インタビュー
支倉凍砂氏ロングインタビュー。「WORLD END ECONOMiCA」から「狼と香辛料」,そして次回作の話題まで,あれもこれも語りつくしてもらった
「WEE」制作裏話
4Gamer:
では,「WEE」についていろいろとお聞きしていきたいと思いますが,まず今回の作品でお気に入りのキャラクターはいますか?
支倉氏:
一番のお気に入りは理沙ですかね。お姉さんキャラは小説ではあまり出せなかったので。理沙はすごく使いやすいですね。
4Gamer:
そのあたり,支倉さん自身の好みが反映されているのでしょうか。
支倉氏:
そうですね,最近ちょっと甘ったれているので(笑)。甘やかしてくれる人がいいなあと。
4Gamer:
ビジュアル面も支倉さん主導で決めていったんですよね。
支倉氏:
ほとんどのキャラはほぼ一発OKだったんですが,ハガナだけは何度もダメ出ししましたね。絵柄的にちょっと肉付きがいいというか,大人な感じになっていたので,もっとロリっぽくしてくれと,5〜6回リテイクを出しました。
4Gamer:
どのキャラクターも非常に人間味があっていいなあと思うんですが,モデルがいたりするんでしょうか?
支倉氏:
とくにいないですね。そもそも自分の書き方が,最初にこういうキャラを立てて,というやり方ではなくて,先に設定を考えてこういう物語にしたい,というところから始まり,いざ動かしてみて初めてどういうキャラクターなのか考えていくという,最後までキャラクターを決めないやり方なので。
ハガナだったら無口でツン〜ツンデレ,くらいは大まかには決めていましたけど,細かいところは全然決めずに書いていました。ハルや理沙もほとんど,書きながらこんな感じのほうが面白いだろうと考えながら決めていったので,人間味があると言っていただけるとちょっと嬉しいです。
4Gamer:
ゲームのシナリオを書くにあたって,小説と意図的に書き方を変えた部分があればお聞かせください。
支倉氏:
会話をできるだけ多く入れたというのはありますね。小説だと,キャラの目線の動きなどで感情が表現できるんですが,ゲームだとそれを全部絵でやってもらえる。だから可能な限り地の文を排除したつもりなんですが,どうしても普段のくせで地の文が多くなってしまいました。
普段の小説の書き方だと,どこまで内容を圧縮できるかと考えて書くんですが,その方法でゲームのシナリオを書くとものすごく大変なので,意図的に膨らませようとは思っていたんです。ただ,そのための練習を積んでいないので,どうしてもすぐ場面が終わってしまうとか,会話があまり入らず,つい地の文で説明してしまうというところがあったので,それが今後の課題かなと思っています。
自分としては,1本あたり5〜6時間,3部作で20時間くらいのプレイ時間になるような枚数で収めようと思って書いています。そのくらいであれば,皆さんちょっとしたときにプレイしやすいかなと。とにかく自分自身で,プレイ時間が60時間とかあるような超大作はどれほど評判が良くても「いや,勘弁してください」と思っているので。あとは,小説を書いている身として,そういうゲームに対して「もっと短くできるはずだろ」と思うところもちょっとありますし。
4Gamer:
ちなみにノベルゲームだと途中で選択肢が出るものが比較的多いですが,「WEE」はそうではないですよね。
支倉氏:
それは単純にマンパワーの問題です。あと,世界観を作ってそこでキャラクターがどういう行動をするのかを楽しむのではなく,オチが最初から決まった「こういう物語が書きたい」というのがまずあって,それをゲームにしているので。
選択肢があるとどうしても,自分が最初に書きたい物語と違う物語も書かなければいけないというのがあるんです。でも自分の場合,もうこの登場人物とこういう設定だったら,こういう結末が一番面白いに違いないと思って書くので,それ以外を書く自信とモチベーションが湧かないんです。昔やっていたエロゲーでも,ヒロインが何人いてどんなシナリオがあっても,決まった選択肢以外選びたくないので,何回やっても必ず同じ結末になるんです。そういう性格なので,そのへんは自分の好みというか考え方で,選択肢のない形式になっている感じです。なので,ゲームというより,本当にビジュアルノベルですね。
4Gamer:
月で株取引をやるという,この組み合わせのアイデアはどこから出てきたんでしょうか?
支倉氏:
それは最後のネタバレになるので(笑)。
4Gamer:
そうなんですか!
支倉氏:
3部作の最後に,そうした舞台設定を全部使ってやりたいネタがあるんです。たまに感想で「月で株をやっている必然性がない」というのを見るんですが,3作目でそれが生きるような設定になっているはずなので,楽しみに待っていてほしいですね。どうしてハルが前人未到の地を目指しているのかとか,タイトルが「WORLD END ECONOMiCA」である理由とか,それらは全部伏線になっていますので。
4Gamer:
それは非常に楽しみです。では,2作目,3作目も話の流れはできあがっているということですね。
支倉氏:
そうですね。大まかなラインは3作目の終わりまでできていて,今は2作目を実際に執筆しながら,細かな設定をいろいろと考えているところです。
支倉凍砂と株と経済
4Gamer:
今回のシナリオを書くに当たって,参考にした本や資料はありますか? たくさんあると思いますが……。
支倉氏:
「WEE」だと,30冊から40冊ぐらいかな。金融系の本,とくに株式市場に関するものが多いですね。もちろん全部が使えるわけではないんですが,それぐらい読んでいればある程度雰囲気が掴めるかなと。直接の元ネタは,言うと本当にどんな話を書こうとしてるのかがバレてしまうので,全部終わったあとに出そうかなと思っています。
4Gamer:
支倉さんの書かれる話は,お金儲けをするということを,すごくプラスに捉えているところが非常に面白いと思います。
支倉氏:
そうですね,お金の話すると嫌がる人多いですよね。
4Gamer:
そういう,お金を稼ぐということに対する支倉さんの考え方を聞かせていただきたいんですが。
支倉氏:
「天才柳澤教授の生活」というマンガがあるんですけど,その中に「経済学は人の学問だ」という言葉があって,勉強をしていくと本当にそうだなと感じることが結構あるんです。稼いで何かがしたいからお金を稼ぐというのが多いと思うんですが,ただ稼ぎたいから稼ぐというのも,もちろん成立する。みんなのいろいろな思いが同じ目標に向かっているというのがものすごく面白いんです。
稼いだあと,こういう使い方をするとひんしゅくを買うだろうな,というのはもちろん分かるんですが,お金を稼ぐこと自体が悪いというのはちょっとよく理解できないですね。お金を稼ぐ行為そのものにはいろいろな動機があって,ドラマにしやすいし,相手の思惑がすごく分かりやすいので,読んでいて面白い。なので,すごく好きなジャンルですね。
4Gamer:
そんなふうに思うようになったきっかけは何かあるんでしょうか?
支倉氏:
なんでしょうね,昔からお金の話は好きだったんですが(笑)。中学時代はブラックバス釣りにはまっていたんですけど,当時はお金がないので,池に潜ってルアーを拾って,それを売るようなことをしていました。
4Gamer:
支倉さん自身も株取引をされていますが,支倉さんにとって株の魅力とは何ですか。
支倉氏:
株の魅力ですか? 大変生々しいですけど大丈夫ですか?(一同笑)
例えば何もしなくても株価が上がったときに,みんながこれくらい労働しないと稼げないお金を黙っているだけで稼げたぞ,というのがもちろん一つ。もう一つは,やっぱり上がるとか下がるとか予想して,買ったり売ったりするわけなので,実際にそのとおりにいくと,自分が正しかったんだという,ものすごい万能感があるんです。射幸心が満たされた状態になるというか,本当にギャンブルに近いところがあります。
ただ今は当てることよりも,みんながどう予想しているかとか,「市場はどうなっているのか」とか,市場でどんなバカげた話があったかとか,そういう方向にどんどん興味がシフトしていっています。取引そのものというよりも,その取引の場と,そこに関わる人達の話が面白くて,投資し続けている感じですね。財産が増えたら嬉しいですし。
4Gamer:
何か財産を増やしてやりたいことはありますか?
支倉氏:
いや,ないです。ゲームのスコアと一緒ですよね。食い扶持を稼ぐ以外はあまりお金の使い道もないので。ただ,自分だけがそんな感じなのかと思ったらそうでもなく,いわゆるリアルなお金持ちの人も,どうもそういう悩みを抱えているようなんです。どう使っていいか分からなかったり,使うことにとくに魅力を感じなかったり。
それに,100億円くらいになるともう使える場所がかなり限定されてきて,とくに自分一人では消費しきれない。そういう,お金に価値があるのかないのか分からないような不思議なところ,マルクスの言う「量の増加は質の変化」というのがすごくリアルにあるんだなというところが,自分が経済に惹かれる理由でもあります。
「WEE」今後の展開
4Gamer:
「WEE」の第2部がリリースされるのは来年(2012年)の夏ということですが,可能な範囲で内容についてお聞かせいただければと思います。
支倉氏:
とりあえず主人公が変わるといったことはなく,基本的に3部作全部ハルが主人公で,だんだん歳をとっていく形です。2作目は1作目の4〜5年後くらいを考えています。3作目がそこからさらにどれくらい後の話になるのか,まだ決めかねているところがありますが,あまり2作目と離れないようにするつもりです。基本的にキャラクターはほぼ続投,なるべく連続性を持たせて時間だけ進んで,舞台もずっと月で動かない,というのが大前提としてあります。
4Gamer:
2作目は,ちょっとスカっとするような展開もあったりするんでしょうか?
支倉氏:
2作目はそうですね。3作目では,それまでの全部が伏線だったんだという,カタルシスがあるようにしたいです。
4Gamer:
今後,海外版もリリースされるとか。
支倉氏:
繁体字とフランス語と英語の3か国語に翻訳を予定しています。海外でノベルゲームは難しいと聞くんですが,本気で出している方があまりいません。ただ認知されてないだけで,日本にはもっと面白いエンターテイメントがあるぞ,というところを見せたいですね。開発費そのものよりも翻訳費のほうが高くてものすごい赤字ですけど,もし失敗しても,海外に出した,新しいことをやったという満足感はあるかなと思っています。
- 関連タイトル:
狼と香辛料 海を渡る風
- 関連タイトル:
狼と香辛料 ボクとホロの1年
- この記事のURL:
キーワード
(C)支倉凍砂/アスキー・メディアワークス/「狼と香辛料?」製作委員会 (C)2009「狼と香辛料II」製作委員会/ASCII MEDIA WORKS Inc.
(C)支倉凍砂 / アスキー・メディアワークス / 「狼と香辛料」製作委員会 (C)2008 「狼と香辛料」製作委員会/ASCII MEDIA WORKS Inc.