のインタビューでも紹介されているように,お三方はもともと,SCEが主催した「ゲームやろうぜ! 2006」への応募がきっかけで,ゲーム業界に飛び込むことになったそうですね。そのあたりの経緯などを,ざっくりと聞かせてもらえますか。
池田氏:
「ゲームやろうぜ!」の募集を,ゲームメディアで見かけたのがそもそものきっかけでしたね。それに興味を持った僕が「デザイナーとしてちょっと企画の絵を描いてよ」みたいな誘い方をして,3人で企画書を作って,応募したという形ですね。
4Gamer:
お話を聞いていると,前職もとても楽しそうな仕事に思えるのですが,ゲーム作りという仕事にも,やはり魅力を感じましたか。
池田氏:
当時も夢はあったんですけどね。前職ではデザイナーがいて,そこから降りてきたデザインを造るという感じだったので,それ自体は楽しいんですけど,何年もやってると物足りなさを感じてしまって。
4Gamer:
そんなときに,「ゲームやろうぜ!」というコンテストに出会ったと。寺島さんと中塚さんも,それほど抵抗なく挑戦できましたか。
そうですね。まぁ面白そうだなと(笑)。
4Gamer:
今回,キャラクター&ワールドデザインを寺島さんが,UIデザイン&アニメーションを中塚さんが担当されていますが,お二人とも絵はお得意なんですか。
池田氏:
二人とも絵は得意なんですけど,どちらかというと中塚はデザインがうまいですね。絵そのものでいうと,中塚のほうがメチャクチャうまい。寺島は,もともと彫刻をかじっていて,その後漫画を描いていたんですけど,なかなか芽が出ず……漫画家さんのアシスタントをやっていたんだっけ?
寺島氏:
ええ,園田健一さんのアシスタントをやらせてもらっていたんですが,半年ぐらいでやめてしまいました。
4Gamer:
なんと。ではインタビュー記事を見られたら,「アイツか!」となるわけですね。
寺島氏:
逃げるように辞めたので,どうでしょう(笑)。でも確か,結構ゲームが好きだったからなぁ。
池田氏:
買ってくれるかな?
寺島氏:
どうかな。
池田氏:
持っていけば?
寺島氏:
お世話になりましたって?(笑)
当初は「KILLZONE 2」のようなハードSFだった!?
「ゲームやろうぜ!」で見事合格し,それ以降は池田さんがチームリーダーとなって,さまざまなプロジェクトに関わっていると,「こちら」のCAMP通信で紹介されていました。その記事では当時,PSP用のSFアクション,PlayStation Eyeを使ったゲーム,極秘のタイトル,という三つのプロジェクトを立ち上げていたそうですが。
池田氏:
よく見てますね(笑)。その中の,PSP用のSFアクションというのが,100万トンのバラバラです。
4Gamer:
最初,「PSP用のSFアクション」という字面から想像したのは,「KILLZONE 2」的なSF FPSみたいなものだったのですが,100万トンのバラバラは予想外の作品でした。
池田氏:
紆余曲折あったのですが,まさにKILLZONE 2みたいな時期もありましたよ。
寺島氏:
特殊部隊が主人公の,まさにKILLZONE 2みたいな時期が。
4Gamer:
どちらかというと,シリアスな世界観を想定していたわけですね。
池田氏:
はい。でも,それではちょっと対象ユーザー層が狭いみたいなアドバイスを受けて,みんなが楽しめる,親しみやすいほうがいいかなぁと。
4Gamer:
ゲームのコンセプトや内容的にも,ガラッと変更されたんですか?
池田氏:
いえ,“巨大戦艦をバラバラにする”という基本コンセプトは一貫していました。見せ方やゲームの雰囲気について試行錯誤した形ですね。
4Gamer:
もしかしたら,ゴツい特殊部隊員が,凶悪な武装で巨大戦艦を破壊するゲームだったかもしれないと。
池田氏:
はい。最終的には,町の下っ端隊長が,のこぎりやバールのようなもので,戦艦をバラバラにしていくゲームになりました。
4Gamer:
アイデア自体は2008年8月当時には,ある程度固まっていたようですが,制作期間はどれくらいかかったんでしょうか。
池田氏:
だいたい,1年3か月くらいですかね。アイデアの状態からだと1年半くらいです。
4Gamer:
初めてのゲーム製作ということで,楽しかったことも苦しかったこともあると思うのですが,あらためて振り返ってみて,いかがでしょうか。
池田氏:
基本的にはずっと楽しかったですけど,ゲームが実際に動いて,面白いっていうのが確認できたときが一番楽しかったですね。企画をまとめた時点で,ゲームは頭の中で動いてはいるんですが,本当にそうなるか分からないじゃないですか。そこが自分の手で確認できたときには,嬉しかったですねぇ。
寺島氏:
僕は楽しかったっていうか・・・・・・自分が考えたものがメディアに掲載されたときが一番嬉しかったですね。
池田氏:
結構最近だね。
寺島氏:
はい,最近になってとくに楽しく思えてきましたね。
僕は全体的に面白かったんですけど,とくに印象的なのは,メニュー周りを動かしているときが楽しかったですね。
4Gamer:
確かに,カーソルを動かしたときの独特の手応えには,ゲーム本編をプレイする前から楽しい気分になりました。
池田氏:
それは嬉しいですねぇ。
4Gamer:
さわり心地って結構重要ですもんね。1番最初にプレイヤーが操作するのは,メニュー画面ですし,大切な要素だと思います。中塚さん的には,満足のいく形で仕上げられましたか。
中塚氏:
いや,いろいろあったんですけど,まぁ致し方ない……こともありつつ。
4Gamer:
やり残したことが?
中塚氏:
やるだけやって,ダメ出しをされたら直すっていう作業を繰り返していたので。永遠に続くんじゃないかと思ってました(笑)。
4Gamer:
意外とみなさん,基本的に楽しい記憶ばかりなんですね。初めてのゲーム制作ということで,つらい思いをされていたんじゃないかと考えていたのですが。
池田氏:
もちろんつらいこともありましたけどね(笑)。僕は仕様書をいっぱい書かなきゃいけないのが大変でした。
4Gamer:
ちゃんとした仕様書を書くのも初めてなわけですもんね……。
池田氏:
まぁ,なんとなくっていう感じでしか書けませんよね。だから僕が書いた仕様書は,基本的にそのまま使うんじゃなくて,アクワイアのプランナーさんが変換してくれていたようです。向こうも相当手間だったんじゃないですかね……。
4Gamer:
最終的には,おおむね池田さんの思いどおりの仕様で完成しましたか?
池田氏:
はい。そこはさすがアクワイアさんということで。
4Gamer:
寺島さんは何か大変だったことは?
寺島氏:
まぁ,良くわからなかったことが多くて困りましたね。たとえば,実際に絵を描くのは慣れてるんですけど,ゲームってパーツごとに絵を作っていくので,それを組み合わせたときに思いどおりの絵にならないとか。
池田氏:
寺島はこっちにくるまで,Photoshopも触ったことがなかったんですよ。だから始めたころは,一つのレイヤーに全部描いていた(笑)。
マリオペイントとは違うなぁって(笑)。マリオペイントのほうが全然使いやすいじゃん,っていう素人だったので。
4Gamer:
中塚さんは,やはりメニュー周りの作業が,楽しくもありつらくもあるという感じですか。
中塚氏:
そうですね。本当に印象深いです。
池田氏:
恨みつらみが(笑)。
4Gamer:
どのへんがいけなかったんでしょうか。どんな注文が?
中塚氏:
「見にくい」というのが多かったですね。整理されてない,というようなことです。よくあるメニューから,ちょっとズレたことをやりたかったんですけど,最終的にはちゃんと整理されたものに仕上がりました。
池田氏:
たとえばオプションで,BGMっていう欄があって,ボリュームを変えられるところがあるじゃないですか,それが中塚の場合は,ズレているんですね。まっすぐのスライダーではない。
4Gamer:
ゲーム的には,若干「遊んでいる」感じでも合っているような気はしますけどね。実際にプレイしてみても,手触りのいいメニューですし。
池田氏:
でもそのずれは,2ドットくらいでよかったのでは,と。
中塚氏:
でも最終的には,いいとこどりになったかな,と。
手触りがいいと言ってもらえると,すごくうれしいですね。
中塚氏:
うれしいですねぇ。
寺島氏:
一般的なゲームって,すごく機能的で,整理されているのが大前提ですけど,本作では特徴的で,ズレているアニメーションが入る。そこが「らしくていい」と思うんですけど。ゲーム作りのプロのアクワイアさんから見ると,許容できない部分が多かったんでしょうね。
中塚氏:
「そこ強めてどうする」みたいな話なので,確かにそうなんですけどね。
4Gamer:
ともあれ,実際に立体造形物をやっていたからこそのデザインが光っている,とも言えますよね。
中塚氏:
そうか,そういえばいいのか(笑)。
新米ゲーム制作者だからこそゲーマーの心が分かる?
プレイすれば分かる手触りのいいゲーム
すでに体験版がリリースされており,発売日も目前ですが,プレイヤーからの反響はどうですか?
池田氏:
基本的に好意的な意見が多いですね。狙いどおり……といっても良いかもしれない。
寺島氏:
結構みんな優しいなぁ,と思いました。それとキャラが死んだときに「DEAD」って表示されるのが悲しいとか,結構細かいところまで見てくれていて,嬉しいなぁ。あと,“放送さん”というキャラクターが意外と評判がいい。
池田氏:
体験版を出してから,予約数も順調に伸びているので,まずは一安心といったところですかね。
4Gamer:
お三方も,何度もプレイしていると思いますけど,一人のゲーマーとして,100万トンのバラバラ,どうでしたか?
池田氏:
めちゃめちゃ面白いですね(笑)。びっくりするぐらい。
4Gamer:
どのへんが一番面白いですか?
池田氏:
やっぱり,繰り返し遊ぶのに適した仕様になっているし,いろいろなオマケ要素もあるし,長く遊べる。プレイヤーのこと考えてるなぁ! と思いますね。作っている人すごいなぁと(笑)。
寺島氏:
僕はどちらかというとライトユーザーなので,そういう僕にはすごく遊びやすいゲームですね。最初の面とか,簡単ですしね。つまらないっていうことはないと思うんですけど,なんていうんですか,ゲームに慣れる時間みたいなのは,そんなにいらない。すぐに慣れます。
4Gamer:
チュートリアルも分かりやすいし,本編も段階的に要素が増えていって,非常に遊びやすいですよね。
寺島氏:
そうですね。付け足される要素もそれほど多くないし。単純で。ただ,プレイする人の組み合わせは自由というか。そして,最後のほうの面になると,こんなに巨大な戦艦を壊せる俺ってすごいな! となりますしね。
中塚氏:
僕は,プレイヤーキャラクターの動きに反応して動く敵がいるんですけど,それを実際にプレイしたとき,面白くなったなぁと思いました。
池田氏:
プレイヤーのアクションに反応するタイプの敵は,あまりいないですからね。切断アクションにより直結してきたのは,修復ロボットとサナギのやつで。ユーザーが動いたらあっちが動く,ユーザーが切ったところを直す,と。
4Gamer:
なるほど,ともあれ3人とも,100万トンのバラバラは面白い! と自信を持っているわけですね。
寺島氏:
そもそも,やっていることが気持ちいいじゃないですか,それをちょうどいい感じで邪魔されるのが,また面白い。ゲームが苦手な人でもできますし,最初はつらくても,すぐに快感になってくると思います。
4Gamer:
確かに,見かけに騙されてナメてかかるとすぐ死んでしまう。ゲームに慣れていない人だったら,用心深くプレイするでしょうし,すごくドキドキしながら楽しめるでしょうね。あと,先ほど寺島さんも言っていましたけど,死んだときの文字であるとか,防御したときの盾であるとか,細かいところにも気が配られてて,見ているだけでも楽しいですよね。画面写真を一つとっても,そこからすごく興味をかき立てらる。
池田氏:
本当に,アクワイアさんすげぇってところですね。
4Gamer:
では最後に,本作に興味を持っている4Gamer読者に向けて,一言ずつメッセージをお願いします。
池田氏:
100万トンのバラバラは,とにかくアクションゲームとして楽しいということを意識しました。体験版でも製品版でも触ってもらって,アクションを体験してもらえると嬉しいです。絶対楽しいです!
体験版で「難しいな」と思っても,製品版にはイージーモードが搭載されているので,ぜひ挑戦してみてください。
寺島氏:
最初は簡単ですけど,途中から結構難しくなってくるので,息抜きに“じゅうみんひょう”や“はかば”,ギャラリーなどを見て楽しんでもらいたいです。でも,じゅうみんひょうをコンプリートするのはすごく難しいので,そのあたりは実力に応じて楽しんでいただければと。
中塚氏:
このゲーム,遊んでいると結構ボムの使用をためらってしまうんですよ。もしゲームが難しいと思う人がいたら,ボムの使い惜しみをしていないかどうか,確認してみてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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